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心の弱いところに切り込む物語―「夜明けには優しいキスを」(凪良ゆう)、「交渉人は振り返る」(榎田尤利)

 01,2009 13:39
30日の衆院選、劇的な結果が出ましたね。現役大臣や大物政治家たちがバカスカ落選したあの状況は、国民の怒りと憤りの表れといえるのでは。

格差社会、年金、雇用、少子化、不況などなど、パッと瞬間的に思い浮かんだものだけでもこれだけいろいろな問題があるんだもの。誰でも大なり小なり、閉塞感や圧迫感を感じているんじゃないんでしょうか。

しかしまさか、こういう社会的な問題が巧みに取り入れられているBL作品を読めるとは思っていなかった! 何がって、「夜明けには優しいキスを」と「交渉人は振り返る」ですよ。

ネタバレを含むので折りたたみます。
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朝なんて来ないと思ってた―。フリーターの西塔要はある秘密を抱え、自分には幸せになる権利はないと日々ひっそり生きてきた。バイト先の無茶なシフトや恋人の加瀬からの暴力すら黙って受け入れる要を、バイトの後輩である池上公平はなにかと気にかけてくれる。最初は苦手だったのに、公平の明るさと優しさに触れるうち、要は次第に惹かれてゆく。けれど受け入れられない。公平を好きになってはいけない。過去の秘密が要を縛りつけ、二人の仲を疑う加瀬の執着も日毎にエスカレートしていき…。

■作品で見られる社会的な問題とそれに関わるキャラ■
○恋人間の、しかも表に出にくい同性間のDV
⇒要、加瀬
○非正規労働、突然の解雇など不安定な雇用
⇒要、公平、加瀬
○「名ばかり管理職」の低賃金とサービス残業
⇒要
○格差社会
⇒要、公平
○いじめなどによる自殺
⇒要、加瀬
○加害者として受ける非難
⇒要
○児童虐待
⇒加瀬

ブラックな凪良作品を読むのは、これが初めて。「花嫁はマリッジブルー」などの明るいコメディ作品とは全然違うと聞いていたので、かなりドキドキしながら読んだのだが。

ドキドキしすぎて、息苦しくなった……! 息苦しくなったのは、物語の最初の方の、あまりの光の無さにハラハラしたせいでもあったのだけど。

加瀬の暴力に耐え、勤務先のひどい扱いに耐える要に救いを与えてほしいと思いつつ、すべてを諦めているような要の姿に、ギリギリと歯がゆい思いを抱き、

暴力を振るっては泣いて許しを請う、典型的なDV男の加瀬に怒りを感じながらも、彼がそうしてしまう背景を知りたいと息を詰め、

まっすぐで、その名の通りフェアで正義感の強い公平の、その正しさに暑苦しさを感じたくせに、時折見せる弱音にホロリとし、

もう凪良さんの華麗なストーリー設定と展開に転がされる転がされる! しかも、消耗品のように扱われる労働現場の描写に容赦がなく、BLの蟹工船かと一瞬目を疑うほどに、読んでいると胸苦しくなるのだ。

大体、主人公(それも攻めまで)が低賃金にあえぎ、社会の底辺で何とか暮らしている設定なんてBLでは異色だと思うし、そんな主人公をわざわざ設定しそうなのは、今のところ、わたしの頭には木原音瀬さんぐらいしか思い浮かばない。そりゃまあ、一応、キャラが二枚目らしいのがBLなんだけど。

実際、「あああ……“ブラック凪良”は木原系なのか……」と、内心頭を抱えたくなったのだが、しかし、読み進めていくと、ラブコメな凪良作品でおなじみの、ちょっと気持ちが浮き立つような軽快さや明るさが感じられるところもあり、そんなところは榎田尤利系のような気もしてしまう。

木原系でも榎田系でもどっちでもいい――というか、これってわたしの独断&偏見も甚だしい評価なのでまったくもってどうでもいいのだが、とにかく、凪良さんの才能の確かさを、改めて認識させられたのだった。

要はなぜ、幸せになることを頑なに拒むのか? 要の過去とは何なのか? それは、学生時代にボランティアで接した少女の自殺が関わっているのだが、これに対する公平の、要への言葉と態度に、目の前が開かれるような気持ちがした。恐らく、作中の要とシンクロするように。

愛する者にも暴力を振るってしまう加瀬の不幸な生い立ち、そして、要が献身的に受け止めることで加瀬がどうにか立ち直るというくだりは、ちょっとスムーズにいきすぎ、というかご都合主義的に見えるかもしれない。それでも、読み終わる頃には、加瀬にも幸せになってほしいと心から願わずにはいられないのだ。はっきりいって、公平よりも要よりも、よっぽど気になるキャラになってしまうのだ。

他ブログでの凪良さんの高評価もむべなるかな、と大いに納得。

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元検事で元弁護士、そして優秀な頭脳と口八丁を駆使する美貌の男、芽吹章は、弱き立場の人を救うため、国際紛争と嫁姑問題以外はなんでもござれの交渉人として、『芽吹ネゴオフィス』を経営している。そんな芽吹が泣く子も黙ると評判のヤクザ、兵頭寿悦と深い関係になり、この頃では互いの存在に慣れつつあった。だが、生き方も違えば考え方もまるきり違う、おまけにヤクザなんて大嫌いだ、それなのに寝ている…ということに戸惑いがあるのも事実だった。そんなとき、芽吹はかつて関わっていたある青年と再会して…。

■作品で見られる社会的な問題とそれに関わるキャラ■
○犯罪加害者の更正と社会復帰
⇒朝比奈、芽吹
○犯罪加害者の家族が受ける社会的制裁
⇒朝比奈、朝比奈の姉、芽吹
○オレオレ詐欺
⇒朝比奈、さゆりさん、斎藤、兵頭
○麻薬汚染
⇒朝比奈、芽吹

「交渉人シリーズ」第3弾。前作の「交渉人は疑わない」も、まるで映画を見ているようななめらかなストーリー展開に、「さすが榎田さん!」と鼻息荒く膝を叩いたけれど(<ちょっとヘン)、今作でもそれは健在。というより、ますますパワーアップしているように思える。

今もまだまだ手を変え品を変え発生している「オレオレ詐欺」をめぐり、まるで見てきたように詐欺システムを解説しながら、ストーリーは進む。

まず、さゆりさんが詐欺のターゲットになりそうになったのを、辛くもかわして犯人を取り押さえ

次に、芽吹が潜入調査していたホストクラブのホストの友人・斎藤を詐欺グループから引き離そうと策を練り

そして斎藤のグループに、かつて芽吹が弁護士時代、過失致死罪で執行猶予を勝ち取った朝比奈が深く関わっていることを知り、芽吹はさらに彼をも詐欺グループから引き離そうとする。

この流れが、もう本当にムリなくスムーズで、おまけに流れに従ってシリアスさが増していき、読んでいるこっちは、朝比奈と芽吹の行く末に固唾を呑んで見守ることになるのだ。

執行猶予にはなったものの、世間の朝比奈を見る目は冷たかった。そして、朝比奈の家族もそれを免れることはできなかった。煽り立てるマスコミ報道、失職して急死した父親、精神を病んだ母親、婚約破棄されて暴漢に襲われた姉。

何か事件が起き、それに関するニュースやワイドショーや週刊誌などを見ると、加害者に怒りを感じる。被害者や遺族が加害者を責めるのは、当然だと思う。

だがそうした、被害者あるいは加害者どちらかの当事者ではない“世間の目”の一例が、ここに鮮やかに描かれている気がした。もちろん、デフォルメされている部分はあるとは思うけど、ナーバスな問題が、バランスを取って書かれているのは、榎田さんだからこそだと思った。

ドラッグに溺れ、結局は組織=ヤクザから切り捨てられる朝比奈。朝比奈の言葉を信じようとした芽吹。

芽吹は救出されたけれど、苦い後味を残しながら、ストーリーは終わる。物語の最初、特にさゆりさんと詐欺の犯人を捕まえるシーンや、斎藤を救出しようとみんなで「ひっつみ鍋」をつつくシーンがユーモアにあふれていただけに、このラストは、特に苦く切なく感じられてしまう。

前作に引き続き、「信じる」が重要なキーワードになっている今作。そしてどうやら、芽吹のその信念には何やら過去に曰くがありそうでもあることがわかった。次作では、その辺りが少し明らかになるのかしらね。

この作品、というかこのシリーズ、もうBLの枠を超えているんじゃないかと思うのだ。BLらしさといえば、芽吹と兵頭のエロシーンぐらいじゃなかろうか。芽吹と兵頭の関係に、BLのケレン味がなければ(恋人関係でなければという意味ではない)……と思うが、どうだろう?

ルコちゃんといい勝負の名前を持つ七五三野、さゆりさん、アヤカ、キヨ――男女関係なく、個性的なキャラがイキイキと動き回っているのも、この作品の、BL枠をはみ出す魅力を形作っていると思う――BL枠をはみ出すって、もちろん良い意味でね。

上記の2作ほどダイレクトに社会的問題を取り込んでいないけれど、『猿喰山疑獄事件』(遥々アルク)、『千夜一夜-しとねのひめごと』(岡田屋鉄蔵)も印象的な作品。でもレビューを書くほど自分の中でまとめきれていない。だって、上記2作以上に、心の弱いところに切り込んでくるんだもの。

こういう傾向の作品が登場するのも、世相の反映なんでしょうかね?
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Tags: 凪良ゆう 高階佑 榎田尤利 奈良千春 警検麻ヤ 複数レビュー

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