「畑に種をまきましょう」/「畑で愛をささやいて」(徳田央生)
もちろん、地方でも親戚や地域の付き合いが薄い家はあるし、都会でもそれが濃い家はあるから、一概に言えないことではあるけれど。
この本は、「ああああ、農家に嫁ぐって大変だよなぁ!」と、読みながら何度もため息をつき、うんざりしてしまった――BLなのに!
ネタバレを含むので折りたたみます。
![]() | 畑に種をまきましょう (パレット文庫) 徳田 央生 小学館 1999-03 売り上げランキング : 671304 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
おれと古賀先輩は会社では秘密の恋人同士。色違いの目玉クリップを使って、愛のメッセージを送り合う間柄だ。そんなおれたちに突然の転機が訪れた。なんと古賀先輩が会社を辞めて、実家の農業を継ぐという。慌てるおれに先輩は言った。「真実、おまえも一緒に農業やらないか?」で、おれも一大決心して先輩の生まれた村に。でも家には先輩の家族が住んでいる。おれ、みんなとちゃんとやっていけるかなあ。(あらすじより) |
![]() | 畑で愛をささやいて (パレット文庫) 徳田 央生 小学館 1999-10 売り上げランキング : 673257 おすすめ平均 ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
秋も深まる小泉村に伝説の美女が帰ってきた。彼女、茜さんの帰郷に、村はやにわに騒然となる。倉科さんたち独身男はともかく、古賀家のお母さんや菜々子さんまで大喜び。なぜって、茜さんは昔、古賀先輩のガールフレンドだったんだ。しかも離婚に傷ついた彼女と息子に、先輩もすごく同情的で。お母さんの思惑や、周囲の無責任な噂のために、おれと先輩の平和な生活にも暗い陰が…。先輩、頼むからこれ以上ハラハラさせないで!!ハラハラドキドキの小泉村物語第2弾。(あらすじより) |
2冊の表紙はこれ。

さて、主人公の「おれ」は、生まれも育ちも川崎の花咲真実。バリバリの都会っ子だ。ゲイの真実は、会社の憧れの先輩・古賀に片思いをしていたのだが、なんと古賀もゲイで真実を可愛く思っていたということで、めでたく両思い。この辺は都合よくサクサク進むBLそのものなのだけど。
古賀が会社を辞めて農業を継ぐと決意してから、話は俄然、えげつないほど現実的に進んでいく。古賀にプロポーズ(?)されてついていく真実だけど、最初は客分扱いだったのに、ひょんなことから、しかも最悪な形で古賀が家族にカミングアウトしてしまったとたん、たちまち姑や小姑からイビられる「嫁」の立場に転じさせられるのだ。
この真実の四苦八苦が、わたしには他人事ではないほどリアルで――別に農家に嫁いだ友人がいるわけじゃないけど、嫁ぎ先での気遣いや孤独感、実家に帰った時の開放感などが、いちいち周りの既婚者の言葉に重なるほど。そこら辺のBLの嫁取り話とは、まるで別ジャンルのような迫真さだ。
とにかく、古賀の母親と妹の菜々子の意地悪さがですね、ゾッとするほどネチネチしていてですね――息子はゲイだと言ってるのに、まずそれを理解できないから、いつまでたっても「嫁をもらえ」と言い続けるし、ゲイに偏見があるから、ひどい言葉を真実に投げつける。しかも身内の古賀にはそんなことを言わないのが、「ああ、嫁はしょせん他人だからねぇ……」と涙してしまいそうになるところ。
「うーん、これじゃあ、農家に嫁には行きたくないよなー」とつくづく思ってしまう。いや、母親は「拓郎(古賀のこと)が嫁をもらったら、絶対大切にしてやさしく扱おうと思ってた」と告白するのだが、どーですかねー、あの様子じゃ、遅かれ早かれ嫁をイビってたんじゃないですかねー……と勘繰ってしまう。
特に菜々子の性格の悪さは特筆モノ。これまでいろいろBLを読んできたけれど、ここまで憎々しいと思ったキャラは初めてじゃなかろうか。「根は決して悪い娘じゃない」なんて古賀は妹のことを言っていたが、全編通して「いいとこあるじゃん」と思えるシーンが一つもなかったのが、おかしくも印象的だ。
――まあ、母親と菜々子の憎々しさが際立つのは、それだけ、BLなのに女性の存在感が大きかったということかもしれない。そしてやっぱり同性だから、わたしは菜々子の意地悪さに感情的に反応したのかもしれない……と、少しばかり思わないでもない。
明るくて前向きでへこたれない真実のようなイイ子キャラは鼻につく――などとひねくれた印象を抱きかねないわたしだが、今回はそれどころではなく、ひたすら心の中で応援していた。いえ、確かに真実、素直でやさしい性格がいじらしいのだ。あんまりけなげなので、「古賀! もっと母親と妹から真実を守ってやらんか!」と怒鳴りたくなるほど。まったく、要所要所で母親と妹を牽制し、フェアな視点で真実に接する父親(舅)がいてよかったよ。
同性愛に対して無知なのは、何も家族だけではない。地域の古賀の友人たちだって、まさか古賀がゲイだとは知らないし、当然、真実が古賀の恋人であることなど思いもよらない。家族でさえあれだけ抵抗されているなら、地域社会では――と想像すると、思わずため息が出てしまう。これから古賀と真実、地域社会にはどう折り合いをつけて生きていくんだろうなぁ……と思う。
何だかギスギスしたところばかり書いているけど、ストーリーには農業の細かな作業を通したやりがいや、地域の家同士の微妙な力関係、嫁が欲しい青年たちの大騒動などが盛り込まれていて、ズンズン読み進められる。農家って大変だなぁ……と思うけど、どこかのんびりとした雰囲気も伝わってくるのが、救いかもしれない。
この作品、シリーズを通してのテーマは「古賀の嫁取り&地域の青年たちの嫁取り」。農家の嫁不足って、本当に深刻なんだなぁ……と妙に実感させられるのだった。BLなのに。
でもやっぱり、あんな雰囲気じゃ、嫁はなぁ……。
