わたしが“好き”なSM―「優しいSの育て方」(榎田尤利)、「教授の密かな愉しみ」(剛しいら)

 30,2011 11:08
SMはお好きですか?


――あ、ちょっと誤解を与える聞き方だった。改めて、SMモノはお好きですか?


実際にプレイとして好きかどうかはともかくとして、SMはさまざまな創作物に使われているけれども、わたし、正直に言うとあんまり好きじゃない。


痛いのも辛いのも苦しいの苦手だし、そんな気持ちを与えたり与えられたりすることの、何が気持ちイイのか興奮するのか、さっぱりわからない。嗜虐も被虐も意味がわかんない。SMモノを読んだり見たりしてもちっともグッとこないし、むしろ目にしたくない。


でもBLを読み始めてから、いたって平凡な、というよりはある意味超ヘタレなわたしでも、楽しく読めるSMモノってあると発見した。


榎田尤利さんの新刊「優しいSの育て方」もそんな作品の一つ。これを読みながら、こんなのはSMといっても超ソフトだろうなぁと思いつつ、しかし“わたしが読める”SMモノの傾向をしっかり確信できたのだった。


折りたたみます。

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立派な身体に繊細な心を持つ大学生・栄田惣は、生まれて初めての恋に落ちた。ひと目惚れの相手は通称『殿下』。整った容貌、穏やかな雰囲気から人気の、文学部准教授・宮隆由紀だ。声を聞くだけで、姿を見るだけで、栄田の心も頭も宮でいっぱいになってしまう。けれど、宮にはある秘密があって―!?心優しい栄田と、一筋縄ではいかない宮のちょっと変わったピュアラブ誕生。


何がステキかって、“殿下”こと宮センセイは40歳だという設定ですよ! 美しかろうと、とてもそんな年には見えないという若々しさだろうと、40歳は40歳。少し前から、40代以上のキャラ設定をポツポツ見かけるようになったけど、ジャンルに幅が出て良いことです。


そんな美中年・宮は、実はゲイでしかもM。そうとは知らず、大学生の惣は宮に一目で恋してしまう。そして、たまたま知ってしまった宮の性癖に応えたいと、Sで調教師でもある助教・王から、Sの心得やテクニックを必死で学ぼうとする。


この作品のもう一つステキなところは、惣が虫を殺すこともできないほど、心優しいという設定だ。痛みや辛さを与えられるのも、人に与えるのも大の苦手。そんな惣が、果たして宮のご主人様になれるのか!? というのも、読んでいてドキドキ。


宮は確かに、マゾヒストだ。でも、痛みや苦しみを与えられれば何でもよいというわけではない。気心が知れている好ましいSとのセッションでなければ、快感を感じられないのだ。


そここそが、まさに惣が宮の心に入り込む余地で――宮のかつての恋人で、実は惣の実父でもある鶴見との一悶着を経て、宮は愛ある(書いてて照れる)セッションではないセックスを惣とする気になり、惣はとうとう宮の心を手に入れる。


王の、


僕はあなたとセッションするのが好きです。責められてるときのあなたは壮絶に綺麗だし、泣く声は可愛くゾクゾクします。でも、僕はあなたとセッションしかできない。セッション中のアナルセックスはご希望とあらばできますけど、でもそれはメイクラブではない


というセリフに、


――なるほど、SM=メイクラブというわけではないんだよな


と、再認識。情緒のない表現で言えばセフレだね。


ストーリーの流れに無理がなく、しかもSMモノだというのにおなじみのどこかユーモラスな雰囲気も漂わせていて、あいかわらず榎田さんは巧いなぁ……! とシビれた。


ユーモア担当と命名したい王の視点で語られる、SMに対する物思いも興味深い。王には、またどこかで会いたいなぁ。


ところでこの作品を読みながら思い出したのが、以前読んだ剛しいらさんのこの作品。


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華族の血を引き、肉体的魅力に溢れた勅使河原教授の住む洋館で働くことになった地味な大学生・沢田天根。教授に近づける喜びで胸がいっぱいの天根を迎えたものは、何者かによって毎夜繰り返される淫らな悪戯だった。この手が教授なら…教授に犯されたい…!そんな天根に、教授は思いもつかない淫靡な愛で応えはじめ―。“洗練と頽廃の快楽”に酔う、書き下ろし収録。


こちらでも教授が主人公だけど、勅使河原はS。SMといえばインテリなキャラが多い気がする。そして勅使河原は35歳という年齢設定。うーん、読み返してみると、勅使河原は40代でもいいんじゃなかろうかと思うのだが、この作品が出版されたのが2003年と考えると、当時は35歳がギリギリ許容される上限だったのかもしれん……。


この作品、読みながら内心、


――うわぁー! ソフトな描写ながらこれ……すごい!


と何度も思った。勅使河原の鮮やかなご主人様っぷり、そして勅使河原の“ペット”や“家具”(!)、“奴隷”たちのご主人様への傾倒っぷりが、それまで読んだどのSMモノよりも強烈。何というか、Sが巧みにMの心を掴み、“セッション”に徹している感じが、新鮮なのだ。


勅使河原は高い美意識でMを選ぶ。彼のお眼鏡に叶った者が、彼の洞察力によってペットか家具か奴隷(ほかにもあるのかもしれないが、とりあえず物語に出てくるのはこの3つ。以後“ボトム”と略す)として調教される。


だからこの作品でも、誰もが勅使河原のMというかボトムになれるわけでもないし、勅使河原とのセッションを経験できるわけではない。そして、勅使河原と彼のボトムたちが、深い信頼関係で繋がっているのがわかるのもよい。


この信頼関係があるからこその、SMなんだよ! 「優しいSの育て方」でも、王が言ってたもの、「SMで一番大切なのは“信頼”だ」って。


ボトムたちが勅使河原に惹かれ、離れられなくなっていく様子が、読んでいてゾクゾクする。特に興味深いのが、椅子として調教された人気タレント・健城。いつも大勢の人に見られる健城が、“椅子”になることで放置され、存在感を失うことで安らぎを感じるようになる。


見られることに疲れた男は、見られない快感を知ったのだ。それはこれまで想像もつかなかった快楽で、健城を虜にしていた。
けれど他の人間が同じようなことを仕掛けたら、健城は二度とそいつの許を訪れようなんてしなかっただろう。
<中略>
健城は教授の行為の中に、愛に近いものを感じていたのだ。


最初は勅使河原への反感でいっぱいだった健城の気持ちの移り変わりが、なんとドラマチックなことか!


――とはいえ勅使河原は、ペットの天根に知らず知らずのうちに溺れ、そんな自分に戸惑っちゃうんだけども。まあ、戸惑いつつもご主人様としての矜持は失いません(キリッ)


「優しい……」の王を通して語られるSMの概念も面白かったけど、この作品の、勅使河原を通して語られる“SM”愛好者への皮肉も印象深い。勅使河原の許に送られてきたSMパーティーの招待状に興味を示した天根に


「興味があるなら(パーティーに)釣れていってあげてもいい。だがそこで見たことが、すべて私も同意していることだなんて思わないでほしい。はっきり言っておくが、彼らのは単なる遊びだ」
「奴隷ごっこ?」
「その通り。素晴らしいね、天根。それこそが彼らの本質だ。何事もごっこ遊びの域を出ないくせに、自分達では人と違ったことをしていると思っている。つまらないな」
(カッコ内は管理人)


と言い放つのだ。“ファッション的なSMがトレンド”みたいな、よくわからない浮かれっぷりを、見事にバッサリ切り捨てているようで、SM愛好者ではないわたしがなんだか痛快になった。


この作品は、「教授の華やかな悦び」という続編もあって、そちらでも勅使河原の堂々たるご主人様っぷりが楽しめる。


それにしても、剛さんの勅使河原シリーズ(2作だけど)、BLの中にあって異色のSMモノじゃないかな。男同士だから一応BLだけど、BLというより初心者のためのSM入門物語という感じ。あとがきに「今回はソフトテイスト」と書かれていたけど、ハードになったらどんな物語になるんですか、剛さん!?


――ハードなSMモノといったら、それこそマルキド・サドや団鬼六先生の作品でしょ! ということになるのかもしれない。ああ、でもわたし、大変恐縮ながら、サド先生や団先生の作品はどうしても読めないなぁ……。たとえSMだとわかっていても、あの嗜虐性と被虐性にノれないの。


そう、わたしが読めるSMモノって、「SとMの間に信頼関係があるとわかる」もので「これは単なるプレイ」だとわかるものなのだ。SはMのことを理解して行為をしている、MはSを信じて反応している、そしてこれはSMというセッションを楽しんでいる、ということがしっかりわからないと、もう一文字も前に進めない。


無理矢理拉致されていたぶられてそこでちょっと快感を覚えて……みたいな展開は、どうにも受け入れられないのだ。


ま、そんなところが、SMモノにまったくそそられない何よりの証明なんでしょうけど。

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Tags: 榎田尤利 草間さかえ 剛しいら 華門 複数レビュー SM

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