ホーリー・アップル―ドードー鳥の微笑―(柏枝真郷)

 28,2009 23:45
これより一つ前のエントリで、“受けと攻めどちらにも日本人の血が流れていない”外国人が主役のBLって少ないかも……と書いたのだけど、「ホーリー・アップル」はその“数少ない(と思われる。実際は少なくないかもしれないけど)”ものの一つ。

まあ、受けの「忘れられない恋人」が日本人と、ちょっと遠まわしに日本人が絡んではいるんだけども、一応、主人公二人はコーカソイドだもんね。

そして、刑事と巡査という二人の関係が静かに進行していく様子がじれったいような、でも落ち着いた雰囲気で味わい深いような――。

ネタバレを含むのでご注意ください。

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どん底景気のNYで、気弱な巡査ハリーは刑事ドイルとの突然の出会いから、同じアパートで暮らして一ヵ月。有能だけれど傍若無人な捜査で有名なドイルは、恋も強引だ。甘いアパートでの生活は幸せだが、仕事では失敗つづきのハリーがある日、犯罪多発地域、シン・ストリート(罪の通り)で起きた事件に急行すると…。大ピンチ転じて二人の愛は!?ハリーとドイル、マンハッタン事件簿。

「ホーリー・アップル―穴だらけの林檎―」の続編。同じ27分署に勤務し偶然同じアパートに住む、気弱で自分に自信がない巡査・ハリーと、やり手で強引な刑事・ドイル。

前作では、お互いになんとなく惹かれあい、一応ベッドを共にする関係にはなったのだけど、今作でもハリーはまだ、別れた恋人のことが完全に吹っ切れてはいない模様。

そんな二人の関係が、シン・ストリートで起きた事件の進展とともに、少しずつじわじわと深まっていく。

「1980年代のニューヨークが舞台」と書かれているせいなのか、読んでいると、ストーリーが進み、キャラたちが活躍する様子を、ガラス越しにのぞいているような、スクリーンで眺めているような、そんな気分になる。

かといって、キャラたちにリアルさが感じられないというわけではない。

たとえば、ドイルに惹かれつつも、いつまでも別れた恋人を引きずって、ドイルにオープンになれないハリーみたいな人は結構少なくないと思うし、仕事において強引で、時に独善的にも見える振る舞いをするドイルが、同僚たちから煙たがられているのもうなずける。

だけど何となく、読んでいると、「一歩引いたところから全てを眺めている感」を強く感じるんだよなぁ……。作中で、道路のあちこちから水蒸気が立ち上る――と描写されているせいか、全体的にスモーキーな感じがするというか。

そりゃ、グレーが効果的に使われている表紙絵に引きずられているのかしらね。

もしかしたら、“いかにもBL”な派手さやケレン味がなく、ストーリーもスピーディーに展開するわけではないことも、「一歩引いた感」を強めているのかもしれない。

そう、この作品を読みながら、

これってBLっていうよりは、主人公二人がゲイのライトミステリーって感じだなぁ……

と、何度となく思った。わたしの好物の、「ゲイやレズビアンが主人公の、恋愛モノではない物語」というやつですよ! とはいえ、この作品、作者の柏枝さんによると、「久々のラブストーリー」ということなんだけど。そうなんですか? そうなんですね?

まだまだ「恋人」といいきれないハリーとドイルの関係だけど、ハリーの物思いを静かに受け止めるドイルがいい。また、ハリーをなにくれと心配する相棒・ジェフリーの気のよさも好き。

――ここまで書いて気がついた。登場するキャラがみんな、年相応に落ち着いているのが、“大人っぽいBL”な感じで、ひいては“BL臭が少ない”感じに繋がっているのかも。でもこの雰囲気、かなり好きだな。

二人の関係はどう深まっていくのか、そしてドイルはどんな過去を背負っているのか――今後の展開が楽しみだ。

ところで、タイトルのドードー鳥。名前は知っているけど、どんな鳥なのか気になって調べてみた。
DODO.jpg
ウィキペディアより。なるほど……これは飛べそうにない……。なんとなく七面鳥に似てる気がするなぁ……。七面鳥より頭がデカいけど。絶滅したかと思うと、ちょっと切ない……。
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Tags: 柏枝真郷 槇えびし 警検麻ヤ

Comment 2

2009.09.29
Tue
20:20

秋林 瑞佳 #hMgDs1Uk

URL

こんばんは♪

> これってBLっていうよりは、主人公二人がゲイのライトミステリーって感じだなぁ……
あーわかります、その感じ!…lucindaさんは柏枝作品は初めてお読みになるのですか?たぶん…柏枝先生は「BL」という意識ではいらっしゃらないと思います。

> 「久々のラブストーリー」ということなんだけど。そうなんですか? そうなんですね?
そうなんです。もともとJUNEご出身で、講談社WHの「硝子の街にて」シリーズが終わってからは、男女友情+刑事モノや消防士モノのミステリーを、幻冬舎などのライトノベルレーベルでお書きになっていたので、こういう男性同士の作品は久しぶりなんです。ただどの作品もNYが舞台ですね(一部違う作品もありますが)。先生はNYに恋している「NY萌え作家」だと私は思っています。今回は、ルビーから出ていた「厄介な連中」のスピンオフなので、キャラも久々に登場。

> 「一歩引いたところから全てを眺めている感」
とてもよくわかります。たぶん…80年代のNYを書きながら、先生も心がNYに飛んでいて、キャラから一歩引いた状態で見つめているんじゃないかな。私は柏枝先生の文章を読むと、ばああっとセピア色の映像が思い浮かびます。

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2009.09.29
Tue
21:25

lucinda #-

URL

うわー、いろいろと情報をありがとうございます!

そう、柏枝作品は、前作の「穴だらけの林檎」を、アマゾンでおすすめされて初めて読んだんです。アマゾンおすすめを初めて買った本(BLでは)がアタリだったので嬉しいんですけど、そうか、先生に「BL」の意識はあまりないのか…そういわれるとうなずける気がします。

JUNEご出身なのに、BL以外で活躍されているのって、面白いですね。結構そういう作家さんは多いんでしょうかね。確かに、アマゾンでほかの作品を見ると、NYが舞台ながらも、男女モノもあるみだなぁ…と思っていたのですが。「NY萌え作家」ですか!なるほどねぇ…。

>私は柏枝先生の文章を読むと、ばああっとセピア色の映像が思い浮かびます
あ、そうそう、「なんとなくスモーキーな感じ」は、そんなイメージにも近いです。

「厄介な連中」はルビーだったんですね。気になってたんです。また調べてみようっと。ありがとうございました~!

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