通しで読めて至福―「テルペノイド」(岡田屋鉄蔵)、「俺が世界を救う」(吉池マスコ)、「在東京少年」(明治カナ子)
09,2011 03:16
雑誌はできるだけ買わないようにしている。買いだすと次号も買いたくなってキリがないからということと、部屋の収納力に見合わないから。もう、表面張力がいつ破れてもおかしくない危うい収納状況ですからね、うち。
しかしそれでも、全サやふろくや特集やらに引き寄せられて買うことがたまにあって、そこに掲載されていた作品が気に入ってしまうと、単行本になるのかどうか、多分なると思うけど万が一ならないとしたら次号も買っとくべきか、と悩むことになってしまう。
ここでピックアップする作品は、どれも雑誌で「いいなぁ!」と感じ入り、密かに単行本化を熱望していたものばかり。しかも、単行本で通して読んでみたら、期待通り、いや期待以上に印象的で素敵な作品だった。幸せ。
なんかちょっと、仕事や何かの飲み会で「ステキな人だなぁ」とちょこっと思っていた人と、後日再会して仲良くなって、「ステキな人だわ」と改めて思うような感じ――に似ているかもしれない。なんとなく。
長いので折りたたみます。
私が雑誌で読んだのは、第1話の「テルペノイド」。「BE BOY GOLD」08年6月号に掲載されていたもの。
亡き弟の息子・ハルを引き取って育てるユキが、隣に住む植木屋(つまりガテン)のシゲのことを密かに片思いしている姿が、なんだか初々しい。
――と思ったら、どうやら腐れ縁らしいオカケンとあっさりおっぱじめちゃって、でもそれがどう見ても徹頭徹尾セフレだとわかるドライさが対照的で、面白いなぁと思ったのだった。
シゲも実はゲイでめでたくユキと気持ちが通じ合い、その後の物語が展開されていたのは期待通り。だけど、まさかオカケンにグッとくることになろうとは、思わなかったな!
オカケン、そりゃあもう度量が広くてちょい変態な、攻め攻めしい攻め様なのだ。
妻子はいるらしいが、高校時代からのつきあいであるユキのことを、セフレとして友人として、付かず離れず支えている。
ユキに女装させてヤっちゃう「Sweet Tranny」もニヤニヤ笑ってしまったけど、個人的には、ハルを助けるための条件としてユキとシゲに申し出た「ユキ、シゲ、オカケンでの3P」を読みたかったよ!! ハルが大人になった時の話よりも何倍もね!<変態
ユキがなぜ、誰よりも何よりもハルを優先するのか、どれだけハルを大切に思っているのかが、この本を読むとよーくわかって味わい深い。こういう奥行きが丁寧に描かれているのは、岡田屋作品の特長じゃないかな。
オカケンの弟・陽一と汐崎の話も収録されていたけれど、これもまだ続くのかな? 陽一はオカケンの弟とは思えない、受け受けしい天然さんだったわ……。
こちらは、表題作ではなく、同時収録されている「花とおじさん」の方を雑誌で読んで気になっていた。わたしが読んだのは、「麗人Bravo!」09年春号に掲載されていた「花びらのゆくえ」。
大工の棟梁(またしてもガテン系)でバツイチで40歳の、もう間違いなくオジサンの久保田は、近所に住むフリーターの「拓くん」を暴漢から救ったことから、拓くんを放っておけない気がする自分に戸惑っていた。
アッチの方が勃たなくて悩んでいた久保田だったが、ある日拓くんに好きだと打ち明けられて、拓くんへの想いに気づく。でも、若くてカワイイ拓くんに自分は不釣合いじゃないかと悶々として――というお話。
久保田の悶々と悩む様子に、「わかるわぁ~」と共感しつつ、その姿が純情で生真面目でカワイく見えてしまう不思議。マスコ作品特有のおかしみがちりばめられていて、笑いながらもしんみりしてしまう。
でもね――ここでわたしが気になる&お気に入りの人物は、風俗店の店長。
どこからともなく現れて、久保田の悩みを聞き、さまざまなタイプの風俗店(SMクラブとか)を紹介し、どこへともなく去っていく。
それが何だか妙に印象的で、怪しげなんだけど渋い。どれだけ脇キャラ好きなんだか、わたし……。
物語自体は、他愛のない話だと思う。でも、おっさんの、2回りは年下であろうカワイイ恋人への揺れる気持ちが丁寧に描かれているのと、この得体の知れない店長の存在のおかげで、わたしにとってはとてもキュートな物語。すごく好きだ。
表題作は悪い宇宙人を退治できる、「キラー精子」を持つ地球人と、彼をスカウトする忍者風な宇宙人(神様?)の話。いやー、カッ飛んでますねぇ! ストーリーも、設定も。忍者風宇宙人の強引さが微笑ましい。
最後は、同人誌。明治カナ子さんの「在東京少年」。これ、休刊になってしまった「mellow mellow メロメロ」に掲載されていたもの。多分、わたしが読んだのは、vol.9(08年11月発売)だと思う。
サラリーマンの久我山がなんだか最近パリッとしてカッコ良くなったじゃないか! と社内でウワサになっていたのだけど、実はそれは、彼の弟・清高のアドバイスのおかげであり、久我山は弟バカで清高に頭が上がらないのを、同僚が呆れている――というお話だった。
しかもそこでは、清高の姿が一度も現れず、わたしの中では「気配だけはしている、謎のキャラ・清高」がやけに印象的で、どんな話になるのかなぁ、単行本が楽しみだなぁ、とワクワクしていた。しかし、直後にメロメロ休刊。
でも明治先生は同人誌でまとめてくださいました! J庭でGetしてきたよ。嬉しい……!
わたしが読んだ話は、連載の一番最後であり、同人誌でもそれがラストになっていた。あれで終わりなのか……と残念な気持ちはあるけれど、そこに至るまでの久我山と清高の話がしっかり収録されているので、なるほどこういう事情があったか……と納得。
久我山の天然な鈍感っぷりと、清高の腹に一物ある態度の対比が、いかにも明治作品という感じ。久我山の弟への申し訳ないという気持ちと、清高の兄へのちょっと屈託のある思いが、心に刺さる。
別に大きな事件が起きるわけじゃない。深刻な展開になるわけでもない。だけど、ちょっとしたセリフやキャラの動作に「切なさ」とか「哀しみ」とか「ほろ苦さ」とかいった感情を刺激される感じがするのだ。
この物語は、一応これでおしまいみたい。だけど、何かの機会にまた、久我山と清高に会えるといいなぁ……と何度も読み直しながら思ったのだった。
たまに買った雑誌で、本当に通りすがり的に気に入った作品というのは、単行本化されても満足できる確率は高いものなんだろうか。
中には、単行本化されて読むと「あれ……?」と思うものだってあると思うけど――まあ、単行本で読んで満足できるか否かなんて、ちょっと賭けみたいで楽しい。
――「麗人」2009年春号以来、雑誌を買っていないので、当分その賭けの楽しみには預かれないけれども。
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しかしそれでも、全サやふろくや特集やらに引き寄せられて買うことがたまにあって、そこに掲載されていた作品が気に入ってしまうと、単行本になるのかどうか、多分なると思うけど万が一ならないとしたら次号も買っとくべきか、と悩むことになってしまう。
ここでピックアップする作品は、どれも雑誌で「いいなぁ!」と感じ入り、密かに単行本化を熱望していたものばかり。しかも、単行本で通して読んでみたら、期待通り、いや期待以上に印象的で素敵な作品だった。幸せ。
なんかちょっと、仕事や何かの飲み会で「ステキな人だなぁ」とちょこっと思っていた人と、後日再会して仲良くなって、「ステキな人だわ」と改めて思うような感じ――に似ているかもしれない。なんとなく。
長いので折りたたみます。
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高橋は隣家に住むガテンのシゲに片思い中。好きになったきっかけは甥っ子のハル。育児放棄されたトラウマから口がきけない状態だったが、そんな彼を救ったのが温かなシゲの存在だった。『俺の兄貴にもなって欲しい…』告ることも出来ず思いは募るばかり。ところがセフレと車内でキスしているところをなんとシゲに見られてしまい!? |
私が雑誌で読んだのは、第1話の「テルペノイド」。「BE BOY GOLD」08年6月号に掲載されていたもの。
亡き弟の息子・ハルを引き取って育てるユキが、隣に住む植木屋(つまりガテン)のシゲのことを密かに片思いしている姿が、なんだか初々しい。
――と思ったら、どうやら腐れ縁らしいオカケンとあっさりおっぱじめちゃって、でもそれがどう見ても徹頭徹尾セフレだとわかるドライさが対照的で、面白いなぁと思ったのだった。
シゲも実はゲイでめでたくユキと気持ちが通じ合い、その後の物語が展開されていたのは期待通り。だけど、まさかオカケンにグッとくることになろうとは、思わなかったな!
オカケン、そりゃあもう度量が広くてちょい変態な、攻め攻めしい攻め様なのだ。
妻子はいるらしいが、高校時代からのつきあいであるユキのことを、セフレとして友人として、付かず離れず支えている。
ユキに女装させてヤっちゃう「Sweet Tranny」もニヤニヤ笑ってしまったけど、個人的には、ハルを助けるための条件としてユキとシゲに申し出た「ユキ、シゲ、オカケンでの3P」を読みたかったよ!! ハルが大人になった時の話よりも何倍もね!<変態
ユキがなぜ、誰よりも何よりもハルを優先するのか、どれだけハルを大切に思っているのかが、この本を読むとよーくわかって味わい深い。こういう奥行きが丁寧に描かれているのは、岡田屋作品の特長じゃないかな。
オカケンの弟・陽一と汐崎の話も収録されていたけれど、これもまだ続くのかな? 陽一はオカケンの弟とは思えない、受け受けしい天然さんだったわ……。
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この世の些細なトラブルの98%は、地球制服を企む悪い宇宙人の仕業だった。しかし、地球上にはそんな悪い宇宙人を倒せる能力を持つ人間が存在する。一見、平凡なサラリーマン・花田もその一人だ。その恐るべき方法は自身の持つ「キラー精子」を宇宙人の体に注入すること!? 愛のないSEXを繰り返す空しい日々の中、唯一の心のオアシスはお弁当屋さんの店員・斉藤くんの存在だったのだが…。 |
こちらは、表題作ではなく、同時収録されている「花とおじさん」の方を雑誌で読んで気になっていた。わたしが読んだのは、「麗人Bravo!」09年春号に掲載されていた「花びらのゆくえ」。
大工の棟梁(またしてもガテン系)でバツイチで40歳の、もう間違いなくオジサンの久保田は、近所に住むフリーターの「拓くん」を暴漢から救ったことから、拓くんを放っておけない気がする自分に戸惑っていた。
アッチの方が勃たなくて悩んでいた久保田だったが、ある日拓くんに好きだと打ち明けられて、拓くんへの想いに気づく。でも、若くてカワイイ拓くんに自分は不釣合いじゃないかと悶々として――というお話。
久保田の悶々と悩む様子に、「わかるわぁ~」と共感しつつ、その姿が純情で生真面目でカワイく見えてしまう不思議。マスコ作品特有のおかしみがちりばめられていて、笑いながらもしんみりしてしまう。
でもね――ここでわたしが気になる&お気に入りの人物は、風俗店の店長。
どこからともなく現れて、久保田の悩みを聞き、さまざまなタイプの風俗店(SMクラブとか)を紹介し、どこへともなく去っていく。
それが何だか妙に印象的で、怪しげなんだけど渋い。どれだけ脇キャラ好きなんだか、わたし……。
物語自体は、他愛のない話だと思う。でも、おっさんの、2回りは年下であろうカワイイ恋人への揺れる気持ちが丁寧に描かれているのと、この得体の知れない店長の存在のおかげで、わたしにとってはとてもキュートな物語。すごく好きだ。
表題作は悪い宇宙人を退治できる、「キラー精子」を持つ地球人と、彼をスカウトする忍者風な宇宙人(神様?)の話。いやー、カッ飛んでますねぇ! ストーリーも、設定も。忍者風宇宙人の強引さが微笑ましい。
最後は、同人誌。明治カナ子さんの「在東京少年」。これ、休刊になってしまった「mellow mellow メロメロ」に掲載されていたもの。多分、わたしが読んだのは、vol.9(08年11月発売)だと思う。
サラリーマンの久我山がなんだか最近パリッとしてカッコ良くなったじゃないか! と社内でウワサになっていたのだけど、実はそれは、彼の弟・清高のアドバイスのおかげであり、久我山は弟バカで清高に頭が上がらないのを、同僚が呆れている――というお話だった。
しかもそこでは、清高の姿が一度も現れず、わたしの中では「気配だけはしている、謎のキャラ・清高」がやけに印象的で、どんな話になるのかなぁ、単行本が楽しみだなぁ、とワクワクしていた。しかし、直後にメロメロ休刊。
でも明治先生は同人誌でまとめてくださいました! J庭でGetしてきたよ。嬉しい……!
わたしが読んだ話は、連載の一番最後であり、同人誌でもそれがラストになっていた。あれで終わりなのか……と残念な気持ちはあるけれど、そこに至るまでの久我山と清高の話がしっかり収録されているので、なるほどこういう事情があったか……と納得。
久我山の天然な鈍感っぷりと、清高の腹に一物ある態度の対比が、いかにも明治作品という感じ。久我山の弟への申し訳ないという気持ちと、清高の兄へのちょっと屈託のある思いが、心に刺さる。
別に大きな事件が起きるわけじゃない。深刻な展開になるわけでもない。だけど、ちょっとしたセリフやキャラの動作に「切なさ」とか「哀しみ」とか「ほろ苦さ」とかいった感情を刺激される感じがするのだ。
この物語は、一応これでおしまいみたい。だけど、何かの機会にまた、久我山と清高に会えるといいなぁ……と何度も読み直しながら思ったのだった。
たまに買った雑誌で、本当に通りすがり的に気に入った作品というのは、単行本化されても満足できる確率は高いものなんだろうか。
中には、単行本化されて読むと「あれ……?」と思うものだってあると思うけど――まあ、単行本で読んで満足できるか否かなんて、ちょっと賭けみたいで楽しい。
――「麗人」2009年春号以来、雑誌を買っていないので、当分その賭けの楽しみには預かれないけれども。
※当ブログに来てくださる方の年齢層を探るアンケート「あなたのことを教えて!」を実施中です。ブログTOPページの左側に注目! ぜひ一票、よろしくお願いいたします!
