デキスギくんと肉親との関係性と―「恋の記憶」「さらってよ」「シンプレックス」

 29,2008 09:24
先日のモツ鍋腐女子ミーティングの時、「『シンプレックス』ってさー、ロブがあまりにも完璧すぎるのが、イマイチ面白くない理由じゃないかなぁ」と、miriam先輩が言った。「確かにBLの攻めは、イイ男の設定が多いけど、でもどこか欠落している部分を持ってるじゃない? 素直じゃないとか、わがままとか」。

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――なるほど。確かに、「顔よし・頭よし・仕事よし・運動神経よし・性格よし、そのほかも多分よし」なロブは、非の打ち所のない完璧な男だもんなぁ……。ヨシュアは内面に問題を抱えているけど、その問題を外に発散するのではなく、一人で深ーく追求していくような内省的なコだった。だから「DEAD LOCK」3部作に比べて、ストーリーも地味に進行していった感があるかもしれない。

ううむ、じゃあヨシュア×ロブだったらしっくりきたのか? ――いやそれだと、あまりに内向的な恋愛初心者・ヨシュアがなかなか思い切って行動してくれず、日が暮れても年が明けても、ストーリーが進展しない危険性が発生しそうだ。すでに恋人同士になった今なら、別にどっちがどうだろうと好きにしてくれ、という感じだけど。

ロブがネトと一夜を共にする同人誌作品もあって、それもすごく好きなんだけど、でもだからといってロブとネトが……って感じじゃないなぁと思う。それって、ネトもある意味「完璧な男」だからじゃないかしら。

まあ、わたしは「シンプレックス」、佳作って感じで好きだけどね。

完璧な「デキスギくん」はつまんないかぁ……と頭の中で反芻していた時、この作品を読んだ。

長くなったので折りたたみます。
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(あらすじより)「淋しいだけじゃ、俺はひとを好きにならないよ」姉の結婚式の日、理也は数年ぶりに従兄弟の高成と再会した。高校にあがるまで、ふたりはとても仲のよい従兄弟同士であり、理也にとって高成といる空間はひどく居心地のいいものだった。けれど、ふたりの間にはなにか曖昧なものが忍びこみ、いつしか距離を置くようになっていたのだ…結婚式の夜をきったけに再び一緒の時間を過ごすようになったふたりだが、曖昧だったなにかが露になってゆき。

今年は杉原理生作品をガーッと読んだのだけど、どうもSHYノベルズ作品では、仏教的思想視点モードが発動しそうになって困る。SHY作品では三人称で進行するからかしら(ほかのレーベルでは一人称が多い)。

でもこの「三人称」が、杉原さんの場合は独特で――理也の気持ちや思考が、ナレーションでずっと追われるため、なんというか、

■理也やほかのキャラたちの行動とセリフ=外面的な要素
■理也の感情や思考=内面的な要素

がそれぞれ独立して平行に走りながらストーリーが進んでいくような感覚に襲われるのだ。言っておくが、それが読みにくいとか、わかりにくいとかいうわけじゃない。むしろ、ものすごくストーリーに没頭させられるんだけど、読んでいて、不思議な浮遊感を感じることがある。読んでいるわたしも、頭の後ろの辺りで理也の気持ちにシンクロしながら、目では理也たちの行動を追っている感じ……というか。

それはともかく、「デキスギくん」は、理也のいとこ・高成。顔よし、頭よし、仕事よし、性格よし、セックスよし、きっとほかもよし、と思われる非の打ち所のない男。だが、「恋の記憶」では、理也視点でストーリーが進むため、理也の目を通してしか高成の様子や行動は描写されない。高成の気持ちが窺い知れるのは、理也との会話のみ。そのせいか、高成はどことなく、謎めいた雰囲気。

もしかしたら、複雑な家庭環境や、過去につきあっていた女性に対する執着心のなさから、高成もあまり他人に心を開かないタイプなのかもしれないけど、何しろ理也を通してしか描かれないので、それも不明。でもそれが、デキスギくん・高成を、味わい深く印象づけることに成功しているような気がする。

いとこ同士で、男同士という関係に、理也は不安や迷いを抱え、ただ一人の肉親である姉・理香子にバレたらどうしようと、思い悩む。そんな理也の気持ちを思いやって、理也からの別れの言葉を承諾する高成。でもそんな理也に、ある日、理香子が「高成くんのこと、好きなの?」と尋ね、最後にこうのだ。

「この先、なにがあっても、わたしはいつだってあなたの味方よ。それだけは覚えておいて」

――わたし、ここで不覚にも涙が出そうになった。理香子の控えめな言葉に、理也への思いやりや優しさがしっかり感じられるんだもの。大事な肉親がそう言ってくれたら、どんなに心強いだろう。いいお姉さん、いやいや、いい女だなぁ……理香子……。

つきあっていた時から別れるときのことを考えずにはいられなかった理也(ここら辺がちょいと仏教的思想視点モード)が、「現実は違っても、夢のような風景を頭のなかに思い描くことを、ひとはあきらめることができない」と、高成に自分の気持ちを告げる決意をする。ぐるぐるしい悲観から、一歩抜け出して希望を見出そうとするこのシーンが、とても好きだ。

「恋の記憶」では、理也と理香子のお互いを思いやる関係に感動したけど、この作品では逆に、主人公の苦しさに共感してしまった。

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(あらすじより)初めて好きになった先輩・平尾を相手に、ずるずると都合のいい恋人を演じていた三木。平気なふりをしながらも平尾の身勝手さにひっそりと傷ついている三木の心の慰めになっているのが、仕事先で知り合った年上で穏やかな有元だ。初めに自棄で有元に関係を迫って失敗して以来、有元は困った顔をしつつも三木を拒まない。そんな付き合いが心地よかったのに、突然有元に抱きしめられ…?ずるくて切ない大人の恋。

ゲイの三木は一人っ子だが、会社を経営する、頭の硬い強権的な父親と、そんな父親にオロオロと追従するだけの母親が、まったく自分の話を聞こうとしないことに絶望している。ゲイだとカミングアウトしているのにも関わらず、ある日父親が、結婚相手を勝手に決め、押し付けようとしたため、とうとう三木は「親子の縁を切られてもいい」とまで言い捨てる。

両親に対する、三木の冷めた諦めの気持ちや、絶望感、悔しさが行間から伝わってくるようで……かつて感じたことのある、似たような感情が思い出されて、やっぱり泣きたいような気持ちになったのだった。

しかし三木、40以上の有元に安らぎを感じたのは、ちょっとファザコンなところもあるのかも……。

三木と有元は、有元の生家で一緒に暮らし始めるのだが、有元が、昔馴染みのご近所さんが気になって勃たなくなる――というのが、人間的でいいと思います。あ、場所をホテルに変えたら復活したってのが、妙に単純な気もするけど。

主要キャラと肉親の関係が効果的に使われている作品は、わたしの記憶に残る確率がかなり高い。なんでしょう、わたし自身が肉親に対して、ちょっと屈託を抱えているからかしら。そういえば、「シンプレックス」だって、ヨシュアは父親との関係に問題があり、唯一姉だけが可愛がってくれる肉親――という設定だったなぁ……。

――あれ? そういえば、「恋の記憶」の高成の場合は、腹違いの妹が密かに兄を気遣っていたし、「さらってよ」の有元の場合は、離婚した妻と暮らしている娘が、反抗期ながらも有元と三木の関係に理解を示し、応援しようとする。なんだか今回取り上げた作品、どれも女性の肉親(しかも母親以外)が、主人公たちを支えているなぁ……。

これって、もしかして以前取り上げた、「BLの中のビアン」みたいに、“主人公のゲイの「理解者」=作者あるいは読者を投影した存在”ってことなのかしら――?
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Tags: 杉原理生 渡海奈穂 山田ユギ 麻々原絵里依 英田サキ 高階佑 複数レビュー

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