ディテール比較で作品を楽しむ

 17,2009 23:24
前エントリで取り上げたこの2作品。

征服者は貴公子に跪く (新書館ディアプラス文庫)征服者は貴公子に跪く (新書館ディアプラス文庫)
金 ひかる

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両親、そして財産を失い、先祖代々の居城を手放すことになったパウル。ところが、契約書にサインを済ませたとき、売却先である日本のホテルチェーンから来た牟田は、かすかな笑みを浮かべて告げたのだ。「あなたも込みで買ったのですよ」と。男の傲岸さに最初は反発を覚えたものの、無表情ながら冷血漢ではない牟田と徐々に心の距離が近づいてゆき…。

ビューティフル・プア (ビーボーイノベルズ)ビューティフル・プア (ビーボーイノベルズ)
稲荷家 房之介

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「貴族でも、そうじゃなくても、あなたはあなたでしょう?」父親の命で、遠い異国へとやってきた玲一郎。貧乏のあまり、自らを売りに出した侯爵・アロウが所蔵する絵画が目的だ。彼を求めて大富豪が集まるなか、唯一庶民の玲一郎はなんとか侯爵に近づこうとする。その超絶美貌にも揺らがなかった玲一郎だが、彼の人柄に触れるうちに、なぜだか心から笑う顔が見たくなり―。榎田流ノーブル・ロマンス。オール書き下ろし。


どっちも受けがヨーロッパの貴族で、攻めが日本人なんだけど、似ているのはそれだけじゃありませんよ。なんだかいろいろなディテールがちょこまか似ているのだった。


ただし、似ているといっても、作品すべてが似ている、そっくり、というわけではありません。では、似ていると思った点をピックアップ。えらく長くなったので(ホントに長い)、折りたたみます。


いつもこのブログに来てくださる方は大丈夫だと思うんだけど、念のために申し上げておくと、共通点を挙げてどっちがどっちのパクリだとかコピーだとか言いたいわけでは、決してありません。共通点がある!と興奮して比較したくなった、管理人の超自己満足比較なので、くれぐれも誤解なさらないようにお願いいたします。
なんだか「●番勝負」みたいな様相になっておりますが、ここからスタート!

★舞台★
■征服者…1980年代の西ドイツ。


■ビュー…架空の国トリニティア。ヨーロッパのどこかにあるっぽい。時も現代かな?

⇒トリニティアは、恐らく、トリニティ(Trinity)から作られたんじゃないかと推測。まあ、どっちもヨーロッパですね。


★キャラクター・攻め★
■征服者…日本人の牟田慎一郎。通称シン。日本のホテルチェーンの御曹司。上背のある美丈夫。東洋人にしては彫が深い。一見倣岸で冷淡。


■ビュー…日独ハーフの津村玲一郎。通称レイ。4代続く画商「津村美術堂」の長男。髪と目は黒いが瞳はほんのりグリーンがかったクッキリ二重。体格よし。現実的で金勘定に敏感。

⇒攻めの名前も「●一郎」と似ているのが偶然にしても不思議なところ。なんかこう、「●一郎」って、古風で硬派で凛としたイメージ、ある。


★攻めのバックグラウンド★
■征服者…両親は政略結婚。父はほかに愛人がいて、母は精神を病んでいる状態。


■ビュー…ドイツ人の母は早く亡くなり、父子家庭。家業も倒産寸前の憂き目を潜り抜けたことも。

⇒これはあんまり共通性はないなぁ。でもこういう環境で攻めたちはたくましく育ったのだ。


★キャラクター・受け★
■征服者…西ドイツのゴルトホルン城の主である侯爵、パウル・フォン・ヒルシュヴァルト。ラピスラズリのように濃い青の瞳の王子様。穏健で粘り強くウブな感じ。


■ビュー…架空の国トリテニティアの侯爵、アロウ・ラファイエット。金髪碧眼の昔語りに出てくる王子様。真面目で素直でウブな感じ。

⇒共通点は「青い瞳」。パウルの方が、青さが濃そう。


★受けのバックグラウンド★
■征服者…15歳の時に両親は飛行機事故で死亡。両親の夫婦仲は良好。ただし、叔父が自分の事業に財産を使ってトンズラ。貧乏。


■ビュー…7歳の時に母が死亡、17歳の時に父が死亡。両親の夫婦仲は良好だった模様。亡き父が事業に失敗したため、貧乏。

⇒どっちもすでに両親は亡く、若くして城や館の当主を務めている。しかもどっちも超貧乏で、どっちも弱みを見せまいと背筋をしゃんと伸ばしている感じ。そんな気概を、攻めの前でホロリと崩して涙を見せてしまうのもそっくり。


でもアロウの自分を売り出すってのが、いかにもBLらしい。これってさ、アラブものの、受けがオークションに出されるエピソードの捻りバージョン? パロディ?


★攻め側のキャラ★
■征服者…秘書の薬師寺。


■ビュー…特にナシ。途中から、香港のリンダが玲一郎のために動いてるような。

⇒薬師寺はドイツ語も堪能な有能な秘書。ヘルムートと仲良くケンカしている。リンダは早くからアロウと玲一郎のお互いの気持ちに気づいていた模様。女は鋭い。しっかり者で、一歩間違えると下町のお母さんみたいな女性キャラは、榎田作品ではおなじみ。


★受け側のキャラ★
■征服者…老執事・ヘルムート。家政婦(50代)・ハンナ。


■ビュー…老執事・サイモン。老ハウスキーパー・マリア。

⇒どっちも老執事、そして家政婦ですよ! やっぱり王子様には必要よね。


★当て馬的キャラクター★
■征服者…パウルの許婚・リベカ。だがパウルに金がないと知るや婚約破棄を言い渡す。


■ビュー…アロウ買取権候補者。アジム王国(アラブの架空の国)の王族・サミーア、アメリカの大富豪・ダリル、香港の富豪令嬢で経営コンサルタント・リンダ、イギリスの富豪夫人・ランドール夫人

⇒「ビューティフル…」、一応買い取り権獲得者が5人いるので……。ちなみにサミーアはゲイ寄りのバイ、ダリルはゲイらしい。でもダリルは策略の件もあるし、バイかノンケじゃないかなぁ……。個人的に軽いサミーアのキャラが好き。


ちなみに、パウルと槙一郎は、セクシュアリティには触れられておらず。榎田さんは、結構、キャラのセクシュアリティを明確に書くほうだと思う。


★ストーリー展開★
■征服者…経済的に行き詰って、居城を槙一郎に売却したパウル。しかし槙一郎はパウル込みで、城をホテルとしてオープンさせようとする。初めは槙一郎を苦手に感じていたパウルだが、槙一郎の懐の深さに触れて少しずつ惹かれるように。途中、パウルの許婚・リベカが婚約破棄を言い渡したり、槙一郎が死んだという誤解でパウルが苦手な飛行機に乗ったりと騒動を乗り越えハッピーエンド。


■ビュー…経済的に困窮して自分を売りに出したアロウ。彼の買取権獲得候補者に残った玲一郎の本当の目的は、実はアロウが所有する絵画。しかし玲一郎は徐々にアロウと互いに惹かれあい、自分の真の目的に悩むように。ダリルに自分の目的を暴かれたものの、ダリルもアロウの所有する館と森が目的だったとばれ、また価値のある絵画が残っていることも判明し、ハッピーエンド。

⇒こうして改めてみると、キャラのバックグラウンドなどディテールが似ていても、全然違うストーリーだということがわかる。しかも、どちらもそれぞれの作者らしいテイストに仕上がっていることにも感心。


「征服者…」は、派手さはないけど着実にゆっくりめにストーリーが展開されている。この着実さがいつきさんらしい感じ。一方「ビューティフル…」は、軽妙洒脱に必要な要素をパッパッと入れながらわざとらしくなく展開していて、榎田さんらしいと感じてしまう。


★ストーリーのアイテム・森★
■征服者…パウルの居城・ゴルトホルンは森の中にあり、代々、そこに住む鹿を大切にしていた。パウルが城を槙一郎に売ると決めたのは、ほかに名乗りを上げたアメリカ人が、森を切り開いてゴルフ場を作ろうとしたから。


■ビュー…アロウは館と広大な森を所有し、その森のそばにある孤児のための施設「羊飼いの家」をバックアップしている。アロウが貧乏になっても館と森を手放さないのは、亡き父の遺言と「羊飼いの家」があるから。ダリルは森を買い取ってリゾート開発をねらっていた。

⇒まあ、城とか館とかには森がありそうだよね……。しかし、森を切り拓こうとしているのがアメリカ人ってのが、これまた共通していて笑える。


★ストーリーのアイテム・絵画★
■征服者…歴代の主夫婦の居室「瑠璃の間」に飾られていたリーフェンの「聖家族」。両親と自分が描かれているように思えてパウルは気に入っていたが、困窮のため売却。しかし槙一郎がリーフェンの別の「聖家族」を買ってパウルへクリスマスプレゼント。


■ビュー…トーマス・サリヴァンの「ガブリエル」。玲一郎の当初の目的はこの絵画を手に入れる手はずを整えること。そこに描かれている天使は亡き母にそっくりだった。しかし実はアロウの手元にあるその絵は、アロウの贋作のため、恐らくアロウはそれを玲一郎にプレゼントするだろう。

⇒これも奇しくも共通していたアイテム。とはいえ、「ビューティフル…」の方が、玲一郎が画商という設定だけあって、絵画の役割が大きい。アロウは自分でも絵を描くしね。


どちらの画家も、検索したけど名前が出てこなかったので、架空の画家なのかな? しかしどちらの絵にも、キャラの家族への思い入れが絡めてある


そのほか、似てるなぁと思った点は、物語の始まりと終わり。どちらの作品も、始まりと終わりが同じ視点から語られるのだ


「征服者…」は、城の中のパウルにヘルムートが、終わりは薬師寺が、客の訪問を告げるし、「ビューティフル…」は、サイモンが新聞を取りに行く。あ、どっちもラストは、主人公たちは情事の後ってのも、ちょっと似ているかも。


季節も、物語の始まりは冬で、終わりは春だ。


うーむ、共通点をピックアップしながら思ったんだけど、本当にディテールはいろいろと共通点があるなぁ……! もしかしたら、「外国の王子様を助けるストーリー」には、ここで挙げたディテールは「入れとくと物語が面白くなる」定番アイテムみたいなものなのかもしれない。


でも、たとえディテールがお約束で似ていたとしても、繰り返し何度も言いますが、物語はまったく違うものに仕上がっているのが、本当に面白い。挽き肉と根菜を使って、一人はコロッケを、一人はポトフを作っちゃった――という感じ。


これを書きながら気づいたんだけど、「征服者…」は、日本とドイツの文化や考え方の違いがうまくストーリーに盛り込まれていて、それがまた、ストーリーを盛り上げるポイントになっていた


その点、架空の国が舞台の「ビューティフル…」は文化比較ではなく、タイトルの「プア」を証明するかのように、貧乏な生活ぶりがコミカルに描かれていて、「貴族なのに貧乏!?」というギャップを楽しませてくれたと思う。


どちらの作品も読んで満足。比較の楽しみも味わえて幸せ。んー、一粒で二度おいしい……みたいな感じかな?

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Tags: いつき朔夜 金ひかる 榎田尤利 稲荷家房之介 2作品比較

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