成層圏の灯シリーズ(鳥人ヒロミ)

 09,2008 23:15
リバ好きなわたしに、miriam先輩はじめ、あちこちからすすめられた作品「成層圏の灯」シリーズ。まずタイトルがカッコいいよね。

成層圏の灯 1 (1) (WINGS COMICS BUNKO)成層圏の灯 1 (1) (WINGS COMICS BUNKO)
鳥人 ヒロミ

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(あらすじより)写真のモデルを引き受ける代わりとして佐伯が喜瀬川に出した条件は、肉体交渉だった。真面目そうな喜瀬川は、意外にもそれを承諾する。だが、遊びの関係が次第に重さと熱を持ち始める時…!

シリーズは「成層圏の灯」「年上のひと」「セミ・シングル」「幾千の言葉より」の4作。文庫版では2巻にまとまっている模様。喜瀬川と佐伯の関係を中心に、喜瀬川の過去、大学卒業後の喜瀬川と佐伯それぞれの人間関係を交差させながら、ストーリーは進む。

読む前から、シリアスなんだろうなぁ……と思っていた。別に発表年代で区別するわけじゃないけど、今のように商業誌BL飽和状態になる前の作品だし、「JUNE」が健在だった頃だし。

でも――たしかにシリアスではあったけど、ただむやみに悲劇的だったわけじゃない。喜瀬川が聖を拘束したり、佐伯を忘れられなくてやせ細ったり、喜瀬川から信用されるまで佐伯がじっと耐え忍んだり、「大変……!」と思うシーンは数々あれど、ムダに悲しく酷い感じではなかったのが印象的。なにより、悲劇や苦しみや怒りを乗り越えて、堂々と完結されていることに、心から嬉しくなったのだった。

3巻、いや4巻初めぐらいまでは、喜瀬川のあまりのひどい過去にウッとなってしまう。結婚詐欺師で獄中で亡くなった父親、ネグレクトなどで幼い喜瀬川を虐待した母親、たしかに可愛がり愛していただろうけども、身勝手に喜瀬川と体の関係を結び、捨てた叔父の聖。大人の都合で打ち捨てられ、そのおかげで、PTSDやDVを背負い込む喜瀬川の哀れさは、読んでいて体が震えそうなほど。

そんな喜瀬川がぞっこん惚れ込んでいる佐伯は、初めはいい加減で場当たり的テキトー人間だったのだが、やがて喜瀬川を愛するようになり、それにつれ、写真家という目標のある喜瀬川に引け目を感じ身を引こうとする。「俺には目標なんてないし……」と悩む佐伯の葛藤も、わからないでもない。おまけに、どうやらわたしと同年代らしい佐伯の、いきなり不況に陥った社会に必死に合わせようとする焦りが想像でき、ますます佐伯を憎めない。トドメが、喜瀬川に門前払いされても食らいついていく佐伯の“誠意”。いつの間にか佐伯を応援したくなってしまう。

喜瀬川に強く影響を及ぼしている叔父の聖は、あまりにも弱く愚かな人間で、時に腹立たしいのだけども――憎みきれない。なぜなら、喜瀬川を救い、一番最初に愛したのは彼だったから。バカでどうしようもない男だけれど、彼がいなかったら、喜瀬川はどうなっていたんだろう……と想像するとゾッとしてしまう。

うん、喜瀬川と佐伯がストーリーの中心とはいえ、聖の存在が最初から最後まで強く感じられるため、喜瀬川、佐伯、聖3人の物語、といいうことなのかもしれない。

そんな3人に、聖の友人・バクさんや、ビアンのアッコ、佐伯の元カノ・ユカ、喜瀬川が付き合っていたカブ、佐伯が付き合っていた唯などなど、魅力的な脇キャラが絡んでいくのだ。ああ、なんだか4巻とはいえ、倍の巻数を読んだような濃さと充実感だったなぁ……。

リバは、「下克上リバ」「相手によって役割の変わるリバ」「カップル内リバ」が、確かに混在していました!……と報告しておきます。あ、そしてここでも、自覚している「ゲイ」のいるところに、ビアンが登場していますね。んー、なんだ、この因縁。

この作品、BLではあるけど、キャラクターの感情を追っていくと、ゲイモノっぽいというか、BLを超えているような感じがした。いや、個人的には、BLなのかリアル・ゲイなのかなんてことを追求するのは野暮だと思えるほど、キャラクターそれぞれの心理を深く探って描かれていたと思う。

ハッピーエンドでよかった。本当によかった。喜瀬川の不安が癒されてよかった。佐伯の誠意が喜瀬川に伝わってよかった。男夫婦で幸せそうでよかった……<ん?

いつまでも余韻に浸って、また読み返したくなる作品、だ。
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Tags: 鳥人ヒロミ リバ 連作レビュー

Comment 6

2008.06.10
Tue
12:36

かりんこ #-

URL

lucindaさん、こんにちは!

コミックス版でお読みになられたのですね?
私はこちらで薦められてるのを拝見して文庫版の方を読みました。

>BLなのかリアル・ゲイなのかなんてことを追求するのは野暮だと思えるほど、キャラクターそれぞれの心理を深く探って描かれていたと思う

本当にその通りですよね。ドラマがしっかり構築されているとジャンル分けなんて意味がないような。
暗い内容なのに適度に笑いもあって、すごく読ませる力があった作品だと思います。
さすがに皆様が薦められるだけあって名作だなあ、と私も素直に思えました。

TBさせていただこうかと思ったんですが、今までfc2さんにうまくいったことがないので、こちらにリンク書いてもよいですか?
もし不適切だったら削除してくださいまし。

http://blogs.dion.ne.jp/karakara_rin/archives/7181738.html

では、お邪魔いたしました。

編集 | 返信 | 
2008.06.10
Tue
20:00

lucinda #-

URL

リンクは全然OKですよ~!
もうブログの「リンク」のリストに加えさせていただいてますし、お気になさらず! というか、わたしもTBさせていただこうと思いながら、ウッカリしてました。させていただきますね~。
(でもなんでFC2からトラバできないんでしょうね)

文庫版って、文庫版ならではの書き下ろしとか、特典とかあるんでしょうか……? なんかそんなことが気になるぐらい、いい作品だったなぁ……と思います。これから、また読み返したくなるんだろうなぁ……と思います。

編集 | 返信 | 
2008.06.10
Tue
21:35

miriam #SFo5/nok

URL

lucinda姉様、ついに成層圏~を読まれたのですね!
なかなか良いでしょ?
確かにちょっと前のJUNE作品みたいですよね。重くて暗くてシリアス~な感じで・・・
だけど最後はハッピーですよ!(聖さんは別だけど…)
喜瀬川と佐伯はこれからもぶつかりあいながら成長していくといいですよね。

編集 | 返信 | 
2008.06.10
Tue
23:31

lucinda #-

URL

読みましたよ……そしてよかった~!
ありがとうございます。
重・暗・シリアスでも、ハッピーエンドなのは、本当によかった。むやみにハッピーエンドはつまらないかもしれないけど、でもこれだけシリアスだと、逆に悲劇で終わったらやりきれなさが倍増していたと思います。

喜瀬川と佐伯、見事に男夫婦って感じですよね。
なんだか、彼らど同時代を生きている……という感覚が、読みながら味わえたのも面白かったです。

編集 | 返信 | 
2008.06.11
Wed
23:41

ワラジ #j2ibdPwM

URL

始めはコミックを読んでいて、それを一旦処分してしまってでも、また読みたくなって、文庫版を買ってしまった自分です。
文庫版では政策当時の苦労話がちょこっとあとがきで載ってます。

英が短髪で、リバーシブルなのが、当時、リアルゲイっぽくて受け入れにくかったとか。

各所で、『古い』といわれている作品なのですが、ここまで、きちんと書き込んだ作品はないと思います。

いわゆるBLと言うカテゴリんみ当てはまりにくいとは思います。
でも、そこが自分の気にいっている所でもあります。

編集 | 返信 | 
2008.06.13
Fri
01:48

lucinda #-

URL

レスが遅くなってすみません。

おお、文庫版には、苦労話なんかが載ってるんですね。やっぱり、リアルゲイっぽいとかいう批評もあったんですね……<しみじみ。

わたしも、BLというカテゴリにあてはまりにくいような、それを超えているようなところが、好きです。きっとまた、読み返すと思います。

編集 | 返信 | 

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