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あの時代小説を再読してみたら

 01,2009 23:27
黒ニコさんのブログで取り上げられていた「柳生非情剣SAMON」。

これ、隆慶一郎の小説「柳生非情剣」のコミカライズなんだけど、黒ニコさんのレビューとレスコメントを読んで、無性に原作を読み直したくなってしまった。わたし、一時期、隆慶一郎作品にドップリとハマっていたので、原作は持っているんです。

読み直したくなったポイントは以下の通り。

(1)コミックには、家光と左門の濡れ場はないそうだけど、原作はどうだったっけ?
(2)わたしが読んだ隆氏のほかの作品(ほぼ時代小説)には、衆道を取り上げたたものはなかったと思うが、「柳生…」ではどんな風に取り扱っていたっけ?

この2点が気になって仕方ない!

そういうわけで、再読したとも! 「柳生非情剣」に収録されている「柳枝の剣」(これが左門が主人公の話)
柳生非情剣 (講談社文庫)柳生非情剣 (講談社文庫)
隆 慶一郎

講談社 1991-11
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剣に生きる一族として将軍家指南役となった柳生。連也斎、友矩、宗冬、十兵衛、新次郎、五郎右衛門……尋常でない修業による技、将軍家と関ることによって起こる一族の相剋、死を見据えて生きる剣士の爽やかさを独自の視点から描いた列伝。圧倒的迫力で胸を打つ、男のための鮮やかな時代小説。

作品紹介文を読むとわかるように、作品は、柳生一族の著名な面々をそれぞれ主人公に据えた短編集。それゆえなのか、なんだかほかの隆作品(特に長編小説)に比べて、全体的に淡々と、というか感情を抑え気味に主人公の行動と思考をレポートしているような雰囲気が感じられて、読みながら「あれ?」と思った。

――隆作品って、もっとハデなイメージが強かったんだけど……気のせい?

当然、「柳枝の剣」も、色白で美男の主人公・左門の幼少の頃から、家光の剣の稽古相手となって寵愛を受けるようになり、父と兄によって死ぬまでを、左門のターニングポイントとなった年齢を柱に、淡々と描かれている。

だがしかし、読み進めながら、記憶以上に家光との関係が描かれていて、ちょっと驚いた。いえ、くんずほぐれず……みたいな情事が展開されているわけではありません。でも、剣の稽古で自分に打ちのめされて重傷を負い熱を持った左門の体を見て、家光が思わず触れて唇を這わし、疼いたように左門が体を慄わせる――なんてシーン、ただそれだけにも関わらず、今読むと、ちょっとドキドキするんですけど!?

幼いころからストイックに剣に打ち込み、色っぽい母親をはじめ女に嫌悪感を抱いていた左門の理想の愛は、「淡白でもっとさらりとした愛」なのだが、そんな理想をなぞるような、エロいけどさらりとしたシーンだ。

――というわけで、(1)は、濡れ場そのものじゃないけど、エロティックなシーンはあった、ということですね。

家光と左門がお互いに確かに惹かれあい、父・秀忠が通りかからなければ抜き差しならない関係になったであろう「肌にキス」シーンの後、「左門の理想」という形で、衆道への思いが書かれている。長いけど、引用してみましょう。

女の愛には節度も恥じらいもない。そして凄まじいまでの所有欲がある。本来所有欲は愛からもっとも遠いものなのではないか。それなのに女は、その所有欲さえ愛のあかしだと思いこんでいる。もっとも頻繁に愛について語りながら、もっとも愛には無縁な存在が女なのではないか。それに愛について語るとは何か。愛は語るものなのか。己れのうちこんでいる仕事について、己れの夢について、人の世の素晴らしさ、醜さについて、深い理解をもって話し合いながらそこはかとなく倖せを感じることこそ愛なのではないか。そんな愛が女たちと果たして交わされるものだろうか。そんな愛に応えられるのは、男しかいはしない。衆道というとひどく忌わしい感じがするが、それは女たちの嫉妬にすぎないのではないか男を本当に理解できるのは男だけである。理解の上に基づいた愛を望むなら、男は男しか愛の相手に選ぶことは出来まい。(P64~65より。太字は管理人)

左門、本当に女が嫌いなのね……と口を尖らせたくなる一節。ともかく、「男を本当に理解できるのは男だけ」「理解の上に基づいた愛を望むなら、男は男しか愛の相手に選ぶことは出来まい」という断定が、左門の、ひいては作者の「衆道のとらえ方」のように思えてしまう。

これ、黒ニコさんが指摘されていた「やおい的関係」にもつながっていると思うのだけど、いかがなもんでしょう?

しかし、「女の愛には節度も恥じらいもないし、凄まじいまでの所有欲がある」と痛烈に批判していたけれど、実は家光の左門に対する愛は、節度もなければ恥じらいもなく、おまけに所有欲はてんこ盛り。そして左門の方も、根がストイックなだけにすっかり家光との恋に夢中になって、まんざらでもない様子。所有欲丸出しはイヤじゃなかったのかよ!?

家光と左門の熱愛ぶりは、直接描写されるわけではない。幕閣のイヤミや当てこすり、家光の小姓組の反感を通して語られている。このあたりは、コミックの帯の煽りコピーにつながっていると思われます。

そして、「ダイスキ左門」な家光の乙女っぷりが、再読するとガンガン伝わってきて……戸惑いつつも、なんだかまぶしいのだ。まあ、目の上のたんこぶだった父・秀忠が亡くなり、左門とようやく想いを遂げるまで、7年待ったんだもんね、家光。「七年も待った全身全霊の恋」「本物の恋の相手」とか、どこの純愛小説かと思うようなフレーズに、あ然とするしかない感じ。

この、将軍の愛の真剣さと重さゆえに、左門の父・宗矩と、兄・十兵衛は、左門を柳生の庄に下がらせて、ついには殺してしまうのだ。十兵衛を凌ぐほどの剣士だったのに、恋ゆえに27歳の若さで死ぬことになった左門、哀れ――。

でも、左門亡き後の、家光の執念深い柳生家への報復は、怖いんだけどちょっとだけ笑ってしまった。パパ宗矩が亡くなったら、1万石以上あった柳生家の禄高を3分割して大名の座を奪っちゃうし、左門の弟・宗冬と連也斎の御前試合で宗冬を潰そうとしたり、もう家光ったら、本当に左門が忘れられないのね……と感心しつつ、その情の強さは、やっぱり淡白の間逆だよなぁ……と思う。

――乙女家光が暴走しているけれど、隆氏が描いた衆道は、黒ニコさんのレビュー

剣を通して始まった心の交流においては対等

なムードが漂ってわたしもそこにやおい的な匂いを感じるし、

隆先生ご自身は“色”としての衆道には全く興味が無く、<男賛歌>の一つとして衆道を取り上げているのでは?

というレスコメそのまま。そしてお互いを唯一無二の相手とした“純愛”も、隆氏の捉えた衆道の一面のような気がする。

ついでに、主人公の左門の美男ぶりについては、「生母に似て、男にしては色が白すぎ、眉目涼しく、唇が紅を塗ったように紅い。女の小袖を着せたら、そのまま美しい少女になりそう」などと形容されているのだが、なんだかこれ、BLの受けの描写みたいだ。

さて、ここで一つ白状することが……。

わたしは隆慶一郎作品のファンではあるけれど、「柳生非情剣」を読んだのは、「隆作品だから!」と無条件で手に取ったのではなく、実はある作品がきっかけだった。

その作品とは、これ。

柳生刑部秘剣行 (集英社文庫)柳生刑部秘剣行 (集英社文庫)
菊地 秀行

集英社 1993-12
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徳川三代将軍・家光の治世―。兵法指南役である柳生一族は、幕府の隠密でもあった。剣技では兄・十兵衛を凌ぐといわれる柳生刑部に、異形の闇軍団が襲いかかる。死闘の連続。闇軍団を操り将軍家転覆を謀る秘策が明らかとなったとき、白刃一閃、黒幕に斬り込んでいく刑部。渾身の時代伝奇小説。

ファンタジーやホラー、SFで有名な菊地秀行作品。この中で左門は、もう一つの字「刑部」と呼ばれているのだが、実は刑部、なんと離魂病(ドッペルゲンガー)を患い家光の側を辞したという設定になっているのだ。

ストイックで峻厳な感じの刑部その1と、明朗でざっくばらんな感じの刑部その2が活躍するストーリーは、死から生き返った美女や得体の知れない南蛮医師などが登場し、荒唐無稽だけどすごく面白かった記憶がある。

本が実家にあるので確認できないのだけど、ここで家光との関係が示唆されていたことに興味を持ち、「隆作品でも刑部が主人公の話がある!」と色めきたったのが、「柳生非情剣」を手にした理由。このころは腐女子ではなかったんだけど、腐女子特性はしっかりあったんだなぁ、わたし……。

美男で剣豪で家光の恋人で早逝――って、モクモクと想像力をかきたてられるような要素を持つ左門(刑部、友矩)。実際はどんな人だったんでしょうねぇ……。
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Tags: 衆道 男色 隆慶一郎 菊地秀行 歴史

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