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言ノ葉ノ花(砂原糖子)

 24,2007 22:36
とても可愛らしく、しかも深く物思わされた作品。今年読んだ中のベスト5に入るかも。

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砂原 糖子

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3年前から突然人の心の声が聞こえ始めて以来、人間不信気味の余村。ある日彼は、自分に好意を持っているらしい同僚の長谷部の心の声を聞いてしまう。罪悪感を覚えつつも、言葉で、“声”で、一途に注がれる愛情が心地よく、余村も長谷部を好ましく思うように。しかし余村が心の声を聞けると知った長谷部の反応は意外なものだった…。

ほかの人は持っていないどころか、通常あるとは信じられない、つまりは超能力のような力を主役キャラが持っている設定って、「…なんか今ひとつだな…」と思うことが時にある。選ばれし者だけが持つ悲哀、ただそれのみをナルシスティックに延々と描かれている時が、そうかもしれない。「重病モノで最後に死別」、「死人がなぜか生き返って愛を育む」に並んで、超個人的に、うっかり手を出したら後悔しかねない三大鬼門の一つといえるかもしれない。もう見る前から「泣ける!」と連呼される映画やドラマにありがちですね。

余村は3年前に彼女にプロポーズしたクリスマス、突然人の心の声が聞こえるようになってしまう。しかもその声というのが、態度や言葉とは裏腹の、実に悪意や侮辱など毒に満ちたものばかり。そりゃあそんな心の声が聞こえたら、余村ならずとも人間不信になるに違いない。

余村に好意を抱いていた長谷部の心の声は、最初から気持ちのいい好意の言葉ばかりだったが、余村の特殊な能力が長谷部に知られからは、長谷部は余村を避けるようになる。思ったことがすべて相手に筒抜けの状態――気も抜けないし、相手の好意も「自分の内心の言葉を聞いたからそうしてくれたのか」などと邪推してしまうのは、当然だろう。

人の心の声が聞こえてしまう側と、自分の心の声が聞かれてしまう側、両面の苦悩が描かれているのが、いい。

そしてこの作品のさらに深いところは、あんなに人の心の声が聞こえることにに苦しんでいた余村が、晴れて願いどおりに声が聞こえなくなった時、逆に「人が内心何を思っているのかわからない」と自信を失い、ここでも人間不信に陥ってしまうこと。いつの間にか余村は、心の声に頼っていたのだと気付かされるのだ。

人の、外面とは裏腹の心の声が聞こえるのは辛い。
だが、人が、内心では何を思っているかわからないのも辛い。

もちろん後者は、余村が3年間も「心の声を聞ける」という能力を持っていたゆえの辛さかもしれないが、実際の生活の中で、多少なりとも「本当はどう思われているんだろう…」と不安になることは、決して少なくない。

――人の心は明確な形を持たない。一つではない。他人を否定し自分を否定し、そして肯定もする。愛するときもあれば憎むときもある――

――人の気持ちが判らないからこそ、本当に相手を喜ばせられたときに自分も嬉しくなる。判らないからこそ、人に優しくなれる――

なんだか哲学的にも思える余村の出した結論だけど、これがとってつけたような感じはなく、読んでいてじんわりと胸に染み入るのだ。

――いい話だ……そして人間の心の深遠を考えさせられる――。

心の声が聞こえている余村には心を知られてしまうことに戸惑い、また心の声が聞こえなくなった余村には不信感を抱かれ困惑しつつ、それでもひたむきに余村にぶつかる長谷部。なんていい男なんだ。年下で不器用だけど、誠実。余村がどんどん長谷部に惹かれていくのも無理はない。

心の声が聞こえている時のエッチシーンでは、長谷部の言葉と心の声、双方から口説かれ囁かれるというのが、エロさ2倍&甘さ2倍。聞かされる余村はたまらなかっただろうなぁ、さぞかし。

表紙絵の雰囲気も作品世界にピッタリだとも思う。色使いや絵柄の柔らかさとかね。マイルドな色使いだけど甘すぎないブルーが効いている。ファンタジーだけどビター風味。作品の中の挿絵も、もちろんかわいらしい。余村がちょっと、とても30男には見えないのが、難といえば難かもしれないけれど。

でもまあ、設定、ストーリー展開、キャラクター、イラストと、ほぼすべてにおいて満足できるものなんて、そうそうありませんから。砂原糖子作品、要チェック指令発動――これだからBLは気が抜けない……。
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Tags: 砂原糖子 三池ろむこ

Comment 2

2007.10.28
Sun
10:02

月読 #-

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お邪魔致します

最近ワタシも「砂原」に凝り始めましてですね。
読み漁ろうと画策しておる最中なんでございますよ。
まだ「ヤクザとネバーランド」と「夜明けには好きと言って」しか読んでないんですがね・・・えへ。
これも探しておりましたですよ。
レビュー拝読してこりゃ、そく読まなければ!!と焦りましたですよ(苦笑)
ども!ありがとございました★

編集 | 返信 | 
2007.10.28
Sun
14:56

lucinda #-

URL

あ、月読さんも砂原さんに注目ですか! 「ヤクザとネバーランド」は、気になりながらも読んでいないので、今度読むつもりです。
「言ノ葉ノ花」、イマイチ、という人もいるようなんですが、わたしとしてはイチオシです。感想がアップされるのを楽しみにしています!

編集 | 返信 | 

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