魅惑の“寮”―「天使のささやき」「猫の遊ぶ庭」「水に映った月」(かわい有美子)

 02,2011 23:01
かわい有美子さんの新刊「天使のささやき」を読み始めてからすぐに、わたしは思わず、身を乗り出した。


だって、警察官の寮が舞台の一つだったから。かわいさん――とうとう、社会人の寮モノまで手がけられましたか!――と感心したのだ。

長いので、折りたたみます。
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警視庁機動警護担当で涼しげな顔立ちの名田は、長年憧れを抱いていた同じSPの峯神と一緒の寮に移ることになる。接する機会が増え、峯神からSPとしての的確なアドバイスを受けるうち、憧れから恋心に徐々に気持ちが変化していく。そんな中、ある国の危険人物を警護することになり、いい勉強になると意気込んでいた名田だったが、実際に危険が身に迫る現実を目にし、峯神を失うかもしれないと恐怖を感じ始め…。


SPになりたての名田が、SPとして少しずつ成長していく姿と、憧れの先輩・峯神に惹かれていく様子とが描かれた物語。名田が、峯神への恋愛感情を意識する丁寧な過程、ちょっとズルい峯神の人物像などの描写が巧みなのは相変わらず。


峯神が抱える恋愛の苦い記憶や、国際的に要注意人物とみなされているVIPの来日に際しての警察官たちの緊張感などシリアスな要素がしっかり含まれているのだけど、なんだか全体的にライトなノリ。


ちょっと不思議な雰囲気の物語なのだが、シリアスなムードに固まらなかったのは、寮、それも独身寮の存在が大きいんじゃないかとにらんでいる


名田と峯神が入っている「平河寮」には、交通機動隊員や鑑識など、さまざまな部署(っていうの?)に所属している独身の男性警察官たちが暮らしているのだが、なんだか賑やかでとても楽しげ。警察官同士、こんなに仲がいいもんだろうか、とちょっと落ち着かない気持ちになるほど


これ、このまんま大学や高校の寮という設定にしても、違和感がないんじゃないの? 30過ぎた男同士の会話としては、ふざけているとはいえ、ちょっと若すぎない?――と感じたということは、社会人ならではの会話やコミュニケーションの雰囲気というものが、わたしのイメージとは違っているからだと思う。


この物語の雰囲気は、ちょっと明るくコメディテイストな、刑事が主役のテレビドラマの雰囲気が意識されているのかもしれない。わたしの脳内に居座っている、これまで読んだギスギスした警察モノ小説のイメージが強すぎて、この軽快な雰囲気に戸惑ったのよ。うん。


落ち着かない気持ちになったとはいいながらも、平河寮のにぎやかな雰囲気は、ちょっと遊びに行ってみたいほど。本当にこんな雰囲気なら、ぜひとも酒を持ってお邪魔したい。


実は、名田が当初入る予定だった、最新設備の寮「隼寮」のモデルと思しき建物が以前の職場の近くにあり、「あー、あそこに名田は入りたかったのか」と想像して、ニヤニヤした。けれど、平河寮はもっと古いということだもんなぁ……。平河寮のモデルはわからないけれど、平河町の辺りも休憩時間によく歩いていたので、あんな雰囲気かしら……と勝手に妄想して楽しんでいるのだった。


それにしても、かわいさんは「寮」がお好きなんですね! この作品を読む前に読み終わっていた「猫の遊ぶ庭」シリーズも、寮モノだものね。


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京都のK大学の院生・織田和祐は、古ぼけた吉田寮に入ることに。大正時代からあるという吉田寮は、その住人も強烈な個性を持つ学生達ばかり。織田は彼らに不信感を抱くが、そんな中、涼しげな美貌が印象的な杜司篁嗣と出会う。蒸留水を飲んで育ったような人だ、と織田は杜司に関心を持ち、惹かれていくが…。書き下ろしを収録した待望の文庫化。


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京都のK大学に大正時代から残る吉田寮。強烈な個性を持つ学生達が住まうその寮で院生の織田和祐はまるで蒸留水を飲んで育ったように涼やかな容貌の杜司篁嗣と出会い、浮世離れした杜司の佇まいに惹かれていく。先輩たちのお節介もあって両思いの関係になる二人だが恋に初心な杜司と年下の織田の距離は微妙で…!?書き下ろしを収録して文庫化。


ここに登場する吉田寮は、いかにもモデルとなったと思しき大学の雰囲気そのままだなぁ……と読みながら感心。


もう何回生なのかわからない学部生がのさばっているとか、麻雀やら酒盛りやらが夜な夜な繰り広げられているとか、古くて大きな大学に感じる、ちょっとバンカラな空気が漂っている


K大の寮には、ゲバ文字が並んでいて……と説明されている熊野寮もあるということだが、この熊野寮のたたずまいは、わたしが通っていた大学の寮に似ている感じがして、ありありとその風景を思い出してしまった。


――ゲバ文字どころか、立て看も立っていてちょっと物騒な感じなのだ。やっぱりそこにも、もう何回生だかわからないような、学生なんだか職員なんだか判然としない人が住んでいるのだ。そこに入るとオルグされてしまうらしいと、アヤしげなウワサが漏れ伝わってくるのだ。なるべく寮に近づかないようにするなど、お化け屋敷と変わらない扱いだったのだ!


ま、その寮はすでにないのだけど、作品を読んでいると、熊野寮も似たようなイメージみたい。吉田寮は木造ということだけど、やはり寮生以外には得体の知れない雰囲気を発散しているであろうことは、織田が入寮をためらう場面で想像できる。


しかも、入寮した織田を振り回す寮生たちのキャラが、これまたいかにもいそうな感じ。三悪ともいうべき藤原、杵柄、周をはじめ、織田の同室である田代や日向と、みんな強烈な個性をふりまいている。物語の軸である、織田と杜司の関係の深まりもいいのだけど、寮生がからむと、俄然話は面白くなるのが良い


かわいさんは、実際に吉田寮の寮内を見たことがおありのようだけど、だからこそ、寮生たちの生活ぶりがイキイキと描写されているんだろうなぁ……。


かわいさんのほかの寮モノとして、清泉学院シリーズは個人的に今ひとつノリきれずにいるのだけど、初期に出版された1930年代イギリスのパブリックスクールを舞台にした「水に映った月」は、楽しく読んだ。


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大英帝国の栄華と威信を頑なに守るパブリック・スクール―それは思春期の少年達から成る歪な世界。将来を保証する自治組織の役員の地位を得るために数々の陰謀が渦巻く中、密かに想いを寄せていた幼なじみよく似た下級生・ブライトにロレンスの心は傾いていく…。その気持ちは恋だったのだろうか…。


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表紙絵はこんな感じ


あとがきでご本人が「アナザー・カントリーに影響を受けて書いた」と書かれていたけど、いやはや、読みながら頭の中には、「アナザー・カントリー」や「モーリス」の情景が浮かんできましたよ!


あの世界観が、よく再現されていると感心。ロレンスの小心さと卑怯さや、ラッセルの傲慢さなどキャラのネガティブな部分がストーリーのキーになっていて、キレイなだけの物語ではないところが良い


いかにもJuneという感じの、ちょっと悲劇的な終わり方ではあるけれど、読み終わった後に余韻が残るような物語だった。


ところで、中高生から社会人、はてはイギリスまで、実に多彩な寮モノを書かれているかわいさんだけど、かわいさんの寮好きはどこからきているのだろう。まさか、「アナザー・カントリー」を見てからではないと思うけれど、これほどの作品を書かれているのを見ると、どんなところに魅力を感じられているのか、一度聞いてみたくなる。


寮は、複数の人間、しかも同性が寝食を共にして共同体を作り上げていく場所、というイメージがあり、物語や妄想が頭に思い浮かびやすいんだろうか……と思うのだが、どうなんでしょう? わたし自身は、それほど寮という設定に萌え萌えしないのだけど。


でも自分で妄想しなくても、小説やマンガの寮モノを読むのはキライじゃない。そんなわけで、今後もかわいさんの寮モノを楽しみにしたい。「天使のささやき」の連作が、秋には出るらしいしね!(こちらも寮が舞台になるかどうかはわからないけど)

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Tags: かわい有美子 蓮川愛 山田章博 円陣闇丸 複数レビュー 警検麻ヤ

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