FC2ブログ

MIKADO―帝(かわいゆみこ)

 10,2010 03:10
思えばそれは、もう昨年の秋のこと。この作品をブクオフで見つけた時、一緒にいた黒ニコさんの


「これ、今じゃ考えられない結末だから! ちょっとショックだったんだよね、わたし」


という言葉が忘れられず、ビクビクして手を出せないまま約半年。先日、なんとなく手にとって読み始めたら、とめられずに一気に読んでしまった、「MIKADO―帝」。恐るべし、かわい作品。


盛大にネタバレを含むので、折りたたみます。
MIKADO―帝〈前編〉 (ビーボーイノベルズ)MIKADO―帝〈前編〉 (ビーボーイノベルズ)
東条 ひかる

ビブロス 1997-05
売り上げランキング : 576446

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

両親を失い、マフィアの帝王ハーベイに引き取られた史貴と麻里絵、そしてアレックス。ハーベイの実子イェインとともに育てられるが、貴史には、アレックスの隣だけが安息の場所だった。しかしそんな史貴に、イェインの歪んだ想いが向けられ―。人気絶頂のかわいゆみこが贈る鮮烈ハードロマン、オール書き下ろしで堂々登場。


MIKADO―帝〈後編〉 (ビーボーイノベルズ)MIKADO―帝〈後編〉 (ビーボーイノベルズ)
東条 ひかる

ビブロス 1997-06
売り上げランキング : 564916
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

友人の裏切りによって史貴は、敵対するマフィアの手に落ちてしまった。行方を捜すアレックスは、彼の喪失に予想だにしない痛みを覚える。やがて突然の帰宅を果たす史貴だったが、その心と身体には消えようもない「傷」が―。交錯する愛憎に翻弄されるかりそめの家族は―?ハードロマン、ついに完結。


ミカド
表紙絵はこんな感じ。

読み終わった後、頭に思い浮かんだのは、「はー、これは耽美だわ。JUNEだわ!」という感想だった。


耽美だ……と思った“その1”。とにかく、主人公の史貴が遭遇する困難たるやすさまじく、ほとんど宗教的試練なんじゃないかと思うほど


幼い時に残酷な事件で両親を失い、次に妹に固執する義理の次兄・イェインに乱暴され続け、友人だと思っていたルームメイトに裏切られて敵対するマフィアに拉致され、拉致された先で刺青を背中一面に彫られ(絵柄が蜘蛛というのが、谷崎潤一郎の「刺青」を連想させられる)、麻薬漬けにされ、男たちに強姦され、それをビデオに撮られてアンダーグランドで売られ……


書いててちょっと鼻の奥がツンとなったわ。


しかも史貴は、亡くなった母の願いだからと、妹・麻里絵を守り続けるのだけど、なまじ麻里絵がまたとない美少女だったばかりに、望んでもいないのに到るところで麻里絵の身代わりとして扱われる。養父に、イェインに、敵対するマフィア・ヴィンセント・マシーノに。


ここで麻里絵が性格の悪い設定なら、シンデレラの継母や継姉を憎むように、読んでいて麻里絵を憎めただろう。しかし麻里絵は気立てがよく史貴を慕っているので、読んでいても麻里絵を憎めない。そして史貴も、麻里絵を無下に突き放すことができない。これが悲劇でなくて何だろう!


今のBLなら、いくら史貴が麻里絵の身代わりとして扱われていても、イェインやヴィンセントが、いつの間にか史貴をこそ愛していました!――という展開もあろうかと思う。でも、この物語内ではそれはない。どうやっても、史貴は麻里絵の身代わりなのだ。


唯一、ずっと好きだった義理の長兄・アレックスと想いを通じさせられたことがなければ、私がかわいさんを怨むとこだったよ。


そして耽美だと思った“その2”。事前にビクついていた結末が、やっぱり“JUNE”的だと思われたこと。愛するアレックスに麻里絵を託して別れ、その後の行方も分からないなんて、今のBLではお目にかかれない終わり方だ。


ただ、ハッキリと史貴が死んだとダイレクトに描かれているわけではなく、“「死」がにおう”ぐらいにとどめられていたのが、予想を裏切っていて――これがわたしには、“JUNE”と“BL”の間で何とか着地点を探っているような終わり方に思えた


本当“はJUNE”的に終わらせたかったけど、それでは売れないと思ってギリギリBL側に譲歩した、というか。作品が発行された1997年という年を想像すると、結構、JUNEとBLの需要の潮目が変わるころだったんじゃなかろうか……と勝手に想像。


あるいは、“JUNE”と“BL”というより、同人誌と商業誌との間に軟着陸したといった方がいいのかもしれない。同人誌なら、史貴ははっきりと死ぬ結末だったような気がするのは考えすぎかしら。


この作品、マフィアの内紛に巻き込まれて両親を亡くした史貴・麻里絵兄妹とアレックスが、両親を殺した当のマフィア・グレンにそれと知らずに養子に迎えられて物語が動き出すのだが、読んでいて「それをここで明かしちゃうの?」と思う違和感が時々あった。


一番の違和感は、アレックスが自分を兵士のように鍛え上げた男に、「お前の両親を殺したのはお前の養父だ」と告げられたところ。物語の中盤の、わりと早めなところにそのシーンがあるため、この先の物語の展開はどうなるんだろう? これ、復讐劇じゃなかったの? と心底心配になった。


だけどかわいさんは、この物語を、映画「ゴッドファーザー」のような、一族の一大叙事詩のように描こうとされていたんだなぁ……とあとがきを読んで納得。だからこそ、グレン一家の衰退と、史貴の行方が重なるように描かれているのだ。


――とはいっても、物語の展開や語りに拙さを感じてしまうんだよなぁ。今のかわいさんなら、もうちょっとうまく「叙事詩」のように仕立て上げられんじゃないかな。


西洋人、というかコーカソイドの人々の中で際立つアジア人の外見的特長と美しさについてや、単純に良し悪しを談じられないキャラクターの設定には、今のかわい作品にも通じているように思われて、そこは読みながらニヤニヤしてしまった。


この作品、そのうち新装版で出る……というようなウワサをどこかで目にしたのだけど、出るとしたら、結末を含めていろいろ変わるのかしら。


今のかわいさんが書かれるなら、「ミカド」はどうなるんだろう? すごく興味あるわ……。
関連記事

Tags: かわい有美子 東条ひかる 警検麻ヤ

Comment 0

Latest Posts