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『こじらせまくった長い長い恋の話』(水無月さらら)―“見染める”ってこういうこと & dedicated to プラチナ文庫

 10,2019 23:26
プラチナ文庫休刊のニュースに、衝撃が走った8月末――ポツポツと、BL小説のレーベルがなくなっていく――。


休刊への惜別の思いを込めて、ずっとアップしそびれていたこの作品のレビューを捧げます。ここ最近で読んだなかで、一番心に残っているプラチナ文庫の作品だから……!


こじらせまくった長い長い恋の話 (プラチナ文庫)
水無月 さらら
プランタン出版
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十年間、親友の宇喜多に口説かれ続けている男子校教師の入江は、男同士なんて不毛だと相手にしてこなかった。だが婚約者に去られ、教え子に淡い恋心を向けられたことで、その頑固な倫理観が揺らぐ。宇喜多もまた、どこまでも自分の想いを拒絶する入江に悲しみと憤りが募ってしまう。“親友”という温い関係に安堵していた入江に、本気を思い知らせようと唇を奪い貪って…。



2人の関係を“親友”と表現する入江の言葉を否定するでもなく甘受していながら、しかしずっと入江を想い続け、色めいた目的で入江に近づく者をひそかに排除し続ける宇喜多。


いざとなればすぐに宇喜多を頼り、実は宇喜多が気になっているくせに、「男同士の恋愛なんてありえない」と頑なに思い込んで、宇喜多の口説き言葉を本気にしない入江。


――確かに、こじらせてます。入江も、宇喜多も。


そのこじらせているさまが、傍から見て滑稽で、しっかり笑えるのがいい。宇喜多は入江をなだめすかしたり茶化したり、時に脅したりして気を引こうとし、入江は宇喜多につれない態度をとり、強がったりしてかわそうとする。


そんな二人のやりとりは、まさにラブコメ。それもちょっと前のアメリカ映画の、追いかけっこをしながら丁々発止でやりあっているようなラブコメという感じで、読んでいて楽しいのだ。


入江が、宇喜多の紹介で通っていたバーがゲイバーだと気づいていなかったシーンとか、自分はノンケで女性が好きなんだと自ら確認するために、宇喜多にコールガール(といってもボランティアの!)を手配させ、宇喜多に見られながらコトに及ぼうとするシーンなんて、滑稽の頂点よね……(そしてどんな時にも宇喜多が絡んでいるというね)


それにしても、入江というキャラクターは、とても不思議だと思う。


16歳の時に出会って以来、そこそこ遊んでいた宇喜多がぞっこんになるほど入江は美しい男、という設定だ。作中でも、「ハンサムとかイケメンとかとは違う」「見たことがないくらいきれいな顔」「美貌すぎる」などと形容されていて、尋常じゃない、余程の美しさなのだろうと、読んでいて想像させられる。


ところが入江は自分の美しさに鈍感で、それに価値があるなどとはまったく感じていない。こうあるべき・こうでなければならないという思い込みが強く、生真面目で不器用で潔癖で、融通が利かない。


宇喜多が何度口説いても、ふざけ半分の冗談だと決めつけている。なぜなら「男同士はありえないし不毛」と信じているから。「男女で恋愛し結婚して子供を生み育てなければならない」し、そうするべきで、それが正しいと信じているから。


――うーん……凄い美貌を持っているのに無自覚で頭が固いって……朴念仁で四角四面な雰囲気の美●明●様を想像してみればいいのかしら……?うーむ……。


読んでいると、美貌以外、入江に何の魅力があるのかわからなくなりそうになる。しかし、宇喜多によって“入江のカワイイところ”がたびたび語られていることで、「なるほど……入江もカワイイとこあるな……」と納得させられるのだ――宇喜多視点で。宇喜多の視点や感覚を追体験することで、ようやく、入江の可愛さや美点に気づかされる。何か、とても新鮮!


16歳の時から入江を見つめ続け、入江のそばにいることを優先して進学先や仕事を決め、陰に陽に入江に寄り添ってきた宇喜多。鈍感で朴念仁な入江にブンブンふりまわされてきた宇喜多。


「見染める」ってこういうこなんだろうなぁ……!


と、心の底から深く感じ入ったのだった。


入江が宇喜多への自分の気持ちを自覚して、気持ちも体も受け入れた時、自分が宇喜多の想いを聞き流して請け合わなかった“本当の理由”に気付くところは印象的で初めて入江に共感したくなるし、ラストに


「お…お前が女だったら、僕は給料三か月分…いや、六か月分の指輪を買ってるよ…(略)でも、僕は同性愛者のつもりいはない。どこにでもいる地方公務員で、ゲイ・パレードに出ることもないと思う」(P240~241)




と告げるシーンは、「同性愛は不毛」という、これまでしがみついていた自分の思い込みと折り合いをつけた、入江のこの時点での“精一杯”に感じられて、しみじみと心に染み入ったのだった。


――ところでプラチナ文庫といえば、10年くらい前はエロにこだわっていて、「さすがフランス書院のレーベル!」と内心納得してしまうような、官能的な作品が多いイメージだった――少なくともわたしは。


でも、自分の読書歴を見返すと、近年はエロが濃いかどうかはともかく、繊細なストーリー展開や捻りを加えて凝った設定などで、しっとりと心に残る作品をたくさん読ませてもらったなぁと思う。


今後も既刊本や電子書籍での販売配信は継続、すでに買っている電子書籍も読み続けられるということだけど、これから“プラチナ文庫”で、新しいBL小説を、紙の本として手に取るワクワク感は、もうなくなってしまうんだなぁ……寂しい。


でも、なにはともあれ――ありがとう、プラチナ文庫!
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Tags: 水無月さらら マミタ 対等

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