【Texan Romance】おまけ ― ハップ&レナードシリーズ(ジョー・R.ランズデール)

 29,2012 23:39
思いがけず長々と続いてしまった、BLを含むロマンス小説のテキサスものについての考察。


テキサスものって……!? と前のめりになったきっかけは高尾理一さんの新作だけど、テキサスものについてちょっと考えてみたいと思った動機のひとつは、このシリーズだった。


ハップ&レナードシリーズ(作:ジョー・R.ランズデール 訳:鎌田三平 いずれも角川文庫)


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ほぼ絶版で図書館か中古書店経由でしか読めないのが残念だけど、気を取り直してシリーズを順番に、あらすじつきで紹介するとこんな感じ。


ムーチョ・モージョ
地獄のような七月の暑さの中、ハップとレナードは、死去したばかりのレナードの叔父チェスターの家を掃除していた。しかし室内が片づくにつれて、汚れた秘密が姿を現す。腐った床板の下で見つかったのは、ポルノ雑誌に包まれた子どもの骸骨だった。警察に通報しようとするハップをレナードが止める。「誰かが叔父貴を殺人犯に仕立てようとしているんだ」―そして二人の独自の捜査が始まった。東テキサスのやけどしそうな太陽の下、徐々に明らかになっていく醜悪な真実とは…。ジャンルを超越した異才が放つ各方面絶賛の怪作。


バッド・チリ
沖合油田の仕事を終え、意気揚揚と家に戻ったハップ。しかし町では悪友のゲイ、レナードが恋人ラウルとの破局を迎えていた。トラブルの予感…。案の定、すぐにラウルの新恋人が死体で発見され、レナードが容疑者に。だが友を救うためとはいえ、ハップは法律を曲げたりはしない。例によって、踏みつけることにした―。ワケありの看護婦ブレットとのロマンス、謎のチリ・キングの暗躍、超ド級の竜巻の襲来、累累と積み重なる死体、睾○を襲う電気ショック…。有害図書指定へ向けシリーズ最高のテンションで飛ばす問題作。


罪深き誘惑のマンボ
KKKが支配するテキサス東部の街グローブタウン。この街で黒人の獄中自殺事件の真相を探っていた美人黒人弁護士フロリダが失踪した。「彼女も殺されちまったのか?」最悪の事態を憂いつつ、ストレートの白人ハップとゲイの黒人レナードのコンビは、警察さえも手出ししない狂気の街に乗り込む。人種差別者の巣窟で二人が出会うのは、役立たずの警察署長、サディスティックな街の名士に、リンチ好きな街の住人たち。記録的な豪雨と雷鳴の中で二人が目にした事件の真相とは…ダーク・サスペンスの大家が放つ戦慄の怪作。


人にはススメられない仕事
落ちこぼれ白人ハップ・コリンズは、夜毎クラブの用心棒をしつつ、親友レナードと恋人ブレットの好意に甘えて生きる毎日。だが安穏な日々は続かない。気づけばハップは、売春宿で賑わう危険な町フーティ・フートへ繰り出す車に、レナードらと共に乗り込んでいた。すべてはブレットの娘、ティリーを売春宿から救うため。やたらと態度のでかい赤毛の小男や、バイク乗りのギャング団、冷徹な殺し屋どもを相手に、ハップとレナードの奮闘がまた始まる。益々過激さを増すMWA受賞作家のライフワーク最新作。


テキサスの懲りない面々
落ちこぼれ白人ハップ・コリンズは、鳥肉工場の見張り番として日銭を稼ぐ毎日。ある日、暴漢に襲われた娘を助けると、彼女はなんと鳥肉工場のオーナーの娘と判明。礼として大金と休暇を与えられたハップは、悪友レナードを誘いカリブ海クルーズへと繰り出した。だが、そんな幸運が続くはずもない。船に乗り遅れてメキシコに取り残された二人は、悪徳警官たちの襲撃に遭い、老漁師とその娘のトラブルに巻き込まれ、マフィアに目を付けられる羽目に…。最大のピンチにテキサスの仲間たちが大集結、かつてないスケールでおくるシリーズ最新作。



実はシリーズ1作目「Savage Season」(原題)が、なぜか翻訳されていない。文庫のカバーイラストも、4作目だけ違うしさぁ……。大人の事情があるんでしょうかね……。


シリーズは、その日暮らしをしている落ちこぼれの貧乏白人、いわゆる“トラッシュ”のハップと、ハップの親友で、やはり貧しくしかもゲイである黒人・レナードが主人公。どちらも、40歳辺りの中年のオッサンだ。


しかも二人が暮らしているのは、テキサス東部。テキサス東部は雨が多く、沼や湖、川も多い地域。ロマンス小説界のテキサス(≒牧場)とはかなり趣が違う。ルイジアナ州に隣接しているので、“ディープサウス”の一部とみなされることもある。


つまり、非常に保守的で人種差別が激しいとされる地域ということで、そんな地域で、白人とはいえ底辺にいるハップと、黒人でゲイという二重の差別を受けかねないレナードが、親友同士としてお互い助け合って暮らしているという設定が、もうわたしのツボ。あ、ハップはノンケで、レナードと恋愛関係というわけではない。念のため。


しかもこの二人、「ボロは着れども心は錦」を絵に描いたような人物で、勇敢で強い信念を持ち、仁義に篤い。殺人事件や誘拐事件など、各巻ごとに、それはもう恐ろしく陰惨な事件に二人は巻き込まれてしまうのだけど、最後まで諦めずに困難を乗り越え、事件を解決するのだ。


貧しい白人と黒人、人種差別の激しい地域、陰惨な事件――と聞くと、とてもシリアスで暗い雰囲気物語なのかと思ってしまいそうだが、これが気持ちよいほど期待を裏切る明朗で痛快なノリ。


ハップとレナードはじめ、登場人物たちの会話やディテール描写が、超下品かつ毒舌モード全開。語り口もユーモラスで、「笑い飛ばさずにやってられるか!」的なクソ元気パワーを感じる。ここもわたしのツボをいたく刺激してくれるポイントだ。


このシリーズを読んで、ハッとさせられることはたくさんあったのだけど、一番グッサリきたのが、「黒人の血が一滴でも入っていれば黒人だ」といった意味のフレーズ。


そして、レナードの「ノンケで白人のハップは人前で恋人とイチャイチャしたりノロケたりできるが、自分はジョンという恋人(※黒人)がいても、そんな風にはできない」というようなセリフ。


なんというか……厳然と隔てられる人種の壁と、同性愛への風当たりの強さとを、目の当たりにしたような気がしたんだよなぁ……。それがテキサス東部という土地柄ゆえなのか、アメリカの総体的な雰囲気なのかは、わからないけれど。


このシリーズのこうした設定が強く印象に残っていたため、テキサスBL作品で、男に興味のなかったはずの攻め(※テキサス人)があっけらかんと男同士の恋愛を受け入れたり、ゲイだと隠さずにいたり、周りも同性愛に動じなかったりするのを読みながら


保守的でマッチョな土地柄なのに、そんなあっさりとうまくいくもんかい!
いや、これはBLというファンタジーでロマンだからそこはツッコんじゃダメ、絶対!!


という風に、わたしの中のリアリスト面とロマンティスト面が心の中で激しく葛藤を繰り広げていたのだった。


シリーズのラストは、ハップ、レナードとも貧しくとも穏やかな生活を送っている模様。安心すると同時に、ちょっと寂しいなぁと思ったものよ……。


カウボーイが主人公でもないし、広大な牧場が出て来ない“テキサス”だけど、テキサスにもこんなところがあるんだと知ったのは、このシリーズのおかげ。きっとこういうところが舞台のBL作品は、今後も出ないと確信している。アメリカのオリジナル・スラッシュでは、どうなんでしょうね。


主人公のオッサン二人を中心に、中年で貧しい登場人物たちが苦境をものともせず元気よく愉快に暴れ、時に繊細な感情を垣間見せつつ、チャレンジを諦めない冒険に満ちた物語――って、あれ? 実はフロンティア精神や西部劇テイストがこっそり忍ばせられていたのかしらね!?


オッサン萌え属性がある方は、機会があればぜひ。でも、ハップとレナードでやおい妄想は発生しなかったけどね。


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Tags: テキサス ゲイ ジェンダー

Comment 3

2012.05.31
Thu
22:57

lucinda #-

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拍手コメントRES

>05/31 16:55の方
ううううう、ありがとうございます! なんか迷走した感があって反省していたんですが、そのお言葉、すごく嬉しかったです!

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2012.06.02
Sat
16:05

baxt686 #-

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アメリカ在住です。保守派が多数の地域の雰囲気を知っているのでテキサスものはどうしてもダメです。つっこみどころが満載すぎてw。保守派のゲイに対する偏見は半端ないですからね。宗教がからむので。

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2012.06.03
Sun
12:13

lucinda #-

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コメントありがとうございます

>baxt686さん
コメントありがとうございました!
実際のところをご存知で、しかも行こうと思えば行けるようなところにお住まいだと、ファンタスティックテキサスは読めなくなるでしょうねぇ…。私は日本に住んでいるので、「ドリームすぎる!」と思っても、ワンクッション置けるような感じで、それはそれとして楽しめますけどね…。

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