草食むイキモノ 肉喰うケモノ (今城けい)

 01,2012 13:47
BLを多少なりとも知っていれば、誰もが「あるある!」と思うに違いない、“典型的”または“お約束”なキャラのスペックというものがある。例えば、


超リッチ(※特に攻め)とか。


高い学歴とか。


良い血筋や高貴な身分とか。


華やかな、もしくはエリート的な職業。学生であればそんなイメージの学校に在籍(※特に攻め)とか。


優秀で有能とか。


見た目の硬軟に関わらず美男でスタイルが良いとか。


でもここ数年、そんなお約束スペックをハズした作品を目にすることが、増えたような気がする。特に、“超リッチ”“華やかorエリート的な職業”“良い血筋”の3つね。


ぶっちゃけていえば、“地味”で“日常的”で“ちょっぴり貧乏”な、いわば“小市民的”な、自分たちの身近にいるようなスペックのキャラ設定が増えた、ということだと思う。


――まあ、バブル崩壊はともかくとして、リーマンショックがあり、年収が下がり、失業率が上昇し、相次いで天災が起こり、デフレスパイラル真っ只中で、「失われた20年」だの「平成大不況」だのと称される昨今だもの。BL界もそりゃあつましくなるわよね……と、しんみりとうなずかずにはいられない。


BLは世につれ、世はBLにつれ、ですなぁ……。<後半ちょっと違う


この作品でも、キャラたちはとあるメーカーの工場で、日々汗水垂らして黙々と働いていた。


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今城 けい 梨 とりこ

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家族を失い叔父に引き取られるも、身の危険を感じ中卒で独り立ちした幸弥。同じ工場に勤める組立一課班長の関目は、頼れる兄貴分のように幸弥のことを気にかけてくれている。そんな幸弥の目下の悩みは工務部長・大谷のセクハラ。エスカレートするそれに気づいた関目は同僚の千林の協力のもと、幸弥の部屋に泊まり込むことに。幸弥の質素でつつましい暮らしぶりや小動物のようなたたずまいに、十代はヤンチャで鳴らした関目の庇護欲は次第に捕食欲とないまぜに―。


超リッチ&華やか職業系の“手の届かない別世界”設定も好きだけど、わたしはどっちかというと、身近に感じられる小市民的設定の方がより好きだ。


でもいくら小市民的設定が好きだといっても、やはりお話自体が心に響かないと物足りない。いくらファンタジーだのフィクションだの言われたって、「んなわけあるかー!」と叫びたくなるほど現実感がなかったり、「……で?」と眉間にシワが寄るほど漫然としていたりするのはいただけない。


小市民的設定かつ心に響く物語を書かれる作家――というと、個人的には、凪良ゆうさんや木原音瀬さん、烏城あきらさんの名前が頭に浮かぶのだけど、この作品は今城けいさん作。そういえば、今年読んだ今城さんの「リアルリーマンライフ」も小市民的設定だったなぁ……でもわたしはこの作品の方が好き。


なにしろ読んでいる内に、受けの幸弥を心の底から応援したくなってしまうのだ。幸弥が家族を失って中卒で働き始め、苦労しながらまじめに仕事をし、亡くなった家族を思い出す様子が胸を打つ。中卒なんて16歳だもの、わからないこともいっぱいあったよね、へこたれずに5年間よく頑張ったね……と、気分はすっかりお母さんだ


そしてそんな幸弥を、同期だからと対等に接し、何かと見守って助けようとする、幸弥より年上で職位も上で高学歴の関目と千林がカッコイイ。上司のセクハラに思い悩んでいる幸弥に、おかしいのは上司の方だとキッパリ断言し、励ます関目にちょっとシビれた。


――幸弥みたいに、内気で責任感の強いまじめな性質の人にとって、関目の言葉はどんなにか心強いか! ったく、「セクハラされる方も悪い」とか、木で鼻を括ったようなことを言って中立を装うようなヤツらには、関目の爪のアカを煎じて飲んでもらいほどだわ!


カワイくてまじめな年下の同僚が、だんだんと特別な存在になってしまってうろたえる関目の様子は、誠実さが表れている感じで良いと思うな。仏前で幸弥の家族に、「幸弥を大切にする」と報告するのも関目らしい。


裏表紙のあらすじを読んだ時は、


幸弥の質素でつつましい暮らしぶりや小動物のようなたたずまいに、十代はヤンチャで鳴らした関目の庇護欲は次第に捕食欲とないまぜに


の部分に、勝手にドタバタコメディテイストを想像していたのだけど、そんなちゃちな予想は、うまい具合に覆されました。覆されて、満足。


一見穏やかだけどクセモノそうな千林が、幸弥をめぐって関目と争ったりするのかしら!? という予想もハズれたけど、これもハズれて異議なし。関目と争っていたら、きっと物語の結末が妙なところに着地したに違いないよ。


仕事シーンがしっかり書かれていて、「なるほどねぇ」と思いながら楽しく読めたのも良し。終盤、関目のミスをカバーしようと、幸弥が奮闘するシーンはワクワクしたもんね。確かに作業服、萌えがあるある!


ところで、幸弥も関目も千林も。みんなそこそこ良いルックス、という設定ではあった。不景気だろうと縮小傾向だろうと、「美男」はBL界では外せない最後の砦――なのかもね。



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Tags: 今城けい 梨とりこ

Comment 1

2012.11.02
Fri
12:11

lucinda #-

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拍手コメントRES

>11/01 18:08 Eさま
いつもありがとうございます! 身近にいるようなキャラが幸せになると、ちょっとホッコリしますよねw 私は別にそんなに美男じゃなくてもいいじゃん、って思うんですけど、イラストがきれいだと、「これで美男じゃないとは言いきれないよなぁ…」と思ったりします(苦笑)
「しっかり世界観がつくり込まれたSFかファンタジー設定」、確かにおっしゃるとおりかも。

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