トンデモ系か新機軸か/不条理な接吻

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赤いバラがあでやかな表紙のこの作品、読み終わって、「これはトンデモ本かも…」と思ったのだが。

不条理な接吻 (ラヴァーズ文庫 49)不条理な接吻 (ラヴァーズ文庫 49)
妃川 螢 奈良 千春

竹書房 2007-11-24
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「兄からの褒賞を断ったSPは貴様か?」日本に華々しく降り立ったノルド王国軍総帥、ユーリは、ずらりと並ぶ警視庁のSPの中から、迷うことなく東堂喬也を選び、自分のいちばん近くに付くことを命じる。以前ユーリの兄が来日した時も、喬也は警護班に抜擢され活躍が認められたが、ノルド王国からの褒賞を断っていた。その事をユーリは不快に受け取ったのか、今回の喬也の役目は警護だけではなかった。「貴様を呼んだのは、私が愉しむためだ」ユーリは喬也に身体の関係を要求してきたのだ。「SPは男娼ではありません」SPのプライドにかけて喬也は毅然と断るが…。

えー、乱暴に言ってしまえば、最初から最後まで首を傾げまくりのシチュエーションなのだ。

喬也がユーリから直々に自分につくように命じられるってのも、上司の暗黙の了解のもと、喬也がユーリの夜伽に供されるのも、ラストで喬也が「海外研修」という大義名分で、SPを辞職することなくノルド王国に行ってしまうのも、「あれ~?」って感じ。いくらフィクションだからって、いくらファンタジーだからって、これが「そんなのアリ!?」と突っ込まずにいられようか。いやいられない。

ユーリその人の設定も超華やかかつありえなさ満載で――北欧の小国ながらも資源豊かなノルド王国の第二王子であり、母親は日本人でしかも庶民の出。<お母さんを主人公にしたら、正統派ハーレクイン小説ができあがりそうね。母親はノルド人になろうとするあまり、ユーリに「日本のことはあまり教えてくれなかった」と言うわりには、ユーリは日本語ペラペラ。おまけに幼い時、日本の祖父母の元で生活したことがあるらしい。「らしい」とつくほど、コッソリ行われていた模様(王族なのに…)。そしてまだ若いのに、士官学校卒ということで、なんとノルド軍の総帥。おまけに夜な夜な、カラーコンタクトと洗髪剤で変装してお忍びで出かける。

喬也に、「貴様」と呼びかけたり、「日本語の発音で勇悧(ユーリ)と呼べ」と無茶なことを命じるユーリもおかしいが、喬也なんて変装したユーリを最後まで全然見抜けず、よっぽど抜けているとしか思えない。凄腕SPなのに。同僚で喬也をフォローしていた蔆峪(ひしたに)は一発で見抜いたのに。

――まあしかし、トンデモ設定だとわりきってしまえば、そこそこ楽しめる……かといえば、うーん、なーんとなく、ストーリー展開のぎこちなを感じてしまうのだ。「ノルド王国のクーデター阻止」と「ユーリ×喬也の関係進展」という2つのストーリーの柱が、絡み合ってない感じ――そもそも喬也とユーリの関係も、それほどラブラブしていない。誤解を恐れずにいうと、BLというジャンルのお約束をきっちり教科書通り盛り込んであるけど、それだけ――という感じの作品。

なんだかなぁ…と思いながらあとがきを読んで、しかし、めちゃくちゃ驚いた。だって――

「今回は軍服モノということで……(略)……たしかに、特別な理由がなければ、たぶん一生手を染めなかっただろう設定だと思うのですが、今回はイラストの奈良千春先生に軍服を描いていただきたいという、担当さんの熱~いプッシュがあって書くことになりました
 そんなわけで、自身の内から湧き出る萌えにしたがって書いたわけではないので、実はあとがきで語れる面白い裏話とかがないんですよね…」

うーーーむ。そりゃ、なんかちょっとテンション低めのストーリーの雰囲気も無理はないよなぁ……。というか、「自身の内から湧き出る萌えにしたがって書いたわけではないので」なんて書かせていいのか、ラヴァーズ文庫…?

そして一番ビックリしたのが、「奈良千春先生に軍服を描いていただきたいという、担当さんの熱~いプッシュ」。ということは、この作品、まず奈良さんのイラストありきでプロットが出来上がったってことよね? しかも作家ではなく、編集者の希望により。BL小説におけるイラストの役割の大切さはよくよく言われることではあるけど、とうとう、「あのイラストレーターにあんな絵やこんな絵を描いてもらいたいから、それに合わせて小説をつけよう」という段階まできたのか……と思うと、妙な感慨を抱いてしまうのだった。これからのBL小説の、あるいはラノベの新機軸なのかしら――それとも、すでにこういう作品はたくさん出てるのかな。

ところでこの作品、vivian先輩から借りたのだが、やっぱりこれを買ったのは、「SP」という設定と奈良絵なのか聞いてみたら――

「そうそう。そうなの。まあ、奈良絵はいつでもステキよね、ってことで」

という答えが返ってきた。ええ、本当にね。奈良さんだから、こういう作品もできたわけだろうし。

まずイラストありきの小説、いいと思うけど、せめて小説家の方も萌えて書いた作品を読ませてほしいと思う――だって、逆でも同じことだもの。読者はごまかされないぜ――。
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