風と木の詩(竹宮恵子)

 07,2009 23:30
腐女子なら読んでおきたい少女マンガ作品を、実はそれほど読んでいない。特に、モロに耽美な、美少年が主役の“JUNE”っぽい作品が結構手薄。子どもの頃から気になってはいるんだけど、なぜか読みはぐれているだよなぁ……。

「風と木の詩」もその中の一つ。ジルベール、知ってるとも! 寄宿学校(完全ではないけど)が舞台なのも、悲劇なのも知っているさ! だけどそれは、レビューやコラムなどで得た知識。このたび、みっとさんからお手持ちの愛蔵版を貸していただいて、ようやく全部読みきったのだった。
風と木の詩 (1) (中公文庫―コミック版)風と木の詩 (1) (中公文庫―コミック版)
竹宮 惠子

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アマゾンで調べると、中央公論社、白泉社、小学館と、いろんなところから文庫版で出ているようですね。でもお借りしたのは愛蔵版全4巻。見よ、この迫力の分厚さ。
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表紙を並べるとこんな感じ。
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読む前は、もうどうしようもなく打ちのめされるほどの悲劇なんだろうなぁ……と覚悟していたのだけど、思ったほどの衝撃ではなかった。

――いえ、悲劇の程度や度合いが薄いということじゃありません。程度や度合いでいえばかなりズタズタな感じなのだけど、ただただ涙して終わり、という感じではなかった、と言いましょうか。悲しみを身の内にとりこみ、乗り越えた先の姿も描かれていて、そこにほのかに安心できるような、希望が持てるような感じ。

また、少年たちが少年ゆえに持つ正直さや率直さ、潔癖さも、作品全体にずっと漂っていたような気がする。

この感じは、「オルフェウスの窓」や「トーマの心臓」の読後感と似ているかもしれない。個人的な感覚ではあるけれど。

とはいっても、ジルベールとセルジュの物語は、その生育環境から二人の関係の破綻まで悲劇まっしぐら、何度もやりきれない気持ちになった。特にジルベール! 誰にも必要とされずに生まれてきた子どもであり、子どもらしい教育も受けられず、その美しさと誇り高さ、魔性のような存在感で、幼い頃から性愛の対象として生きてきた。

彼の心の中には、常に 叔父(実は実父)のオーギュストが居座っていたのだけど――でも、ジルベールがセルジュと駆け落ちせず、オーギュストの元へと戻ったら幸せになったのかというと、やはりそうではないと思うのだ。オーギュストのあの屈折した不器用な愛は、やはりジルベールを追い詰めただろう。

ついでにいえば、もしジルベールとセルジュがパリではなくチロルに駆け落ちしたとしても、やはり遅かれ早かれ破綻は訪れたような気がする(それにしてもパリの辛酸を嘗め尽くす生活は切なすぎた)

常に愛する者のそばに片時も離れずにいたいと願い、地に足の着いた暮らしができないジルベールは、どこに行っても、誰といても、結局は早く死んでしまう運命だったのかもしれない……としんみりと思ってしまう。

作品では、ジルベールという稀代の美少年を中心に、様々な“愛”が描かれるが、主要キャラのほとんどが、単純に“良い人or悪い人”あるいは“敵or味方”という形で描かれているわけではないところが本当に素晴らしい

例えばセルジュは、素直で正義感にあふれた少年であり、ジルベールを誠実に愛する。しかしジルベールの、人一倍孤独を恐れるあまりに振る舞われる破天荒さを理解できないし、少年らしい真っ直ぐさでジルベールを傷つけもする。翻ってオーギュストは、自身の屈折した過去をひきずって、ジルベールを育てるというよりは「調教」し、時にジルベールの心を弄ぶような態度を取り続けるが、ジルベールの奔放さをある程度理解し容認できる余裕がある。

そのほかにも、セルジュを慕うカールやパスカル、ジルベールを愛するボナール、生徒総監のロスマリネと彼に従うジュール、亡き親友の忘れ形見であるセルジュを見守るワッツも、一概に良し悪しを断じられない多面性が窺われる。

同時に、これらキャラたちが見せる行動や言動も、読む人によって受け取り方が変わってくるに違いないのだ。例えばわたしは、パスカルの言葉に、時に自分勝手さが感じられてイラついていたけれど、最初から最後まで「パスカル、いい人……!」と感心した人だっているはず。

こういったこと全てが、物語に深みと厚みを加えていったんだろうなぁ……と思わずにはいられない。

ジルベールとセルジュの関係は一線を越えてしまうけれど、不思議と淫靡さを感じない。性愛よりも友情が強く伝わってくるような。セルジュ以外のジルベールのハデな男関係に比べたら、清らかに思えるぐらい。これも、セルジュとの関係を際立たせるための描き方なんだろうなぁ……。セルジュの父・アスランが残した言葉「人を愛するということは自分が犠牲を払うのではない。相手に払わせるということだ」が、物語の後半に作用しているように思えて印象的だ。

時間(セルジュの両親のエピソード/過去、ジルベール亡き後の後日譚/未来)と場所(19世紀末のアルル、マルセイユ、パリ、チロル)を縦横に巡らす立体的な構成、哲学的なモノローグ、何よりも華麗な絵柄――久々に「THE 少女マンガ」を読んだ満足感で、もうお腹いっぱい。

しかし、こんな作品、やっぱり70年代だから出てきたんだろうなぁ……と思う。その後のキンキラキンなイケイケ成金ムード80年代や、夢敗れて微妙に貧乏くさい90年代じゃ、同じモチーフでも違った作品になったんじゃないかなぁ……。
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Tags: 竹宮恵子 耽美 少女マンガ

Comment 2

2016.02.18
Thu
22:13

Riri #-

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「オルフェウスの窓」や「トーマの心臓」「風と木の詩」が好きでした。v-10
他におすすめの悲劇漫画があったら教えてください。

編集 | 返信 | 
2016.04.23
Sat
16:29

lucinda #-

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コメントありがとうございます

>Ririさん
今頃のレスポンスとなって、すみません。
私、あまり悲劇マンガを読んでいないんですよ…悲劇モノって、辛くて。
「日出づる処の天使」は大好きですけど、きっとお読みになってますよね…。
お力になれずすみません……!

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