太陽の塔 (森見登美彦)

 18,2009 23:45
それはわたしが腐に堕ちる前のこと。たまたま見つけて、思わず読みふけったのがこのコラム。

第13回 理系男子の恋愛ファシズム打倒計画――森見登美彦『太陽の塔』の巻 (日刊!ニュースな本棚「非モテの文化誌」 demi)

これを読んで、すごく興味を持ち続けていたこの作品を、このたびようやく読んだ。コラムを見つけたのが少なくとも4年前だから――遅すぎだろ、わたし!

太陽の塔 (新潮文庫)太陽の塔 (新潮文庫)
森見 登美彦

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私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

読みながら、思わずクスッと笑ったところは数知れず。

モテない大学生の“私”の、失恋の鬱屈と妄想っぷり(爆笑モノだ)が怖くもおかしい

恋愛至上主義に浮かれる世の中で、同じモテない男友達と慰めあい悪あがきをしている様子が、なんだか“男子校ノリ”な感じでおかしい

そしてそれを描写する文章や比喩表現も、大仰でものものしげで、“理屈っぽい理系男子”というイメージを彷彿とさせるようでおかしい

ああ、身近にいたモテない男子を思い出すなぁ……と思うと同時に、でも、まあこれじゃあモテないかもなぁ……と思ったりして。

だって、何だかんだいっても、モテない男たちのホモソーシャルな世界が、楽しそうなんだもん……傍から見ていると。

「男だけの妄想と思索によってさらなる高みを目指して日々精進を重ね」(でもほかの部員には侮蔑されていた)、“私”とともに「四天王」を名乗っていた同じ体育会系クラブの仲間である飾磨、高薮、井戸。彼らのお互いへの思いやりは非常に篤く、その結束は固い。

それに加えて“私”は、クラブの後輩で「限りなく幽霊に近い」と表現される妄想債鬼の湯島を冷たく突き放したりしないし、あろうことか、未練捨てがたい別れた彼女“水尾さん”を狙う遠藤とも、なぜか友情を芽生えさせてしまう。

もちろん、彼ら“男ばかり”の友情は、むさ苦しさや虚しさが漂うのだけど――四天王たちとの飲みの翌朝の部屋は「充満する男汁で腐敗したような匂いを放って」いるとか、水尾さんを巡ってお互いストーカー同士だと発覚した遠藤とは「ゴキブリキューブ」を送りあうとか――、でも、読んでいていつしか「ああ、青春って感じですねぇ」と、ちょっとノスタルジックな気分になってしまうのだ。

彼女との楽しい日々が綴られている小説にも「青春」っぽさを感じるけど、モテない男たちが肩を寄せ合い、妄想を膨らませてバカバカしいことをしているこの作品の“私”たちの姿の方が、より身近で覚えのある感情を呼び起こされるような感じ。

この作品、全編を通じて女性がほとんど現実に登場しない。水尾さんが登場するのは“私”の回想や妄想の中だけ。唯一、少ない登場回数ながらも印象的なのは、“私”が「邪眼」と恐れる植村嬢ぐらい。この女性キャラや幸せな恋愛の様子が目立たない点も、「男だらけの世界でも楽しそうじゃん」と思わせられた一因かも。

最後の、四条河原町から発生させた「ええじゃないか騒動」は、おかしくもちょっと淋しく、圧巻だ。

この作品が気になったのは“腐女子前”だったけど、実際に読んだのは“腐女子後”だったために、主人公の非モテっぷりだけでなく、男同士の友人関係が印象に残った、というところもあるかもしれない。

そして腐女子っぽくいつもの受攻判定をするとしたら、みんなに慕われている(?)“私”は、カリスマ攻めか魔性の受けか……。というか、なんだか受け攻めを考えていたら、この作品に登場するほとんどの男子は受けっぽい気がする。

ところで、ここに登場するキャラの中で、わたしがいたく気になったのが、高薮。天狗に似た鋼鉄の髭を持つ大男ながら、乙女のような繊細な魂を持ち、軍事・科学・コンピュータ・アニメに関する該博な知識を持つという。端的に言えばオタク。四天王で飲んだ翌朝、テレビで仮面ライダーの放送を嬉々として見つけ、生涯初めて女性から告白された時は「三次元だぜ。立体的すぎる」などと“私”に泣きを入れて逃亡する。いやん、カワイイじゃありませんか! しかし「乙女の魂を持つガタイのいい男」って、わたし、本当に好きみたいね。

せっかくできた彼女との遊園地デートで、ゴンドラを独り占めした結果フラれたというエピソードを持つ、「ええじゃないか騒動」の発案者・飾磨も捨てがたい。

どうやら森見作品、男友達同士の結束の固さが印象的な作品が多いという情報を得たので、これからも引き続き注目していくつもりだ。

#リンク先の「非モテの文化誌」はどの記事も面白いし、「日刊!ニュースな本棚」のほかの曜日のコラムもよかった。こういうコラムが終わっちゃうなんて、残念だ。
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Tags: 森見登美彦 非モテ 男という生き物

Comment 4

2009.07.21
Tue
13:44

アラスカ #-

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森見 登美彦さん私も好きです。
男同士の結束を書いた小説なのかわかりませんが、タヌキ四兄弟の家族愛を書いた『有頂天家族』なんか可愛いですよ。

編集 | 返信 | 
2009.07.21
Tue
21:59

lucinda #-

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アラスカさんも森見作品がお好きだったとは!
「有頂天家族」、チェックしてみます。ありがとうございます~。

編集 | 返信 | 
2009.07.21
Tue
22:07

カキツバタ♪ #-

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森見 登美彦さん僕も四畳半神話大系
と夜は短し歩けよ乙女は読みました。
新刊も読んでみたいです

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2009.07.22
Wed
01:18

lucinda #-

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カキツバタ♪さんもお好きだったんですね~。
「四畳半神話大系」は、今狙っている作品です。新刊も出たか!

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