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二遊間の恋―大リーグ・ドレフュス事件(ピーター・レフコート)

 25,2007 22:07
黒ニコさんからのコメントに紹介されていて、激しく興味を持った作品――読んで正解。

二遊間の恋―大リーグ・ドレフュス事件二遊間の恋―大リーグ・ドレフュス事件
ピーター レフコート Peter Lefcourt 石田 善彦

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ランディ・ドレフュスは長打力・打率ともに抜群、守備もまた華麗という球界を代表する名遊撃手、ある日、シャワー・ルームで、鉄壁のコンビを組む名二塁手DJの褐色の裸体を見てから、寝ても覚めてもD.Jのことが頭から離れなくなり、やがて関係を結ぶ。だが2人の関係は、同性愛に対する凄まじい偏見とホモフォビアにさらされ、全米を揺るがす大スキャンダルへと発展、ついには球界を追放されることになる。これに疑問を抱いた老新聞記者ゾラが、2人を追放した大リーグコミッショナーや球団オーナーたちを弾劾する――

この作品のストーリーは、実際に起こったドレフュス事件を下敷きにしている。主人公の名字がドレフュス、そして実際のドレフュス事件でドレフュスを弁護したエミール・ゾラなど、ドレフュス事件関係者と同じ名字の登場人物がたくさん出てきて、そのあたりは、著者の野心をひしひしと感じるというかなんというか。

ドレフュス事件――高校の世界史で習ったなぁ。フランスで起こった事件で、ドレフュスがユダヤ人で、同じような事件がサッコ&ヴァンゼッティ事件――ということしか、もう覚えていないのだが、もちろん、そんなことを知らなくても、この作品は十分に楽しめるのだ。

いやもう、いきなり最初から、ランディがDJへの恋に悶々としていることに呆気に取られた。本を開いたら、すでに始まっていた、という感じ。ランディには申し分ない美しい妻がいて、双子の娘もいる。グラマーなハリウッド女優のセクシーなグラビアを見て、勃起もする(最初のうちだけど)。それなのに――男で、チームメートで、黒人のDJにどうしようもなく惹かれることに、ランディが激しく戸惑い、これは錯覚じゃないかと苦しみあがきつつ、恋に悩む様子が、胸苦しいほどだった。年齢は関係ないとはいえ、妻子もあり、それまでにも女性に苦労したことがないであろうランディが、いきなり同性に惹かれる自分の心に気づいたら、それはもう、戸惑い、混乱するに違いない。

それでもランディは、スポーツ選手の理想を裏切らない真直ぐな性格というかなんというか……2人の関係がスキャンダラスに取り上げられ、DJが試合で故意的なデッドボールを受けると、DJに嫌がらせを行った相手に、打撃や走塁で仕返しをしようと試みる。その場で掴みかかるとか試合の後で付け狙うとか、そんなことはしないところが、ある意味爽やか。

ランディとDJの関係については、ランディの視点から語られることが多いため、「DJはランディの勢いに流されただけなんじゃないのか?」などと、ちょっと心配していたのだが、DJはちゃんと自分で選択していた。その証拠が「おれは承知のうえで飛びこんだ。何度でも、同じことをくりかえすだろう」というセリフ。わたしもジーンときた。

ゾラの、球界を弾劾する新聞記事から、ストーリーの流れが急速になるのが、ちょっと惜しい。願わくば、もうちょっと、弾劾記事に対する周囲の混乱と葛藤を見たかった気がする。

ゾラの活躍で大リーガーに復帰したランディとDJだけど、野球に付随する財産や名誉よりも、2人だけで過ごした日々を愛しむ気持ちが、青くさいといえば青くさい。でもやっぱり、ちょっと微笑ましい。実際、この作品は、ストレートだと信じて疑わなかったランディ自身が、自分のセクシュアリティを疑い、悩み、それを受け入れる――という、一種の自己発見的ストーリーでもあると思う。もちろん、恋愛小説としても楽しめることはいうまでもない。DJの妻・スージーが、気の毒ではあるけれど……自分の夫が、いきなり男の恋人に本気で夢中だと知ったら、相当ショックに違いないものね。

野球といえば、さきごろの、高校野球の特待生制度をつい連想してしまう。さまざまな議論が行われていたけど、その中で、ほかのスポーツでは許容できるのに野球で許容できない理由は何なのか? という論調を、この作品を読みながら思い出した。そうか、アメリカ人にとっても、野球は特別なスポーツなのね。アル中だろうがヤク中だろうがバクチに耽溺しようが借金まみれになろうが、野球選手はホモセクシャルではなく、妻子を持つ男でなくてはならないのだ。究極のところ、ガーター勲章を与えられた騎士たちになぞらえられるほどに。でも野球だけ、なぜなんだろう? ――根本的な素朴な疑問は残ったままだけど。

あともう一つ。一流プレーヤーのランディは、ファッションセンスはイマイチらしいのだが、それも日米同じなのかもしれない……。野球の精神論もいいけど、選手たちが特別だというなら、見た目ももっと考えた方がいいんじゃないでしょうかね……。
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Tags: ピーター・レフコート 海外小説 ゲイ バイ ジェンダー ホモフォビア

Comment 2

2007.05.26
Sat
18:04

黒ニコ #4GPViago

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コメント後に絶版本に触れたことが気になっていたのですが、さすがの機動力ですね。びっくりです。そして面白く読んでいただけたようでよかったです。

これ、傑作かと聞かれると困るのだけど何故か心に残っていたんですよね。
恋に落ちたランディの戸惑い、逡巡のぐるぐるっぷりが始めはおかしいのだけど、段々かわいそうに思えてきて。終いには「この妻はすぐ引き取り手が見つかるからもう我慢せずに行け!」と(笑)。
ゾラの弾劾記事云々部分と恋愛部分のマッチングがどうも巧くないあたりが作品としてのネックかなと思います。

アメリカでの野球というスポーツの特殊性は『フィールド・オブ・ドリームス』の例を引くまでもなく、プロスポーツの人気№1の座は譲っても郷愁を誘うスポーツ№1の座は譲ってないと思います。キャッチボールが父と息子の通過儀礼である、とか最初にチームプレイを学ぶ場であるとか、大切な記憶なのでは?そこにそれを汚すようなもの(多くのヘテロにとって)が持ち込まれることは許せないのでしょう。
日本の場合はちょっと違って、教育として広まっていったからかしらと考えています。

服装について一言。
服に頓着しない→ちゃらちゃらした浮ついた人物ではない→素朴なナイスガイ(ランディの人となりの描写)
アメリカでもこういう意識が多分にあるのではないかと。

長々と失礼しました。

編集 | 返信 | 
2007.05.27
Sun
02:51

lucinda #-

URL

いやー、いい作品をご紹介して下さって、本当にありがとうございます!

本が手に入ったのは本当に幸運だったというか…近くの古本屋で激安で売られていたのを発見したんです。神様のお導きか何かかと、真剣に思いました(笑)。

おっしゃるように、傑作…とまではいえないけど、心に残る作品だなぁと思います。あとでまた読み返したくなるような、というか。
わたしも最初、ランディの混乱ぶりにちょっと笑っていたのですが、だんだん共感してきた…という感じでした。スージーは、男と恋に落ちて周りからバッシングを受けるダンナのことを、守ってあげたいなんて思うデキた人だし、内面的にも、引き取り手はすぐ見つかりそうです(笑)。

「郷愁を誘うスポーツ№1」…なるほど。原風景的なもの、という感じですかね…。服装も、うーむ…その考えが、うっすらとマッチョ志向に通じてる感じがしますねぇ…。
日本は、なんだか「野球道」てな表現がされたりしてるところが、個人的にはアチャーッて感じですけどね。でも「道」と名づけた時から、たしかに教育や精神論として広まったのかなと思います。ともかく、超保守的な世界とい印象は、ありますよね。

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