美男の達人(小林典雅)
――ムリヤリな導入ですね。
異色のBL作家、というか、BL界の橋田寿賀子などと一部で称されている小林典雅さん。寡作の人だけど、わたしは本当にこの人の作品が好きで――コメディタッチで実際クスクス笑えるところも、妄想入り気味の暴走セリフも、脇キャラが妙に個性的なのも、すべて好き。だから新作の「美男の達人」は、ものすごく楽しみにしていたのだ。
もちろん、作品は期待を裏切らなかった――十分です! 満腹です! リンク先をはじめ、わたしがよく遊びに行くブログでも絶賛されているが、それも納得だ!
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(あらすじより)メタボ体型のせい(?)で失恋した先輩に付き合って『美男塾』の見学説明会に参加した上遠野。モテることになんら興味はなかったのに、ある男性講師に一目惚れし、勢いで入塾してしまうが…!?
とにかく、作品の約9割は「美男塾」の講義なのだが、この講義が、もう秀逸。女性の男性に対する日頃の本音が――それも育児や介護、機械修理などなど妙に現実的かつ実践的なもの多数――ガンガンに詰め込まれて、思わずニヤけそうになることうけあい。そうそう、男性にはそういうところにも気配りをいただきたいんですよ。
「わかるわかる、わかるわぁ!」と読みながらうなずけるくせに、同時にそこはかとなく胡散臭い感じが漂うのも、これまた典雅節のけれん味がにじみでている感じというのかしら――講師たちの話の中に設定されている細かいシチュエーションにフキ出したり、主人公・瑛士の、講義への内心の突っ込みにも同調したり――講義内容はものすごく共感できるけど、深刻になることなく、「これってBLだからさー」と笑って受け流せそうな感じというかなんというか。誤解を恐れずいうと、一歩間違えたらガチガチで真剣勝負のフェミニズム小説になりそうなところを、うまーくかわしているというか、逃げているというか――。
そんなことを、感じたのだった。
とにかく、講義の様子が全体の9割近くを占めるので、瑛士と夏秋はどうなっちゃうのかしら?――というか、これ、エッチなしどころか、瑛士の片想いで終わるかも?――とちょっと心配になるのだけど、大丈夫。ラストは怒涛のような展開で二人は結ばれる。あとがきに書かれていた、塾頭の箭内が碧海を食っちゃう様子も、読みたいなぁ……書いてもらえないかしらねぇ……。
ほかのBL作品よりは文字がギッシリだし、エロは薄めだし、人によっては「これ、BL?」と思われるかも。それに典雅節にノれなかったら、「つまんなーい」と思ってしまうかもしれない。でも、典雅さんが常々あとがきで書かれている「明るくて読みでがあって読後感のいいラブコメ」、このまま存続してほしいと切に思う。しかもそのラブコメは、BLなんですよ? 天然トンチキ系(秀香穂里さん、高尾理一さん<勝手にわたしが位置づけているだけ)のおかしみや笑いもいいけど、練りに練られた、いわば計算された笑いもあってほしい。
本気で、初めてのファンレターを送っちゃおうかなぁ……うーむ……。
#講義内容にある有名人の言葉の引用やシチュエーションの中で、一番最初に笑ったのは「男だって十和子肌」。十和子、久しぶりに聞いたなぁ……。
#瑛士は翻訳物の少女小説が好きだという設定なのだが、なかでも「赤毛のアン」の登場に、思わず「棒投げ橋で待ってて」を思い出した。典雅さん、やっぱりマシュー×アンだと思ってますね!? ――あ、わたしは個人的には、オルコットよりモンゴメリ作品が好き。アン・シリーズではあまり感じられないかもしれないけど、登場人物への鋭く、時に意地悪な視点や描写がたまらないんですよ。典雅さんも、けっこう読まれているんじゃないかなぁ……と密かにほくそえむのだった。
