西の男―「午前五時のシンデレラ」(いつき朔夜)、「それは言わない約束だろう」(久我有加)

 16,2008 22:42
BLで登場する方言については、以前にも取り上げたことがあるけれど、あの時は、わたしのネイティブ方言である広島弁へのフクザツな気持ちをつぶやいていた。しかし、自分のよく知る方言でなければ、よっぽど胡散臭くない限り、「いいなぁ……」と思ってしまう。

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いつき 朔夜

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ヤクザ崩れの釘師・飛良と、ドロップアウト教師の優也が出会ったのは、レトロなパチンコ店だった。危険な匂いのする釘師になぜか目をかけられて、優也は徐々に新しい職場に馴染んでゆく。だが元生徒の父親が店に乗り込んできたことから、優也は飛良と偽装同棲をする羽目に…!? 北九州・小倉の街を舞台に繰り広げられる、男たちの人生ゲーム。

小倉弁ですよ! 福岡だけど博多じゃない。ここが個人的にツボ。えーっと、超個人的な感覚なのですが、北九州には男っぽい、どっちかというと荒っぽいイメージを持っており、この作品は方言のせいもあってか、なんだかそんな雰囲気がじんわりとにじみ出ていたと思う。しかも、釘師が重宝されるレトロなパチンコ店が舞台の一つなんて――作者のいつきさんは、わかってるなぁ……と思ってしまう。

男っぽく釘師としての腕も抜群で、腕っ節も強い飛良。でもその内面には置き去りにされる恐怖を抱えていて、そんな自分の気持ちを上手く表現できない。だからこそ、優也に執着して優也を戸惑わせる。この飛良のキャラに小倉弁がバッチリはまっていて、なんだか音声が聞こえてきそうな気がするほど。このキャラとこのしゃべり、ちょっと前の仁侠映画のヒーローみたいな感じじゃなかろうか。

人と深く関わることがなく、どことなく人に対して壁を作ってきた生真面目な優也は、まあ、いってみれば生娘みたいな感じといいましょうか。いえ、実際、そういった経験はないという設定だったんだけど――でもそういう優也だからこそ、飛良は惹かれて執着したんだと思う。惜しむらくは、優也が小倉弁をしゃべっていないことかなぁ……。どうして小倉弁じゃないのかはナゾ。

2人の会話のやりとりだけじゃなく、祇園太鼓とか門司港とか、町の描写が入っているのもいい。amazonのカスタマーレビューでは、「優也、好いちょう」という言葉が絶賛されていたけど、もちろんそれもいいんだけど……わたしとしては、優也が飛良と、飛良の兄貴分・阿南との関係に嫉妬して飛良に「抱いてくれ」と迫った時、飛良が言うセリフが好きかな。

「おまえには、何か待てん理由があるんやな。俺に抱かれんでおる方が怖いんか。……そんなら俺も、もう我慢せん」。

これ、別に共通語でも悪くないセリフだけど、方言だと共通語以上にリアルなような、ドラマチックなような感じがしてゾクゾクするなぁ。

それは言わない約束だろう (新書館ディアプラス文庫 179)それは言わない約束だろう (新書館ディアプラス文庫 179)
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旨くて安いと評判の定食屋「いせや」。大学生の公彰は、そこで働く竜一に「ほんま美味しそうに食べるから」という理由で気に入られ、彼に構われながら夕食をとるのが日課になっていた。ある日、公彰は竜一がお笑いの道を目指していることを偶然知る。芽が出ないまま、もうすぐ十年。ふだんは能天気にさえ見える竜一の思わぬ真剣さに、夢を持てない公彰は憧れを抱くようになるが…。

あちこちで人気の、久我有加さんの芸人シリーズ。でもこの作品はちょっと異色。というのも、主人公の竜一は日の目を見ない売れない芸人であり、しかも夢を諦めるという設定なのだ。同期の一人は、全国的に有名になって大人気の若手お笑い芸人になっている(これが芸人シリーズの一つ「月も星もない」の主人公たち)けれど、それを横目で見つつ、最終的に、自分の才能に見切りをつけて夢を諦める竜一。この苦さ。この辛さ。わたしは読んでいてかなり感情移入してしまったのだけど、これが身に沁みるのは、やっぱり30半ばを過ぎてるからかもしれないなぁ……。

「自分には夢がない」ことがコンプレックスになっている公彰。だからこそ、夢に向かって努力する竜一に惹かれていく。漫才師の夢を諦め「いせや」で料理人として頑張る竜一の目線で語られる「世界で一番大好きだ」では、竜一の公彰へのメロメロぶりが強調されているのだけど――実は公彰も、かなり竜一にメロメロ。それは、竜一のためにバレンタインデーのケーキを作ったり、竜一と最後までできるような体位をすすんで取るところとかにも表れているんだけど、なんといっても、巻末のショートストーリー「あなたが一番大好きだ」を読めば、もう一読氷解。そうかそうか、竜一に一緒に暮らそうと言ったのね、竜一のご飯が待ち遠しくて仕方ないのね、公彰――と、読んでいてニンマリしてしまう。

芸人シリーズということで、舞台は大阪。もちろん、キャラたちがしゃべる言葉も大阪弁。夢を諦める竜一のセリフが、飄々とした大阪弁ゆえに深刻になりすぎず、でもどこか悲哀な雰囲気がうまく出ているような。かなり個人的なイメージなんだけど、むかーし見た、市川雷蔵の「好色一代男」の世之助をちょっと連想してしまった。

大阪弁は、イコール関西弁みたいな捉え方をされ、全国的に知られている方言になっているけれど――結局イメージとしては、芸人が使う言葉か、Vシネやマンガにみられるヤクザが使う言葉、のどちらかがほとんどじゃないかと思う。この作品も芸人が主人公ではあるけれど、でもテレビでよく耳にする大阪弁とは、またちょっと違うニュアンスが感じられるような気がして――だから、余計に「方言を使ってるなぁ」という印象を持ったのかもしれない。ま、BLのヤクザものでも大阪弁(関西弁?)はよく使われるけど、あれはヤクザのツールって気がするもんなぁ……。

久我さんの芸人シリーズ、わたしがほかに読んだのは「月も星もない」「月よ笑ってくれ」の、”パイロットランプ”もの。面白かったんだけど、パイロットランプの大先輩「バンデージ」を描いた「何でやねん!」を読んでから、レビューを書くつもり。いや、「月よ笑ってくれ」の中で、バンデージが登場するんだけど、これがめちゃくちゃ印象的なんですよ。そりゃもう、読まずにはいられないというか。

今回取り上げた作品の方言は、小倉弁、大阪弁と、奇しくも西日本の方言ばかり。どっちもまったく知らない方言ではないけれど、違和感は感じず、それどころか、方言ゆえに、その土地の雰囲気までも伝わってきた気がする。そういえばわたし、「senseito」も好きだし、もう一つ好きなweb作品も大阪が舞台で大阪弁がバンバン使われてるし、やっぱり西の生まれだから、西の言葉に引き寄せられちゃうのかしら。

――いや、ほかの地域の方言に接することがないから、知っている方言になびいてしまうだけなんじゃないかと思うのだ。BLで方言、かなりいいと思うんだけどなぁ。情感の伝わり方が、違うと思う。そりゃ、自分がよく知る方言がイマイチだと、「アイタタタタ」と思うけども。

でも、作家さんたちはみんながみんな、首都圏出身者じゃないんだから、東北や中部、沖縄とか、いろいろな地域の方言BLがあってもいいと思うのだけど……。ま、そのあたりは、商業誌よりは、ネット掲載作品の方が一歩リードしているような気がしないでもない。ということは、「商業誌で方言」は、実現に難しい壁があるってことなのかしらね?
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Tags: いつき朔夜 久我有加 北畠あけ乃 桜城やや 地方BL 方言BL 警検麻ヤ 複数レビュー

Comment 5

2008.03.18
Tue
05:51

アラスカ #JalddpaA

URL

他の方言

菱沢九月『溺れる体温』、『のらいね』は福井弁が結構出ていた気がします。内容的なお奨めは前者ですけど、黒ラキアなので入手困難かも・・・。
 
 >BLのヤクザものでも大阪弁(関西弁?)はよく使われるけど、あれはヤクザのツールって気が

確かにそうですね!。ヤクザ=関西弁のイメージが固定されています。(Ⅴシネマの影響?)
他の方言で思い浮かぶヤクザは、綺月陣『獣』の広島弁ですが、これは過激すぎて一般人は読まない方が良いかと思われます。

編集 | 返信 | 
2008.03.18
Tue
12:32

かりんこ #-

URL

こんにちは。

>「午前5時のシンデレラ」

私も「好いちょう」ではなく他のセリフのほうがグッときましたね~。あと、受が標準語なのは私も疑問でした(笑)

「何でやねん!」のレビュー楽しみにしてます。
あとリバの考察についても待ってますのでよろしくです(笑)

編集 | 返信 | 
2008.03.18
Tue
17:02

もと #4pDgvQA2

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確かに西の人間には、西の言葉は何となく慣れてるせいか、入ってきやすいですね。
九州北部の方言は、細かいところは違いつつ、何となく広島弁に似てる所もあったりして、なじみやすかったです。
懐かしいあの辺の方言、堪能してみたくなりました。また探してこよう!

そういや、「なんでやねん!」シリーズは、私がまだBLにはまる前、どこかを放浪中に、「カミさんのオススメ」的に、どこかのblogで男の人が紹介してたので興味を持ったんですよ。
実際に読んだは結構最近なんですけどね。
私は逆に月も星もないのシリーズの方を読んでないんで、そっちが読みたくなってきました!
う~、やっぱシリーズはなんだかんだ言いながら揃えたくなってきますね(>_<)

編集 | 返信 | 
2008.03.19
Wed
02:00

ようこ #onVA9wqc

URL

なんとなく毎号雑誌買っているので、「午前5時のシンデレラ」は雑誌掲載分だけは読みました~。
主人公のみ共通語である説明が一切なかったのは、私も大いに疑問でした~。
あれは何か説明あってもいいですよね…。
ゲームで、しかも同人ゲームでなら東北弁しゃべるキャラ見たことあります。
結構インパクトありました。
なんだか東北の言葉は柔らかくていいなーと思いました。
共通語とずいぶん雰囲気が変わるんですよね。
可愛いって言うか。
北の言葉で書かれたBL小説も読んでみたいですね。

編集 | 返信 | 
2008.03.20
Thu
00:00

lucinda #-

URL

>アラスカさん
菱沢九月さん……そういえば、「小説家は懺悔する」も、舞台は福井でしたね! 福井弁かぁ……関西弁に似てるイメージしかないけど、「溺れる体温」「のらいぬ」どちらも興味アリです。ありがとうございます!

ああ、綺月陣『獣』……。読む勇気が未だにもてません。てか、そんなトンキワ作品に広島弁(しかもヤクザ)なのが、なんというか、嬉しいようなフクザツなような……。

>かりんこさん
ですよね、受けの標準語! わたしのイメージでは、北九州は、まだ中国地方に似てるイメージだったのですが、この作品は「九州」って感じがしましたねぇ…。
あ、リバについて……ズルズルと延期してて気になっているところです。か、書くぞ!<気合。

>もとさん
九州の言葉に広島弁、というか中国地方の言葉と似ているところを感じるって、わかります。北九州なんて、とくにそうだと思うんだけど……でもこの作品は、わりともう「九州」って感じだった気がします。「何でやねん!」、男の人が紹介していたのか……その人は受け入れられたのかしら。
でも、ホント、シリーズモノは、なんだかんだいってそろえたくなります。はい。

>ようこさん
東北弁って、わたしはこっちに住むまで馴染みがなかったので、実際に聞いたときは感動しました。なんかねぇ、東北弁にも、いろいろ固定化したイメージがついていると思うんですが、ネイティブな会話を聞くと、なんかニンマリしちゃいましたよ。ほんと、北の言葉で書かれたBLも読んでみたいですねぇ…。

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