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聖なる黒夜(柴田よしき)

 13,2007 23:53
レビューを書かずにはいられないと叫んだくせに、書きたいことがちっともまとまらない罪な小説。おかげで長文です。しかも油断すると、やたらと口をついて出そうになるのは、陳腐だけど「面白い!」という言葉。いや、それは間違いないのだけどね。

聖なる黒夜〈上〉聖なる黒夜〈上〉
柴田 よしき

角川書店 2006-10
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東日本連合会春日組大幹部の韮崎誠一が殺された。容疑をかけられたのは、美しい男妾あがりの企業舎弟であり、暴力団対策課の刑事たちに悪魔だと言われている山内練。10年前、警視庁捜査一課・麻生龍太郎が強姦未遂事件で逮捕した男だった。あの気弱なインテリ青年はどこに消えたのか。殺人事件を追う麻生は、幾つもの過去に追いつめられ、暗い闇へと堕ちていく。

物語が動き始めたのは、韮崎が殺害された時からだけど、物語が生まれたのは、10年前に麻生が練を逮捕した時から。そして物語が始まったのは、6年前に韮崎が練を拾った時――そういえるのかもしれないと思う。

事実、物語は現在と過去を行ったり来たりしながら進んでいく。しかも核心に向かって働くものすごい求心力に、大勢の登場人物たちが吸い寄せられていく手応えを感じるというか――このあたりは、まさにミステリの醍醐味という感じ。

そして一方で、練、麻生、韮崎、及川というキャラクターの関係から目が離せない。

練は、初犯で強姦未遂だったにも関わらず、実刑判決を受けて家族から絶縁され、体を売る生活を経て、韮崎に拾われる。
麻生は、大学時代の剣道部の先輩であり同僚の及川と別れ、惚れた女と結婚したにも関わらず、妻は男を作って出て行ってしまう。

10年の間に、そんなことが練と麻生を取り巻き、そして再会して言葉や感情を交錯させる2人に、韮崎の気配と及川の未練が絡まる。その人間関係の業の深さといったら、もう!

韮崎を恨み続ける女たちや、練の秘書でニューハーフの環、麻生の部下・静香といった女性キャラたちも悪くはないのだ。けっしておざなりにされているわけじゃない。でも、いかんせん、先に挙げた男性キャラが際立ちすぎた。韮崎は、冒頭以外は、ほかの登場人物の思い出として登場するだけだが、これは上手いテだったなぁと思う。もし生きて登場させていたら、登場人物たちを軒並み食ったんじゃなかろうか。

実はわたし、読み進めながら、事件解決より、彼らの人間関係解決の方が気になって気になって……。まあ、読んでいくうちに、犯人像がわかってきたからという事情もあるのだけど、このあたりが、この作品を単にミステリだと断じきれない気持ちにしているのかもしれない。

もちろん、事件解決と同時に、人間関係も解決の兆しを見せて物語は終わる。時間軸も大勢の登場人物たちも、ラストにむかってきちんと収束する。まるで、ジャズやロックの即興演奏が終わるみたいに。

そうそう、作中にはロックの名曲がいくつか登場するのだけど、わたしも好きな、キング・クリムゾンの「Red」が登場していて、ちょっと嬉しかった。これからこの曲がi-Podから流れるたび、練やら麻生やら及川のことを思い出すかもねぇ…。

予告でも叫んだように、ことさら同性愛を謳っているわけでもないのに、日本のミステリ分野において、同性愛をこれほどガッシリ盛り込んだ骨太な作品が登場したことに、ちょっと感慨を覚える。なんというか……前置きやエクスキューズなどなく、ゲイやバイセクシャルが登場している、とでも申しましょうか……。

そりゃあこれまでにも、そんな雰囲気を感じる作品はあったと思う。でもあくまでも、「……もしかしたら、この2人…」という程度の書き方だったし、というよりはむしろ、読み手がそう深読みしていた。だからこそ、二次創作作品も出ていたのだと思う。

でもこの作品は、これだけでもうお腹いっぱい――多分、二次創作を出したくなる切迫した気持ちは、薄いんじゃないかな。この作品自体、「RIKOシリーズ」に登場していた「気になる2人」(多分)の物語なので、乱暴な言い方をすれば、ちょっと二次創作的な位置づけっぽいかも。実は昨日・今日と、続けざまに「RIKOシリーズ」の1巻と3巻を古本屋でゲットしたのだけど、3巻、パラッと捲って目に入ったところで、練がやけにガラが悪い感じ。麻生は練のことを愛していると言っていたみたいだし、もうね、こういうところを見ると、ますます「聖なる黒夜」、ちょっぴり同人誌風味な感じ。

そしてそんな濃いキャラクターの中で、なんといっても心を鷲掴みにされたのは、練と及川ですよ! ちなみにどっちもゲイ。しかもどっちかというとネコ。BL的にいうと、練は淫乱受けだし、及川は俺様受け(いや、女王受け…?)なのかな。いや、及川は麻生とつきあっている時、タチだったようだけど、練曰く、「本質的には女」なんだとか。

過剰に「男」を演出する及川。潔癖で、手すりはハンカチがないと握れない及川。その及川が、最後のあたり、練の報復を知って動揺する麻生に対して「おれが代わりにやってやる(=練を殺してやる)」と語りかけるところ、かなりジーンときた。冗談じゃなく、ちょっと涙が出そうになった。ああ、麻生への気持ちは、彼にとっては本当に「愛」なのだ。でもここまで想われていても、麻生、アナタは及川ではなく練を選ぶのね…。

とはいえ、麻生の感情にも、わたしはわりと共感していた。自己完結していると表現される彼のその性格、わたしもちょこちょこ指摘されるせいなのかもしれない。ちょっぴり似た者同士なのか……?<何を厚かましい……。

それでいえば、感情に共感するということがほとんどなかったのが、練だ。彼の不安や絶望は、読んでいて伝わってくるのだけど、なにか今ひとつ得体が知れないところがあるというか、なんというか。だからといって、練に惹かれないというわけではもちろんなく、よくわからないけどわからないなりに、彼の魅力に引っ張られてしまう。恐るべし、練。

練、麻生、及川をはじめとして、主だった登場人物たちは、愛人として、恋人として関係を結んだこともあるというのに、誰もが根本的に孤独を抱えていることが、読んでいるうちに痛いほど伝わる。だから、読み終わっても、しばらーく、静かーに、作品世界の余韻に浸ってしまうのかもしれない――などと、思うのだった。

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Tags: 柴田よしき 警検麻ヤ ゲイ バイ ジェンダー フェミ?

Comment 7

2007.05.14
Mon
13:31

アラスカ #-

URL

ではlucindaさんに適した男は練かしら?

>誰もが根本的に孤独を抱えている
そうですよ、BLみたいに能天気に幸せな人が誰もいないお話です。読んだ後、この先の話を妄想(いえ、想像)しても、切なくてやりきれない思いがします。

ところでlucindaさんは麻生に似ているんですか!?。私、この「自己完結した性格」というのが、読んでいて意味がわからなかったのです。頭が切れるので自力で結論を出し、人に相談することが無いということですか?。それとも達観しているということでしょうか?。よかったら、教えてください。

編集 | 返信 | 
2007.05.14
Mon
18:12

lucinda #-

URL

そんな破滅的な男はイヤです(笑)

「自己完結している」と言われる性格、ブログを書いている時は興奮状態でツルッと「わたしも~」などと書いてしまいましたが、今ごろになってだんだん恥ずかしくなってきました。すみませんすみません…。
いや、それはそれとして、わたしが「自己完結してるんだよ」と言われる時はですね、ああだこうだと誰かに相談しても、

・話しているうちに何となくスッキリしてきて自分で答えを出し、相手を置いてきぼりにして勝手に納得してしまう。
・相手が「こうすればいいんじゃない?」「こうするのはどう?」と提案してくれるのを聞いてはいるのだが、結局、提案とは関係ない結論を出して相手を拍子抜けさせ、「あの相談はなんだったの」ってことになる。

といったところでしょうか。客観的に見たら、えらく可愛気がありません…。「結局誰も必要としてないんだよね」(≒誰かいなくても自分で何とかするよね)という批判もあったりして、周りの人に「勝手に一人でまとまってる」「一人遊びがうまい」と思わせるところが、「自己完結している」感を与えているのでは……と思います。というか、改めて考えて、そんな風に思いました。本人は、わりと「誰か助けて!」と思っているのですが、周りにはそう見えないんじゃないかな、と。麻生が「自己完結している」と評されているのとは、またちょっと違う批評かもしれないですね。
作品の引用で恐縮なんですが、最後のあたり、及川が麻生に、「お前はおれに何も求めたことがない」と言うと、麻生が「求めていたよ!」と反論するところがありますが、あの噛みあわなさには覚えがあるため、厚かましくも「ちょっと似てるかもしれない…」などと思ったのです……。

うわ、めちゃくちゃウダウダ語ってしまいました。でも、想像していただけたかどうか……。長くなってすみません!

編集 | 返信 | 
2007.05.15
Tue
00:09

miriam #SFo5/nok

URL

魔性のオトコ

練ちゃんは魔性のオトコしょうね。甘い匂い…なんかフェロモンが出てるんでしょうねえ(笑)
及川は切ない立場のオトコですよね。
そんでもって麻生はずるいオトコ。だって一番ニブチンなのにモテモテなんですもの!
確かに麻生って「自己完結してる」んですよね。「一人は寂しい」と言いながら一人で大丈夫なタイプ。
逆に及川とか練ちゃんは「誰かを必要としたい」または「誰かに必要とされたい」人。「一人でも寂しくない」と言いながら一人ではダメな人かな。恋人がいるとかそう言うことではなく「心の中に誰かを住ませている」人と言う意味で。
多分根っこのところで考え方が違う人達なので、くっついた後も大変そうだなあ、と思うのでした。

編集 | 返信 | 
2007.05.15
Tue
01:02

lucinda #-

URL

>アラスカさん
なんか今、自分のレスコメントのタイトルを見たら、まるで練のことが嫌いみたいじゃないか!と激しく動揺しました。ナニゴトも、よく考えて行動しよう>自分。
あの、あれは、自分がつきあうとしたらイヤだって意味ですっ! 練ちゃんはとても好きです! 「そんなのわかってるって」と思われているかもしれませんが、一応やっぱり、言い訳させてください~!

編集 | 返信 | 
2007.05.15
Tue
01:18

lucinda #-

URL

>miriam先輩
練の魔性っぷりときたら、刑務所の中や、その後の韮崎とのことを考えると、ため息が出そうです。白檀の匂いのする体臭って! これだけで、もう魔性決定みたいなもんです(笑)。
及川は、剣道や警察という「男らしさが求められる」中で生きてきた故の悲哀みたいなものを感じます。
麻生がズルいのは意義ナシ。ニブいけどモテるって、考えてみたら恋愛モノの王道かもしれません。

麻生が自己完結している、という表現、今よくよく読み返してみたら、練の報復に打ちひしがれている麻生に、及川が言った言葉で、それ以外のところでは出ていなかったみたい。なのに、こんなに自分の印象に残っているのが、われながら興味深いです。
ああ、先輩の分析「一人は寂しいと言いながら一人で大丈夫なタイプ」、「一人でも寂しくないと言いながら一人ではダメな人」、なんだか体の中に沁み込むようです。うんうん、たしかに…!
でも、「一人は寂しいと言いながら一人で大丈夫なタイプ」同士がくっつくと、ドラマチックさやロマンチックさは削げ落とされそうです。恋愛モノとしては、相当つまらないものになりそう……かも……。

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2007.05.15
Tue
05:42

アラスカ #-

URL

詳しい説明をありがとうございます

やはり微妙に勘違いをしていたようで、教えていただいてよくわかりました。うんうん、麻生はそういう性格なんですね。

 >本人は、わりと「誰か助けて!」と思っているのですが、周りにはそう見えないんじゃないかな
それはちょっと切ないです。
lucindaさんがBLの受けなら、攻めが「本当は、色々しんどいのに、気づいてもらえないんだよね。俺はそういうとこ、わかってるから。」などと口説く展開になるんだろうなあ。などとつい妄想してしまいました。
はっ、BLの受けなら、とは何て失礼な・・・。(汗)

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2007.05.15
Tue
15:35

lucinda #-

URL

鋭い…!

毎度とっ散らかっていてお騒がせしてます。
>やはり微妙に勘違いをしていたようで…
超個人的な分析なので、いろいろ違いはあるでしょうけども……恐縮です。

アラスカさんの分析…鋭い。そういう攻めが登場する作品に、わたし、好みのものが多いですよ!さすが…! そういう奇特な人は実際にはなかなかいないというところが、まさにBLって感じですねぇ。
しかし考えてみると、麻生は、本当は及川とうまくいく可能性があったんじゃないかと思いますね。だって、及川、練に劣らず、ものすごく麻生の内面をわかろうとしてくれていますし。なのに練を選んでしまうというのは、やっぱり、麻生の中で「及川=剣道の達人・先輩・男らしい」のイメージが刷り込まれているからなのかもしれない…と思いました…。

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