いとしさを追いかける(杉原理生)

 15,2008 00:02
スローリズム」を読んで、けっこういいかも…と思った杉原理生さん。この作品も、かなり好き。

いとしさを追いかける (幻冬舎ルチル文庫 す 2-1)いとしさを追いかける (幻冬舎ルチル文庫 す 2-1)
杉原 理生

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(あらすじより)進学のために上京した杜国が、最初に電話したのは高校の先輩・掛井だった。杜国は高校時代、ある目的で掛井に近づき、そして傷つけてしまった。それ以来連絡をせず、1年ぶりの突然の電話で「テレビの配線わかります?」と言って杜国に、掛井は高校時代と同じように優しくて…。

この作品、「テレビの夜」として雑誌掲載されたものと、その続編として書き下ろしの「いとしさを追いかける」が収録されているのだが、わたしは断然、書き下ろしが好みだ。というか、「テレビの夜」だけだったら、「ま、面白いんじゃない?」ぐらいで終わっていたと思う。じゃあ、雑誌掲載分と書き下ろしの違いは何かというと、受けの杜国のグルグルっぷりに共感しちゃったことと、攻めの掛井の魅力がしっかり描かれていたこと、だな。

杜国のグルグルした物思いの根っこには、高校時代、あんなに可愛がってくれた掛井をひどく傷つけてしまったという罪悪感と後悔があるのだが、もう一つ、自分は誰とも、母親とさえも心を通じ合わせたことはない……という自信のなさも関係しているような気がする。だって、母親が突然事故で亡くなった時も、「ぼくと母の心は一度も溶けあったことがなかった」と気付いて涙も出なかったぐらいだもの。

掛井を取り戻したくて、なりふり構わず掛井を追いかけて上京し、ようやく気持ちが通じたというのに、杜国の心はいつも不安でいっぱい。「どうやったら、ずっと自分を好きでいてもらえるんだろう」「いつまで自分のものにしておけるんだろう」とウツウツウツウツグルグルグルグル……。ま、めめしいっつーか、うっとおしいっつーか、こんなヒト、近くにいたらイラつきそうではあるのだが、不思議と読んでいてイヤじゃない。イヤじゃないどころか、「わかるわぁ……」としんみりしてしまう始末。杜国の不安に心当たりがあるから――なのかもしれない。

でも、同じような不安が描かれていても、「……フンッ(哄笑とともに)」と鼻先であしらいたくなる作品もあるからなぁ……。これはやはり、杉原さんの書き方が上手いってことかもしれない。嫌味やひとりよがり感なく描かれている、という感じかしら。

内向的でネガティブな杜国をどこまでも受けとめる掛井。わたし、久しぶりに「いいなぁ……こんな人…」と、攻めに対して実感したかも。とにかく寛大なのだ。杜国がうだうだ悩み遠回りに鬱憤をぶつけてきても、一緒に感情的になったりしない。クライマックスでは、「どうして俺なんかを好きになってくれるのか、わからないから怖い」という杜国に、

「だって、好きなんだ(もん)」(※カッコ内はわたしの勝手な付け足し)

とあっさり言い切って結論づけるところが、妙にリアル。「それを言っちゃおしまいでしょ」的な言葉だけど、だからこそ「結局のところ、それに尽きるよね」としぶしぶ納得してしまうような気持ち。

まあ、しかし、どこまでも自分を受けとめてくれる掛井のような人は、案外近くにいると不安に感じちゃうかもしれないなぁ。本当はどう思ってるんだろう……なんてね。

珍しく、仕事風景や恋愛以外の人間関係があまり絡まない「最初から最後まで恋愛してますっ!」なBL小説に感じ入ってしまった。

あ、「恋愛以外の人間関係があまり絡まない」とはいったものの、掛井と同じマンションに住んでいて、杜国のバイト先の先輩でもある中西(男)は、ちょっと気になるキャラだ。中西、掛井とはゲイの集まる店で知り合い、掛井が高校時代から杜国に片思いしていることをすべて知っているという設定なのだが――

杜国と掛井のことを知っていながら、「つきあってる彼女とうまくいってないの?」と、素知らぬフリで杜国から話を聞き出したり、「掛井を振った子(=杜国)は性悪っぽいと思う」と杜国を前にしてズケズケ言ったり、かなりなイケズ。

バイト先の同僚である瀬古(女)のことを

「美人がサバサバしてるって? そりゃ、わざとそういうキャラで売ってるに決まってんだろ。戦略だよ。杜国――きみ、女見る目ないのな」

とバッサリ斬り捨てるところで、「ああ……ホンモノっぽい……」と妙に感心してしまった。ああ、奇しくも先日アップした「BLに登場する美人だけどサバサバした女」の全否定。ハハハ。反面、杜国を泣かせたことを気にして話を聞いてやったり、意外と世話好きなのだった。

そんな中西、彼氏と同棲中らしい。んー、掛井と杜国は、もうきっと幸せに暮らしていると思うので、わたしとしては中西のことが知りたい……。

杉原理生さん、淡々と地味めに進行していくストーリーと、可愛らしいリリカルな雰囲気が砂原糖子さんにちょっと似ているような気がする。作家歴は長いらしいのに著作数は少ないのだが、今月はまた新刊が出るみたいだし、これから注目、かな。
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Tags: 杉原理生 麻々原絵里依

Comment 2

2008.05.17
Sat
01:29

かりんこ #-

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lucindaさん、こんばんは~。

杉原さん、私も最近ハマりました。
よくありそうな設定や展開なのに、ちょっと登場人物に距離を置いているような淡々とした描写に却って物語に引き込まれてる感じです。
一言でいうとこういう文章が好きなんですよ(^^;)

新刊も楽しみ♪ですが昔の作品も気になるので、ちまちま探してます。

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2008.05.18
Sun
16:34

lucinda #-

URL

かりんこさんもハマってるんですね。仲間仲間~!
一人称で話が進むけど、たしかに、登場人物に距離を置いている感じありますよね。ハードボイルドじゃないけど抑えた感じ、わたしも好きです。

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