ファロへの道

 15,2009 15:27
ファロへの道 原題:Mein Freund aus Faro
監督:ナナ・ノイル 2008年 ドイツ
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工場で働くメルは22歳、短い髪とダブダブの服で見た目は完全に男の子。ある日メルはヒッチハイクをしていたジェニーとビアンカに出会い一目惚れしてしまう。彼女たちはメルのことをポルトガルの男だと勘違いし、メルはこれをチャンスとばかりに男になりきることにする。ジェニーは他の男の子とは全然違うロマンチックな “彼” にどんどん惹かれていく。メルはどこまでこの生活を続けられるのだろうか? (LGFF公式サイトより)


LGFF公式サイトに、「“ボーイズ・ドント・クライ” を彷彿とさせる」と解説されていたので、あんなにやりきれない内容だったらどうしよう……とドキドキしながら見たのだが、静かでちょっと詩的な作風に、やりきれなさよりも感傷的な気持ちになった。
それは例えば、女性らしく振る舞うことや、慕っていた兄の結婚によってこれまでの生活に兄嫁が入り込んでくることへの、メルの違和感、兄が兄嫁のものになったという喪失感、本当に好きになってしまったジェニーとの恋の楽しさと苦しさ、そのジェニーに女だと告白したとたんに立ち去られた絶望感、ジェニーの男友達から受けた屈辱――そういったメルの感情がいろいろ想像できそうで、感傷に浸ってしまったのかもしれない。


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恋人同士が行く先は海って、どこの国でも同じなのかも

映画の冒頭でメルは、ポルトガル・ファロからやってきた同僚のヌノに興味を示すため、恐らく「LGFF上映作品」という冠がないところで見ていれば、メルとヌノの間に恋が芽生えるのかも……と思ったと思う。


――作品を見ているうちに、メルはヌノに憧れのような気持ちを持っていたとわかるんだけど。実際、メルはその後、出会ったジェニーに、「ポルトガルのファロから来た、ミゲル」と名乗るし。


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ファロからやって来たヌノ。イケメンだけどなんかすごく濃ゆいわ、その風貌が……

また、「好きなヤツを連れてこいよ」と兄に言われて、メルはヌノに頼み込んで恋人のフリをしてもらう。「そんなヤツはいない」と突っぱねないその姿は、女性であることにちょっと違和感を感じていることを隠すため、という必死さのようなものは全然感じられず、「大好きな兄に従った方がいいのかな。好きな人がいるのがフツーなのかな」というような不安感が伝わってくるような気がした。


考えてみれば、メルが女性であることに違和感を感じているのかどうか、同性愛者なのかどうか、作品の中ではっきりと語られているわけではないのだ。むしろ、メルはそんなことをこれまで真剣に考えたことがなく、作品の進行とともに、映画の観客と一緒に考えていくような感じ。


ラスト、メルはジェニーと別れ、家を出てファロに行くことを決意する。そして途中、道端に佇むヌノが映し出される。ヌノはメルに別れを告げるためにいたのか、それともメルとともにファロに帰ることにしたのか――。


公式サイトの解説に「アイデンティティというものが、固定されたものではなく、流動的なものなのだということが、この映画の大いに楽観的なメッセージ」とあるけれど、まさにそうだなぁ……と深く感じ入ってしまったのだった。


この内省的な雰囲気が、ドイツって感じだわぁ……!と思いながら席を立った。「シェフズ・スペシャル」がいかにもラテンっぽかったので、なんというか、お国柄の違いを目の当たりにしたような気がした。


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Tags: レズビアン FtoM ジェンダー クィア映画 LGBT

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