変人を娶らば才たけて、みめ麗しく…?「今宵、月の裏側で」(安曇ひかる)、「猫の遊ぶ庭」「猫の遊ぶ庭~気まぐれ者達の楽園~」(かわい有美子)、「街の灯ひとつ」(一穂ミチ)

 07,2011 23:22
これまで、自分の近くにいた「変人」と言われていた人たちのことを、思い返してみたけれど、誰もが振り返るような“美人”の変人は、残念ながらいなかったなぁ……などとしんみり感じた作品を、立て続けに読んだ。


最初に読んだのは、安曇ひかるさんの法医学者の物語。


今宵、月の裏側で (幻冬舎ルチル文庫)今宵、月の裏側で (幻冬舎ルチル文庫)
安曇 ひかる 麻々原 絵里依

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天見悠月は法医学研究室の新米院生。指導にあたるのは『地下室の姫』の異名を持つ美貌の法医学者・姫谷景。鮮やかなメス捌きで常に冷静に仕事をこなす反面、生活能力に欠けどこか浮世離れしている景を、教授の石上や心臓外科医の阿部は何かと気に掛けている様子だった。やがて天見も景に対して尊敬の念だけではない特別な気持ちを抱くようになり!?―。


あとがきで安曇さんが、「『BL版竹取物語』的なラブコメディを書きたかった」と書かれているのだけど、本当にそんな雰囲気の物語だった。美貌で才能のある、でも浮世離れしてちょっと変わっている姫谷をめぐって、石上、阿部、天見がドタバタ劇を繰り広げる(石上、阿部は、竹取物語に出てくる求婚者の名前でもある)


姫谷は仕事以外は、食事にも人付き合いにも恋愛にもまったく無頓着。自分が興味がないので、相手が自分のことをどう思っているかも興味がない。だから、あからさまに自分に好意を寄せている阿部の気持ちや、自分を父親のように心配している石上の心遣いにも気づかない。


とはいえ、姫谷より年下の院生・天見といると気持ちやペースが乱されて――なぜってそれは恋だから――という展開はお約束ではあるけれど、天見のちょっと強引なリード(主にエロ方面)に戸惑い混乱する姫谷は、とても天見より年上で31歳とは思えないほど、カワイイ。


個人的には、姫谷が「初体験」だと思っていた高校時代の嫌な思い出や、天見とのエッチの最中に交わされる言葉の中に、「海綿体」とか「精液」とか「尿道球腺液」とかいう、アカデミック(?)な単語が混じっているのに笑ってしまった


天見と姫谷、それぞれの過去に曰くはあるものの、読後感爽やかな物語。楽しく読んで満足した数日後、なんだかまた、年上の“ちょっと変わった美青年”が出てきたじゃありませんか!


猫の遊ぶ庭 (幻冬舎ルチル文庫)猫の遊ぶ庭 (幻冬舎ルチル文庫)
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京都のK大学の院生・織田和祐は、古ぼけた吉田寮に入ることに。大正時代からあるという吉田寮は、その住人も強烈な個性を持つ学生達ばかり。織田は彼らに不信感を抱くが、そんな中、涼しげな美貌が印象的な杜司篁嗣と出会う。蒸留水を飲んで育ったような人だ、と織田は杜司に関心を持ち、惹かれていくが…。書き下ろしを収録した待望の文庫化。


猫の遊ぶ庭―気まぐれ者達の楽園 (幻冬舎ルチル文庫)猫の遊ぶ庭―気まぐれ者達の楽園 (幻冬舎ルチル文庫)
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京都のK大学に大正時代から残る吉田寮。強烈な個性を持つ学生達が住まうその寮で院生の織田和祐はまるで蒸留水を飲んで育ったように涼やかな容貌の杜司篁嗣と出会い、浮世離れした杜司の佇まいに惹かれていく。先輩たちのお節介もあって両思いの関係になる二人だが恋に初心な杜司と年下の織田の距離は微妙で…!?書き下ろしを収録して文庫化。


前回のエントリでも取り上げた作品だけど、あしからず。


京都のK大、歴史ある吉田寮に渋々ながら入った織田は、そこで、涼やかな美貌を持つ杜司に出会い一目惚れしてしまう。ノンケなのに美青年に一目惚とは、これまたいかにもBL的――ではあるけれど、その辺りを寮生の強烈な先輩ズ、藤原・杵柄・周も突っ込んでいて笑えた。


しかし杜司も相当な個性の持ち主で、宇宙物理の研究者として将来を嘱望されているらしきものの、これまた研究以外のことに無頓着。部屋のあまりの汚さに、本来なら一部屋につき2~3人で生活する寮のルールがあるにも関わらず、誰も同室になりたがらないほど。おまけにどうやら、人の顔や名前もあまり覚えられない様子。


けれど織田が、麻雀で大金を巻き上げられたり、杜司の汚部屋を掃除したりと、それはもう必死で手を尽くして杜司に近づき、大切に接することで、さすがの杜司も織田から離れがたくなってしまうのだ。


こちらの作品、特に「コメディ」と銘打たれているわけではないけど、賭け事が好きで織田をからかわずにはいられない悪い先輩ズや、織田と同室のかわいい後輩ズといった、個性豊かな脇キャラのおかげで、物語は軽快にユーモラスに進んでいく。


先輩ズは、織田を何かと暇つぶしのタネにして遊んでいるけれど、杜司をめっぽう苦手としているのが微笑ましい。続巻の「気まぐれ者達の楽園」の書き下ろし、杜司の語る“日本の民話”に震え上がる先輩ズの様子に、大笑いしてしまった。そうかそうか、先輩ズにとって杜司は、「得体の知れないもの」なのね。


――うーん、なんだか、“才能があるどちょっと変わり者”のイケメンが、年下の男に陥落されるこのプロット、いろいろ共通点があって比較したら面白いかも――


ということで、久しぶりに作品比較をやってみましょう。


念のためにお断りしておきますが、共通点を挙げてどっちがどっちのパクリだとかコピーだとか言いたいわけでは、決してありません。共通点がある!と興奮して比較したくなった、管理人の超自己満足比較なので、くれぐれも誤解なさらないようにお願いいたします。

★受けと仕事★
■月…姫谷景。修桜大学医学部法医学研究室の助教授。解剖におけるなめらかでムダのないメス捌き、素早い判断、鋭い洞察、的確な所見を繰り出す、優秀な法医学者。


■猫…杜司篁嗣。K大理学部宇宙物理研究室の大学院生。銀河力学のプログラムをいくつも作れるほど、有能な研究者の卵、みたい。

⇒どちらも学者ですね(杜司は卵だけど)。しかも優秀。


★受けの変人っぷり★
■月…醤油はご飯のおかずだと言うなど生活能力に欠け、人付き合いや恋愛にも興味がない。実は31歳まで童貞だったが、本人は頓着していない。どこか浮世離れしている。しかし部屋や研究室が汚部屋というわけではなさそう。


■猫…同室の学生がギブアップするほど、超汚部屋の主。本人は汚さが気にならない様子。食事もあまりこだわりはなさそう。人付き合いも淡白で疎く、どこか浮世離れしている。多分、24歳まで童貞だったと思われる。

⇒奇しくも、どちらも「浮世離れしている」と語られています。研究分野への集中力が高いあまり、ほかはどうでもいいということなのか。しかし、“生活能力がなくて浮世離れしている”のは、「学者」の一つのステレオタイプ的なイメージではあるよね


★受けの美貌について★
■月…女性的というわけではないが、精巧な作り物のように美しいフォルムをしている。

■猫…白い肌に切れ長の目の、“蒸留水飲んで育ったような”涼やかで整いすぎた容貌の持ち主。

⇒姫谷も杜司も、「精巧な作り物」とか「整いすぎ」とか、よほど美しいんでしょうなぁ……。


★攻めと仕事★
■月…天見悠月。修桜大学医学部法医学研究室の大学院生。研究室に入ったばかりで、姫谷の指導を受けながら日々勉強中。でも、スジはいいみたい。


■猫…織田和祐。K大学経済学部の大学院生。将来はデータバンク系の会社で金融経済のリサーチャーやコンサルタントを目指している。

⇒どちらも新米院生です。ヒヨッコです。将来は未知数な感じ。


★受けと攻めの年齢差★
■月…姫谷が天見より4歳年上。


■猫…杜司が織田より2歳年上。

⇒びっくりするほど年が離れているわけじゃないのがポイントかな。ただ、姫谷は天見の指導教官という、立場的に上下関係があるのに比べ、杜司と織田は学部も違うし同じ院生だしということで、対等っぽい。


★受けと攻めの出会いのシチュ★
■月…天見が学部6年生の時、見学に行った法医学研究室で、「地下室の姫」の異名をとるほど美しい姫谷に魅入られた。


■猫…織田が吉田寮に入った後、行きつけの銭湯の番台に座っている老人に杜司を紹介され、涼やかな美しさに一目惚れ

⇒天見の姫谷へのファーストインプレッションも、やや一目惚れ的ですね。


★受けの家庭環境と攻めの関わり★
■月…戸籍上は、いわゆる“私生児”として、母子家庭で育つ。母は姫谷を育てるために仕事に必死に打ち込んでいたため、姫谷は勉強ばかりしている淋しい子ども時代を過ごし、母とも疎遠になっていた。父は亡くなったと聞かされていたが、疑問を抱いている。

ある日、父親かもしれない遺体の解剖に動揺した姫谷は、自分の生い立ちを天見に告白。天見に自分がずっと感じていた淋しさを指摘されたのがきっかけで、母と和解。そして父の手がかりも……?


■猫…奈良にある日本最古の神社の一つ・三諸大社の宮司の長男。跡取りとして過剰に期待している祖父や父と、跡取りには興味のない杜司は対立していて、実家から足が遠のきがち。

ある日、祖父が倒れたため、織田に説得されて渋々お見舞いのために帰省した杜司は、相変わらずの跡継ぎ要望にぶっちぎれ、自分は同性愛者で織田は恋人だと言い放って家族をうろたえさせる。しかし『気まぐれ者達の楽園』で、またしても織田に「顔を見せるのも親孝行」と諭され、久しぶりに正月に実家に帰省し家族を喜ばせた。そして家の跡継ぎ問題に光りが……?

⇒受けは、ちょっと家族との間に屈託を抱えているのが共通点。それが攻めによって解決の兆しを見せる展開も似ている。でも『猫』は、杜司のいきなりのカミングアウトのせいで杜司と織田との関係がドラマチックに動くターニングポイントでもあります。


このカミングアウト事件の残片が、『気まぐれ者…』でキッチリ回収されているのに感心。杜司が思いついた、正月の帰省に先輩ズを同行させるという奇策の顛末も大いに笑いました。


★攻めの過去や家庭環境★
■月…実はバツイチ。年上の女性と学部生の時にデキ婚。しかし子どもは流産し、しかもそれが天見の子どもではなかったと告白され、離婚。離婚の苦い思い出はあるものの、親との関係は良好。食品などを仕送りしてくれているようだ。


■猫…大学院に進むなら仕送りはしないと親に言い渡されたために、織田は吉田寮に入るハメに。しかし、食品を仕送りしてくれるなど、親との関係は良好。

⇒天見の苦い過去は、周りが「天見は姫谷にふさわしくない」と主張するには必要だったんだろうな。ほら、竹取物語だし。でも、天見も織田も、実家との関係は良さそうだ。たしかに、どっちも愛されてすくすく育った雰囲気だものね。


★賑やかしな脇キャラ★
■月…姫谷を心配し天見を牽制する、法医学研究室の教授・石上、心臓外科医で姫谷と同期の阿部、法医学研究室の技術員・岸川。


■猫…麻雀やら何やらで何かと賭けをして大金を巻き上げ、織田をからかうことを精神的娯楽としている“三悪”ともいうべき愛すべき先輩、藤原、杵柄、周。織田と同室の学部生、田代と日向。織田の友人・山崎。国文2回生で図書館でバイトしている山縣。

⇒男女取り混ぜて、少々毒はあっても憎めないキャラが勢ぞろい。そういえば、どちらの作品でも、脇キャラは攻めには強気に接するけれど、受けにはとんと弱い


――改めてみると、ディテールの共通点はちょこちょこあるけれど、どちらの作品も、存在感を主張する脇キャラたちが、受けと攻めに果敢に絡んでいるのが興味深い。浮世離れした変人を動かすのには、人数の多い方がスムーズなんでしょうかね。


そして、「今宵、月…」も「猫の…」も、変人な受けの関心を得ようと一生懸命な攻めは、ヘタレ攻めっぽいのも偶然なんだろうか。


「浮世離れした変人」でふと思ったんだけど、この2作品に登場する“変人”は、天然さんだったり、世間知らずだったり、おっとりしていたりして、“可愛気がある変人”あるいは“愛すべき変人”として描かれている。“変人”だけど“偏屈”ではないというか、“不寛容”ではないというか


それなら、ちょっとくらい変わっていても周りからハブられずに生きていけるんじゃないの? たとえ凄いような美貌じゃなくても――と思う一方で、でも美貌だからこそ、周りに放っておかれずにすむものなんだろうか、という疑問も捨てきれない。


うーん……どうなんでしょう。周りに美人な変人はいなかったから、あんまり想像できないなぁ……。美人じゃなかった変人が美人だったら……と想像するところから、もう難しいというか。<暴言!?


ところで、「今宵、月…」も「猫の…」も、“美人の変人”は受けだったけど、この作品では攻めだった。しかもヘタレ攻め。


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一穂 ミチ 穂波 ゆきね

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気の進まない同窓会で、記憶にない同級生と会った初鹿野柑。翌朝、酔いつぶれて正体のないままその男と一線を越えたことを知って愕然とする。「ずっと好きでした」と土下座する男は、実は、二度と会いたくなかった相手―名字も容姿も様変わりして現れた―片喰鉄之助だった。あまりの事態に「気持ち悪い」と気後れしてしまう初鹿野だが…。


クラスでまったく目立たない地味な生徒だった片喰(かたばみ)が、中学・高校時代からずっと片思いしてきた初鹿野(はじかの)と、とうとう思いを通じ合わせるのだが。


片喰の、初鹿野への執着っぷりがハンパじゃない。だって、初鹿野の観察日記をずっとつけていて、その数27冊にも上るほど! 同窓会まで再会していないんだから、中高の間だけで27冊あるってことですよ!?


初鹿野が同窓会にくるかどうかを、幹事のmixiとtwitterでウォッチしていたり、初鹿野に会うために髪型や服装を一新したり(でも心はガクブル)、それはもう、恋する乙女状態をこじらせているとしかいえない様子。同窓会で、「長身で甘いやさしみのある顔立ちをしていて、髪も服もいやみなほど決まっていた」という、二枚目な姿からは想像できないぐらいに


でもそんな片喰、実はマンガ家としての得がたい才能を持っているのだ。不幸な事故で、大きな仕事はできなくなっているけれども。そんな生きていく上で重大な問題を抱えているのに、それでも片喰にとっては初鹿野が、初鹿野についての記憶が何よりも大切なんです――という辺り、読んでいてしんみりとした気持ちになる。


――うーむ……やっぱり変人は変人でも、ただの変人じゃ、物語は進まないわよね。美人であるとか、才能があるとかでなければね。主役として動いてもらうためには、せめてどちらかは備えていてほしいよね。


そうか、そういうことか……!<ここまで書いていてわかった。鈍い。


そういえばこれまで挙げた3作品、すべてレーベルはルチルですね。だから何、ってこたぁ、ないですけどね。

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Tags: 安曇ひかる 麻々原絵里依 かわい有美子 山田章博 一穂ミチ 穂波ゆきね 2作品比較 複数レビュー

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