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聖なる黒夜/バイセクシャルの定義

 14,2007 23:56
「聖なる黒夜」に関するあれこれ、その2です。どうしても一つにはまとめられず――力不足。

宣伝で特に「同性愛」を強調していた風でもなく(わたしが知らないだけかもしれないけど)、ましてやBLでもないけれど、作品中、人間関係の一つとしてごく普通に取り扱われいてた同性愛。というかホモセクシャル。

個人的二大キャラ・練と及川がゲイであり、彼らの属する社会が、警察と暴力団という、男臭く、権力構造がガッチリ築かれている世界なのが興味深い。

だがしかし。わたしが一番感心したのは、練の説明する「バイセクシャルの定義」。これまで小説や教養書、ネットなど、あちこちでバイセクについての著述を探し出しては読んでいたけど、練の語る定義が、一番、すんなりと「わかる」定義だった。では、どんな定義なのか、引用してみましょう。

「バイセクはホモとヘテロの中間地点じゃない。まったく別な第三の存在だ。むしろ、ホモとヘテロは裏返せば同じものなんだ。でもバイセクは違う。バイセクってのは、同性であるか異性であるかには全然こだわらない。相手の人間が、自分が欲情する信号を発しているかどうかだけで判断する。――中略――。バイセクってのはいちばんやっかいで、自分自身について誤解を抱き易い。俺の考えではバイセクには三種類いるんだ。男の信号にも女の信号にも反応する奴、男の信号だけに反応する奴、女の信号だけに反応する奴。でも後ろの二つの場合、自分の性別と、感応する信号との関係で、自分をヘテロと思い込んだりホモと思い込んだりしちゃうんだ。そしてある時、それまで考えていたのと違う性別に対して性欲を感じて戸惑う。それまでのは錯覚で、今度の恋が本物だったんだと無理に思い込み、過去のことは否定する。だけどセクシャリティってのはそんなに簡単に変化するもんじゃないし、ましてや病気じゃないんだから、突然治ったりするもんでもない。あんたも含めてバイセクの奴らは、しょっちゅうそれで混乱して騒動を巻き起こしてるよ」(「聖なる黒夜」下巻 P208)

どのあたりが「すんなり納得」なのかというと、「バイセクってのはいちばんやっかいで、自分自身について誤解を抱き易い」という部分と、「男の信号だけに反応する奴、女の信号だけに反応する奴」という部分。これ、わかっているようでいて「目からウロコ」な説明だと思うのだ。

バイセクシャルというと、単純に「男とも女ともセックスできる人」「男にも女にも欲情する人」と思われていると思う。

まあ、間違っているとはいわないけれど、同時に、「節操ナシ」「手当たり次第」みたいなイメージが出来上がっていて、なんだかちょっと、ズルくてちゃらんぽらんっぽい。たとえは悪いけど、童話や寓話に登場するコウモリみたい――って、これは個人的なイメージだけど。

BL作品に登場するバイセクシャルも、けっこういい加減なヤツがちらほらいる。榎田尤利さんの「交渉人は黙らない」の鵜沢とか、「放蕩長屋の猫」の遊真とかね。最初から悪役・敵役の鵜沢はともかく、遊真なんて、一応主要キャラなのに、女と浮気し、まひろに甘え、わがままし放題。彼に共感する人は、あんまり多くないと思う。

しかし、そんな「節操ナシ」に見えるバイセクシャルにも、「セックスしたいタイプ・欲情するタイプ」には指向(という言い方でいいのか…)がしっかりと存在するのだ。

ヘテロが必ず異性に惹かれ、ゲイが必ず同性に惹かれるように、バイセクシャルにも厳然と惹かれる性的指向がある。だけど、それが必ずしも相手の性と一致しているとは限らない。そしてバイセクシャル自身も、そのあたりがよくわかっていない――練の言っていることは、そういうことだと思う。

バイセクシャルが求めるものにジェンダーが関わっているというところが、すごく新鮮。そして自分や周りを振り返ってみて、なるほどねぇ…と感心してしまったのだった。すごいなぁ、練ちゃん。いや、柴田さん――。

――バイセクシャルは、誰もが手当たり次第のちゃらんぽらんなんかじゃないですよ――と、ここらでこっそり叫んでおこう。

さてさて、練に「典型的なバイセク」と言わしめた麻生のように、バイセクシャルな主要人物が登場するアメリカのミステリ作品がある。実をいうと、「聖なる黒夜」を読んだあと、なぜかこの作品を思い出していた。

歓喜の島歓喜の島
ドン ウィンズロウ Don Winslow 後藤 由季子

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1958年のNY。元CIAの腕利き工作員・ウォルターは、民間の調査員に転身してマンハッタンに戻り、若い上院議員とその美しい妻の警護につく。将来の大統領候補の、驚くべき秘密に触れるウォルター。やがて彼は、恋人のアンと共に、FBIとCIAの間で渦巻く謀略の真っ只中に捕らわれていることに気づく――。

バイセクシャルなのは、ウォルターではなく、アン。彼女は密かに恋人のウォルターを裏切り、しかしウォルターはアンを守り抜く。たとえ別れが訪れるとわかっていても。

「黒夜」の作品中に登場していた音楽は、ロックが多かったけど、この作品に流れるのはジャズ。ある陰謀をめぐるCIAとFBIの攻防と、数々の謎と裏切りが、「ジャズが流れる1958年のNY」のイメージ(勝手なイメージだけど)とあいまって、ひどくやるせない。

ドン・ウィンズロウ作品の翻訳者といえば東江一紀さんだけど、この作品だけ、なぜか違う。そのせいなのかどうなのか、レビューの評価はあまり高くない――でも、ウィンズロウ代表作「ニール・ケアリー シリーズ」などの軽妙さが抑えられ、その分、登場人物たちの背負う過去や孤独の重さなどがズッシリと胸に迫るのがいい。わたしはけっこう好きな作品だ。

ちなみに、若き上院議員とその美しい妻は、J.F.ケネディ夫妻をモデルにしているといわれている。マリリン・モンローみたいなキャラも登場するのも面白い。

ちょこっと読み返してみて思ったのだけど――主人公のウォルターも、けっこう自己完結しているキャラクターだ。もしかしたら、アンもそうかもしれない。お互い、愛しているけど、お互いをわかっていない。この力が拮抗する関係性は、やおいっぽいかもなぁ…。

もしかしたら、それが、「黒夜」を読んでこの作品を思い出した原因なのかしら――うーむ。

「歓喜の島」に限らず、BL作品以外でお気に入りの小説は、ひょっとしたら、やおいっぽい関係性が描かれている可能性が高いような気がしてきた。小説だけじゃなく、マンガも映画も――うーーーむ……
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Tags: 柴田よしき ドン・ウィンズロウ バイ ゲイ セクマイ やおい ジェンダー フェミ?

Comment 4

2007.05.15
Tue
19:59

ぽーちゅらか #6Y5jgf3c

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関係性萌え

わたしも、ウィンズロウの作品は好きです。そういえば、この人のケアリーシリーズも男女の恋愛なのにどこかやおいっぽいかも。歓喜の島も読んでいて面白かったのを覚えているのに、アンがバイセクだったのは忘れてました!力が拮抗する関係性には私も萌えます。私にとってのやおいもそれが大きいです。一番かも。例え恋愛ではなくてもすごくそれに近く感じる関係だと思います。スポコンのライバル同志なんかも恋愛してるかのように始終相手を意識してますもんね。少し前の作品でテリー・ホワイトの『真夜中の相棒』ってご存知ですか?これは拮抗というより依存(どちらがどちらに依存しているか解らないような関係)ですが、すんごくやおいっぽいです。今読むと少し古い感じもしますが、当時はとても新鮮でした。私は密かにドストエフスキーの作品にも関係性萌えしてるんですけど、文豪にこんな事言っていいのか・・・ごにょごにょ。。。

編集 | 返信 | 
2007.05.15
Tue
23:29

ようこ #onVA9wqc

URL

「放蕩長屋の猫」の遊真、共感するかどうかは置いといて、結構好きですよ~(笑)
BLの攻めで、女性に、というのもありますが、恋人以外の人間にフラっといくタイプってめずらしいので新鮮でした。
なんでBLに出てくる男(攻め)って、浮気しないんだろうなあと不思議に思っていたので。
一度結ばれたら他の人間には見向きもしない、というのは理想かもしれないけど、少女漫画でも青年漫画でも、そこまで強力なカップリング制度は導入されていないよな~と…。
フラッと他の人いって、そのあとに繰り広げられる一連の騒動を読むのが好きなんですよね(修羅場好き…?)(^_^;)

バイでも、同性愛でも、異性愛でも、『好みのタイプかどうか』『ピンとくるかどうか』って感じがするので、どのパターンでも、『同性なら』『異性なら』誰でもいいってことにはならないだろうな~と思います。
超惚れっぽい人にも、好みはあるだろうって思うので(笑)

編集 | 返信 | 
2007.05.16
Wed
02:25

黒ニコ #4GPViago

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練ちゃんのバイセク論は初めて『聖黒』を読んだ時に、これだ!と叫んだくらい腑に落ちました。
というのもBLで「性別なんて関係ない。お前だから好きになったんだ!」などのセリフを目にする度に、それってバイセクということなんじゃないのか?と常々思っていたからです。これでいくと『二遊間の恋』のランディもバイセクだったのか!などと納得できますもんね。
うっすらと考えていたことを柴田さんがクリアにしてくれて嬉しかったなー。

やおい的関係でなおかつBLというと『あふれそうなプール』が思い出されます、最近文庫化されましたしね(未読でしたらお薦めです)。

編集 | 返信 | 
2007.05.16
Wed
17:20

lucinda #-

URL

>ぽーちゅらかさん
ウィンズロウ作品、お好きなんですね! わたしも全部持ってます。いいですよね。そしてブログを書きながら「…ウィンズロウ作品、男女でもやおいっぽいかも…」と、わたしも思ってました。うんうん。力が拮抗する関係って、やおいって感じしますよね。
テリー・ホワイトの『真夜中の相棒』、知りませんでした。チェックしなくては。
ドストエフスキー、わたしは何度トライしても読み終えられない魔の作家なんですよ! でもやおいの香りがするのか……。

>ようこさん
たしかにBLは、強力な一夫一婦制ですよね。淫乱受けや、浮気っぽい攻めも、結局は相手にぞっこんという設定ですもんね。そこらあたりが、乙女の夢なのかもしれません。

>どのパターンでも、『同性なら』『異性なら』誰でもいいってことには…
それはもう大前提なんですけども、バイの場合、それ以前に「男でも女でもいいのかよ」というところが、スキモノっぽいイメージというかなんというか。なので、「ただ男でも女でもいいというわけじゃない」と、「聖黒」で説明されていたことに、大きく納得してしまったのでした。

>黒ニコさん
そうですよ、「性別なんて関係ない。お前だから好きになったんだ!」ってセリフ、クセモノですよね。バイセクのようにも思えるけど、「お前以外の男には欲望を感じない」とかいわれると、うーむ…?という感じだし。ノンセクってやつかしら?とか思っていたけど、わたし自身、ノンセクシャルとバイセクシャルの違いが今ひとつわからないので、「そういうことも、まあ、人の気持ちとしてはあるでしょうよ」という感じでしたけど。

「二遊間の恋」「あふれそうなプール」、どっちも知りませんでした。どっちもメチャクチャ面白そうじゃないですか!「あふれそうな…」は石原理さんの作品なんですね。どっちも速攻チェックしてみます!

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