姫君の輿入れ(和泉桂)【いとをかし平安BL】

 13,2009 23:46
Myツボな平安モノシリーズをアップしている間に、

私も女装とショタは地雷だったけど、友達にすすめられて読んだら、予想に反してすごく面白かったので、騙されたと思って1回読んでみて下さい!

という拍手コメントをいただいた「姫君の輿入れ」。これ、「貴公子の求婚」が出るきっかけとなった元の作品(変な言い方だな)。そう、BLの棚にありながら、タイトルといい、表紙絵を見る限り姫姿といい、いかにも女装モノと察せられる内容。たしかに、方々のレビューでは評価が高かったのだが、「捻りがない……」と思えて、未読だったのだけど――。

和泉作品だし、食わず嫌いはよくないか!と、手にしたのだった。

ネタバレを含むので折りたたみます。
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「私のためだけに咲き、私のためだけに散ればいい」。今を時めく左大臣の一の姫にして、帝に入内を心待ちにされている姫・狭霧には、誰にも知られてはいけない秘密があった。それは、実は男子であるということ…狭霧はとある事情により、男でありながら生まれたときから姫として育てられていたのだ。そんなある日、光源氏に喩えられる遊び人で、父の政敵でもある宰相中将・源実親が狭霧の許に突然現れて!?貴公子と少年、平安の華麗なる婚礼奇譚、誕生。(あらすじより)

男なのに、よんどころない事情で女として育てられた狭霧。しかも時代柄とはいえ、「男だとバレたら困る!」とばかりに、ほとんど幽閉生活。

そんな不便な生活を強いられるのには、よほどの理由があったに違いない。例えば、「男として育てたら早死にしてしまう」と予言されたとか、「男として育てたら、一族に災いをもたらす」と陰陽師に宣告されたとか……と思っていたのだが。狭霧が姫君として育てられた理由は、ただただ、

姫君に恵まれなかった左大臣が、姫君誕生に沸く右大臣を牽制するため

ということに、呆然とした。――それだけ!? たったそれだけが理由なの!?

――まあ、当時は摂関政治華やかなりし頃。帝に嫁げる姫君がいるのといないのとでは大違い……というのはわかるけど――問題はほとんど左大臣のエゴやメンツじゃん! そりゃ、嘘をつき続けることで、後に引けなくなったのはわからないでもないけど、狭霧が可哀想すぎる。

ともかく、超理不尽な理由で姫君として育てられた狭霧だけれど、必ずしも姫君として生活していることをよしとしていないところが、物語のキーポイント。しかし現実は、生まれつきの美しさも手伝って、心ならずも有力な貴族ばかりか、帝にまで結婚を望まれている。とはいえ、男である狭霧が入内はもちろん、貴族と結婚するわけにもいかない。狭霧が男とバレたら、左大臣一家はどうなることか! いつまでも入内や結婚をかわすことはできないなら、いっそ尼に……と思っても、そのうち狭霧が女ではないことがわかるだろう。一体どうすればいいの!?……というジレンマを抱えている時に表れるのが、光源氏に喩えられる宰相中将・源実親だ。

実親は、強引に狭霧の元に忍んで契りを交わすのだが、その当初の理由は、折り合いの悪い異母兄である当今・五条帝と、強引に権勢を振るう左大臣の鼻を明かしてやるため。しかし、狭霧の元に通ううちに、実親は狭霧に惹かれていく。そして、狭霧も実親に惹かれていくのだ。

「姫君の輿入れ」というタイトルから、ラストの情景として「輿入れ」が登場するのかと思っていたのだが、さにあらず。輿入れ自体は、進退窮まった左大臣家が狭霧の希望でやむなくとった措置であり、むしろ輿入れ後、狭霧は「本来の自分」を取り戻していく。

そう、狭霧は実親に輿入れしたことで、男として生きる選択肢を手に入れ、幸せになるのだけど――ここで「実親と狭霧は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」とすんなり進むはずがないのが、和泉さんの作品ならでは。お互いへの誤解や嫉妬からの不信感、思いもかけぬ事件などが持ち上がるなど、一波乱も二波乱も用意されている。そして和泉さんらしいといえば、攻めの中将・実親の狭霧への態度に、軽く嗜虐趣味が漂っているところ、かな。

――確かに、女装モノではあるけれど、狭霧や実親の葛藤は、なかなかに読み応えがあった。萎えることなく、予想外に一気に読めた。でも、「平安時代、姫君だと思って通ったら男だった」ってモチーフは、どうも新鮮味に欠けるような気がするのだ。「女装した男君」ってのが、すでに「とりかへばや物語」(約830年前に成立!)に登場しているせいなの!? たんにわたしがヘソ曲がりなだけ?<そうかも

BL自体、“お約束”でいっぱいだから、少しでも“お約束”ではないモチーフや展開がある方が、読者としては嬉しく思ってしまうのは、読者のワガママかもしれない。でもだからこそ、連作の「貴公子の求婚」では、公達同士という設定にされたんじゃないかなぁ……。

読んでいて気付いたのだが、狭霧や実親、そしてそのほかのキャラクターなど、誰か特定の人物に肩入れしたり共感したりすることなく、常に遠く離れた位置で見守る客観的視点で物語を読めるのも、個人的に感じる和泉作品の特徴のような気がした。

「貴公子の求婚」と同じく、和泉さんの平安時代モノディテールへの飽くなき追求は、ここでもしっかり感じられる。狭霧の着ている装束、屋敷や部屋の様子、都の町の様子――「あくまでも平安風だから!」というあとがきのエクスキューズなんて必要ないほど、読めばたちまち平安時代の雰囲気に酔える感じ。和泉さんには、ぜひともまた、女装やショタが絡まない平安モノを書いていただきたいと思うのだった。
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Tags: 歴史/時代BL 和泉桂 佐々成美

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