世界の中心で愛なんか叫べねーよ(語シスコ)

 13,2009 23:18
語シスコは天才じゃなかろうかと、何度も読み返した(そして読み返している)作品。

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語 シスコ

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稀代の名作『ラブ&カタストロフィー』から10年の時を超えシリーズ再登場! 今ここに甦る語シスコのバイオレンス・ラブ・ワールド! 大人気エッセイ『ぼんくら日記エボリューション』(ゲスト:中村明日美子)も同時収録!!


――ネタバレを含むのと、暑苦しく感想を語っているので、折りたたみます。
すべての収録作品において、ストーリーが、キャラたちのセリフやモノローグが、わたしの琴線をかき鳴らす感じ。ここに描かれていることは非現実的だと思うのに、読んでいるとまるですぐ目の前にあるかのように、ものすごくリアルに感じられてしまう。

正直に告白すると、ストーリーはわりと好きだけど、語シスコさんの絵柄はちょっと苦手なんだなぁ……と、昨年ぐらいまでは思っていた。この作品に掲載されている菊イチシリーズの正編が収録されている「ラブ&カタストロフィー」も、BLにハマってすぐぐらいに読んだのに、強く引っ掛かるものを感じず、そのまま本棚に入っていた。

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各メディアで大絶賛! 真っ向勝負のセックス表現とオシャレな描写、深い感情表現はまさに独走体制。表題作は堂々の描き下ろし。『ESCAPE』『ソウルフルチェリーボム』など全6作品収録。読まずに明日は語れない!

しかし! 今年に入ってから、「超天国」をはじめ、カタルンの作品にやられっぱなしだ。どうしてこの良さ、このすごさに気付かなかったんだろう、昨年までのわたし!? ――まあ、「ラブ&カタストロフィ」を改めて読み返してみると、今とはちょっと違う絵の雰囲気も、わたしの好みを左右していたのかもしれないが……。

収録作品はどれも素晴らしいので、作品ごとに感想をまとめてみた。


■世界の中心で愛なんか叫べねーよ■
「ラブ&カタストロフィー」の菊ちゃん&イチローの続編。ただごとではない過去を持つイチローの得体の知れなさとロクデナシ感が、たまらなくカッコよくセクシー。そんな男だから、菊ちゃんが、いつか心変わりやら犯罪まがいのヤバいことやらによってイチローを失うのではないかと、不安を感じるのもうなずける。

重病を患っていた一人暮らしの老女を看取るため、養子ではなく婚姻を選んでいたところは、一見、詐欺のようにも見えるけど、イチローのやさしさとカッコよさだと思う。

菊ちゃんのお金をこっそり使って開いた喫茶店の店名が「新世界」って! まあ、確かに彼にとっては「新世界」だよね――と微笑。そんなイチローにキレながらも、菊ちゃんはきっと離れられないでしょう。続編もあるということなので超楽しみ。

■マフラーの揺れる間に■
「ラブ…」でイチローが菊ちゃんの前から姿を消していた間に、菊ちゃんが束の間つきあっていた男と再会する話。お互いの傷を舐めあうような関係って、あるよねぇ……。「あの頃は……」的な、ちょっとセンチメンタルなムードが、センチすぎなくていい。

■恋の門■
やはり「ラブ…」で、謎の担当が手配したデリヘルボーイのレイジが主人公。思わずあわてて「ラブ…」を読み返したくなった作品の一つ。

ちょっと変わった生い立ちを持つ19歳のレイジは、色事に達観しているものの、実は恋は知らなかった。「新世界」の近所にある酒屋の息子・紀夫に勘違いされて一方的に惚れられるまでは。

菊ちゃんから「レイジは男だ」と言われて頭ではわかっていても、「女の子よりカワイイ」と恋に浮かされている紀夫。そしてそんな紀夫と会ううちに、相手のことを思うときめきや、相手から思いやられる気持ちよさを知るレイジ。だが、ノンケの紀夫は、やはり男のレイジをセックスで受け入れられなかったのだ――それまでレイジは、セックスだけは男たちを満足させていたのに。

「すごく好きなんだけどうまくいかない」不条理さが、行間からじんじん伝わってきて、ちょっと泣けた。

■それぞれのマイウェイ■
菊ちゃんの担当編集者・山本と、アルバイトの高村の話。そして同時に、クローゼットに入っているゲイの山本とカミングアウトしているゲイの高村の話でもある。

あっけらかんとゲイだと公言し、ゲイであることをひた隠しに隠す山本を、「ゲイだと隠して生きるなんて窮屈だ」などと批判する高村の押し付けがましさに微苦笑。山本の焦り、高村へのムカツキに同調しつつ、高村の傲慢さも19歳の若造なら仕方ないか……と納得させられてしまう設定が巧すぎ。

結局、山本は高村と寝てしまい、かつてないほどの解放感と高揚感を感じるのだが、このときの山本の興奮ぶりと、そばで眠り込んでいる高村の対比がおかしくて笑ってしまった。こういうところ――つまり、同床異夢というか、好きあっていても常に一緒にいられるわけではないというか、そんな冷めた情景を描くのは、カタルさんの真骨頂だと思う。

最後に、山本がカミングアウトした後、「でもみんな知ってたよな」と、あちこちで言われていることにフキ出した。

■恋する惑星■
唯一、菊イチが絡まない作品。ブラコンの智久と、兄の友人・池谷が主人公。どんなに想っていても、想いがカスる時もあれば、なぜかピタッと狙いに命中することもある。一気に恋に落ちることもあるけれど、小さなことが積み重なって、気付いたら恋に落ちていることもある。

そういったことが、惑星の誕生になぞらえられているところが……ス・テ・キ。


――感想がえらく長くなってしまった。思い入れありすぎですね。

マンガエッセイ「ぼんくら日記」や、中村明日美子さんがカタルさんを訪ねた「GO GO 広島 カタルンに会いたい」も、大笑いしながら読んだ。巻末の短編「月の輝く夜に」には、「超天国」のオサムと颯也が登場していて感激した。

あまりの読み応えと内容の充実ぶりが、幸せすぎて怖い。だけど菊イチシリーズの続編や、次のコミックを読みたいと渇望してしまうという意味では、罪作りな作品かも。

今年も半年を過ぎた今、今年のマイベスト10入り間違いナシだ。きっと。
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Tags: 語シスコ ゲイ

Comment 4

2009.07.15
Wed
15:50

月読 #-

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ワタシもはまって、ます!!(爆)
彼女のセリフのうまさには悶えましたよ!!

編集 | 返信 | 
2009.07.16
Thu
15:09

lucinda #-

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コメントありがとうございます。
セリフ、モノローグが絶妙ですよね~!

編集 | 返信 | 
2012.06.20
Wed
22:55

卿熙 #sSHoJftA

URL

BLという枠を超えた作品なのです、これらは…

こんばんは、lucindaさん。またお邪魔致します。:D

lucindaさんの、「語シスコは天才じゃなかろうかと、何度も読み返した(そして読み返している)作品」という言葉には頷いてしまいます。語先生の作品は、まさにそうですとも!!

私は、文芸雑誌ユリイカのBL特集号で語先生の「おとなの時間」と「こどもの時間」が紹介されたのでそれを読んで、語先生の作品の魅力にはまりました。あの2冊を読んでからは、語先生の最初の単行本が気になり、次は「菊ちゃんシリーズ」の続きが読みたく、結局のところこの2冊も読んじゃいました。

語先生の4作品だけを読んで、この方は「大人の恋」を描いているんだな、と思えてきました。多くのBLが「恋」の楽しいところを描き、辛いところは痕のハッピーエンドのためのものとして描くほうが多いですが、語先生は恋の辛さやシビアなところもしっかり描き、しかも別れの後もしっかり描いていたのですごく気に入りました。

また、他のBLと違って性的マイノリティーに差別的な発言(俺はホモではないがお前は好きだ云々)をする人物があまり出ないところも気に入り、「世界の中心で~」の「恋の門」で、菊がレイジ君が心配で、彼がノーマルの友達と恋に落ちるところを心配し「レイジ君を実験台にするわけ?」と一郎に腹を立てる時は、「こ、これは…」と思いました。他のBL漫画家もBLじゃなく本当に性的マイノリティーの観点からのセリフ結構使いますが、これはまさにそうだったからです。
また「こどもの時間」で、2代が性的マイノリティーの家族を描いたのも素晴らしいです!!実際これアリだと思いました。現実の、2代が性的マイノリティーの家族のなかでも、親がTMFだったりFTMだったりして子供が性的マイノリティーの場合、子供は自分は性的マイノリティーでありながら親はそのままヘテロとしていてほしい、というようにわがままを言う子もいるので、すっごくリアルだと思いました。こんなのBLの枠を超えてまさに「クィアもの」ですし、実際の性的マイノリティーについてよく知らないと描けないと思います。
それで、語先生は実際性的マイノリティーのことについて結構ご存知の方かも、と思えてきました。BLの中でも語先生の作品のように、ヘテロだけでなく性的マイノリティーが読んでも共感が持てる作品がこれからもたくさん出てほしいです。
個人的に、私は「恋の門」の一郎の優しさも、菊の優しさも気に入りました。 レイジ君に素敵な恋人ができますように。

編集 | 返信 | 
2012.06.21
Thu
21:05

lucinda #-

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コメントありがとうございます

>卿熙さん
熱いコメント、ありがとうございました(^^)
卿熙さんのコメントを読んで、また改めて読み直したくなりました。

確かに、語先生の作品は、セクシャルマイノリティに対して無礼じゃない感じがあると思います。先生ご自身も、そういうことについてよくご存知なのでは、というのも同感です。

「おとなの時間」「こどもの時間」、私、読み逃しているんですよね…。なんとしても手に入れて読んでみます!

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