王子様のヒーロー―「征服者は貴公子に跪く」 (いつき朔夜)、「ビューティフル・プア」(榎田尤利)

 15,2009 23:50
外国が舞台のBLに日本人が登場する確率はかなり高いと思うのだけど、その中でとりわけ、日本人が受けの確率は結構高めじゃないかと睨んでいる。

アラブとか欧米とかさ……アジア系だと、「日本人が受け多し!」と言い切れないかもしれないが、そうしてみると、“顔立ちクッキリ&ガタイよし”だと、“攻め”と妄想する人が多いってことなのかもしれない。

でもいつき朔夜さんこの作品は、日本人×外国人だった。もちろん、面白さは折り紙つき。読んだ後、「……巧いなぁ」と唸ったのだった。

ネタバレを含むのでご注意ください。

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両親、そして財産を失い、先祖代々の居城を手放すことになったパウル。ところが、契約書にサインを済ませたとき、売却先である日本のホテルチェーンから来た牟田は、かすかな笑みを浮かべて告げたのだ。「あなたも込みで買ったのですよ」と。男の傲岸さに最初は反発を覚えたものの、無表情ながら冷血漢ではない牟田と徐々に心の距離が近づいてゆき…。

何が巧いと唸ったかって、ラスト、宗教に根ざした感覚の違いを盛り込みつつ、主人公の二人の間のわだかまりを解決してみせたところ。

具体的に言うと、クリスチャンのパウルの同性愛への背徳感や罪悪感を、宗教に関してはいかにも日本人的無節操な牟田が、彼なりに必死でパウルを思いやり、パウルの罪悪感を打ち消そうとしていたからくりが、ラストで明かされるのだ。

あなたにそんな重い荷を負わせたくない。それでも、あなたを欲しいと思うのを止めることはできない。罪深いのは私だと悟ったとき……私一人が罪を負えばいい、と考えついたのです。あなたは私を拒んだ。強引に奪われたのであって、自ら罪を犯したのではないと、神さまに言いわけが立つでしょう

この牟田のセリフ! ちょっとこれ以上の殺し文句は早々ないんじゃなかろうかと、一人で大盛り上がり。このセリフの後、

「神さまに言いわけ」などと、確たる信仰を持たない者らしい、おかしな言い回しだった。

と説明されているものの、この牟田の真心がパウルに届かないはずがない。パウルは「こんな牟田に会ったことが神の恩寵だ」と、心の屈託をほどいて、牟田と改めて結ばれる。

財産を失い、経済上の理由から居城を手放すことになったパウルの不安と、傲慢に思えたのに実は話の分かる、思いやり深い男だった牟田の歩み寄りが、ハデハデしくないけど着々と手堅く展開していて、「ドイツって感じだなぁ」と何度もうなずいていた。あくまでも超個人的感覚ですけど。

貧乏貴族と、それを助ける日本人……って、確か前にも読んだような気がするなぁ……と思い出したのが、榎田尤利さんのこの作品。

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「貴族でも、そうじゃなくても、あなたはあなたでしょう?」父親の命で、遠い異国へとやってきた玲一郎。貧乏のあまり、自らを売りに出した侯爵・アロウが所蔵する絵画が目的だ。彼を求めて大富豪が集まるなか、唯一庶民の玲一郎はなんとか侯爵に近づこうとする。その超絶美貌にも揺らがなかった玲一郎だが、彼の人柄に触れるうちに、なぜだか心から笑う顔が見たくなり―。榎田流ノーブル・ロマンス。オール書き下ろし。

貧乏貴族のアロウがお金のために自分を売りに出すという設定や、玲一郎だけでなくアラブの王族、アメリカの大富豪、香港の富豪令嬢など錚々たるお金持ちが、アロウの買い取り権(※1年間のみ)に連なったりと、華麗な(?)BLらしい設定。

しかしキャラたちの賭け合い漫才みたいな軽妙なやりとりや、矛盾を感じさせない展開は、ソツのない榎田さんならではという感じ。

アロウは、実は自分の出生について秘密を抱えていて――それはわたしの“痛みのツボ”である、“肉親との気持ちのすれ違い”に関するのだが、確かにじーんとはきたものの涙が出るというほどではなかった。そこにじーんとくるよりもそのモチーフが、玲一郎とアロウが互いに惹かれ合う要素として用いられる巧みさの方に感心してしまったというか。

榎田さんて、本当に上手だよなぁ……今さらだけど。

“痛みのツボ”を激しく押されはしなかったけど、それでもこの作品、わたしはとても好き。アロウがねぇ、可愛いんですよ。屈折を抱えていても、真っ直ぐ素直に育ったんだなぁという感じで、玲一郎と一緒にアロウの可愛さにクラクラしちゃったもん。

さて、「征服者は貴公子に跪く」と「ビューティフル・プア」、なんだか思った以上にディテールに共通点があるため、この検証をしてみることにした。続きは次のエントリでよろしく。
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Tags: いつき朔夜 金ひかる 榎田尤利 稲荷家房之介 複数レビュー

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