ほがらかなおしゃべりは“変態攻め”の十分条件か?― 「CHERRY」(月村奎)、「たとえばこんな恋のはじまり」(小林典雅)

 10,2012 03:26
昨年からガシガシと読み始めた月村奎作品(でも高校生が主人公の作品は除く)。“朝チュンの作家さん”というイメージが強くて、シリアス寄りの正統派ラブロマンスな作風なのかなと勝手に想像していた。


でも実際に読んでみると、どことなく文章にユーモラスな味わいがあって、わたし好み。そりゃ、ねっとりと抜き差しするエロシーンはないかもしれないけれど、だからといって物足りなさなんて感じない。


そんなわけで、新刊のみならず過去の作品も読んでいるのだけど、この作品は、攻めのほがらかで飄々とした感じとよくしゃべる感じが、どこか“あの方”の作品を思い出させるような気がしたのだった。


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大学生の直希はわがままクールな王子様キャラ。家柄・容姿・成績と非の打ち所がなく、女子からはモテまくりだ。そんな直希には秘密がある。実はいまだに童貞なのだ。ひそかに脱童貞すべく焦っていたある日、直希は准教授の阿倍と知り合った。大人の余裕と魅力をあわせ持つ男に秘密を知られてしまう直希。だが、いつしか阿倍の研究室に出入りするようになり…?たくらみ攻×ツンデレ受のキュンラブ・コメディ。

“あの方”とは、もうデビュー作からメロメロの小林典雅さん。典雅さんといえば“変態攻め”。そして典雅作品の変態攻めは、ニコニコとほがらかで人当りよく、飄々としてよくしゃべるイメージ。


そう、月村さんの「CHERRY」の攻め・阿倍が、なんだか典雅作品に登場する攻めっぽい気がしたのだ。


阿倍は、わがままでクールな王子様キャラである学生・直希の失礼な態度や言動などサラリとかわし、直希に歯噛みさせながらも彼の心をからめ取っていく。


例えば、“何でも完璧にできる王子様”というイメージを保つために、陰で努力している見栄っ張りの直希のことを、「コソ勉くん」などとからかって直希を挑発したくせに、「なにムキになってるんだよ。きみってきれいな顔してホントに面白い子だね」と軽くあしらったりとかね。


誰もが自分のことを「完璧」「クール」「カッコイイ」と評するのに、阿倍だけが「面白い子」「ひょうきん」などと言うことに直希は腹立ちうろたえつつも、どんどん阿倍に惹かれていくのだ。


しかも、阿部は実は直希のことを狙っていたことが、物語の最後で判明する。気位の高い直希を油断させ、徐々に直希を籠絡していくその様子は、まさに“たくらみ攻め”


阿倍と直希がテンポよく会話し、ほぼそれで物語が進んでいくので、双方ともによくしゃべっている感じ。でもBLの攻めには、ほがらかによくしゃべるキャラが少ない気がするので、余計に阿倍がよくしゃべっている印象を受けたのかもしれない。


わたしが、阿部のことをよくしゃべるだけでなく変態攻めっぽいと思ったのは、二人がお互いに好きだとわかってキスをした後、本当はキスしたことに動揺しているのに強がる直希と、それをからかう阿倍の会話。


「いいねぇ、その王子様キャラ。ゾクゾクする。踏むよりむしろ踏まれたいよ」
「キモい。あんたマゾかよ」
「ふふ。Mと見せかけ実はS。きみとは正反対でしょう?」
「……どういう意味だよ、それ」
「相性ぴったりってことだよ。…<中略>…嬉しいな。きみが僕のものなんて」


――うーん、このどこまで本当だか嘘だかわからないような、尻尾を掴ませないような飄々かつノラリクラリとした感じが、典雅作品に登場する変態攻めっぽいなぁ!


個人的に、パッと頭に思い浮かんだのが、「棒投げ橋で待ってて」の番外編に登場した、ドクターの佐川。彼もクールで美しい桜里の兄・不律の冷たく鋭利な態度を飄々とかわしながら、最後は不律を手に入れたものね。


あいにく、「棒投げ橋で待ってて」は大切にしまいこみすぎてすぐに取り出せなかったので、典雅さんの最新刊、奇しくも同じディアプラスから出ている「たとえばこんな恋のはじまり」を再読して、「阿倍と、典雅作品の攻めの傾向は似ているか」を確かめてみた。


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恋人には振られ、仕事では顧客にからまれ、何もかもうまくいかず落ち込んでいた汐夜は、柄にもなく夜のバッティングセンターで酔い潰れ、セミナー講師の海藤に介抱される。ものすごく迷惑をかけたはずなのにものすごく優しくしてくれる彼の言葉が奇妙に心地よく、頻繁にプチ癒し会と称して集まる仲になるけれど…。


だがしかし――。


「たとえば……」の攻め・海藤は、阿部よりもはるかによくしゃべり、はるかに変態だった!


いえ、「比較どころの話ではない」というわけではないんですよ? 海藤は当初のわたしの“典雅作品的攻め”のイメージを裏切らず、ほがらかで人当りよく、おちゃらけているのかと思うほど飄々としていて、よくしゃべるキャラだもの。


受けの汐夜に振り向いてもらうために、あれこれ策を巡らせて汐夜を和ませて自分を印象付けようとする様子も、“たくらみ攻め”そのもので、その人物像は「CHERRY」の阿倍と似ているといってもいいと思う。


だけど「たとえば……」を読み返してみると、海藤ときたら、本当によくしゃべっているのだ。もちろん、海藤はセミナー講師で、物語にはセミナー場面もあるので、セリフが多いということもある。しかし、一つひとつのセリフがなんだか長い!


めでたく汐夜と両想いになった後のエッチシーンでも、やたらしゃべって汐夜を臆面もなくほめまくり、これぞ変態紳士という感じ。


――デビュー作の「棒投げ橋で待ってて」の佐川も、これと同じくらいしゃべってたっけか? もしかしたら典雅作品、冊数を重ねるごとに、攻めのおしゃべり度と変態度がランクアップしているんじゃなかろうか?


いやいや、これがきっと、典雅作品の魅力の一つということなんだろうなぁ……。たまたま今回、「CHERRY」の阿倍が典雅作品の攻めっぽいような気がして比べてみたら、典雅作品の攻めの特長がクッキリと浮き上がったという感じ――。


その証拠に「たとえば……」に収録されている「たまにはこんな恋のはじまり」の攻め・八重樫は、穏やかな人柄だけど海藤ほどぺらぺらしゃべらないのに、やはりエッチシーンではわりとよくしゃべって変態っぽさを醸し出していたものね。


まあ、図らずも小林典雅作品のユニークさと圧倒的なセリフ量を再確認した形にはなったけど、わたしが「CHERRY」を読んで思いついた


攻めがほがらかによくしゃべると変態攻めっぽい


という定義(?)は、あながちハズれてはないんじゃなかろうか? いかがでしょう?


ところで、「たとえば……」で、汐夜を励ますためと称して海藤が提案した「プチ癒し会」の企画が、なんだかニッチだけど妙にツボだ。


岩盤浴で汗を流す「発汗デー」とか、好きな肌触りのグッズを持ち寄る「好きな肌触りのグッズ品評会」とか、けなげだと感銘を受けたものを持ち寄る「けなげデー」とか。それ、そのままわたしもマネさせていただいてもいいですかね、典雅先生?


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Tags: 月村奎 木下けい子 小林典雅 秋葉東子 複数レビュー

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