都条例改正案:シンポジウム動画の視聴感想と同性愛者に対する知事発言と

 08,2010 02:48
12月6日、「『非実在青少年規制』改メ『非実在犯罪規制』へ、都条例改正案の問題点は払拭されたのか?」と題されたシンポジウム(「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」主催)が行われた。


仕事の終了時間が考えると行けそうにないなぁ……としょんぼりしていたのだが、ニコ生再放送でシンポジウムの様子を視聴できた。


「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」代表・藤本由香里さんと山口貴士さんの司会で、マンガ家や作家、評論家などがパネリストとして参加していたシンポジウムには、途中、国会議員や都議会議員の飛び込みもあって、かなり盛況だった模様。


――って、盛況なのは知っていたのだ。なにしろ、シンポジウムがリアルタイムに中継されていた時は、アクセスが集中しすぎて音声しか聞けなかったばかりか、その音声さえも途中で途切れて一部分しか聞けなかったほど。


その間、Twitter上では内容や会場についてのツイートが続々と流れていたのだが、それによると、本会場にも急遽設置された「第2会場」にも人が入りきらず、整理券をもらっただけで帰ってきた人が大勢いたらしい。山口さんのブログによると、来場者は1500人だったという(会場に入れなかった人も含む)

「『非実在青少年規制』改メ『非実在犯罪規制』へ、都条例改正案の問題点は払拭されたのか?」(弁護士山口貴士大いに語る)

ニコ動視聴者数が約7万3000人! 確かに、0時前からの再放送でさえ、最終的(26:00過ぎ)には視聴者数が5万6000人をカウントしていたものね。


このシンポジウムを視聴して、印象に残ったこと、思ったことを箇条書きにまとめてみた。


■改正案は11/22まで明らかにされていなかった件

6月にいったん否決されてから、再び形を変えて提出されるのではないかとウワサされていたけれども、11/22になるまでその内容が明らかにされず、それなのに12/15には決議されるとは、なんだその急展開!?


――といっても、わたし、条例の一般的な提出→決議の期間というものが分からず何とも判じかねていたのだけど、シンポジウムでは、


いきなり条例案が出てきた。(成立のため)あまりにも急ぎすぎている


というようなコメントが何度も出てきたのが印象的だった。うん、たった半年前にあれほど説明不足と批判された条例案が、改正案として提出されるまでに、その内容をおおっぴらに議論・説明されていた記憶はないですよ、わたしも。


なぜそんなに急いでどうにかしようとしているのか?
なぜ十分に議論されているように見えないのか?
何が何でも、表現規制を通したい最終的な目的があるのか?


ない脳みそを必死で回転させたもののわからないままだが、キナ臭さだけは強まった……。



■「近親間の性交若しくは性交類似行為」の描写・表現を規制する本当の危うさに震撼

今回の改正案の巧妙なところは、「非実在青少年」というSFチックな造語は引っ込めて、「刑罰法規に触れる」と、いかにも規制されて当然なような、問題なさそうな言葉にすりかえているところ。


そして同時に規制対象なのが、「近親間の性交若しくは性交類似行為の描写・表現」なのだが、これは現時点で、刑罰法規の対象ではなく、モラルの問題にすぎない。


刑罰法規の対象ではないのに、どうしてわざわざ近親相姦を取り上げたんだろう……程度には、不可思議さを感じていたが、近親相姦の描写・表現を規制するということは、それをモチーフとして作品に取り上げようとすることを規制することであり、つまりは思想を取り締まるということである、という指摘にハッとした


現時点では近親相姦だけが規制の対象だとしても、ほかのことにも徐々に、規制の範囲は伸びる可能性があるのではなかろうか?


おりしも、都知事の同性愛者に対する偏見ともとも取れる乱暴なコメントが報じられているが、こんな調子ではそのうち、同性愛の描写・表現も規制される、という可能性だってないとはいいきれないのでは?


BLが~とか、百合が~とかどころではない。個人の思想をお上が取り締まる――想像すればするほど、恐ろしくてたまらない。



■その都知事の過去の著作が、そのまんま今回の条例改正案への反対声明になっている皮肉

パネリストの作家・山本弘さんが紹介した、1969年出版の都知事の著作「スパルタ教育」(光文社)は、その内容が今回の条例改正案にことごとく対立する内容なのに大笑い。


ヌードを隠すな」とか「本を良いものと悪いものに分けるな」とか書かれていたようで――会場も、そしてニコ動の視聴者も大ウケしていたけれど、たとえそれが偽悪的に書かれたのだとしても、同じ人物が今じゃその真反対のことを言っているわけですからね……。


はぁぁ……………



■マンガやアニメはNGで、小説(ラノベ以外)と実写はOKというのが本気でわからない

今回の改正案では、ラノベ以外の小説と実写による描写・表現は規制の対象ではないという。これ、わたしは本気で意味がわからない。


シンポジウムでは、都知事が小説家であることなどが持ち出されていたけれど、それよりもわたしがしらけたのは、「マンガ家は卑しい仕事だから、マンガ家の意見は聞く必要はない」という都知事の発言。そして「小説は文学だから良い」という解釈。


つまり、文学=高尚⇒だからOKということなんでしょうか? パードゥン?


あらゆるコンテンツに対して、それが高尚だから・意味深いから・必然性があるから・上品だから等々の理由で「良し」、低俗だから・意味のない猥褻描写から・くだらないから・下劣だから等々の理由で「悪し」、と区分けするのは、滑稽以外の何ものでもないとわたしは思っている。


そして作家でもある都知事が、「マンガ家は卑しい仕事」「小説は文学」と言い切るところに、胡散臭さと危うさと傲慢さとを感じてしまうのだ。


そういう解釈は、例えば同じようなエロ要素をモチーフにした作品が並んでいたとして、海外にも知られている名だたる作家の作品はOKだけど、同人活動やマイナー雑誌への掲載などによって一部のみに知られている名もない作家の作品はNG、という偏りに繋がるのではないか?


また例えば、似たようなエロいモチーフを題材にしているのに、作家Aの作品は好きなのでOKだけど、作家Bの作品は趣味ではないので排除されてもよし、という主観的判断に繋がるのではないか?


もちろん、わたしにも好みや趣味嗜好の偏りはあるけれど、同じものを描いているのに、一方はお咎めを受けず、一方は罰せられるというのは、想像しただけでもどうにも居心地が悪い。


そして今回の「マンガやアニメはNGで小説や実写はOK」という基準には、そういった居心地の悪さと釈然としない割り切れなさとを感じずにはいられないのだ。


なんだろうな……BLを読まない人がBLを批判するのにムカつくのと似たような腹立たしさも感じちゃうんだよね……。



■“共通の言葉”の不在と、表現せずにはいられないコンプレックス

パネリストのマンガ家・とりみきさんが、


自分たちやこのシンポジウムに来ている人たちのようにマンガやアニメに慣れ親しんでいる人と、それを読まない人たちとの間に、共通の言葉がない。普段、マンガを読まない層にも届く言葉を持つ努力が必要なのではないか」


と話されていたのがとても印象的だった。確かにわたしの周りを考えてみると、親しい友人にマンガを読まないという人はいないから、「マンガを読んでいる」ことを前提とした話ができるのが普通になっているところがある。Twitterでフォローしている人たちは、規制反対派がほとんどだしね。


しかし「マンガを読まない」人に対して、今回の規制の危うさや、一見くだらなく不道徳に見える(かもしれない)マンガの描写と表現の味わい・大切さといったようなことを、どれだけ納得できるよう話せるかしら?――と考えさせられた。


今回の条例改正案推進派は、半年前と同じように子供を持つ親への働きかけを進めているようなのだが、子供の健全な成長と安全を願う母親も、反対派の主張を理解できないクラスターといえるのかもしれない。


そんな子供を持つ母親たちと、条例反対派の主張の噛み合わなさを鮮やかに指摘・解説しているのが、下記の記事。


母親の皆さんに 児童ポルノ法&東京都青少年健全育成条例改正問題について (ポンコツ家族の取扱いマニュアル)


あ、なるほどなー!! と大いに感心。こりゃー、お互いに平行線にもなるわな。


ところで、とりみきさんの前に、やはりマンガ家・樹崎聖さんがコメントされたのだが、「表現にはインモラルな部分がある」「コンプレックスを持つ人が作ったもの(=マンガなど)を読んで、コンプレックスがなだめられるということもあるのでは」という言葉も、心に響いた。


今回、マンガ家や作家など、普段は表に出てこない……というか、あんまり表には出たがらなそうな人たちが公の場に出て、しかも自分の考えを話される様子に、ジーンとしたのは、わたしだけではないはず。



■もう丁寧に話を聞いている段階ではない!

飛び込みで登場された民主党の都議会議員のコメント、「政治に無関心でいても政治に無関係ではいられない」は、まさにその通りだと実感した。


だが、「作品が規制対象かどうかは、その作品を全部読んで判断しなければならないと思う」というコメントや、「規制推進派の答弁に破綻がないかを質疑によって明らかにして賛成か反対かを決めたい」というコメントに、いかにも結論を出しかねている党の優柔不断さを嗅ぎ取って、ジリジリしたのはわたしだけじゃなかった!


法社会学者・河合幹雄さんの、「今回の条例は急すぎる。時間がないのに丁寧にやっていては潰される」という言葉に、大きくうなずいた。そして何かしなければ! と思って、陳情書も送ってみた。


<結論>
このシンポジウムを視聴して、わたし自身はやっぱり条例改正案には賛成できないと思った。


表現については、エロに限らずさまざまな分野で、出版業界はすでに窮屈なほど自主規制を行っていると思う(そうじゃないところもあるかもしれないけれど)。そして書店も、子供向けマンガの隣りに、例えばどエロいマンガを並べないように自律的に陳列を配慮している。この自主規制と現行条例で何とかできないのだろうか?


子供に読ませたくない、あるいは見せたくない作品は確かにある。でもそれを、それぞれの親や教師が自ら判断して規制することと、行政が公に規制することは全然違うと思う。しかも今回の条例改正案は、規制対象かどうかを恣意的に判断されかねない危うさと、個人の考え方までも取り締まる恐怖を含んでいると思うので、結果的に、子供の育成に悪影響を及ぼすことになるような気がしてならない


――同時に、わたしには子供がいないけれど、兄弟や友人の子供をはじめ、すべての子供に真摯に向き合わなければならないということかもしれない、とも思ったのだった。


どうか否決されますように――。

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Tags: 非実在青少年

Comment 1

2010.12.14
Tue
23:35

lucinda #-

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拍手コメントRES

12/09 22:47 Hさま

コメントありがとうございました!
実は、この問題についての記事、春よりも反応が薄い感じがしていたので、Hさまのコメント、うれしかったです。
確かに、BLの狙い撃ちなのかとかんぐりたくなるところもありますよねー。あれから、角川以外の出版社も参加拒否を表明しましたが、条例は可決しそうな勢い…。テレビで大々的に取り上げられると違うのかなーと思いますが、取り上げ方次第なとこもありますしね…。
でも、これからもできることはやっていこうと思います。

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