夢にも逢いみん(かわい有美子)【いとをかし平安BL】

 05,2009 02:28
書店でヨロめきかねない、Myツボな平安モノポイントを押さえた作品の、最新ヒットはこれ。表紙絵の、左側の受けらしい方がミズラを結っているので、コドモ……!?とたじろぎつつも、そんな懸念は吹っ飛びそうな色気に瞬殺され、なかなか手を付けられずにいたかわい有美子作品を、一気に読んでしまったのだった。<ちょっとかなり、失礼なんじゃないの!?

ネタバレを含むので折りたたみます。
夢にも逢いみん (リンクスロマンス)夢にも逢いみん (リンクスロマンス)
かわい 有美子

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東宮となるはずが、策略により世から忘れ去られようとしていた美しい宮は、忠誠を捧げてこの世のすべてを与えようとしてくれる涼やかな容貌の公達・尉惟に一途な恋慕を抱いていた。だが、独占しつくさんとする尉惟の恋着ゆえの行いに、自分が野心のために利用されているのではないかという暗い疑念がきざしてしまう。こんなにも恋しく切ない。なのに、その恋しい男が信じられない―。濃密な交わりで肌を重ねてもなお、狂おしい想いを持て余す宮は…。(あらすじより)

読み始めたかなり早い段階で、「これは源氏物語みたいだなぁ……」と思えて仕方なかった。光源氏が、運命の女・藤壺中宮にそっくりの少女・紫の上を自分好みに育てるという、アレです。何しろ、美貌の左大臣家の長男・尉惟(やすちか)は、絶世の美女だった亡き伯母にそっくりの、まだ幼い皇子・桂の宮に心を奪われ、「やがては東宮、そして帝位に」(&オレ好みに)と、さまざまな教養を授けるのだもの。初めて結ばれた日の翌朝のやりとりも、宮のあどけなさが可愛くもエロい。

しかし尉惟も桂の宮も男性なので、すんなりと「結婚」というわけにはいかないのが難しいところ。宮が可愛くて執着やみがたい尉惟は、自分の妹・一の姫と宮を結婚させ、さらに自分は、宮の姉・女四の宮と結婚して、絆を深めようとする。当然、宮との関係は続いているわけで、うーん濃ゆい……というか、冷静に考えたらちょっとキモチワルイ。かわいさんのあとがきによると、この2人は「デレとデレ」ってことなのだけど、ふーむ……。

宮が、一の姫と仲は良いものの男女の関係にはなれない(なる気がない)のに対して、尉惟は女四の宮との間に子どもを作る。この時の宮の嫉妬と苦悩が……! ちょっとこのあたり、嫉妬に狂う六条御息所のようでもある。

だが宮は、色恋だけに苦悩しているわけじゃありません。先帝の「東宮に」の言葉にも関わらず、異母兄で現聖主・東園帝の母・弘徽殿皇太后と、その父・右大臣(もちろんどっちも意地悪。源氏物語でも、弘徽殿女御は意地悪だったな)によって、立太子どころか、なかなか元服も叶わない。ようやく元服しても、右大臣が死ぬまで東宮宣下は下らなかったのだが、それでも尉惟をはじめ、反右大臣派の貴族・皇族たちが桂の宮を慕って取り囲む様子は、政治のパワーゲームがほんのり匂う。

桂の宮が、尉惟は出世のために自分を利用しているだけじゃないのかと疑心暗鬼になるところで、取り巻きの貴族や皇族たちが尉惟を批判しながら宮に取り入ろうとしている様子もゲームのよう。そしてとどめが、弘徽殿皇太后の“桂の宮を呪術で追い落とし作戦”のなりふり構わなさ! 「源氏物語」から一気に、「陰陽師」(夢枕獏)的な妖しの世界に突入なのだ。

読む前に、ハッピーエンドだろうと思ってはいた。けれど、結構最後までハラハラさせられたのがニクい。女四の宮の死の原因は何なのか、不遇の桂の宮がどうやって聖主になるのか、ページが残り少なくなって、「なぁーるほど!」と納得いたしました――そんな感じ。

無事に聖主となった桂の宮と尉惟は、どうやって関係を続けるのかしらん? という疑問もあったのだけど――これも最後に完全氷解。そうねぇ、まあ現状はそれでイケるのかもね。でも、宮はどうがんばっても子作りは難しそうだけどなぁ……個人的予想では、東園帝の皇子が東宮になるんじゃないかとニラんでいる。ほら、意地悪な右大臣はいないし、弘徽殿皇太后も出家したしね。あとは、兵部卿宮とかの皇子が登場するとか。ムリヤリすぎ? てか、余計な詮索しすぎ?

かわい作品は初読みだったけど、やっぱり人気なだけあるなぁ……! と心から感心した。練られているというか、スカスカしていない緻密な感じというか、あからさまな破綻を見せないというか――読書好きな腐女子の要望を、しっかり掬い取ってくれるような、この安心感。

そしてそして、イラストですよ! あじみね朔生さんの時代モノのイラストを見るのは初めてだったのだけど、なに、表紙絵のこの細かい衣装の文様は!? これ、桂の宮が初めて異母兄の東園帝に対面する時の衣装なのだが、あとがきでかわいさんが、

「ちゃらっと雲鶴文様なんて書いておりますが、実際にこんなもの絵に描けと言われたら、やはり本気で走ってて飛び蹴りをかましてやろうと思うんじゃないかと」

unkaku.gif
これが雲鶴文様。この文様も含めて有職装束のあれこれを解説しているこのサイト(www.yusoku.com/museum.html)が面白い。

と書かれているように、本当に凄い。そして、桂の宮の即位式のイラスト(P227)も同じく。このときの桂の宮が着用している礼服の、作品内で説明されているワケのわからん文様も頑張って描かれているんだもの。なんというか、以前、奈良千春さんの刺青の絵を見たときと同じぐらい、震えそうになった。もともとしっとりめな絵だと思っていたけど――あじみねさんは、結構時代モノ向きなんじゃないかなぁ……! 作品世界の雰囲気と絵柄がピッタリ合っていて、このアサインはかなりグッジョブじゃないかと!

平安時代の貴族たちの暮らしの描写も違和感がなく、かわいさんは「古典調なんちゃってふぁんたじー」なんておっしゃっているけど、なかなかどうして、総体的にかなり満足。桂の宮を狙う男が尉惟以外にもいるのだが、「貴族社会では、異性、同性を問わずに関係を結ぶことにおおらか」なんてサラッと書かれているのにも、内心ニヤついた。

全然別の物語でいいから、平安時代じゃなくてもいいから、またこの組み合わせでの時代モノ作品を読んでみたいなぁ……!と思うのだった。
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Tags: いとをかし平安BL かわい有美子 あじみね朔生 歴史/時代BL

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