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「信じる」って大事―「交渉人は疑わない」「シンプレックス」

 28,2008 23:49
「榎田尤利」という作家の持つ特徴や美点――音読しても引っ掛からない滑りのよい文体、ネタはシリアスでも軽快でコミカルなムード、ディテールまで抜かりなく書き込まれる主役以外のキャラ、強引さを感じさせない展開などなど――が十二分に発揮された作品じゃなかろうか。

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(あらすじより)元検事で元弁護士、そのうえ美貌と才能まで持ち合わせた男、芽吹章は、弱き立場の人を救うため、国際紛争と嫁姑関係以外はなんでもござれの交渉人として、『芽吹ネゴオフィス』を経営している。ところが、ひょんなことから高校時代の後輩で、現在は立派な(!?)ヤクザとなった兵頭寿悦となぜか深い関係になっている。嫌いではない、どちらかといえば、好き…かもしれない、だがしかし!!焦れったいふたりの前に、ある日、兵頭の過去を知る男が現れて。

うますぎて、あまりにサラッと読めてしまうのが、玉にキズ。でも読み返すごとに、前作の「交渉人は黙らない」よりもパワーアップしてる……と思える。ちょっと「BL」というジャンルを超えそうな勢いまで感じてしまう。この作品、読んでいるとどんどん映像が頭に浮かんできて――芽吹や兵頭はもちろん、登場するキャラたちが脳内で動き回るような手応えがあるのだ。「BL」なので男同士がイチャついてはいるけれど、ゲイの兵頭に迫られマンザラではなくなっている芽吹、というその過程に納得できるせいか、これをテレビや映画で映像化するのはムリがない、という気までしてくる。ゲイカップルが主役のVシネがあってもいいじゃん!? みたいな。

――アタシの妄想だけどさ――

「弱虫だから」と認めつつ依頼人を守りきろうとする姿勢、仕事では決してヤクザに迎合しないという心意気、土下座なんかで自分のプライドは傷つかないとうそぶく気骨――芽吹って、イイ男だなぁ……と心から思う。さゆりさんが、「こうであったらいいのに」と思える人物、と評するのがよくわかる。

その芽吹が、過去に兵頭と浅からぬ因縁を持ち、芽吹に執着する鵜沢に加担して芽吹を陥れようとしたホスト・溝呂木を「信じる」。「人間は変われると信じたい」と。

「信じる」――これ、この作品のキーワードだ。溝呂木は、愛するタイ人ホステス・マリサを帰国させてやりたいと思っている。その気持ちを信じるから、溝呂木も、芽吹が溝呂木とマリサを助けると信じてくれ――と、芽吹は言うのだ。

芽吹が決して、軽々しく安易に「信じてくれ」と言っているわけじゃないことは、それまでのストーリー展開で十分伝わる。溝呂木にしてみれば、自分の悪巧みを知ってなお、こうまで言われたら、迷いや不安があっても、信じたくなるだろうなぁ……と、読みながら思ってしまう。

結末はもちろん、芽吹の堂々とした交渉によって、溝呂木はマリサを連れてタイに旅立つ。「信じ」た者の勝利だ。

結構、シンプルな言葉だけど、実践は難しいよなぁ……とつくづく思う「信じる」。実はこの作品にも、「信じる」が印象的なキーワードとして使われている。

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(あらすじより)犯罪心理学者ロブの誕生日パーティに届いた謎の贈り物。送り主はなんと、かつて全米を震撼させた連続殺人鬼を名乗っていた―!!ロブの警護を志願したのは、金髪の怜悧な美貌のボディガード・ヨシュア。すこぶる有能だが愛想のない青年は、どうやら殺人鬼に遺恨があるらしい!?危険と隣合わせの日々を送るうち、彼への興味を煽られるロブだが…『DEADLOCK』シリーズ待望の番外編。

「DEADLOCK」でユウトに迫っていたロブが主役。「ロブを幸せにしてやってくれ」というリクエストが多かったらしい。まあ、ね。ロブ、いいヤツだし――個人的には、ネトを幸せにしてやってほしいと思っていたのだが、それはさておくとして。

あらすじにある、連続殺人鬼を巡る事件の後、ロブとヨシュアは「恋人状態までペンディング」な関係になる。なぜって、ヨシュアは幼いころの虐待のせいで、「自分をさらけ出せず、他人を信じきれない」から。ロブのことは好きだけど、人と密接な関係を持つことを恐れ、そんな自分を持て余しつつ、どうすればいいのかわからないでいる。

ヨシュアのこの気持ち、わたしはちょっとわかる。傷つくのは怖い。傷ついた痛みは相当なものだもの。だから自分を守るために、無意識のうちに壁を作ってしまうのよね……。

だが立てこもり事件が発生してユウトが人質になり、ロブが犯人と交渉して、投降のために迎えに行くことになった時、ロブはこう言う。「俺はマクミラン(犯人)を信じると決めた。それだけのことさ」。この時、ヨシュアは「人を信じる」という意味を悟るのだ。つまり、

――人を信じるということは、言い換えれば相手を疑わないこと。裏切られるかもしれないという不安を押しのけ、自分の信念を貫くこと。強い心がなければ、できないことなのだ――と。

うわっ、ものすごく厳しくて大変なことだなぁ、「信じる」って!……と、読んでいるわたしまで、改めて考えさせられてしまう、この一節。ヨシュアの衝撃たるや、如何に……!

しかし、どんなにシビアでも、どんなにハードでも、その「信じる」の意味は間違っていない。この簡潔で、ちょっと生硬な感じの語り口が上質な翻訳モノっぽくて、英田さんらしいなぁ……と思う。

ロブは犯人・マクミランを「信じ」て、無事投降させ、人質を助ける。ヨシュアは人を「信じる」ことの意味がわかって、ロブと結ばれる。よかったよかった――。

「交渉人は疑わない」「シンプレックス」は、どちらも11月発売の作品だから、「信じる」という言葉がポイントになっているのも偶然ではあるのだが――政治や経済の先行き、凶悪事件の多発などなど、不安が充満してカサカサしている世情を映し出しているのかなぁ……などと思う。それともそういう世の中だからこそ、「信じる」ことを大切にしたいという思いが表れているのかしら――。
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Tags: 榎田尤利 奈良千春 英田サキ 高階佑 警検麻ヤ 複数レビュー

Comment - 2

2008.12.29
Mon
23:15

空美 #-

URL

こんばんはー。
>ゲイカップルが主役のVシネがあってもいいじゃん!? みたいな
あるBL漫画描きさんのブログを拝見したときのこと。その方が「今、ゲイの俳優さんが出演しているアメリカのTVドラマにはまっているが、日本でゲイが普通になったりドラマが作られたら見ない。実写には勝てない」と語っていて、なるほどと納得したことがあります。
実は今年に入って、実写版のBL(同性愛)映画を見続けてきたせいで、BL小説や漫画の消費意欲ががくんと落ちてしまったんですよね…。(あ、以前お話した「青い棘」のDVDは買いに行ったらなくなっていたので、かわりに「花蓮の夏」と「イノセント・ラブ(コリン主演のほう)」を買っちゃいました)
日本でも、おおこれは!と思われるBL映画が出てきたりして、やはり映像の力ってすごいなーと感心したりして。日本人の役者さんも、ビジュアル的には外国人に引けを取らない方がたくさん輩出されるようになって、今後、彼らのような人達を起用しながら、加速度的にBL作品が映画化されていくのかなという感もあります。(もうすでにその時代に入ったとも言えますね)
なんにせよ、男女の恋愛小説や漫画は実写映画化されてもなくならないし、BL作品もいろんな道を模索しながらも、生き残ってほしいなぁと思います。(すみません、コメントが本文とずれちゃって 汗)

編集 | 返信 | 
2008.12.30
Tue
02:45

lucinda #-

URL

コメントありがとうございます!
なるほどー……。映像の力って、確かにインパクト強いですよね。
「顔」が見えると、もうそれが目に焼きつく感じはあるかもしれません。

>実写版のBL(同性愛)映画を見続けてきたせいで、BL小説や漫画の消費意欲ががくんと落ちてしまった
それは、空美さんにとって、よい映画だったということじゃないでしょうか!
「花連の夏」……DVDが出てるんですね。なんかこのごろ、台湾映画は、わりとクィア映画が目立つような気がするのは気のせいなんでしょうか…。

それはともかく、本当に、これからBLの映像化が増えていくのか…
ちょっと注目していきたいですね。
映像は映像として、個人的には、小説やマンガもずっとあってほしいんですけどねぇ……。

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