難しめの金融業界もドンと来い―銀行員シリーズ、アナリストシリーズ

 06,2008 21:44
お金がもっとあったらいいなぁとか、働かずに好きなことをして食べていけるのって理想かもとか、日ごろ悩ましい思いを抱いている「お金」。

そうはいっても「初心者でも安心!株入門」とか、「今から始める外貨預金」とかいった特集には、まったく、これっぽちも触手が動かないわたし。お金を殖やしたいなら、資産運用にもっと興味を持ってもよさそうなものなのに――マネーセンスや利殖意欲が、とことん欠落しているとしか思えない。

――人生どうなるかわからないなら、やりたいことをやっておくべきでしょ。

しかし、ちょっと仕事で金融系の勉強をしなくてはならなくなり――そんな時に目に留まったのが、この「銀行員シリーズ」と「アナリストシリーズ」。舞台は銀行や金融系シンクタンク。当然、銀行マンやアナリストといった金融マンが主人公。いやー、BLって、本当にいろんな職種を網羅してますね。

・長くなるので折りたたみます。
まず、銀行員シリーズから。全4冊で、主人公は新人銀行マンの藤芝遼太郎。彼を好きになって手を出しちゃうのが、先輩銀行マンの椿本崇。でも遼太郎も、初めこそ驚いたものの、次第に椿本に惹かれる自分に気づいていく。

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(あらすじより)「―藤芝。やっぱり駄目だ」椿本さんの切羽詰まった声―そこに秘められた何かが、俺に危険信号を送っていた。葵銀行新宿支店に配属された新人の藤芝遼太郎は、目つきの鋭い椿本崇に、マンツーマンで指導を受けることになった。その彼から、歓迎会で突然キスをされた藤芝は…。駆け出し銀行員のさまざまな苦悩を描く、トラブル・ラブ・ロマンス。

遼太郎はおっちょこちょいなところがあるけど、何事にも一生懸命で素直ながんばり屋。そんな遼太郎に目をつけていたのは椿本だけではなく、実は大学時代の先輩で、大企業の御曹司・林もひそかに遼太郎に思いを寄せていた。しかも林、椿本とイトコというややこしさ。そんな林が暴走しちゃったのが、この作品。

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(あらすじより)「言っただろう、これはお仕置きだって」椿本さんは、俺の胸についた赤い印を、忌ま忌ましそうに睨んでいた。入行一年目の藤芝に任された取引先が、突然業績不振に陥った。その原因が林グループにあると聞き、直接林に怒りをぶつける藤芝。親父に口を利いてやる―協力的な姿勢を見せる林の言葉で、すべてが解決に向かうと喜んだのも束の間、ある条件を求められ…。

「ある条件」なんて、もちろん遼太郎をどうにかすることに決まってます。そうこうするうちに、なんと、遼太郎のいる葵銀行と、林のいる鳳銀行が合併することに。

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(あらすじより)葵銀行と鳳銀行が合併することになってしまった。そのうえ、なぜかあの林が、藤芝たちと同じ支店に異動してきたのだ。ことあるごとに椿本とのあいだを邪魔する林に、気の休まらない藤芝。「おまえは健気だよな。椿本さんは浮気しているっていうのにさ」林のそんな台詞もまともにとりあわなかった藤芝だが、否定しきれない決定的な場面を見せつけられて―。

なかなか心が休まらない日々を送る遼太郎に、新人の橋谷がいきなり体当たりの恋の告白をしてきたりして、遼太郎、ますます大変なことに。

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(あらすじより)葵鳳銀行に勤めて二年目の藤芝遼太郎は、同じ営業課の椿本崇と付き合っていた。そこに飛び込んできた、林グループ銀行業進出のニュース。やがて行内には、藤芝がその新たな銀行へ移るという噂が流れ、彼を精神的に追い詰める。「おまえを手に入れるためなら、俺はなんだってやる!」林グループの御曹司・林秀幸は、藤芝への思いを諦めず、ついに強引な手段に出て―。

銀行を辞め、家業を継いだ林の暴走も激化。さらに、遼太郎のブラコンな弟・雅彦が登場。どうする、遼太郎!? どうなる、遼太郎!?

――って、いえ、大丈夫。なんだかんだいって、遼太郎は椿本との絆を深め、林(と橋谷と雅彦)をたくみに退けて、ハッピーに収まるんだもの。

ではアナリストシリーズはというと、こちらは全5冊。主人公は金融系シンクタンクに入社して3年目の五十嵐邦彦。仕事に意欲的で負けず嫌い。ちなみに銀行員シリーズの遼太郎の大学時代の先輩で、林とは腐れ縁の“親友”、ついでに椿本は高校時代の先輩だ。邦彦は、機関投資家向け説明会での質疑応答でパニクっていた時に助けてくれた、“伝説の”ストラテジスト・鷲崎に惹かれていく。

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(あらすじより)「私は男に冗談でキスをする趣味はないよ」彼の濡れた唇が、今行われたことを生々しく物語っていた―。証券経済研究所に入社して三年目の五十嵐邦彦は、ある日、アナリストランキング表の上位に載っている一人の男に注目した。敏腕アナリストとして有名なその人物が、かつて自分と同じ会社に勤務し、独立を果たしたという経緯を知り、邦彦は徐々に彼に心酔していくのだが―。

鷲崎、もう最初から邦彦に押せ押せで迫るのだが、邦彦はなかなかそれを素直に受け入れられない。そのうち、鷲崎が女性と一緒にいるところを目撃したり、鷲崎の会社と主幹事(会社の証券の発行を引き受ける証券会社のうち、中心となる証券会社)の座を賭けたコンペが行われたりして、邦彦の心中は穏やかではないのだけど――。

恋のリスクは犯せない―アナリストの憂鬱 (講談社X文庫―ホワイトハート)恋のリスクは犯せない―アナリストの憂鬱 (講談社X文庫―ホワイトハート)
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(あらすじより)証券経済研究所に勤める五十嵐邦彦は、鷲崎から引き抜きの話を持ちかけられた。恋人の欲目―その思いが断ち切れないまま、同僚の水沢千鶴とともに、ニューヨークへの出張を命じられる邦彦。だが、二人の関係を誤解する鷲崎は、逆上のあまり、彼を自らのベルトで縛り上げ…。「私以外の人間のことなんか、考えられないようにしてやる」邦彦の否定の言葉は、容易く遮られた。

前作で想いが通じ合った邦彦と鷲崎だが、今度は鷲崎が、邦彦と邦彦の女性の同僚・水沢の仲を勝手に邪推して暴走。だが邦彦も、鷲崎と彼の部下の鳥海の関係に疑いを抱いて大荒れ。なんだかこの二人は、しょっちゅうケンカしている……。

誘惑のターゲット・プライス―アナリストの憂鬱 (講談社X文庫―ホワイトハート)誘惑のターゲット・プライス―アナリストの憂鬱 (講談社X文庫―ホワイトハート)
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(あらすじより)ジェフリーが重役とともにニューヨークの本社から研究所にやってきた。やがて邦彦のもとへ、三年間の本社研修の話が持ち上がる。鷲崎と対等なストラテジストになりたいと望みながら、今の自分に自信が持てない邦彦は悩み、鷲崎に相談するのだが…。「君は本当に私を煽るのがうまいな」気の強い邦彦が珍しく弱気になって尋ねると、鷲崎は性急に彼のネクタイを引き抜いた。

そして第三の男・ジェフリーが本格的に登場。お約束どおり、ジェフリー、邦彦のことが好きなのだが、これまたお約束どおり、邦彦はジェフリーの気持ちに気づかない。それをヤキモキして見守る鷲崎。

愛のレイティングAAA(上) (X文庫ホワイトハ-ト)愛のレイティングAAA(上) (X文庫ホワイトハ-ト)
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(あらすじより)伝説のストラテジスト・鷲崎が執筆した本が、売り上げ一位を獲得した。証券経済研究所に勤める邦彦は、改めてその実力に驚嘆し、距離を感じずにはいられなかった。そんな折、邦彦たちのもとにも執筆依頼がやってくる。だが、編集担当として現れたのは厳つい男で、彼の妖しい言動に、邦彦はいつも翻弄されてしまう。「君は、あんな男にここを触らせたんだな!」それを知った鷲崎から容赦のない手段で迫られ…。

下巻もあり。邦彦もとうとう、本を出すことになるのだが、それは鷲崎の部下・鳥海の著書との同時発売。当然邦彦は、鳥海に負けられないと気合が入るのだが、編集者の大熊が邦彦にちょっかいを出してきたり、ジェフリーが真正面から告白してきたりと、邦彦の身辺は慌しい。どうする、邦彦!? どうなる、邦彦!?

――って、こっちも大丈夫。邦彦はさまざまな外野を黙らせ、鷲崎とちゃんとハッピーエンドに収まるから。

そう、この2シリーズは、金融業界を舞台にしていること以外にも共通点がいくつかある。

●銀行員シリーズでは遼太郎が、アナリストシリーズでは邦彦が、“総受け”。というか、何人もの男をトリコにする、ある意味“魔性の受け”
●どちらも年上攻め(アナリストの鷲崎は30半ばのオヤジという設定だけど)。
●主要人物はこれほど同性に惹かれているのだが、全員もともとノンケ。もっといえば、「あいつだけは特別」という、BLではよく見られる相手を限定したゲイ
●受けは攻めに迫られまくって自分の気持ちに気づく。また、エッチシーンでも、受けは総じて受け身
●エッチシーンにも定番のパターンがある(キスは唾液があふれるとか)
●いろいろなアクシデントが起こるが、必ずハッピーエンドで主役キャラ同士の関係は深まる

ま、6番目はBL全体のお約束といっていいだろうけど、ともかくこうして共通点を並べると、主役カプの描写は「……お約束、つーか、ワンパターン……?」という感じがしないでもない。だがそれをがっちりカバーするのが、主役を取り囲む仕事を絡めた周りの人間関係だと思うのだ。この人間関係がなければ、この2シリーズはここまで面白くなかったに違いない。

銀行員シリーズは、遼太郎たち営業を支えるアシスタントの女性との関係や、クライアントのしたたかさ、弱さがしっかり描かれているし、アナリストシリーズは、「女だからって負けられない」と肩に力が入っている邦彦の同僚・水沢がいい味を出している。水沢、現実では、こんなに競争心まる出しの人は面倒くさいだろうなぁ……と思うのだが、その気持ちの張りようはわからないでもない。そして両シリーズを通して「困った人」林も、けっこうな登場回数。こんな御曹司がいるかどうかはわからないが、こんな男はいるよなぁ……としみじみ。

ストラテジスト(ミクロ経済とマクロ経済両方を研究して投資戦略を考える人)ってものもこのシリーズで初めて知ったし、主幹事とか、稟議書とか、ベンチマークとか、銀行・証券業界の用語は、おかげでよーく頭に入れることができた。BLバンザイ! 欲をいうなら、もっと仕事のシーンが多いとよかったのに……。そこらへんは、大人の事情ってもんが働いたんでしょうよ。きっとね。

作者の井村仁美さんが金融業界にいらっしゃったのかどうかは不明だけど、旦那さんはアナリストだそうで、だから「アナリストシリーズ」が生まれたのだとか。う……そ、そういうもんなんだろうか……。

銀行員シリーズの第一作が出版されたのが1996年(花丸ノベルズから発行)ということで、椿本が遼太郎に連絡を取る手段が、メールでも携帯電話でもなく家電だったり、「金融ビックバン」が取り入れられたり(葵銀行と鳳銀行の合併)、“時代”が感じられるのも面白い。これ、今だとまた違うシチュエーションでストーリーが展開されるんだろうなぁ……。そのストーリーを読んでみたい。

この2シリーズは登場人物の関係がつながっていることもあって、ファンブックも出版されている。

愛と欲望の金融街 (講談社X文庫―ホワイトハート)愛と欲望の金融街 (講談社X文庫―ホワイトハート)
井村 仁美

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主要キャラは女性以外、総出演です(これが出版された2003年、アナリストシリーズは最後の「愛のレイティング…」がまだ出ていなかったので、ジェフリーや大熊はストーリーに登場せず)

あとがきによると、作者の井村さんは「仕事の話をがんがん書こうと思った」らしいのに、担当編集者が「温泉」を強烈プッシュしたため、ストーリーの舞台は温泉になっている。うー、そりゃこれはこれで面白いけどー……でもやっぱりわたしとしては、仕事の話がよかったよー!! なんてことを言ってくれたんだ、編集者! 温泉の方が売れたんだろうけどさ。

でも、詳細な登場人物紹介とか、年表とか、登場人物へのQ&Aとか、金融用語紹介とか、内容はもりだくさん。この世界観に浸っていないと、読んでいてちょっぴり恥ずかしい気持ちになる時はあるが、作者と出版社の熱い思いはじんじん伝わってくる。

むりやりまとめると――銀行員シリーズもアナリストシリーズも、キャラといい、ストーリーといい、シチュといい、1990年代後半~2000年初期のBLの“あるべき姿”みたいなものがキチッと詰め込まれてできた作品のような気がする。でももし叶うなら、現代が舞台の両シリーズを読んでみたいなぁ……と思うのだった。ほら、時代の流れの速さゆえに、金融業界もBL業界も、また変わってきている(だろう)しさ。そしてできれば、今度は仕事ガッツリ目でお願いしたい――と心から思うのだった。
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Tags: 井村仁美 如月弘鷹 総ホモ展開 連作レビュー

Comment 2

2008.08.07
Thu
14:04

アラスカ #-

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わ~嬉しいなあ。井村さん、好きなんです。
あまり大きな声で言えないのが辛いと思っていました。
私も証券会社の用語は、このシリーズで学びましたよ~。

 >1990年代後半~2000年初期のBLの“あるべき姿”みたいなものがキチッと詰め込まれてできた作品

そうそう。定番というか、BLのお約束だけで出来上がったような展開。
これをつまらないと読むか、水戸黄門のように楽しむか、人により評価は割れるだろうなと思います。

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2008.08.08
Fri
01:42

lucinda #-

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アラスカさん、井村さんお好きなんですね!
わかりやすいテンプレっぽい作品、ってのが、大声で言えないネックになっているのでしょうかねぇ……。

>これをつまらないと読むか、水戸黄門のように楽しむか、人により評価は割れるだろう…
まさに! 個人的には楽しめたので、だからこそ、「今」の「お約束」が盛り込まれた作品を読んでみたい、と思うのかもしれません。このところ、新作を出されているのでしょうか、井村さん……

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