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愛すべき娘たち(よしながふみ)

 18,2009 23:34
母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか の中には、母娘関係をモチーフにした(あるいは印象的に設定された)少女マンガがいくつか引用されているのだが、中でも筆者である斎藤環氏が絶賛していたものの一つが、よしながふみ作品。

愛すべき娘たち (Jets comics)愛すべき娘たち (Jets comics)
よしなが ふみ

白泉社 2003-12-19
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(内容紹介)「女」という不思議な存在のさまざまな愛のカタチを、静かに深く鮮やかに描いた珠玉の連作集。オトコには解らない、故に愛しい女達の人間模様5篇。

「連作」なので、5編それぞれに主人公は設定されているのだが、すべてにつながっているのは、雪子。雪子が主人公の話もあるが、時に雪子の母・麻里が、時に雪子の友人・莢子が、時に麻里の再婚相手・大橋の友人に告白する女子大生・舞子が、時に雪子の中学時代の友人・佐伯が主人公となる。

斎藤氏が取り上げたのは、麻里の子ども時代が絡む第5話。それは、女学生時代に容姿のよさを鼻にかけたいけ好かない同級生のおかげで嫌な思いをした麻里の母親(つまり雪子の祖母)が、他人から賞賛されるほど可愛らしいわが娘・麻里に、「お前は出っ歯だからかわいくない」と幼い頃から言い続けてきたことによって、麻里は自分の容姿を「美しくない」と思い込んでいるという話だ。実際は麻里は、雪子から見ても相当に美しいのに。そして雪子よりも年若い夫・大橋も、臆面もなく「きれいだよ」とほめるにも関わらず。

――なるほど、確かにこれは、「女性らしさ=身体性への配慮」を、母親の個人的な価値観による言葉で支配された娘の話だ。これほどまでにきっぱりと効果が顕れるかはさておき、似たような記憶のある女性は、少なくないのでは……と思う。

ただ、この「愛すべき娘たち」の巧いところは、5編すべてが「母娘関係」をモチーフにしているのではないことである。ある女性は祖父の、ある女性は過去につきあった男性の、ある女性は父親から性的虐待を受けていたらしい同級生の、言葉によって縛められている……と思える。「言葉」がキーワードであることだけが、共通しているように思える。

実はこれを読んだ時、わたしは不覚にも泣いてしまった。どこで泣いたのかといえば、第5話ももちろんなのだが、莢子が主人公の第3話と、佐伯が主人公の第4話。莢子は恋愛できない女性であり、佐伯は苦しくても自立を維持するために働き続けようとする女性だ。もしかしたら、これを読んで涙ぐむ話は、よしながさんがいうところの「抑圧ポイント」が描かれているところじゃなかろうか――というのは、穿ちすぎだろうか。

これがBLなら、もしかしたら辛うじて泣かずにいられたかもしれない。女性が主人公だから、余計に心の弱いところを掴まれたような気がする。こんな作品を描けるなんてすごすぎる――!

――と思ったのは、斎藤氏も同じで、本文中に2回も取り上げているのは、ほかには萩尾望都さんの「イグアナの娘」だけ。相当、お気に召している様子だ。

斎藤氏は、なにも「愛すべき娘たち」だけを絶賛しているわけではない。三浦しをんさんとの対談でのよしながさんの発言を何度か取り上げているが、そのキーワードは以下の通り。

■抑圧ポイント
男の人の抑圧ポイントは一つだが、女の人の抑圧ポイントは一人ひとりバラバラだ
■恋愛教信者
少なくとも日本とアメリカにおいては最大の宗教は恋愛

どちらも、確かにパッとイメージしやすく、ハッとくるキーワードだった。斎藤氏は「抑圧ポイント」という表現を手放しで賞賛しており、確かに「誰かに劣等感を感じさせるような価値規範」(by斎藤氏)を、こんなに簡潔に表現した言葉は、ほかにないだろう。「恋愛教信者」にしても、恋愛最高!な風潮を「宗教」と言い表せるのは、ただごとではない。

よしながさんご自身は、フェミニズムを前面に押し出しているつもりはないようだが、もしも堂々とフェミニストを名乗られたとしたら、今すぐスカウトしなければならない人材だと思う。少なくとも、仮にわたしがフェミニズム論壇の最前線に陣取っている立場だとしたら、全国各地の美味を手に、速攻交渉に向かうのは間違いない。

冗談はさておき、しかしフェミニストを公言しなくても、よしながさんがやおいやBLが好き=腐女子だという時点で、無意識のうちにフェミニズムやジェンダー論に敏感になる素養があったということかもしれない。とはいっても、腐女子が全員、フェミニズムやジェンダーに敏感になるわけではないと思う。逆に、フェミニズムやジェンダーの論者が全員、腐女子になるわけでもない。ここら辺が微妙で複雑な感じ……。

ところで、「母は娘の……」で、「愛すべき娘たち」「イグアナの娘」以外にも、下記の少女マンガが象徴的に引用されている。

「ダイエット」(大島弓子)、「いつもポケットにショパン」(くらもちふさこ)

なんだかよしながさん以外、“24年組”など大御所の作品が目立つ。大体よしながさんだって、24年組作品から強い影響を受けている作家でもある。うーん?

そもそも、どうして「母は娘の……」で少女マンガが引用されているのかといえば、評論家・大塚英志氏の言葉を借りながら、斎藤氏はこう説明している。

およそあらゆる表現ジャンルの中で、『母殺し』問題というテーマを、その発生当初から最も切実な主題としてきたのが少女まんがにほかならないから(本文P98より)

もっとも大塚氏は、「母殺し」問題というテーマを主題としてきたのは「かつての」少女マンガだと主張しているようで、1990年代後半に相次いで出版された、少女マンガ家たちによる「出産コミック」について、

「かつて少女まんがというジャンルが澱のように自らの内部に抱え、その呪縛に苦しんでいたかのように見えた主題(=母殺し?)は決して清算されていないのに、出産コミックの書き手たちは、そうした主題があたかも清算されたかのように、あっけらかんと自らの母性を肯定している」

と、批判していたようだ。

――清算されていない主題を、あたかも清算されたかのように肯定している、なんて、なんだか初期BL(あるいはJune)と現在のBLを対比させた批判みたいだ。少なくとも、そういう不満を感じている読者はいるんじゃないかな……と、思う。

清算されていない主題は、永遠に清算されないのか。それとも肯定しているうちに本当に清算されたのか……。BLは、もしかしたら少女マンガが辿った道を、忠実になぞっているのかもしれない。

長々と引用しましたが、「母は娘の人生を支配する」関連のレビューはこれで終了です。おつきあいありがとうございました。
関連記事

Tags: よしながふみ 斎藤環 ジェンダー フェミ? 第一子長女 母娘 少女マンガ

Comment - 6

2009.03.19
Thu
04:30

グティ #-

URL

初めてコメント致します。
フェミニストの妹の影響からか、BLとジェンダー論やフェミニズムの関係に日頃から興味があり、lucindaさんのブログをいつも楽しく拝読しています。
斎藤環さんの著者、私も興味深く読みました。私は大学生で腐女子から卒業したのですが、私の「抑圧ポイント」は何だったのかなと考えています。確かに女子の「抑圧ポイント」は様々ですよね。
同時期に読んだ信田さよこさんの『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』も、同じ内容を扱っていて面白いので、参考までに。
これからもブログ楽しみにしています。

編集 | 返信 | 
2009.03.21
Sat
02:11

もと #4pDgvQA2

URL

あー上手いこと言うな~と思いました、少女漫画から出産漫画へのくだりとBLとJuneの辺り。
私自身は出産漫画は見て共感できるところもあれば「…ねーよ!」な所もあり、ほとんどは受け流せたんですけど、躾とか母性とかこうより個人的な話題でどうにも肌が合わないとダメでしたね(^^; 責められてるような気がして逆にイラっとしたりしてねww
あれだけ出産関係のマンガがあるのは、あれだけ必要なんじゃないかと思ったりもします。
あれだけあれば、自分に似通っててほっとするものもありそうだから(^^;
だんだん娘が妙齢担ってきて、母娘関係がかなりこの辺とリンクしてきた今日この頃、母としてどうあるべきなんだろう?ってのはいつも自問自答です。

編集 | 返信 | 
2009.03.21
Sat
12:37

ひなワンコ #-

URL

こんにちは

いつも、楽しく拝見させていただいてます。母と娘、この主題、興味深く拝見しました、おぉ、と納得すること多いお話ばかりでした、こんどはぜひ、なぜ腐女子になる子と、ならない子がいるのか、を考察していただきたいです。わたしは小学生からなかのよい友人がいるのですが、えーぶっちゃけ、この友人たちは、私を含めて、はみだしっこ、でして、ほぼ同じものが好きなのに、腐はわたし一人!遠くはなれた今でも、本をおくり、映画のはなしでもりあがり、まんがをよんでいる仲間なのに・・スーパーナチュラルの兄弟に、はまっても、くちがさけても、兄ちゃんが受けだよね、とはいえない、なぜかわからないんですよねぜひよろしくおねがいします、あっわたしの友人は一人をのぞいてすべて長女です、



編集 | 返信 | 
2009.03.21
Sat
23:09

まにまに #-

URL

lucindaさんの三部作?やっぱりすごく力作ですね~!
私もよしながふみさんの「愛すべき女たち」大好きです。
涙なしでは読めませんよ。
腐女子のアンケートもそうでしたが、BLにハマっているということ以外(ハマっていないけど楽しんで読んだりはしています)ことごとく自分に当てはまるものが多く、ちょっと怖いくらいです。
lucindaさんの記事を読んでいて思い出したのが、私が子供の頃、母がよくテレビに出ている女性のアイドルなどを見て「O脚なのにミニスカートはいてみっともない」とか「笑うと歯茎が出るからかわいそう」とか、恐ろしいことを言っていまして、それが完全に私の頭にインプットされているんですよね(きっと母も誰かに言われたんだと思います)。
母への葛藤は長らく私の中にあったのですが、「愛すべき女たち」で主人公が「母というものは要するに不完全な一人の女なんだ」って気づくシーンにに救われました。
母もその母親に葛藤があったみたいですし、嫁・姑関係は最悪でしたし、完全に抑圧の移乗ループにはまっていたのでしょう。
一方、弟(第2子長男)は父に対して並々ならぬ憎悪があって、同性の親子って難しいなってつくづく思います。

ひとつ気になったのが、齊藤さんのヘテロセクシズムと対幻想のくだり。
対幻想ってゲイでも十分持ちうるというか、むしろ対幻想の強い同性愛者って多いと思うんですよね。
親子とか友達でも対幻想をもつことは可能だし。
ヘテロセクシズムを中核とした生殖に基づく「家族主義」=対幻想というのがどうしても解せないんですよね。
ヘテロセクシズムの対幻想を拒否しているのが齊藤さんがあげている人たちなのかな?
それと、lucindaさんにぜひお聞きしたいが腐女子と対幻想の関係。
そこがやっぱりわからなくて、どうなっているんだろう?と素朴な疑問を持ち続けています。
「ゲイの純粋な対幻想を抑圧されている女の自分が俯瞰で見る楽しさ」って言われると少しわかる気がするのですが、ひどい勘違いをしていたらごめんなさい。
私の想像を全否定してくださっても全く構わないので、そこら辺を教えていただけるとうれしいです。

長々とすいませんでした。
これからも楽しみに読ませていただきます!

編集 | 返信 | 
2009.03.22
Sun
21:37

相沢 #-

URL

苦しくなる作品です。

こんにちは。私にとってフラワー・オブ・ライフが きゅんとくる甘酸っぱさであるならば、愛すべき・・は、みぞおちが痛くなるきゅーっと苦しくなるような作品です。莢子が「ああ・苦しい」というコマがありますが、私はきっと莢子さんみたいな人が近くにいたらきっとストレスだろうな・・とか思っていて。
ラストでああなったのは私みたいな凡人にとってはよかったかも。と ファンにあるまじき毒々しい読み方をしていますし、それも考えた上でのあのラストなら よしながふみってすごいよなと思っています。

たぶんよしながさんはそんな毒々しいことは考えていなかったと思いますけども。

母と娘の連作のわりに 母娘関係は じめじめどろどろしてなくてさっぱりとしてる。そのさじ加減が絶妙です。

編集 | 返信 | 
2009.03.26
Thu
07:11

lucinda #-

URL

みなさま、コメントをありがとうございます。
そしてレスが遅くなって本当にすみません。

>グティさん
「母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き」、「母は娘の…」をアマゾンで検索すると、おすすめされている本でした(笑)。このタイトルを見て、母娘関係は根が深そうだ…と改めて思ったことです。
腐女子を卒業されたとのことですが……10年後ぐらいに復活するかもですよー<唆し。まあ、復活するかどうかにも、抑圧ポイントは関わるのかもしれませんね。

>もとさん
出産マンガ、本当に一時期多かったですよね。マンガに限らず、出産本も増えたと思います。でも、

>個人的な話題でどうにも肌が合わないとダメ
なるほどなぁ…と思いました。出産していない&予定のないわたしは、へぇ…くらいの気持ち(限りなく他人事っぽい)でしたが…でもかすかにきれいごとっぽいなぁ…と感じることもありました。
娘さんがお年頃かぁ……<遠い目。新たに考えざるをえないことも、でてくるんでしょうねぇ…。

>ひなワンコさん
腐女子になるかならないか…は、腐女子でなくなるかどうかと並んで、なんか永遠のテーマっぽいですよね。答えはありそうでないような気がします。案外、ひなワンコさんのお友達も、何かのきっかけで今後、腐女子になるかもしれないし。もしお友達が腐女子になったとしたら、何がきっかけだったのか、逆に教えてください…とお願いしておこう……。

>まにまにさん
もっと簡潔にまとめたかったのですが、力及ばずでした。
お母さんがテレビを見て…という部分、そういえばわたしの母や叔母たちも同じでした。うーむ…。

「対幻想」は、「母は娘の…」の中で吉本隆明氏の「共同幻想論」から引用されているのですが、わたしもこの部分、なかなかイメージできずにいて、「ヘテロセクシズムが中核に…」云々の斎藤氏の解説(というか考察?)をそのまま受け入れた…というところです。なので、対幻想を絡めて腐女子やゲイについて考えることが、すぐにはできそうにないというのが、正直なところで……すみません(逆に、対幻想はゲイでももちうる、と考えられたまにまにさんの洞察力がすごいです。どうしてそう思われたのか!?と、未だにしっかりイメージできないあたりが……orz)。

単なる直感ですが、対幻想についての斎藤氏の解説にある「生殖」というのが、一つのポイントなのかなぁ…という気がしますが…。BLの中の家族もの(勝手に命名。「毎日晴天!」シリーズとか「子連れオオカミ」とか)は一定の人気があるように思うのですが、他人が寄り集まって「家族」になっていく、というのが個人的にはツボで、その辺も関係あるかもしれません。いや、本当に今思い浮かんだ直感です! コメントまで力及ばず、すみません。

>相沢さん
みぞおちが……の辺り、すごく共感しました。わたしも、莢子みたいな人がそばにいると、ストレスを感じるような気がします。古今東西、煩悩絶ちがたく尼僧が俗世間に戻る話はよく目にしますが、莢子の場合はその逆、というのが面白いなぁ…と思ったり。
母娘関係たしかにさっぱりしてますよね。祖母と母のドロッとした母娘関係もさらっと描かれているのが巧いと思いました。

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