砂漠の少女たち―Seeds of Summer―

 23,2009 23:34
fridasさんのブログ「コミュニティーからちょっと離れて」で知った、こんな映画祭。

AQFF(アジアンクィア映画祭)

アジアのクィア映画だけを上映する、2年に一度の映画祭。1回目は、下北沢で開催されたんだけど、残念ながら見に行けず……。

しかし今回は行ってきた。見てきたのはこの作品。

砂漠の少女たち―Seeds of Summer― 原題:Seeds of Summer
監督:ヘン・ラスカー 2007年 イスラエル
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「私はここで初めて女性に恋をしたのよ」「母はいつも、私がこうなったのは軍隊を経験したせいだって言うんです」イスラエル国防軍における女性兵士用の訓練課程を修了してから7年後、ラスカー監督は、自分が初めて女性に恋をした――相手は彼女の部隊長だった――その場所を再び訪れる…。

この映画は、イスラエル国防軍の最も厳しい訓練課程に参加した少女たちの姿を、66 日間の訓練期間を通して追いかけ、厳格な軍規に基づいた環境の下で生まれた、彼女たちの人間関係を捉えると同時に、監督と登場人物の一人との間にゆっくりと、徐々に形作られたある感情の流れを見つめた鋭敏なドキュメンタリーである。少女と銃。笑い声と銃声。18 歳の少女たちが、パパやママの宝物から、獰猛でよく訓練された兵士へと変貌を遂げていく仕組みを明らかにする。(AQFF公式サイトより)

例によって長くなったので、折りたたみます。
イスラエルは世界で唯一、女性も兵役義務のある国なんですね。この映画を見終わった後、いろいろ調べていて初めて知った事実。

映画は、訓練課程に参加する少女たちと、彼女たちを指導する女性指揮官たちの姿を、時に監督が彼女たちと会話しながら追っていく。

そのうちに、とりわけ目立ち、たびたび登場するのが、ヤーデンとロデムの少女二人(新兵?)と、指揮官のスマダー。

冒頭では訓練に参加して間もない様子の少女たちが映し出されるのだが、仲間とのおしゃべりに夢中で、まるで女子高校生みたい。この子たちは本当に軍隊の訓練に参加しているのかと思うほど、キャピキャピしたムードなのだ。

まあ、兵役は満18歳で課されるというので(男子は3年、女子は1年9ヵ月)、“女子高生みたい”な雰囲気も、あながち外れてはいない。

ところが、指揮官たちがスクリーンに映し出されると、彼女たちから滲み出る「軍人」「兵士」のオーラに、ハッとしてしまう。姿勢とか、顔つきとか、歩き方とかに、緊張感が漂って隙がない感じ、とでもいったらいいだろうか――。

彼女たちだって十分若く、恐らく新兵の少女たちとそれほど年は離れていないと思う。それなのに、あの醸し出される雰囲気の違い! 軍隊の厳しさを想像させられると同時に――カッコイイ!と見惚れてしまったのだった。<コラ

緊張感があまり感じられない少女たちも、休憩中だろうとシャワー室だろうと常に銃(しかもライフル銃のようなデカい銃)を携行させられ、時に義務を怠ったと吊るし上げられ、訓練中に体調を崩しても自力で病院へ行く準備をするよう要求され、野外演習など厳しい訓練を経て隊内の団結力を強め……と、さまざまな経験を積むうちに、「兵士」の顔に変わっていく。

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銃を構えるヤーデン。おしゃべりで指揮官から吊るし上げられたけど、たくましく成長します

訓練の合間、仲間たちと楽しそうにしゃべる少女の顔とは、明らかに違う。映画の冒頭では、訓練中の顔つきと休憩中の顔つきに、それほど違いは感じられなかったのに。少女たちも数年後、軍に在籍していれば、指揮官たちのような雰囲気を身に付けるに違いないことを、予感させる。

しかし訓練中と休憩中の顔つきの違いは、監督が追う指揮官・スマダーも同じだ。少女たちを厳しく指導するときのキリリとした表情を見た後、監督と話すときの、リラックスした柔らかな表情を見ると、そのギャップの大きさに驚いてしまう。

しかもスマダーは徐々に監督に打ち解けたのか、部下たちへの接し方について弱音をつぶやいたり、時に涙を見せたりして、ナイーブさを露にするのだ。

上官はもちろん、部下にも、同僚にも、弱気な姿は見せられないというスマダーの気の張りように、軍隊という過酷で極限的な環境を想像させられる。

スマダーは美しく、少女たち、特にロデムは「スマダーってカワイイわ!」と、やたら上官に興味津々。でもその様子は、恋をしているというより、「カッコイイ先輩に憧れている下級生」ような雰囲気。
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妖怪のような緑に塗っているけど、本当に美しいんです、スマダーは!

厳しい規律の下、女性ばかりの集団で生活するうちに、女同士でひっつくコが続出するのかな(ゲヘヘ)――みたいな下衆な期待はサラリとかわされ、しまいには、

……どの辺りがクィアだったんだろう……監督のカミングアウトと女性兵士という部分なのかな……

と思っていたら。

ラスト、ちょっとメランコリックになっているスマダーが監督の名を呼び、監督がスマダーを抱き締めているであろうシーンで締め括られる。「であろう」と書いたのは、監督がカメラを地面に置いたため、二人の腰から下だけしか映し出されないため。

二人の間の感情はご想像にお任せします――というところかしら。内容紹介の、

監督と登場人物の一人との間にゆっくりと、徐々に形作られたある感情の流れ

とはこのことだったか! まあ、途中、監督と話すスマダーの目がウルウルしていて、これはかなり監督に惹かれているな、と思っていたけれども。

この作品、クィア的要素よりも、少女たちが兵士へと変貌を遂げていく仕組みを描くことに、重点が置かれていると思う。でも監督は、自分が初めて女性に恋をした軍隊を、処女作の舞台に選んだわけで――軍隊や兵役に対する、監督の強い思い入れが感じられる。

――毎度ながら、またしてもレビューが長くなってしまいました。が、長くなったついでに、驚いたことを2点だけ。

その1.軍事訓練でファザコンに!?

少女たちが集まって家族のことを話しているなかで

これまではパパよりもママの方が好きだったけど、(訓練に参加してから)ママよりもパパに親しみを感じるようになったわ

と全員がうなずいていた様子にビックリした。自分の父親がどんなにステキか、ハンサムだ、オシャレだ、自分のことをプリンセスと手紙で呼びかけるだ、パパみたいな男と結婚したいだ、などなど、とにかく

パパ大好き! パパ万歳! ビバ・パパ!

と、一同総ファザコン状態で大盛り上がり。ロデムなんて、感極まって涙ぐんでいたもんね。

軍事訓練に参加することで、父親の存在感は増すものなの?

しかしイスラエルは国民皆兵なのだから、彼女たちの母親も軍事訓練を受けているはずだ。それなのに、なぜ一様に父親を慕うようになるのか? 重い装備を身に付けて走ったり、否応もなく厳格な規律に従ったりすることで、父親(あるいは男性)への敬意や親愛の情が芽生えるとでもいうのだろうか?

その2.女性兵士の髪は長いのがデフォルトです?

新兵の少女たちも、指揮官のお姉さんたちも、とにかくみんな髪が長いことが、ちょっと意外。「軍隊」というと、どうもみんな髪が短いイメージが強くて。

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G.I.ジェーンの印象に引きずられすぎかしら。

イスラエルの女性兵の美しさに感心しているサイトがあったので、ご覧ください。ここでもほとんど全員髪が長い。なんか理由があるんでしょうかね……?

イスラエル軍に所属している女性兵士の写真(GIGAZINE)

しかし、AQFF、こぢんまりとしていながらも、興味深い作品を取り揃えている映画祭だと思う。もっと見たい作品はあったのに、見にいけなかったのが残念。次回もぜひ行って、複数作品を楽しみたい。
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Tags: レズビアン ジェンダー

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