ゲイ・マネーが英国経済を支える!?(入江敦彦)

 16,2008 20:10
可処分所得が高いゲイ、というかLGBT(=レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)向け商品が海外では増えつつあり、一大マーケットを築きつつある――というようなことを、以前、何かのコラムで読んだ覚えがある。その時は、へーえ……と感心しつつも、

――それはやっぱり、アメリカの話なのかしら――

などと、ぼんやり思っていたのだけども(こんなニュースもあったし)。しかしイギリスは、「一大マーケットを築きつつある」どころの話じゃないらしいと、この本を読んで知ったのだった。

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入江 敦彦

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ピンクポンド=LGBTが有する資産の状況や実態を、わかりやすく解説・分析されている。経済のことがわからなくても、興味深くサラサラと読み進められます。

なにしろ2006年のイギリスにおけるゲイ市場は、年間700億ポンド=約18兆円を超えたという。18兆円って、なに? どこかの国家予算みたいな数値だ。年も二度改まった2008年、どんなことになっているのか興味が尽きない。

あまりにも景気のいい話が軽快な語り口で続くので、ついつい、

――じゃあ日本も、LGBT向けの商品を考えりゃいいんじゃない?――

と単純に思いそうになるのだが――そんなカンタンなことじゃない、ということは読み進めればわかる。現在のイギリスの状況は来るべくして到来したのだ。

たとえば、イギリスは同性婚が認められている国の一つだけれど、それが認められた(しかも予想外の早さで)背景には、政府のLGBT寄りの政策の積み重ねがある。

LGBT寄りの政策施行のためには、政治家や経済界の重鎮にLGBTである人物が選出されている方がスムーズだろう。実際1998年のブレア内閣には、同性愛政治家が、大臣として4人も入閣していた、らしい。でもその4人も、国民から選出されているはずなわけで――うーむ。

うーーーーーむ!(ま、最初からカミングアウトしていたのは1人だけだったようだけど)

それにホモフォビア色の強いイメージがある警察、消防、軍隊にも同性愛者のグループがあり、2006年のユーロプライド(ヨーロッパ最大のLGBTの祭典)には、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)、消防局、イギリス海軍の同性愛者グループがパレードに参加したのだとか。

これも結局、時流がゲイフレンドリーであることに加え、政府がLGBTたちの存在を否定していないことも大きく関係しているんじゃなかろうか。

さらに、1990年代後半あたりからイギリスの文化・芸術が一世を風靡した「クール・ブリタニア」も、1997年、ブレア政権下で立ち上げられた「ブランド戦略」だということで、ここまでくると感心するばかり。

もちろん、クール・ブリタニアもゲイ抜きには語れず、メインターゲットはLGBT。つまり、映画や音楽、Webも含む小説など活字媒体、アート、ファッションといった「趣味性の強いマーケット」を評価し買い支えたのは「趣味人」の多いLGBTというわけ。

大体「クールブリタニア」自体、ホモエロティック、キャンプ(*1)、ゲイアイコンといった要素がてんこ盛りだったらしいし……当然、クリエーターとして活躍しているLGBTも多いに違いない。

LGBTたちが根気よく、自分たちを取り巻く不当な状況に抗議し続けた。
LGBTを受け入れる時流があった。
年収が高く社会的地位を手に入れたLGBTたちが増えた。

そんな下地があったからこそ、最後の一押し=LGBTに肯定的な政府が誕生したのだとは思う。それでも、経済の新局面を切り拓くには、政治の力が大きいんだなぁ…と、しみじみ痛感してしまうのだった。

日本って――どーなんでしょ? 以前よりはマシなのかもしれないけど、LGBTへの理解はまだまだって気がするよなぁ……。というか、その前にLGBTに肯定的な政府や地方自治体というのが、イメージできない感じ。

ピンクポンドはゲイの資産だけを指すものではないのだけど、この作品では、著者の入江敦彦さんが恐らくゲイだからなのか、視点がゲイ寄り。そこがもどかしく思えるところもあるけど、最初から最後まで「へぇ!」「ほぉ!」と感心しながら読めるのがいい。経済がテーマの本って、どういうわけか敷居が高い感じがしてしまうのでねぇ……。

ところで、この作品を読んですごく印象に残っているトピックを3つ挙げておく。

1.オ○マ買いは心当たりアリ
いや、多かれ少なかれゲイというのは宿命的なまでに趣味に没頭してしまうものではないか。しばしば彼らはハマった対象についてプロ跣の造詣を有している。おそらくは情熱の赴くままに興味の対象を掘り下げていった結果だろう。

俗に卸しの箱単位で商品を購入することを『大人買い』といったりするが、私は『オ○マ買い』のほうがより正確にニュアンスを伝えている気がする。」(P170)

これ、そのまんまオタクのことじゃないかと、内心突っ込んでしまった。

まあ、著者によると、ゲイは飽きっぽいためオタクのように「部屋中がコレクションでびっしり」というタイプは少数派だというけれど――でもねぇ……卸しの箱単位の大人買いは、やっぱりオタクだろ。

日本の場合、ピンクマネーよりもオタクマネーをどうにかする方が、たやすいかもね。

2.ゲイが増加≠少子化
著者が日本人の知り合いに、ゲイが影響を及ぼす不動産高騰について語っていたら、彼女は「でもゲイが増えたら少子化が深刻になるんじゃない?」と疑問を投げかけてきたらしい。

それに対する著者の答えに、思わずフイてしまった。

あんたみたいな馬鹿は、女性を“子どもを産む機械”に喩えた政治家と手を繋いで、日本経済に神風が吹くよう黒魔術でも踊念仏でもやってなさい(P210)

まあ、日本人の知り合いというその彼女の疑問は、そのまま日本の現状ということかもしれません。そして、昨今の少子化にまつわる頭を抱えたくなるようなニュースへのステキな切り返しのようにも思えて、個人的ツボにハマったのでした。

ちなみに著者によると、イギリスはじめオランダ、フランス、北欧諸国などゲイライトに熱心な国では出生率が上がっているとかで、この二つには関連があるのではないか――と論じられている。ここで引用すると長くなるので、詳しくは本書をチェックしてください。

3.「ゲイアイコン」マドンナは健在だ!
ゲイアイコンとは、類まれなキャンプを発散する人々のこと。ゲイアイコンになるべくしてなった最初のアーティストとして挙げられているのが、マドンナ。

ドラマティックな歌詞世界。硬質で人工的な美貌とスタイル。男がたじろぐような媚びのないセクシーさ。どこまでも派手なステージング。ホモエロティックな男性ダンサーの多用。レズビアン(のタチ役)っぽいパフォーマンス。なにより男を見る視線がまるっきりゲイのそれ」(P186)

なるほどなぁ……。そういえば、仲の良かった友人M(女)はかつて、「わたし、マドンナと男の趣味がすごく似てるんだよねぇ……」とつぶやいていたっけね。そうですか……としか相づちを打てなかったわたしだけど、考えてみれば彼女もオカマ女子っぽかった……元気かしら、Mちゃん。

それはさておき、この作品を読んだ後に発売されたマドンナのNEWアルバムのジャケットを見たとき、「さすがマドンナ……」といろんな意味で感心したのだった。

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引用部分そのまんまのビジュアル――なんだか最近、マドンナの顔がデビッ●・ボ●イに似てきたような、ある意味男女の性別を超越してきたような気がしないでもない。

あ、シングルリリースされているヒット中の「4 Minutes」は、最近のわたしのヘビロテチューンの一つだ。だるい朝でもアグレッシブに気持ちが盛り上がる、気がするんだもん。

*1 キャンプ(camp)…(名・形・動)大げさでこっけいな身ぶり、わざとらしさを生かしておもしろい, なよなよした、女みたいな、同性愛の、はったりをかける、なよなよしてみせる by yahoo!辞書&msn辞書
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Tags: 入江敦彦 LGBT市場 ゲイ ジェンダー フェミ?

Comment 3

2008.05.18
Sun
22:09

月読 #-

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類稀なキャンプを発散する人々には、やっぱり意志の強さがあるんでしょうねえ。
性的な意味で強く自分自身を意識した人は、こうならばこう生きてこの道を進むというセルフプロデュース能力に長けていますよね。
有名無名にかかわらず自分を知る人は強いなあといつも思います。

ワタシねえ、時々LGBTへの理解っていうか、そもそも理解とはなんぞや?と思うときがあるんですよね。うまく説明できないんですが・・・。うーん。また考え込んじゃった(^^;)

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2008.05.19
Mon
21:17

miriam #SFo5/nok

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日本では間違いなくオタクが経済動かしてますねえ。どんな不況でもコミケだけは大盛況!オタク向け限定高額商品が売り切れ!でしたもの・・・(笑)
そう、オタクは食費を削ってでも欲望を満たすのですよ・・・

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2008.05.19
Mon
21:52

lucinda #-

URL

>月読さん
自分を知る人は強い、に思わず強く頷いてしまいました。できるようで、なかなかできないことだと思います…ホントに。

LGBTへの理解……と、改めて考えると、うーん、確かにわからなくなりますね。まあ、いろいろ考えてみて、いわゆる“常識”でもって彼らそのものや彼らの気持ちを否定しないことかなぁ……と、今のところは思います。共感はできなくても、想像できるかどうか……ってとこかしら。できない人はできませんからね……というか、別にこれ、LGBTに対してだけのことじゃないですけどね……。

>miriam先輩
この本は、途中で「……それはオタクのことだろッ!?」と突っ込みたくなる部分が何箇所かあります。まあ、今の日本、オタクをどうにかお金に利用しようとしている動きをみせている気がしますけどね。

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