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物思う刑事

 08,2007 17:10
「聖なる黒夜」を読んだ後、無性に合田シリーズ(村薫)が読みたくなったのはなぜなのか――。やっぱり、どちらも悩める刑事が主役だから? 主役の刑事に、どうにも気になるキャラが絡むから? 警察内の派閥や人間関係も興味深いから?

ともかく、「黒夜」を読んで3ヵ月。「無性に読みたくなった」わりには今さら感が否めないが、「積読一掃キャンペーン」の一環として、以前miriam先輩から借りて半分だけ読んでいた「警視庁捜査第一課第三強行犯 捜査第七係シリーズ」を最初から読み直した。読み直して、

――ああ、どうしてわたし、これを今まで放置してたんだろう――

と思ったのはお約束。久しぶりに合田に、七係のメンバーに会ったような感じ。

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このシリーズは、「小説現代」1993年4~12月号に隔月で掲載されたもので、全五作。「マークスの山」「照柿」「レディ・ジョーカー」の主人公・合田雄一郎と、彼の所属する警視庁捜査第一課第三強行犯捜査第七係の面々が、様々な事件を追う様子を描いた連作。単行本化されていないため、今読むとしたら、図書館で「小説現代」のバックナンバーをあたるしかない。単行本化の要望は高いみたいなんだけどねぇ……。

シリーズの概要はこんな感じ。その前に、七係の面々も紹介しておきましょう。

林省三 警部。七係の係長。53歳。あだ名は「モヤシ」
吾妻哲郎 警部補。七係の主任。36歳。あだ名は「ペコ」
合田雄一郎 警部補。七係の主任。33歳。あだ名無し。
肥後和己 巡査部長。七係の部屋長。43歳。あだ名は「薩摩」
有沢三郎 巡査部長。35歳。あだ名は「又三郎」
広田義則 巡査部長。35歳。あだ名は「雪之丞」
森義孝 巡査部長。30歳。あだ名は「お蘭」
松岡譲 巡査。28歳。あだ名は「十姉妹」

●第一話「東京クルージング」(1993年4月号)
福岡から出張で上京していたサラリーマンが、雪の降る夜に変死した。サラリーマンに何があったのか? 七係の面々は捜査を開始する。
●第二話「放火(アカ)」(1993年6月号)
同じ団地に住む少年から、ある日突然「友人が殺人を犯した」と密告される雪之丞。合田、雪之丞、森は秘密裏に少年の周辺を探るのだが――。
●第三話「失踪」(1993年8月号)
「人を殺した」と警察に通報した直後、男が自殺した。捜査を進めるうち、事件には、又三郎の古い知り合いであるヤクザが絡んでいることがわかり――。
●第四話「情死」(1993年10月号)
当初は通り魔による殺害とみなされたフリーライターの死に異を唱える七係の面々。殺害現場は、肥後の愛人宅の近く。肥後は不可解な行動を見せる。
●第五話「凶弾」(1993年12月号)
東池袋で起きた中国人留学生殺害事件。不法入国、アパートの共同居住、又貸しなど、外国人社会の壁に、七係の面々はぶつかる。

「七係シリーズ」は、合田が主役のほかの作品に比べて、合田以外の七係のメンバーの出番が多く、存在感も強いのが印象的。薩摩や雪之丞、又三郎、森の活躍ぶりは、読んでいて楽しかった。なにしろ「マークスの山」や「照柿」は、なんといっても合田が主人公だもの。

同じ係内で競争心を剥き出しにすることもあれば、互いにフォローし合うこともある。所轄の刑事や、異なる課の刑事と、事件をめぐって牽制したり、時に情報を提供して手を結んだりもする。「面白い!」と夢中になるのは、事件の要因や結末のストーリーではなく、事件を探る刑事たちの人間関係。事件が解決するに越したことはないけど、解決しなければしないで読後に余韻が残る感じ。村薫は「自分はミステリを書いているつもりはない」と発言したことがあったらしいけど、その言葉をしみじみと思い出してしまったのだった。

それにしても、合田が若い。あれこれ物思いに囚われては投げ出し――というのは相変わらずだけど、又三郎がヤクザの女に吐かせたと知ってうちのめされたり、肥後と愛人の関係を思って予想外の行動に出たり、ちょっと青くさくて微笑ましい。青くさいったって、合田、立派にオーバー30なんですけどね。

印象に残っているのは「放火(アカ)」「失踪」「情死」。それぞれ、雪之丞、又三郎、肥後がキーパーソンになっている作品ですね。よっぽどこの3人が目立っているのが嬉しかったんだな、わたし。「情死」の最後、合田と薩摩が飲みながら事件のことを語るシーン、ちょっとほのぼのとした雰囲気で好き。

この連作のどこかに、義兄の加納が登場していたら言うことはなかったんだけどなぁ…まあ、仕方ないか。うっすらと気配だけはしてるしね。

「七係シリーズ」を読んで、今度は麻生が登場する作品を読みたくなった。合田に会って、そういえば麻生はどうしてるかなぁ…と思うような気持ち、というかなんというか。

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麻生が警視庁捜査一課に配属される前の、所轄刑事時代に出会った事件を集めた連作。舞台は下町。植木を悪戯される事件や、女性のホームレスが女子高校生に突然襲い掛かる事件など、殺人事件ではない事件も取り入れられている。

一番印象深かったのは「大きい靴」。ヤク中の未婚の母が犯した殺人が露見したきっかけは、幼い息子だったという話。ストーリーそのものもいいのだけど、飼い犬と警察犬の対比が、どこかユーモラスで笑える。

この作品も読みながら、「麻生、若いなぁ…!」としみじみ感じてしまった。及川との関係は続いているが、その関係に行き詰まりのようなものも感じている麻生。同性愛者であることに引け目や恥は感じていないと言いつつも、どこか違和感を感じている麻生。それはこの先、練ちゃんに会うまで続くのね――。

合田シリーズも麻生が主役の作品も、読んでいて引きずりこまれるのは、合田と麻生の、自分自身や将来への物思いが、わたしの琴線に触れるから。彼らの抱く漠然とした不安や喪失感のようなものに、わたしも共鳴しているのだ。

そしてやっぱり気になるキャラといえば、合田シリーズなら加納、麻生なら及川でしょう。加納と及川、実は共通するところがあると、このたび改めて思った。だってねぇ……

●きれい好き、というか潔癖
●男の一人暮らしながら身なりはいつもパリっと清潔
●見た目も悪くないらしい
●女の影がない(及川はゲイだから当然だけど)
●どっちも頭がよさそう
●悩める義弟(合田)や後輩(麻生)を常に気遣う

ざっと思い出すだけで6つもあるじゃありませんか! 加納が同性愛者という設定だと、以前村薫がどこかで発言したことがあるらしいのだけど、まあそれはさておいても、うーん、似てるってばよ、この二人――。

とくに「所轄刑事…」での及川は、読み進めるほどに、麻生への報われない愛情に切なくなってしまったのだった。ああ、及川には幸せになってほしいなぁ…。

村作品も柴田作品も、刑事が登場する作品は必ずしも勧善懲悪ではない。その複雑さが好きだし気に入っている。「やっぱり事件が起きたからには悪者は容赦なく成敗!」を好む人には、スッキリしないでょうけど。
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Tags: 村薫 柴田よしき 警検麻ヤ ゲイ バイ ジェンダー

Comment 3

2007.08.10
Fri
13:30

相沢 #-

URL

読みたいよ~

PCの画像にかじりついてしまいました。何とか文字が読めないものかと。おバカです私。
lucindaさんの相変わらず読みたくなる気にさせる文章にもシビれます。ああ-ほんと読みたい。

編集 | 返信 | 
2007.08.11
Sat
14:35

アラスカ #-

URL

おお!これは幻の・・・

かの有名な「七係シリーズ」の内容を教えていただき、ありがとうございました。全部合田さんの話かと思っていました。
確か雪之丞はゲイでしたが、お話の内容にも関係あるのでしょうか?(恋人登場とか・・・)

高村さんの刑事物は、刑事達が正義感あふれた人間でなく、出世や手柄をめぐってドロドロしたり、水面下で駆け引きを行います。でも、悪人というわけでもなく人間臭いところが大好きです。

 >及川には幸せになってほしいなぁ…。
同感です。絵本を読むシーンがあったので、きっと「人魚姫」「ごんぎつね」といった、報われない話が好きなんだろうなあ、と勝手に妄想してました。

編集 | 返信 | 
2007.08.11
Sat
16:37

lucinda #-

URL

>相沢さん
これ、単行本になればいいのに…と、思います。復刊ドットコムではリクエストが集まっているようですけど…。
というか、そうか、相沢さんも高村本、お好きなんですね! ちょっと嬉しい……。

>アラスカさん
一応、合田が主人公なので視点は合田なんですけどね。でも、「マークス」や「照柿」では望めないほど、ほかの七係メンバーの露出は多い気がします。

雪之丞の露出多めな「放火」、雪之丞がゲイであることが、ちょっとだけ絡んでます。そもそも、なぜ雪之丞が少年から声をかけられたのか――そこがポイントなんですね。

>高村さんの刑事物は、刑事達が正義感あふれた人間でなく、出世や手柄をめぐってドロドロしたり、水面下で駆け引きを行います。

まさに! ほんと、そうですよね。きれいごとですべてすまない、というところに、妙な安心感を感じてしまうのです。

及川が読む絵本……報われない話……「泣いた赤鬼」が頭に浮かびました。うわー、せつないなぁ…。

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