探偵青猫 【時代モノ de BL】

 17,2007 23:15
「時代モノ de BL」の中で、唯一のマンガ、「探偵青猫」。

探偵青猫 1 (1)探偵青猫 1 (1)

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本仁戻さん曰く、舞台は大正~昭和初期。多分、ほかにあげた「時代モノ de BL」の作品の中で、最も、時代考証や当時の風俗描写などがアヤしげだと思わせるくせに、最も、当時のムードがホンモノっぽく、かつ作品のイメージにピッタリ合っていると思わずにはいられない、不思議な作品。

探偵で男爵の青猫恭二郎と、彼の助手・小林虎人少年、ちょっとトロい青年刑事・蜂王子、そして青猫が追い続ける怪盗・硝子蝙蝠が主要なキャラクター。「探偵」と「怪盗」という設定が、ほんのりレトロな雰囲気――そう、なんとなく、江戸川乱歩や横溝正史の作品世界をイメージさせるようなところもあるのだ。ちょっと退廃的というか、耽美というか。

だけど、シリアス一直線ではありません。時にギャグもあり、ドタバタもあるところが、本仁さんの作品らしいところ。そうやってはぐらかされ、ちゃかされ続けていたら、不意に真意が見えてドキッとする感じ。

青猫は自分の美貌と能力に強い自信を持つ、ものすごくワガママな探偵だ。自信を持つだけあって頭が切れ、助手の妙に冷めている虎人少年とともに、事件を次々と解決していく。個人的に時々、京極堂シリーズの榎木津探偵を思い出させるところもあったりなんかして。しかし、事件解決は作品の中でそれほど重要事項ではない。読んでいくうちに、事件によって露になるキャラたちの思いや関係性の方に注目してしまうのだ。

そうして読んでいくと、この作品で繰り返し登場する重要なキャラの関係性に気がつく。それは、「父と子」。本当の父子もあるけど、擬似的な父子の方が印象が強い。以下、「父と子」という順で並べてみると――

1巻では、青猫と、虎人の幼なじみの、ちょっと知的障害のある不幸な生い立ちの少年・洵(まこと)。
2巻では、青猫と、虎人。虎人がなぜ青猫の助手になったのかが語られる。
3巻では、青猫の父の友人・早乙女伯爵と、少年の青猫。
4巻では、硝子蝙蝠と、少年の青猫。

こんな感じ。「父」はやさしく、息子を温かく庇護してくれ、「本当の貴族」「本当の紳士」であるのだけど、同時に、息子を愛し性愛までも手ほどきする。というか、息子的存在の少年に恋をしちゃうのだ。「息子」は父に反発しつつも、やはり父を慕い尊敬し続ける――本当の親子じゃないから近親相姦ではないけど、文字だけ読むと、「父子的関係なのに~!」と引きそうになる。多分、時代背景が現代なら、超生々しかったと思うし、ありえなさ満点だったと思うのだ。ところが――大正~昭和初期という時代背景、そして父的存在であるキャラが、すべて男爵とか伯爵など今はいない特権階級という設定のおかげか、生々しくないどころか、かえってロマンチックにさえ見えるほど。このあたり、うまいなぁと唸ってしまうのだった。

とくに1巻の、青猫と洵くんの話は、初めて読んだ時、不覚にも泣きそうになった。今回改めて読んで、やっぱりちょっと涙が出そうになった。知的障害はあるけれど、素直で純粋な洵くん。実の父親に売り飛ばされて男娼として働かされ、殺人事件の容疑者として疑われるのだが、あまりにも悲しくて、あまりにも切ないのだ、洵くんが。「~なの」「~なのよ」「~ね」と、ちょっと舌足らずっぽい、女の子のような口調が、これまた洵くんのキャラをうまくイメージさせると思う。そして洵くんへ気持ちが傾くのを止められずに焦る青猫の苦悩も胸に迫って、ベタだと思っていても、やっぱり涙腺が刺激されそうになるのだ。

結局、洵くんの容疑は晴れるのだが、事故のせいで、洵くんの男娼の頃の記憶はなくなってしまう。それはつまり、洵くんの記憶から青猫も消えたということ。喪失感を感じながらもある意味では幸せのはずという、この終わり方がねぇ……わたしの中では、まさに「耽美」という感じ。

青猫自身も、10歳の時に誘拐されたのを硝子蝙蝠に助けられたまま引き留められ、その間に、財産を狙う叔父に両親と兄が殺害されるという不幸な過去を持っている。そのせいか、硝子蝙蝠と青猫、早乙女伯爵と青猫の擬似父子的関係は、青猫に探偵としての能力を教えたり、爵位を取り戻す手助けをしたりと、青猫の成長物語的な部分も見え、「これはと思った美少年(女)を自分好みに育て所有する」、いわば「光源氏と若紫」的な関係も匂うのだ。だけど青猫が、所有されないように巧みに身をかわしているのが、男×男なところでもあり、本仁さんのロマンなのかもね。

虎人少年も元々は孤児だし、早乙女伯爵は、青猫の父にずっとひそかに思いを寄せていたし、考えてみれば今のところ切ない過去が語られていないのは、蜂王子刑事ぐらいかもしれない。蜂王子、青猫や早乙女伯爵にもまれて男になってこい!…と思わなくもない。いや、個人的に気になるキャラは硝子蝙蝠や、青猫の友人で色事師の鶯なんだけど。

キャラたちの名前に、猫とか虎とか蜂とか蝙蝠とか鶯とか、あと事件に関連して鯉登子爵や大鹿伯爵など、動物が使われているのも凝っていて面白い。それに加えて本仁さんの絵柄がまた、「大正~昭和初期」というレトロでモダンな時代イメージに合っている気がする。

そう、正しいかどうかはわからないけど、映画や小説やマンガで語られる、レトロでモダンでシックな大正や昭和初期のムードは堪能できる。このシリーズ、本仁さん自身も描いていて楽しいということで、「長く続けたい」とあとがきで書かれているのが嬉しい。読者としても、これから長く楽しめるのね――。



昨日買った、こだか和麻さんの「乱れそめにし」は、もしもっと早く読んでいたら、「時代モノ de BL」に入れてたかもしれない怪作だった。

乱れそめにし乱れそめにし
こだか 和麻

竹書房 1999-04
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赤い髪と血を好む狂気を併せ持つ男・志郎は鬼の子と忌み嫌われて家を勘当されるが、途中、山賊に襲われ、後を追ってきた弟・藤丸とともに捕らえられてしまう。山賊の首領・蒼月は志郎の狂気を見抜き、藤丸を人質として志郎を陵辱するが…。

着物着て、褌巻いて、刀刺して、髪を結ってはいるけど、これこそいつの時代が舞台なのかナゾ。でも読んでいて、里見八犬伝を思い出したのだった。それも馬琴オリジナルではなく、もうずいぶん昔に角●映画で映画化された「里見八犬伝」の原作の方。あれは陵辱まみれだったわ、SMはあるわ、両性具有は出てくるわ、すごい作品だった――そんな荒唐無稽さをこの作品にも感じるのだけど、なんだか惹きつけられるのだ。

この作品では「兄と弟」というモチーフがくりかえし使われる。そしてやはり、近親相姦はない点が、「青猫」と共通しているところかもしれない。

しかし――すごくガタイのいい志郎が受けの、蒼月とのそのシーンは、なんだかガチンコ勝負って感じで、驚いた――読んでいくと、「そうね、志郎って受けよね」と納得させられちゃうんですけどね。
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Tags: 時代モノdeBL 本仁戻 こだか和麻 歴史/時代BL

Comment 4

2007.11.19
Mon
12:37

かりんこ #-

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こんにちは。

「探偵黒猫」大好きです~。もともと乱歩とか横溝とかも大好きなので。逆にイメージ壊れるかな、となかなか手をだせなかったんですが、すっごくあの時代の雰囲気出てますよね。父と子っていうのは、あまり意識してなかったんですが、今度その辺も踏まえて読み返したいと思います。

編集 | 返信 | 
2007.11.19
Mon
14:17

lucinda #-

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いいですよね、「探偵青猫」。読み返して、改めて好きになりました。「父と子」は、実は読み返していて気付いたんですよ……また読んだら、違うことを思うかもしれません。いいなぁと思う作品て、そういう発見ができるところがあるよなぁと思います。

編集 | 返信 | 
2007.12.02
Sun
13:55

4da #5Qkd.16Y

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記事を読ませて頂いて「乱れそめにし」を購入してみました。(文庫版ですが)
今まで「こだか作品」をまともに読んだことがなかったのですが、かなり好みの作家かも?と思わせてくれる一品でした。
lucindaさん、ありがとうございます!
「探偵青猫」もなかなか気になる内容のようですので、近々チャレンジしてみたいと思います。

編集 | 返信 | 
2007.12.03
Mon
14:55

lucinda #-

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文庫版でも出てるんですね、「乱れそめにし」。気に入られたようで、よかったです! わたしもこだか作品はまだほとんど読んでいないので、これからちょこちょこチェックしようかなぁ…と。
「探偵青猫」も、ぜひぜひ。筋肉とかガタイのよさは無縁な感じですが、ナヨナヨはしてません。た、多分……。

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