「新ヤマトタケル伝 やまとツインズ」シリーズ(秋月こお)
でも――まさか古代、というかほとんど神話の世界といってもいい時代を舞台にしたBLがあるなんて! それも秋月こお作品で。
秋月さんは本当に歴史が好きなんだなぁ……!という感慨とともに読んだこの作品。ヤマトタケルの西征物語をベースとして、近親相姦あり、女装あり、リバありと、何だかいろんなものがてんこ盛りなのだった。
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オオタラシヒコ大王は、16歳の息子オグナ皇子にクマソの国への偵察を命じた。可憐な美貌のオグナは、荒っぽい毒舌で猛反発。その様子を見守っていたのは、おっとりした性格の双子の兄オオウス皇子。当時、双子は不吉とされ嫌われていたゆえ、二人は互いだけを信じ愛しあって育った。そんな二人が互いのモノを触りあって抱き合い寝床につくのも当然と思えるくらいに…。なのに今、オグナだけがクマソへ行くことに。その上、危険な旅の供は、弓の名手で涼しげな美男イサチヒコと、寡黙なマッチョ男で太刀名手のタヂカラヲという二人の武将のみ。ツインズ皇子兄弟の壮大な宿命とは?!古代ロマンの扉が今、開かれる。 |
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大和の皇子で双子の兄弟、オオウスとオグナは、父であるオオタラシヒコ大王の命令で大和に従わぬクマソの偵察に旅立った。二人の供は、弓の名人でオグナに気持ちいいことも教えてしまった美男のイサチヒコと、無口でマッチョな太刀名人のタヂカラヲという武将二人。少女のように可憐で美しく見た目はそっくりな皇子兄弟は、互いのモノを慰めあうほど仲がいい。ただ性格は、兄のオオウスはたおやかで優しいが、弟のオグナは相当なやんちゃ者と正反対。政庁のある難波津の湊から日向に向けて船旅に出発した一行は、淡路島で海賊にオオウス皇子を奪われてしまった。クマソタケル退治の前に、早くもツインズ兄弟に危険が…。 |
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「俺は兄さんを一日中でも抱きたい!」と、たおやかで色っぽい兄のオオウスに『もう一回』とねだるのは、やんちゃな弟のオグナ。2人はヤマトの双子皇子で、身も心も一つに繋がっている超絶仲良し。オオウスの知恵とオグナの純情で闘わずしてクマソを従わせ、オグナはクマソタケルからタケルの名をもらいヤマトタケルと名乗ることに。そんな2人に父の大王は、古き神の国イズモをヤマトに従わせるよう命じる。しかし、オオウスが突然の病に。どうやら霊力を持つ王イズモタケルの呪いのせいらしい。大好きな兄さんのため、オグナはイズモへ旅立つ。一方、ヤマトではオグナが留守の間に謀反が。病のオオウスに更なる危険が迫り焦るオグナだが。 |
全3巻。確かにヤマトタケル(オグナ)が熊襲と出雲を征伐するという、古事記(または日本書紀)のエピソードに沿ってはいるのだけど――人物設定や征伐方法がとにかくぶっ飛んでいてあ然とさせられる。軽くパラレルな感じといいましょうか。何せ、ヤマトタケルは双子の仲良し兄弟(しかも美少年)で、お互いに愛し合っちゃっているんだから!
日本書紀では、ヤマトタケルは双子だとされているらしいけれど、タケルは兄を殺してしまい、どう見ても仲は良さそうではない。だが「やまとツインズ」では、病弱だけど頭が良く冷静で穏やかな性格のオオウスと、体力があって運動神経抜群だけど短気でけんかっ早いオグナが、お互いの長所を生かしあい、短所を補いあって、熊襲や出雲を制圧するのだ。
うーん、兄弟で愛し合うって……近親相姦は苦手なんだよなぁ……と思いつつも、なんだか文章のリズムにノッてしまってずんずん読んでしまえるところがヤラレタ……という感じ。だけどさ――
「熊襲征伐」は、女装したオオウスがきっかけでクマソタケルとなし崩し的に仲良くなり、「出雲征伐」は、女装して「サクヤ」と名乗ったオグナが大立ち回りを演じてイズモタケルと和解し、それでもって両方「征伐した」っていうのは、ちょっとキレイゴトすぎる感じというか、脱力感でいっぱいなんですけど!?
そりゃ、「ヤマトの権威」をかさにきて、女装や友情で騙して相手を殺すよりは後味は悪くないけど。
しかもさらに脱力感に襲われたことには――オグナは、愛するオオウス以外とはセックスしないと誓っていたにも関わらず、自分を密かに想っていた従者のイサチヒコのテクニックと言葉にほだされて、「サクヤ」としてなら……と関係を持ってしまうのだ。つまり、オグナはオオウスに対しては攻めだけど、イサチヒコに対しては受け(それも人格は“サクヤ”)だというわけ。何なの、そのご都合主義的な体のいい使い分けは……?(でも一度だけ、オオウス×オグナの関係があったんだけどね)。
そうそう、オグナに女装セットを授けたのは、双子の叔母で巫女のヤマトヒメ(ヤマトタケル東征の際に草薙の剣を授けた人)。この人、作中では美少年の甥っ子に夢中のミーハーおばさんで、女装セットもミーハー心から授けたのだ。笑えるけど、やっぱり脱力するっつーの。
出雲征伐から帰って来たオグナたちは、自分たちを排除しようとする継母のヤサカヒメたちのクーデターも制圧し、八方丸く収まってハッピーエンド。うーむ、めでたいんだけど、なんかこれまで読んだほかの秋月歴史モノに比べると、生かしきれていないキャラが目立つし(オオウスを密かに思うタヂカラヲとか)、ちょっと大味な印象なのは否めない。やっぱり神代の時代は、扱いづらかったのかしら?
ところで「ヤマトタケル」といえば、印象的な作品がこれ。
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そのころ、日本は倭を中心に、ようやくひとつの国としてまとまろうとしていた。乙女のような美しい容姿のなかに猛々しい魂を秘めたヤマトタケルは、父、倭の大王の命のままに、熊襲を、出雲建を、蝦夷を、次々と征伐してゆく。だが、神々に愛され、万人を魅了するタケルに、なぜか大王だけは冷たかった…。ひたすら愛し、闘い、悲運のうちに逝った王子の伝説が、今、華麗な絵物語として甦る!! |
氷室冴子作。こちらは古事記をもとに書かれているのだけど、文章の重々しさに加え、悲劇を予感させるようなしんとした静けさが満ち満ちていて、読み終わった時はしばらくボーッと作品世界に浸ってしまったのを覚えている。あまりの重厚さに、レーベルを見返したほど。コバルト文庫なので、ライトノベルではあるのだけど ――「オグナのアドベンチャー物語」風な「やまとツインズ」とはまったく異なる雰囲気で、同じ素材でも料理の仕方でこうも違うかと感心してしまう。
まあ、「やまとツインズ」は「新ヤマトタケル伝」ですからね。元気いっぱい、ヤンチャなオグナが爽やかに活躍する物語ですからね。だからこそ、明神翼さんのイラストもピッタリ合っていると思う。
でも、元気で明るい「やまとツインズ」での「東征」なんて、想像できないけどね(だから西征で終わったのかも)。
