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二十六年目の恋人(高尾理一)

 10,2009 20:29
受けが童貞とか貞操が固いとか純潔を守るとか、果てはウエディングドレスを着たり嫁入りしたり、BLの受けには、男ながらもかなり古風な乙女のようなキャラに仕立て上げられているのをよく見る。

まあ、愛する人(=攻め)と出会ったなら、操を守って誠実に――というのはともかくとしても、攻めに出会うまでは清い体でした……というのはねぇ……。出会えたからよかったけど、出会えなかったらこの人は妖精だか天使だかになっていたのかしらねぇ……と、下世話に意地悪く思わないでもない。「愛する人に出会うまで受けは童貞」は、女性にとってもドリームなのかしら。

さて、高尾理一新作「二十六年目の恋人」は、前もって「受けが童貞」という設定を知って、「え~……」とちょっと食傷気味だったのだけど、読んでみるとあまりにカッ飛んだ受けの妄想っぷりに、爆笑してしまったのだった。さすが高尾さん!

ネタバレを含むので折りたたみます。
二十六年目の恋人 (B‐PRINCE文庫)二十六年目の恋人 (B‐PRINCE文庫)
高尾 理一

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「君の初めてを、私がもらうんだ」凡庸な社員の瑞貴は、実は25歳で『童貞』の絶滅危惧種。そんな瑞貴の想い人は、社長の日下部。憧れの日下部に、童貞だとバレてショックを受けるが、気づけば薄桃色の乳首を何故か弄られるハメに!!本当の快楽を知らない瑞貴の躰を征服せんと熱心に誘う日下部は、瑞貴の思いのほか淫らな躰にのめり込むが、イマイチ気持ちの相互理解が得られてないようで??そんなコミカルチェリーボーイラブ。

大体、「凡庸な社員の瑞貴は、実は25歳で『童貞』」「本当の快楽を知らない瑞貴の躰を征服せんと熱心に誘う日下部」などという設定を読んだら、

うぶでとっぽい感じの受けが、ちょっとダークな雰囲気の攻めとの恋に夢中になるも、「目的は体だけだったのね!」とばかりに、途中で攻めの気持ちを疑うが、それをドラマチックに乗り越えて感動のゴールイン!

――みたいな、波乱万丈の昼ドラ真っ青のラブストーリーを想像しそうになるでしょう?(わたしだけ?)

まあ、「恋に夢中→受けが攻めの気持ちを疑う→乗り越えてゴール」の流れは大きくハズしていないのだけど、高尾さんはこれをコメディに味付けたものだから、もう! そしてあちこちからジンワリとにじみ出る高尾さんならではのトンチキさ加減に、終始笑いを噛み殺しながら読むハメになったのだった。いやいや、「気づけば薄桃色の乳首を何故か弄られるハメに!!」というフレーズで、ピンと来なければならなかったのよね、今にして思うと。

そもそも、25歳で童貞の瑞貴がタダモノではなかった。もう腐女子も裸足で逃げ出しそうな豊かな妄想癖の持ち主。ゲイで童貞であることをひた隠しているくせに、酔っ払ったら、憧れの人・日下部の前でもベラベラ打ち明けるガードの甘さ。おまけに打たれ強くおっちょこちょい。だがどうやら日下部の見ていないところでは仕事ができるらしい、侮れない男。

日下部もどこかおかしくて、瑞貴が酒に弱いと知りながら、会うたびに飲ませて童貞ネタでからかうのを楽しんでいる。確かに、からかわれた瑞貴の受け答えは相当笑えるので、ついついいじりたくなるのもわからないでもないんだけどさ。

訳あって二人で初めて食事をすることになった時の、「きみの好物は?」という日下部の問いへの、瑞貴の「ウィンナです!」というハキハキとした答えに、一番最初に吹き出した――学生時代、初めてのゼミの飲み会で、「何が食べたいですか?」という質問に、同級生のYくんが元気よく「おかし!」と答えたのを思い出して。

それから、書き下ろしの中にあった「ヘヴィメタ=ヘヴィーなメタボ体型」にも笑った。流行ってる言葉なんでしょうか? 高尾さんが編み出した言葉? なんだか瑞貴は、自分の妄想夢想をうっとりしゃべる「赤毛のアン」のアンにも似ているような気がするなぁ……。

瑞貴は、日下部と過ごす時間を楽しみながらも、どうしても片思いの相手が日下部だと打ち明けられず、日下部の結婚の噂に落ち込む。日下部は日下部で、瑞貴の片思いの相手が気になり、嫉妬してうまく気持ちを伝えられない。

もちろん、日下部の結婚は単なる噂なのはお約束。もう、お約束のストーリー展開まっしぐらなんだけど、笑っているうちに事態は気持ちよく(かつ都合よく)すんなり丸く収まって読み終えられる。というか、もっと笑わせてくれ!と思うぐらい。

瑞貴と日下部の恋を密かに見守る、瑞貴の先輩・軽薄な雰囲気の高山と、日下部の秘書・クールで頭脳明晰な西沢もいい味が出ているキャラ。高山と瑞貴のやりとりも漫才のようで相当おかしいが、高山、どうやら西沢とつきあっているようなのだ。ああ、二人の話も読んでみたい!

この作品は、明らかにコメディを意識して書かれていると思うのだが、これまで読んだ高尾作品の中では、そういうものは案外少ないんじゃないかという気がする。これまでも笑いながら読んだ作品はあるけれど、恐らく高尾さんは「コメディ」と意識せずに書かれていたんじゃないかと、勝手に思っているのだ。それなのに笑えるものだから、わたしの中では「天然トンチキ」の最右翼にポジショニングされている。

読みながら思わずクスクス笑ってしまう確率の高いBL作家ってほかに誰だろう……と15分くらい考えてみた結果、秀香穂里さん、小林典雅さん、榎田尤利さんが頭に浮かんだのだが――はっきり「コメディ」を意識して書かれているか、トンチキゆえに結果的にコメディのように笑えてしまうのか、誠に勝手な超個人的分類をしてみた結果がこれ。

図

小説限定です。マンガは記憶があちこちにとっ散らかって、とても15分ではピックアップできなかったの。「計画的」というのは悪い意味ではなく、きちんとボールを狙って笑いのホームランを打っている、というようなイメージ。

高尾さんと秀さんは「笑えるトンチキ」の頂点を競っている感じ。でも最近の秀作品は、わりとシリアスなものが多い印象なので、やっぱり高尾さんの方が、よりトンチキ度が高いイメージかもしれない。

小林典雅さんの、弾丸のように繰り出される凝った表現やフレーズは、これはもう、よくよく言葉を練った末のもの、という気がしてならない。榎田さんは、これもまたちゃんと狙ってクスッと笑えるやりとりを設置されている気がするのだ。小林さんにしても榎田さんにしても、狙いはピタリとハマって、心地よく笑えるのは言わずもがな、というか。

断っておくけれど、天然にしても計画的にしても、どっちがよくてどっちがイマイチ、ということは全くない。わたしはどっちも好きだし、今回挙げた作家さんはみんな大ファンだ。

本を読みながら笑えるなんて、幸せな時間の過ごし方の一つだと思う。特に「クスクス笑える」かどうかは、著者と読み手の呼吸というか感覚というかが合わなければ難しいような気がするしね。

そういう意味では、わたしにとっては高尾さんや秀さんはコメディじゃなくても笑えるけど、ほかの人にはそうじゃない可能性は高いんだろうなぁ……。

これもまた読書の面白さの一つ、ですかね。

#表に凪良ゆうさんを入れるのを忘れてた……!
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Tags: 高尾理一 カワイチハル トンキワ 秀香穂里 小林典雅 榎田尤利

Comment 2

2009.06.30
Tue
23:02

茉莉 #-

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読みましたよ~。仕事に疲れてたのでとっても楽しめました。
雑誌の小説ショコラに載ってたらしいのに、(大体買ってるはず)全然記憶がありません。(買いそびれ??)
ちなみに同作者の同じくショコラ(2008年11月号)に掲載されていた『野蛮人の求愛』というお話も結構面白かったです。
そっちは攻めが年下の童〇で、タイトルどおりアマゾン育ち。
IT関連企業というところにも共通点がありました。

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2009.07.01
Wed
02:48

lucinda #-

URL

コメント、ありがとうございます~!

>仕事に疲れてたのでとっても楽しめました
ああ、仕事で疲れている時には、いいかもしれませんねぇ、この作品!
それにしても、攻めが年下の童○でしかもアマゾン育ち……読ーみーたーいー!! ああ、トンチキの香りがします(笑)。単行本化が待たれますね……。

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