母は娘の人生を支配する(斎藤環) その2

 17,2009 23:09
母は娘の人生を支配する―なぜ「母殺し」は難しいのか の感想 その2です。

女性性とは身体性である」というその理由や根拠をどうにか頭に入れるたわけだが、そうすると、先日の「兄弟姉妹関係アンケート」結果や、以前アップした記事と関連する事柄が、ついつい目に入ってしまう。

そこで、印象に残った部分をピックアップしてまとめてみた。

■女性は男性よりもはるかに「見られる性」である
「女性らしさとは身体性(化粧やファッション、しぐさなど)への配慮」である。そのため、「女性はつねに、自分と他者の肉体を意識しながら生きているし、男性よりもはるかに『見られる性』であるため、自分がどう見られているかをつねに意識させられる(本文P183より)

この部分、「女子オタクとビアンのファッションは」をアップした後にいただいた、まにまにさんからのメール内容とオーバーラップしていて、唸ってしまったのだった。公開のご了承をいただいたのでまにまにさんからのメール内容(抜粋)を公開すると――


細かいことをたくさん省いて言ってしまうと、男性=見る存在、女性=見られる存在というジェンダーの差が、やっぱり大きくあると思うんです。で、それを前提として考えると、女のオタクとレズビアンのファッションが似ているというのは、「男に見られる存在であること」の興味のなさとか拒否感みたいなのが、男ウケを気にしないようなファッションにつながっているのかなと。

それでも女性は「見られる存在」であることを内面化しているので、まあそれなりの格好だったり、レズなら女にウケないとまずいわけですから、その辺を多少なりともアピールするような格好になるんじゃないかと。

一方、男子オタクは自分が見られる存在だという認識がもともとない上に、恋愛対象が生身の女性ではないから、ほとんど自分の見た目を気にしないけど、ゲイは今の日本では結婚できませんから、ヘテロの男性に比べて財産とか地位とか見た目以外のもので勝負し難くいし、そうするとそれなりに見られる存在として頑張らないと…ということになるのかなぁ?と。
(太字は管理人)


わたし、フェミニズムの文献についてほとんど無知なため驚いたのだが、「男性=見る存在 女性=見られる存在」って、有名というか常識的な見解(?)なんでしょうか!? そうではなくて、まにまにさんの考察が超絶に鋭いということの証なんだろうか?

それはさておくとしても、女性オタクとビアンのファッションについての分析は、「母は娘の…」の見解とほとんど変わらない。「『男に見られる存在であること』の興味のなさとか拒否感みたいなのが、男ウケを気にしないようなファッションにつながっている」とは、まさに「ヘテロセクシズムへの反抗や拒絶」ではないか!

そして、女子オタク(腐女子)、ビアン、女性の摂食障害患者、ひきこもり患者が、ヘテロセクシズムをすんなり受け入れられないことで共通しているのは、「その1」で確認した通りだ。

男子オタク(かつノンケ)が「見られる存在だという認識がない」けれど、ゲイが「選び選ばれるために、見られる存在として頑張らないといけない」という分析も、なるほどなぁ……と思う。

ゲイ関連のサイトや書籍を見ると、「デブ専」「老け専」「ガチムチ」「クマ系」など、見かけ(なんか体型を表す言葉が多い…)を意識している言葉を目にするもんね。

体型や見かけにこだわったりする男性について、時々、「男性はナルシストだから」などという言葉を聞くことがあるけど、ナルシシズムとは自己愛なので、他人に気に入られるように身なりを整え、「見られる存在であることを意識する」こととはまったく別だろう。とすると、他人に選ばれるために体型にこだわっているとすれば、「ナルシスト」とも言い切れない……ってことか?

ちなみに斎藤氏は本文の中で、

「ナルシシズムは異性の親から愛されることによって育まれ、母親やほかの女性の存在は、男の子のナルシシズムを育みはするが、娘のナルシシズムを確率することはできない」

と説明している。

まあ、個人的には「ナルシシズム」って、他人そっちのけで自己満足しているイメージがあり、ノンケの男性オタクはこれにあてはまるのかも……と思っていたら。

■男性オタクたちは、「現実」での恋人を切望している
男性オタクについて、

美少女アニメやフィギュアにうつつを抜かしながらも、『現実』において恋人を持つことを切望」しており、アニメやギャルゲーなどに登場する美少女キャラに「萌え」ることは、すなわち「たとえ仮想空間の中であっても、そこに対幻想を求めずにはいられない(本文P132、135より)

と説明されているのを読み、ひたすら「へぇーっ……」と思うばかりだった――二次元で決して充足しているというわけでもなかったのね、というか。二次元の恋人とは、本当に言葉どおりの、それこそ次元を超えた「恋人」の意味なんだなぁ……と、改めて納得し、妙に新鮮だったというか。

あと、やはりただただ「へぇーっ……」と思うしかなかったのは、

「男性にとっての肉体は、空気のように透明な存在であり、激しい疲労や痛みが生じた場合だけ、自分も身体を持っていることを思い出す

という説明。別にわたし自身がいつも自分の身体を意識しているわけではないけど、かといってこの男性の身体感覚もよくわからない。なんだか男ってわからないなぁ……(男性は女性のことをそう思っているだろうけどさ)

■腐女子には母親との葛藤を抱えた事例が多い?
そうした趣味を持ってしまったこと、母親がそれを承認しないであろうこと、というふたつの条件だけでも、葛藤が継続するには十分過ぎるほどです(本文P137より)

うーむ……先日の兄弟姉妹関係のアンケート結果で、「少子化が進んでいるので、アラサー以下世代では第一子長女の多さは変動するかもしれないし、腐にハマった背景も多様化していくかも」と、まるで「老兵は消え去るのみ」的な感慨を抱いたばかりだが――。

「母親との葛藤」という一点は、世代を超えた、共通の「腐にハマる背景」であり続けるのだろうか。

確かに、一人っ子だろうと3人以上兄弟がいようと、母親との葛藤を抱える娘は存在するだろう。とすると、母親との葛藤の種類、というかあり方、みたいなものが、腐女子となるかどうかの分かれ目なのかなぁ……などと考えたりしたのだった。ただの印象論だけど。

ちなみに斎藤氏は、

男性オタク
キャラクター萌え。キャラクターというフェティッシュを所有すること、すなわち「持つこと」が重視される
女性オタク
「関係性萌え」。キャラクターや関係性に同一化すること、すなわち「なること」が重視される

という見解を示している。そしてやおいやBLの成立については、

対幻想(ヘテロセクシズムを中核とした生殖に基づく「家族主義」)からの逃走
純粋な関係性だけがもたらす享楽の追及

によるものであり、フェミニズムはその要因の一つにすぎないとしている。じゃあ何で男同士なのかというと、

「フェミニズム的な意識に根ざしているのではなく、むしろ快感原則を追求していくうえでの、純粋に機能的な要請による(つまり男性は「挿入する側」「される側」両方を兼ねられる)

としているのが興味深い。わたしも、やおいやBLには、フェミニズム以外の何かが関係しているんじゃないかなぁ(それが何なのかはわからないが)と思っているので、氏の見解に異議はないけど――「ヘテロセクシズムからの逃走」と「フェミニズム」がどう違うのかがよくわからないのが、今のところの課題かもしれませんね……はい。

■娘の身体を作り上げるのは母親の言葉
「母親の娘への支配とは言葉による支配」として、「娘へと向けられた母親の言葉は、しばしば無意識に母親自身を語る言葉でもある」と指摘されている。その「母親の言葉」を通して、母親の身体性が娘へと伝達されるのではないか、と推測されているのだが――。

「母親自身を語る言葉」は、つまり母親の個人的な経験や価値観や感情に基づく言葉であり、さらにいえば、母親自身が自分の母親から受け継いだ言葉であるともいえるわけだ。そうして何代も何代も、「母親の言葉」が受け継がれてきたのだとすると――

想像するとゾッとするような、「血の伝承」みたいなものを感じて呆然とするような。わたしも娘ができたら、母親からの言葉を無意識に伝えるんだろうか――と思っていたら、思わぬ「転移」が浮上。

■嫁姑問題は母娘関係の転移?
精神分析用語の「転移」とは、下記の通り。

過去の人間関係を、相手を変えて再現すること(本文P162より)

斎藤氏は、自身の妻の「実の娘のいない姑との方が、嫁姑関係はうまくいきやすいような気がする」という話がきっかけで、「転移の問題は、何も子どもにばかり起こるものではないのかもしれない」と気付いたという。

つまり、子どもにとって親子関係が初めての人間関係ゆえ、子どもは親との関係を転移という形で繰り返す可能性があるわけだが、母親にとって娘との関係も、初めての関係である、それなら、娘との関係を嫁との間で繰り返す=転移する可能性があるのではないか、というのだ。

あるいは、「姑が嫁に対して娘との葛藤を投影しようとし、それに対して嫁も、陰性の母親転移によって対抗しようとするので、嫁姑問題はこじれやすいのではないか」と推測する。

――まあ、まだ嫁に行っていない身としては、周りを見て聞いて想像するしかないが、「兄弟姉妹関係アンケート」結果でいただいた

結婚制度から受ける抑圧みたいなのは、BL好きに反映されてるかもしれません。私が第一子長女であることよりも、夫が田舎の本家の長男であることが、 私の抑圧ポイントなんだと思います。(ぴよこさん)

というコメントが、とっさに連想された。「腐女子は母親との葛藤を抱えていることが多い」とすれば、それが転移や投影によって「腐女子は姑との葛藤を抱えていることが多い」という可能性は否定できないんじゃなかろうか

世間一般的に、腐女子=若い(未婚の)女性、なイメージが強い印象があるけど、中年以上や既婚者の腐女子について、いろいろ探っていく余地は大きいなぁ……と思う。

――以上、印象的だったポイントのピックアップは終了。やっぱり長くなってしまいました……文字だらけですみません。

そうそう、「その1」で書き忘れたけど、母娘の難儀な関係性の修復について、いくつか提案されていることを付け加えておく。例えば「母親との距離を意図的にとる」とか、「互いに自立してそれぞれの自分の人生を生きる」とか、「第三者の場所を作る」とか。

どれも精神分析的な治療を前提とした提案なので、ちょっと抽象的な感じがしないでもないが、まあ結局、「密着しすぎの母娘関係」はヤバいということだと思う。いや、「密着しすぎ」は、どういう関係でもヤバそうだけど。

この本は、たまたまやおいや腐女子に触れられていたから手に取ったけれど、読んでみると、自分の母親との関係を考えずにはいられなかった。そして最近、何か面白そうな話題に行き当たるたびに、フェミニズムやジェンダーの問題が関係しているような気がするのだが、これも例にもれず――。

本当はこれまでだってフェミニズムやジェンダーは無関係じゃなかったのに、たまたまわたしがそれに気付いていなかっただけかもしれないが。だが、フェミニズムやジェンダーを意識しながら、腐女子(オタク)やセクシュアリティなどを考えてみなさい(誰が命令してるんだ)、ってことなのかもなぁ……とも思うのだった。

次回、「母は娘の……」の中で取り上げられていたよしながふみさんのコメントなどを、ざざっと紹介します。
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Tags: 斎藤環 ジェンダー フェミ? 第一子長女 腐女子 母娘 嫁姑 男性オタク

Comment 7

2009.03.19
Thu
00:10

まにまに #-

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lucindaさん、アンケート集計に引き続き、こちらまで・・・。
ありがとうございます。
両方とも興味深く読ませていただきました。
えっと、いろいろ思うところはあるのですが(と言ってもlucindaさんへの批判とかじゃないんで)、取り急ぎお伝えしたいことがありまして。

>「男性=見る存在 女性=見られる存在」って、有名というか常識的な見解(?)なんでしょうか!?

はい、そうです!
フェミニズムというかリブ運動の時から似たようなことが言われ続けていると思います。
最近こちらの方面は疎いので、どんな変化がおこっているかまではわかりませんが。
決して私が超絶に鋭いわけではないということだけは確かです(笑)

ということで、また後日ゆっくりコメントさせていただきますね~!

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2009.03.19
Thu
01:21

茉莉 #-

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私の腐傾向のある友人の多くが母親との関係が悪くはないが微妙で(父親との関係は希薄)、"個人的な価値観(主に結婚の)を押し付けられ"て悩んでいます。
反対に私は母から強要されたことがなく、むしろ私が自由に楽しむことを望んでいるようです。
それは母に結婚を強要したらしい祖母とうまくいってなかったことと無縁ではないと思いますし、結婚後にも”結婚制度に抑圧を感じていた”からかもしれません。
一方で私は子供の頃から父に憤りを感じて、「母を守らなくては」という気持ちが強く、ある程度成長してからは父親と何度も喧嘩しました。
そう考えると、私も期待を背負う第1子長女であることだけでなく、結婚制度に抑圧を感じていた(と推測する)専業主婦の母親に育てられたこと、そしてその母を守らなくてはならなかったという、親との関係性が自分に大きく影響しているかもしれません。

編集 | 返信 | 
2009.03.19
Thu
02:12

lucinda #-

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>まにまにさん
早速コメントをありがとうございます。まったく、ここまで長かったです(笑)
「見られる存在」について、情報をありがとうございます。そうだったんですねー! いや、まにまにさんのメールは、やっぱりわたしには鋭かったんですが。
コメント、お手柔らかにお願いいたします(笑)

>茉莉さん
なるほど……。ある意味でお母様ご自身は、自分の母親からの支配を逃れられたのかもしれず、あるいはそうでないかもしれず……本当に難しい主題だと、このコメントを読んで思いました。そして、茉莉さんご自身の影響についての分析、興味深いです。
「母は娘の…」でも父親について触れられてはいるのですが、どうにも母親ほどの存在感は感じられません。それでいいのか、父親……と思わないでもないです。

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2009.03.22
Sun
06:28

アラスカ #-

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内容が盛りだくさんで、うまい言葉や感想をまとめきれません。すごく読み応えがありました。

そしてチラリとあった男性オタクについての記述。
 >男性オタクたちは、「現実」での恋人を切望している
私もその逆だと思い込んでいました。無関心から来る勝手な決めつけは良くないですね。
そして腐女子も、きっと世間や男性からは、全く同じ事を思われている気がします。

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2009.03.26
Thu
06:23

lucinda #-

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アラスカさん、コメントありがとうございます。
そしてレスが遅くなってすみません。

>そして腐女子も、きっと世間や男性からは、全く同じ事を思われている気がします。
もう、なんだかえらいイメージができあがってそうです。オタク=男のイメージが強いと思うのですが、あいつらみんな同じだと一緒くたにされている感がなきにしもあらず……うーむ……。

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2010.04.11
Sun
23:48

mica #-

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初めまして!
20代腐女子のmicaと申します。
数年前にこのブログに出会い、BLの趣味が似ていると感じたためレビューをかなり参考にさせていただいておりました。
ここ2年ほどはBLを含む漫画・小説に触れる機会が減り、こちらへの訪問回数も減っていたのですが、最近趣味が復活したので久しぶりにこちらにアクセスし、ピックアップ記事を色々と読んでいるところです。

記事についてですが、
母親の価値観の押しつけがある、父親との関係が希薄である…これらが私にもぴったり当てはまり、驚きました。

ただ、稀な例かもしれませんが、私の友人で「母親が腐女子で、蔵書を読むうちに自然と自分も腐女/男子になった」という例が男女ともにあります。彼らは普段の会話から推測するに父親とも仲が良さそうなので、親に腐の趣味がある場合は完全に例外と考えるべきなのかもしれません。

ヘテロセクシズムからの逃走、というのも思い当たる節が。
私、中学・高校と女子校で、中学1年の頃にオタクになり、「異性よりも趣味が大切」という感じだったので、まったく学外での交流をしなかったのです。
実際、身近な人たちで考えると、腐女子には共学出身者よりも女子校出身者の方が多いです。

私自身、特に深く考えず「これ、いい!きゅんきゅんする!!」と思ってBLを読みあさってきましたが、深層心理にこういう要素が関わっているのかと考えると……納得すると同時に、ちょっぴり複雑な気持ちになりますね。

それから、男性のオタクが現実の恋人を求めているという話、友人の男性オタクたちの発言を考えるとかなり信憑性があります。
彼女がいる「リア充」をうらやみつつ、一部馬鹿にしつつ、自虐しているんですよ。
まあ、最近は男性オタクも見た目が美しくなってきてはいますが。笑

長くなってしまって、すみません。
これからも更新楽しみにしてます!

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2010.04.20
Tue
22:17

lucinda #-

URL

micaさん

コメントをありがとうございます!
なのに、レスが超遅くなってしまってごめんなさい。

>私の友人で「母親が腐女子で、蔵書を読むうちに…
うーん、母親の蔵書を読んでいて腐女/男子になったっていうのは、ある意味、母親の価値観というといいすぎかもしれませんが、好みが反映されているようにも思えます。父親と仲が良くても、母親ほど価値観に影響を与えるかどうかはわからないかなぁ、と…。

女子高出身の人って多いって聞きますよね。実際、本当に多いかどうかはわかりませんが。

>彼女がいる「リア充」をうらやみつつ、一部馬鹿にしつつ、自虐しているんですよ。
うんうん、そんな感じ、すること多いですよねw

またお時間のあるときに、お気軽にいらしてくださいね~!

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