コテコテを楽しもう―「チャイナ・ローズ」「篭蝶は花を恋う」

 02,2008 23:45
アラスカさんにお借りしていたこの作品。なんだか「チャイナタウン」への昔ながらのイメージとか、“そうであってほしい”的な妄想がキッチリ詰め込まれているような。

チャイナ・ローズ (SHYノベルス161)チャイナ・ローズ (SHYノベルス161)
佐々木 久美子

大洋図書 2006-05-26
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(あらすじより)横浜中華街の裏社会で借金取り『キリトリ』をして暮らす潔は、その日がなんとかやり過ごせればそれでいい。潔の義妹として性別を偽り、『麗子』と名前を偽って暮らしている春来は潔が自分のものであればそれでいい。狭い部屋で、ふたりは文句を言いながら、それなりに幸せに暮らしてきた。だが、そんな平穏な日々も、中華街の裏の支配者であり、潔に執着を持つ男・正木が現れたことで激変していく。夜の街を舞台に、恋と愛と執着が複雑に絡みあう恋愛遁走曲、誕生。

表の華やかさ、賑やかさとは一転、裏通りには、いかがわしく危険な気配が漂っている(≒“キリトリ”をして生計を立てる潔、男であることを隠して女装して働く春来)。そして、ヤクザの取引に使う商品や博打の抵当として、女子どもが売買され(≒中国人とヨーロッパ人とのハーフの美少年で、しかも金髪とすみれ色の瞳を持つ「珍種」の春来)、場合によっては大陸に売り渡されることもある。ヤクザだろうが警察だろうが、日本人の権力はなかなか及ばず、独自のルールがまかり通り(≒中華街の裏の支配者で、潔の同級生の正木)、ある種治外法権的な町――そんなコテコテなイメージのチャイナタウンが、この作品の舞台。

それにしてもチャイナタウンって、どうしてこう、エキゾチックかつ妖しいイメージをかきたてるんだろう? ジャパニーズタウンやコリアンタウンには、これほどのいかがわしさや妖しさは漂っていない気がする。これも中国四千年の歴史のなせる業なのかしら――。

ストーリーもコテコテで進むのだけど、予想外だったのが3人の関係。春来をめぐる潔と正木の三角関係と思いきや、潔をめぐる春来と正木の三角関係なのだ。潔、“ヤクザに利用されて香港に売り飛ばされた娼婦の美しい母親(<これもまたコテコテ)”の面差しに似た、頭がよくて腕っ節も強い一匹狼という設定なのだけど、どうやら“魔性の男”の様子。だけど……春来が、自分を助けてくれた潔を一途に慕うのはわかるけれど、中華学校で束の間同級生だっただけなのに、いつまでも正木が潔に執着する理由が、正直よくわからないのだ。まあ、それが恋ってもんなんだろうけどさ。一応、正木も潔も孤独を抱えていた――というのが伏線にあるけどさ。

虐待されていた春来に欲情しながら、手に入れるとどうしていいかわからずに乱暴に扱ったりして、潔はある意味、一番タチの悪い男。なんだかねぇ……アンタがもっと素直になっていれば、春来も痛い目に遭わなかったんじゃないかと思わないでもないけれど、まあ、魔性の男ですからね。正木にレイプされた春来を独占欲ゆえに蹴りまくる潔は、魔性の男というより、ロクデナシな感じだけども。

春来との仲は想定内だけど、個人的には、潔は正木ともっといろいろ絡んでほしかった。正木、結構オトメなのだ。なかなかドラマチックだったラストのキスから察するに、潔は総攻めの様子。魔性で総攻めな男――これ、もしかして突き詰めると、BLっぽくなくなるかも!?

今は16歳で“ホステス”として働ける春来だけど、この先どうするの?とか、正木と仲良くした方が、潔は春来と安心して暮らせるんじゃないの?とか、現実的なことをいろいろ考えそうになるけれど――それは考えちゃダメ。この刹那的な雰囲気を味わうべき作品、だと思う。そして、必要以上にいかがわしく妖しいチャイナタウンの雰囲気も味わったモン勝ち。「えー、こんなの、現実は違うからぁ!」などと思ったら、あっという間に夢から覚めそうだ。

コテコテといえば! この作品も忘れちゃならない。

篭蝶は花を恋う (DARIA BUNKO)篭蝶は花を恋う (DARIA BUNKO)
沙野 風結子

フロンティアワークス 2008-09-13
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(あらすじより)「三ヶ月後、おまえを迎えにくる」。遊郭で生まれ育ち、男に買われそうになっていた詩央を助け、そう約束してくれた男・鼎。彼の言葉だけを頼りに待ちわびる詩央だったが、結局、鼎は現れなかった。―四年後。子爵に引き取られ跡取りとなっていた詩央は、誕生パーティの席で、思いがけず鼎と再会を果たす。だが、鼎は詩央の出自を口外しない代償にと、身体を要求してきて…。

大体、吉原に男娼がいたのか?などと突っ込んではイケマセン。実際にはいなかったからこそ、主人公が存在した必然性が描かれているのだけど、まあ、これも、とってもコテコテ。何しろ、母親は売れっ妓花魁ですから。早逝した母親の代わりに育ててくれた置屋で、ゲスな代議士に見初めたのが運の尽き。あ、“ゲスな代議士”はお約束じゃないけれど。

実は子爵の子だった詩央。そして跡継ぎが必要なために引き取られ肩身の狭い思いをさせられる詩央。密かに想っていた鼎に偶然再会する詩央。ちょっと仲が良くなったと思ったら、結核という大病に見舞われてしまう詩央。その詩央をどこまでも追ってくる鼎――これがコテコテじゃなくて何といおう?

詩央は自分を裏切ったと信じて疑わない鼎。鼎に迷惑をかけたくないと口を閉ざす詩央。だからこそ、鼎が詩央をいたぶりつつ、ジレジレとストーリーは進むのだけど……読んでいていい加減、「そこで相手に何も言わないのってよくないんじゃないの?」と突っ込むこと数回。わたしでも、詩央のようなコや鼎のような男はイラッとくるかもしれません。

――まあ、このキャラとストーリーの設定も、コテコテの範疇なんですけどね。

最初は詩央に冷たく当たっていたのに、後半は献身的に尽くす中津がちょっと気になる。中津、実は早くに亡くなった子爵家の長男・絢貴に想いを寄せていたらしいのだけど――そして絢貴は友人の白柳公爵の次男・雅巳と割りない仲だったらしく、そうしてみるとこの作品、総ホモ展開なのかもしれません。そして詩央のいた置屋の姐さんたちの疲れて荒んでいる様子が、めちゃくちゃうまく描かれていたのも印象的。

コテコテ設定は、夢から覚めきったら、もう読めない。ただえさえ、BL自体がファンタジーなコテコテ設定なんだもの。でも、内心突っ込みつつも最後まで読ませてくれたこの二作品は、やはり著者のストーリーテラーとしての力が並々ならないということかも。水原さんと沙野さん、そういえばどちらも、けっこう暴力的なシーンを作品に入れる作家さんだが――コテコテな世界には、この暴力的シーンもベタな雰囲気を盛り上げてくれる要素になるのかしら。

そして今気づいたのだけど、どちらもイラストは佐々木久美子さんですね。ちょっとクラシックな雰囲気の絵が、チャイナタウンと大正時代の遊郭という、コテコテ世界にピッタリ。これが妙にキャピキャピした、ムダにキュートな絵柄だったら、その時点で読む気が失せていたかもしれないもの。イラストって、大事ね、やっぱり。
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Tags: 水原とほる 沙野風結子 佐々木久美子 警検麻ヤ 複数レビュー

Comment 2

2008.11.04
Tue
13:09

アラスカ #-

URL

アラスカ

 >魔性の男というより、ロクデナシ
まさにそんな感じです。暴力を振るうヒモ男以外の何者でもない気が。

 >正木、結構オトメなのだ
オトメっていうか、私には途中ヒステリックなオカマに見えて困りました。lucindaさんの言うとおり、潔と正木の絡みをもっと読みたかったです。報われない思いにギリギリする正木が見たい・・・。

そして『篭蝶は花を恋う』も読んでいます。沙野さんといえばエロの印象が強いけれど、相応の筆力があるからこそ独特の濃いムードが醸し出せるといつも感じます。

編集 | 返信 | 
2008.11.05
Wed
12:26

 #-

URL

lucinda

>ヒステリックなオカマ
アハハ。そうそう、わたし、以前読んだアラスカさんのレビュー内容をあまり覚えていなかったのを幸い、今回、レビューをアップして再読したのですが、言われて見れば確かに!なんですよねぇ。正木の見かけが、男らしくいかにも“いい男”なだけに、おっしゃるとおり、そのギャップを見てみたいです。

>相応の筆力があるからこそ独特の濃いムードが醸し出せる
いや、まったくその通りだと思います。読みながら入れてしまう突っ込みは、何もしなければずりずりっとあのムードに引っ張られそうになる危機感ゆえかもしれません(笑)

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