あしたのパスタはアルデンテ

 21,2011 23:25
これが今年最後の、映画館で見るクィア系映画になりますかね。


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あしたのパスタはアルデンテ
原題:MINE VAGANTI
監督:フェルザン・オズペテク 2010年 イタリア

トンマーゾはローマに住む作家志望の青年。実家は南イタリアのレッツェにある老舗のパスタ会社だが、兄アントニオの新社長就任が決まり、共同経営者一族の晩餐会が開かれることになった。帰郷したトンマーゾは、その席上で家族に言えなかった3つの秘密を告白しようと、兄のアントニオに予告する。1つ目は経営学部と偽って文学部を卒業したこと。2つ目は家業を継がずに小説家になること。そして最大の秘密はゲイであること。だが、ディナーの席でトンマーゾが告白しようとした矢先、アントニオが先にカミングアウトしてしまう。実は彼もゲイだったのだ。一同は驚愕、父ヴィンチェンツォは憤怒のあまり、アントニオに勘当を言い渡してそのまま卒倒。家族は大騒ぎになる。トンマーゾは告白どころか、ローマに戻ることもできず、共同経営者の美しい娘アルバとパスタ工場を任される羽目に。果たして、トンマーゾの未来は……?老舗パスタ会社の将来は……?そして、一家に再び平和な日々は訪れるのか……?(チラシより)


コメディなのでちょこちょこ笑いつつも、息子がゲイだと知ってからの、父親の対面を気にする振る舞いに、アチャー! と思った。


興味のある方は続きをどうぞ。

晩餐会の前、男性たちの間でウケていたのはオカマがネタの下品なジョーク。そのジョークを女性に話そうというあまりよろしくないタイミングで、いよいよトンマーゾがゲイだと打ち明けようとしたら、先手を打った兄の、まさかのカミングアウト。


多分、ここはちょっと苦笑するシーンなんだろうけど、父親の怒り具合と、ほかの列席者の超気まずそうな様子に、笑うよりも「やっぱりこういう反応になっちゃうよなぁ……」としんみり見つめてしまった。

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この場でカミングアウトって、めちゃ勇気あるよな……


ま、心臓発作を引き起こして卒倒しちゃう父親は、感情が高ぶりすぎじゃないかと思うけどね。


その後、トンマーゾは作家になりたいことやゲイであることを打ち明けられないまま、共同経営者の娘・アルバと共にずるずると新製品開発に立ち会い、家に居続ける。


早くローマに戻って恋人に会いたいという気持ちと、でも実家をこのままにしてはおけないという気持ちとに揺れるトンマーゾ。その様子も、「だって兄ちゃんが爆弾発言しちゃって、父ちゃんが倒れたら、そうせざるを得ないわなぁ……」と思ってしまう。


そんな風に息子は悩んでいるのに、父ちゃんときたら


「アントニオがゲイだということが、もう町中に知れ渡っているに違いない。家の恥だ」


「町中の人に笑われている気がする」


「アントニオのせいでこんなに辛い!」


とグダグダクヨクヨ、時には愛人を病室に引っ張り込んで、嘆いてばかり。とにかく、彼が気にしているのは家の体裁と自分の辛さのことばかりなのだ。


父親があまりにハデに嘆いているので目立たないけれど、母親も


「母親なんだから、アントニオがゲイなら気づいていたはずよ。気づかなかったのは、アントニオが本当はゲイじゃないからよ」


「ゲイは、“なおる”ものじゃないの? 」


などと言って、アントニオのカミングアウトを受け入れられない。その様子を見ているトンマーゾは、ますます自分のセクシュアリティを打ち明けられない――。


まさに負のループ。


トンマーゾの両親の様子は見ているとイラついたりガッカリしたりするけれど、同時に「ある日突然、子どもがゲイだとカミングアウトしたら、やっぱりそうなっちゃうか……」と、二たびしんみり思わされて、何ともいえない気持ちになった。


以前、「日本は欧米よりも、社会的にゲイに対するあからさまな拒否感はないかもしれないが、身内にゲイがいることには激しい拒否感を示す傾向がある」とどこかで読んで、なるほど、と思ったことがあるのだが――トンマーゾの両親の様子は、まさに「身内にゲイがいることへの拒否感」が具現化されたような感じがした。


両親、特に父親はアントニオを認めないままなのか?


トンマーゾはカミングアウトしてローマに戻れるのか?


アントニオは戻ってこないつもりなのか?


――どうなる!? と思っていたら、トンマーゾの祖母の死によって、すべてが解決の兆しを見せる。祖母は糖尿病ゆえに止められていたケーキをたらふく食べて、


「大切なのは、『あの時やっておけばよかった』と後悔しないこと」


というメッセージを身を呈して(?)トンマーゾに残し、亡くなるのだ。というかおばあちゃん、それ、ある意味自殺じゃん!!


このおばあちゃん、どうやら好きな人がいたのに、その人の兄と結婚したという過去があるらしい。アントニオのカミングアウトによる家族の右往左往っぷりを物言いたげに眺めつつ、トンマーゾには「人の望んだ人生で満足?」などと、「後悔せずに生きる」大切さをほのめかしていた。

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おばあちゃん若かりし頃の冒頭のウエディンドレスのシーンが印象的。右が、おばあちゃんの好きな人


実はアントニオのカミングアウトには、カミングアウトするまでは自社工場の従業員だった恋人の存在をひた隠しに隠し、ゲイだとバレるかもと恐れて彼を解雇し、彼が病気になっても人目を恐れてお見舞いにも行かず……という行動が祟り、せっかくカミングアウトして恋人のもとに行ったというのに、フラれるというオチがついている。


なんだか、人目や対面を気にしてしまうところには父親との「血のつながり」を感じるけれど、おばあちゃんの「『あの時やっておけばよかった』と後悔しないこと」の言葉の重みが、より実感できる顛末だと思う。


――というわけで、子どもがカミングアウトした時の親の反応、に絞ってレビューをまとめたけれど、この作品、繰り返しになるけど一応コメディだ。でもなんかこう、身につまされすぎてスカッと笑えないんだよな……


その中で、唯一、ブッと吹き出したのが、トンマーゾの恋人を含むゲイ友がトンマーゾの実家に訪ねてくるシーン。


「海水浴に来て、ついでなんで寄ってみたんだ」という彼らを、トンマーゾの家族は大歓迎。「泊まっていけ」と強引に引き止める。この時の家族の無理矢理な浮かれっぷりがまたおかしく――


父親はケーキを買いに行った先で「今日は若い娘を出歩かさせない方がいいぞ! 若いたくましい男たちがいるからな!(ゲイだけど)」と自慢気に話し、母親はご馳走を用意し、叔母はめかしこんでモーションをかけようとする(ゲイだけど)

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叔母のルチアーナ。駆け落ちした相手に裏切られたという曰くつき。メガネ美女。トンマーゾの母親ともども、いかにも「イタリアのマダム」という感じが良い


ゲイだとバレないようにがんばろうとする友人たちもかなりおかしく、うっかりオネエな言葉やしぐさが出ないようにしたり、ゲイゲイしい洋服に気を付けたりするものの、アルバのドレスのブランドを一目で当てたりしてかなりスリリング。


そんな彼らが、自分らしさ全開ではしゃいでいた海水浴のシーンは、楽しそうでほっこりした。

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3人でうっとりと踊ってるシーン。ここにトンマーゾの恋人はいません

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左からトンマーゾの恋人、アルバ、トンマーゾ。なんかトンマーゾと恋人が兄弟みたいに似ている……


実際はなかなか難しいところはあるけれど――自分らしく、後悔せずに生きるというのは、大切にしたいところよね。

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Tags: ゲイ クィア映画

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