航空業界では地上職に興味アリ―「キスランディング」シリーズ(ふゆの仁子)

 23,2008 23:07
飛行機に乗ると、着陸の時に、旗みたいなのを持った作業服姿のスタッフが、飛行機を誘導する姿がモニターに映し出されることがある。わたし、アレを見るのが好きでねぇ……なんかすごく、カッコよく見えるんだもん。てきぱきとした動作や、最後にお辞儀する姿に、仕事への気概や誇りがうかがい見られるような気がするというか。

そんな、わたしの中で長年「旗を持って誘導する人」と認識してきた彼らは、「グランドハンドリングスタッフ(作中ではグランドハンドリングマンと記載)」と呼ばれること、さらに、旗に見えたのはパドルであり、それを持って誘導することは「マーシャリング」と呼ばれることを、このシリーズで初めて知ったのだった。いや、グランドハンドリングマンだけではなく、航空業界の様子がとても興味深く描かれているのも魅力的。


右手前の、リフトに乗っている人が憧れの(笑)マーシャラー。

長くなるので折りたたみます。
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(あらすじより)的確な指示を与える明瞭な声と、長く美しい髪に縁取られた美貌から『管制塔のラプンツェル』と呼ばれる、航空管制官・松橋佑。だが彼は、心に負う深い傷のせいで、頑なに他人を寄せ付けないことでも有名だった。そんな彼の前に突然現れたのは、快活な態度のグランドハンドリングマン・田中だった。「下心があります」としれっと告げる彼に、松橋は……。書き下ろし短編つき!

そりゃBLですからね、美い男性なのはお約束でしょうが……「腰まである長く美しい髪」ってどうなの!? と内心、突っ込ずにはいられなかった。正直に告白すると。女性でも、そんなに長い髪の人ってあまり見かけない。おまけに、いくらきれいだからって、30過ぎの男に「ラプンツェル」ってあだ名……どんだけロマンチストの多いハシャいだ職場なんだ!? ――と内心、思わないでもなかなかった。白状すると。

読み始めてから「……これはトンチキ系だったか……」と思っていたのだが、しかし読み進めていくうちに、管制官としての松橋の、そしてグランドハンドリングマンとしての田中の仕事の描写が面白くなるのだ! 同時に、松橋と田中の正確や特徴が、それぞれの仕事において大きな強みとなっているのも興味深い。

「聞き心地のいい高さのテノールに、はっきりとした滑舌。明瞭な言語に美しい英語」をしゃべり、冷静な松橋。無線通信では話される言葉が聞き取りにくくなるというし、飛行機の安全な離着陸を誘導するためには、冷静な状況判断も必要だろう。まさに管制官という仕事にうってつけ。ちなみに、無線において、世界共通のアルファベットの呼び方(“A”は“アルファ”とか、“R”は“ロメオ”とか)は、「フォネティックコード」と呼ばれている。これも初めて知ったわ……。

田中も、背が高く腕も長い(書かれていないけど、多分足も長いはず。BLだもん)という体格のアドバンテージを持ちつつ、キビキビとした動作で「マーシャリングが絶品」と、関係者に絶賛されているし、きっとその楽観的で温和な性格も、さまざまな業務をチームワークでこなすグランドハンドリングという仕事に合っているのではないかしら。

ストーリーは、航空大時代から付き合っていたパイロットの大澤を忘れられなかった結果、娘を亡くし、離婚もした松橋が、10も年下の田中の果敢なアプローチにほだされ、愛し合う――という、もう正統派ハーレクインって感じです、はい。<なんちゅう、おざなりっぽい説明……。

この作品には続編もあり、ここでも二人の仕事が詳しくガッツリ描かれているのがよし。

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(あらすじより)『管制塔のラプンツェル』と密かに呼ばれていた航空管制官・松橋佑の頑なに閉ざされていた心を解きほぐした年下のグランドハンドリングマン・田中正勝。だが、ふたりで初めて迎えようとしたクリスマス直前、別れた妻と偶然再会した松橋は、過去の罪を突きつけられたことで、自責のあまり再び田中までもを遠ざけようとし……。大澤&野城も登場するスペシャル番外編も収録!!

この巻では、田中が新たに、「プッシュバック」(トーイングカーで、航空機を後方へ押し出して移動させること)業務の研修を始める。「最初は、あらゆる機種のコックピットを覚えて、いざというときにブレーキを踏む“ブレーキマン”を担当するんだ」という田中のセリフに、ほほう!と、またしても身を乗り出してしまうわたし。あらゆる機種のコックピットを覚えるって、大変そうだ。

プッシュバックは危険と隣り合わせの業務らしく、作品中でも、田中の同僚が飛行機の車輪に接触して亡くなってしまう。実際にも、グランドハンドリング中の事故は時々起こっているらしいと知って驚いたり――松橋が、レーダーの情報処理システムの知識を養う研修のため、仙台空港のそばにある航空保安大学の岩沼分校に1ヵ月半の研修に行くという説明に、「研修場所って、そういうところにあるのぁ……」と感心したり――。

――とにかく、感心しっぱなしだったのだ、わたし。航空業界の、それもパイロットやCAではない、地上での仕事についていろいろ知ることができ、めちゃくちゃ好奇心を刺激された。これも、「さまざまな職業が設定される」BLならではの醍醐味じゃなかろうか。

あ、この巻では、別れた妻に責められたり、別れた男(大澤)に言い寄られたり、挙げ句には、仕事上の事故(同僚の死)で傷ついた田中から避けられたり、松橋が方々から翻弄されます。まあ、しかし、最後はお互いの信頼と愛を取り戻して一件落着だけど。って、またおざなりっぽい説明だけど。ちなみに「成層圏のアフロディーテ」も、松橋のことなんだけど。つか、ここでも女の名前って……。

ところで、上の2作品は、パイロットの大澤とその後輩・野城が主人公の「キスランディングシリーズ」の一つ。パイロット同士が主役の「キスランディング」も、読んでみた。

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(あらすじより)航空会社で副操縦士として働く野城高久は、幼い頃に父親を亡くしてから他人に強い関心を持てなくなった。以来27歳の今まで誰とも付き合った事がない。 そこに34歳の天才パイロット・大澤健吾が引き抜かれてきた。大澤の歓迎会に野城も参加するが、酔うとガードが緩くなる野城は、大澤の濃厚なキスと煽る言葉に誘われ、自分から抱かれてしまう……!書き下ろし付きで登場!

大澤と野城はどちらもパイロットのため、作品中は飛行中のパイロット業務の描写もしっかり書かれてはいるのだけど――うーん、個人的には、地上職編だった「「ラプンツェル」と「アフロディーテ」の方が面白かったかな。というよりも、個人的により興味深かったのが、地上職と管制官の仕事だったといいましょうか。パイロットやCAといった、「いかにも航空業界な仕事」を持つキャラが多数登場するこちらの方が、BLらしい華やかさがあるけれど。

ただ、「キスランディング」はその後、「ラブフライング」「ヘヴンズアプローチ」と続くのだけど、続くほどに、仕事描写が少なくなっていくのが、ちょっと残念。それに比例して、大澤をライバル視する航空大時代の同期・杉江(パイロット)が野城を狙ったり、杉江の妹(CA)が大澤に近づいたりと、BL的なけれんは増加しています。

そうそう、アメリカ人の血が1/4入っている大澤は、セリフがいちいちキザで、まるで舞台のセリフのように仰々しいのにウケてしまった。そして巻末に掲載されている、タカツキノボルさんのあとがきで描かれた、2頭身のキャラがカワイイったら! これでマンガ描いてくれたら、絶対買うだろうなぁ……。

さて――わたしが通っている整骨院の先生の一人が、実は前職はグランドハンドリングスタッフだったことが、先日判明してびっくり! もちろん、いろいろ聞いてみたとも。治療中だったけど。

「わたし、着陸時に、飛行機を誘導する人を見るの、すごい好きなんですよ」
「ああ……マーシャリングね。あれねぇ、モニターで映すようになってから、みんなピシッとし始めたんですよね」
「ええー、そうなんですか!」
「うん。で、VIPの乗った飛行機の時は、女性がマーシャリングするんですよ」
「ホントに!? それは見た目的なコトで?」
「そうそう。女性のマーシャラーも最近多くなってきましたからね」

へぇぇ……。わたしは女性マーシャラーに遭遇したことはないけど、そうなのかぁ……。

「マーシャリングもねぇ。パイロットによっては言うこと聞いてくれない人もいるんですよね」
「えっ、それってマズいんじゃないですか?」
「そうなんだけど、いるんですよねぇ……。止まれっていっても止まってくれなかったりね。僕がいた時は、中国系の人たちに、言うことを聞いてくれない人が多かったなぁ……」

傍から見ていると粛々と業務進行しているように見えるのにねぇ……。

「プッシュバック……って、危険なことがあるって聞いたんですけど……(<もちろん“聞いた”んじゃなく、キスランシリーズを読んでの知識)
「あ、よくご存知ですね。そうそう。僕は遭遇してないけど、僕の同期の職場では事故があったみたいで、亡くなられたそうですけどね……」

――やっぱり聞いてみないとわからないもんだ。それにしても、仕事について、それに従事している(していた)人の話は面白いなぁ……とあらためて思う。BLに登場するさまざまな仕事も、その仕事ならではの苦労ややりがいが描かれていれば、面白さも3割は増すような気がする。そのためには、作家の調査力や取材力がモノをいうのだろうけど――「キスランシリーズ」はその点、作者のふゆのさんが、相当いろいろ調べられたことが伝わってくるのは言うまでもない。

これから飛行機に乗る時に、これまで以上にスタッフたちを観察しながら妄想するんだろうなぁ……わたし。
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Tags: ふゆの仁子 タカツキノボル 総ホモ展開 連作レビュー

Comment 9

2008.11.28
Fri
00:17

miriam #SFo5/nok

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マーシャラー

いいですよねえ、マーシャラー!
最後にペコッとお辞儀するのは日本だけですよね(笑)
離陸と着陸をカメラで映すようになったのはAN●が始めたって聞いたことがありますよ、そう言えば。
航空業界の地上業務と言えば、私は山田ユギさんの「夢を見るヒマもない」がお気に入りです。先日飛行機乗ったときに窓際がガラガラなのに真ん中に座らされ、窓際に行きたいと言ったら「ちゃんと計算してるんだから指定された席に座ってくれ」と言われて、ああ、やっぱり計算してるのね~と思いました(笑)

編集 | 返信 | 
2008.11.28
Fri
17:50

lucinda #-

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わたしもユギさんの「夢を見るヒマもない」、好きです~! あれも地上業務でしたな。

マーシャラーがお辞儀するのは日本だけなのか……。あのお辞儀がステキ度をアップしていると思うんだけどなぁ……。

編集 | 返信 | 
2008.12.02
Tue
22:45

あねこ #-

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マーシャラー!

こんばんは、マーシャラーすてきだー!
私も大好きです。
旗がちょうど下がった時にぴったり機体が止まると、ヘタレワンコな飛行機攻×ドS誘い受マーシャラーみたいな気分になってドキドキします。
「キスランディング」シリーズ、俄然読みたくなってきました。

編集 | 返信 | 
2008.12.03
Wed
01:52

lucinda #-

URL

こんばんはー! あねこさんもマーシャラー好きでしたか!
>ヘタレワンコな飛行機攻×ドS誘い受マーシャラー
あはは! 想像したら笑えます。キスランシリーズは、読むと、航空業界への妄想が膨らみそうな作品です。興味のあるところから、ぜひぜひ!

編集 | 返信 | 
2012.07.17
Tue
23:04

 #-

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私、過去にグランドハンドリングに従事していたことがあります。
いろいろな意味で、興味を持っていた方がいたと思うとなんだか嬉しくなりました。

編集 | 返信 | 
2012.07.19
Thu
14:48

lucinda #-

URL

コメントありがとうございます!

グランドハンドリングスタッフをなさっていたんですか!
もう、ほんと、いろいろ根掘り葉掘りお話をお聞きしたいほど、今でもグランドハンドリングスタッフに興味津々です(笑)
飛行機に乗るたびにうっとり眺めちゃいますw

編集 | 返信 | 
2012.07.22
Sun
17:02

 #-

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ずいぶん前のものにコメントしたので、返事があるとは思いませんでした。こちらこそ、ありがとうございます。
そういえば、私が在職中に某国の大統領専用機が飛来した際は、男性がマーシャリングしていましたよ。空港にもよるのかしら。
私が経験した中で、マーシャリング中に着陸灯が消えないトラブルで、停止線が見えずに困っていたら、チョークマンが助けてくれたことがありました。(目がチカチカして大変でした。)

編集 | 返信 | 
2012.07.23
Mon
15:50

lucinda #-

URL

コメントありがとうございます!

こちらがいただいたコメントに気付かず、レスが遅くなって申し訳なかったです。って、今回も…。

マーシャリング中に着陸灯が消えないトラブル! うわ、それは確かにまぶしくて目をやられちゃいそうですね。でも現場でそうやって、助け合っていろいろなアクシデントを乗り切られているんですね……いろいろ妄想できちゃいそうです…すみませんすみません…!

編集 | 返信 | 
2012.11.21
Wed
01:01

lucinda #-

URL

拍手コメントRES

>11/13 00:25 Rさま
コメントありがとうございました! レスが非常に遅くなってごめんなさい。。。
キスランシリーズ、なんだかんだいって楽しめましたw 業界に特化した作品、楽しいですよね~。

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