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『ふったらどしゃぶり~When it rains, it pours~』『メロウレイン~ふったらどしゃぶり~』(一穂ミチ)―会話の心地よさに溺れる幸せ

 20,2019 07:22
もう何度読み返したかしら――『ふったらどしゃぶり』。


一穂ミチさんの作品は好みの作品が多いけど、これは格別。


最初に読んだ時(2013年10月20日)も衝撃を受けて、読メにこんな感想をアップしたっけ。


面白かったなー!…と、読んだ後思ったのは、ただただそれだけだった。BLを読みもせずにバカにしている人に差し出したくなるような、上質の物語。ダイレクトに「性欲」を扱っているのに、下品な感じになっていないのがすごい。主人公二人はもちろんだけど、脇の和章とかおりまで愛おしい。


そう、これほど細やかにダイレクトに“性欲”にフォーカスしていながら、上っ面だけのうさん臭さも、啓発めいたにおいも、鼻白んでしまう下世話さもない。明らかにフィクションだとわかっている一方で、まったくの絵空事と切り捨てられない、共感してしまう“何か”がある。ものすごいバランスで最初から最後まで読ませる作品には、そうそうお目にかかれない――と、心の底から感服したのだ。


そしてディアプラスレーベルの新装版を読んでも、その感服はまったく揺るがなかったどころか、新装版発売とともに出版された、同人誌作品などをまとめた『メロウレイン』も読んで、さらに・なお・より・一層、感服は深まった。もうきっと、半永久的に、このわたしの感服は深いままだと思う。


ふったらどしゃぶり~When it rains, it pours~完全版 (ディアプラス文庫)
一穂 ミチ
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同棲中の恋人とのセックスレスに悩む一顕。一顕の会社の同期で、同居中の幼馴染み・和章に叶わぬ恋心を抱く整。ある日一顕が自身に送ったつもりのメールが手違いで整に届く。そこから、互いの正体を知らぬまま悩みを打ち明け合う奇妙な交流が始まった。好きだから抱き合いたい、抱いてほしい―共有した秘密はやがて心の容量を超えてあふれ出し…?報われない愛と性に翻弄されるふたりの究極の恋愛小説復活!!




メロウレイン~ふったらどしゃぶり~
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恋人同士になった一顕と整のその後は……? 同人誌、ペーパー、小冊子、サイト掲載SSなどをまとめた完全保存版。もちろん書き下ろしもあり



――なぜこんなに好きなのかしら?


読んでは考え、読み返しては考えしたけど、多分わたしの場合、これに尽きると思うのだ。


主人公二人をはじめ、登場人物たちの会話が心地よいから。


“会話の心地よさ”について、もう少し解析してみた。


■会話のリズムやテンポがよいのは言わずもがな、会話によってストーリーが自ずと展開していくようななめらかさ。


地の文を含め、一顕と整の会話から、互いを意識している様子や、心の変化を見て取れるのがとても興味深いし、読んでいてワクワクする。二人が恋に落ちていく過程を、じっくりとつぶさに堪能できる贅沢、というか。


物語冒頭では相性が悪そうだった一顕と整なのに、間違いメールを発端にメールをやりとりし、その相手が判明してからはちょくちょく会って話すようになって、ついにどしゃぶりの夜にホテルに入ってしまうのが、“自然”に思えてしまう。


いやいや、親しくなったとはいえセックスまではしないでしょ? そこはやっぱりBLだからでしょ――とツッコまれるかもしれないけど、二人が体の関係を持たなくても、心理的には十分濃密な関係を築いていたよね!? と力を込めて反論したい。


そして、主人公の二人だけではなく、同僚の足立や同級生の平岩、かおりやかおりの先輩、一顕の兄を交えた会話も、やっぱりストーリーをぐんぐん動かしていく心地よさにうっとりしてしまうのだ。それがたとえ、職場や取引先の名もない人々との会話であってさえも。


■「会話の心地よさ」は、キャラクターたちの多面性を描写しているのもよい。


同時に、一顕と整との二人の会話だけでなく、全ての登場人物との会話で、それぞれの人物像や性格が、深く多面的に彫りだされていることにも、感心してしまう。


一顕の「風俗や浮気はムリ」という言葉で、彼のある種の潔癖さや、過去の恋人を悪く言ったりしない“フェア”な感覚の持ち主だなと思わせられる。整の「暗かったら駄目なの?」という言葉で、彼の鮮やかに、無遠慮なまでに斬りこんでくる真っ直ぐさや、うまく感情を言葉に表すことが苦手なツンデレっぽさを想像させられる。


足立や平岩を交えた会話は小気味よく、足立の飄々とした感じと、その雰囲気を上手くかわす一顕のソツのなさ、平岩のおっとりさと、彼の発言にややたじろぐ整のふるまいなどを見るのが楽しい。


『メロウレイン』で登場する一顕の兄や上司とのやりとりで、一顕の“犬”っぽさ(良い意味で)や、逆に整の“猫”みたいな気ままさを窺えるのも新鮮だったな。


ふと思いついて、『ふったらどしゃぶり』と『メロウレイン』で、わたしが好きなシーンを思い浮かべてみたのだけど――


・二人で彫刻を見て、互いの正体が明らかになってからの焼肉を食べるシーン

・一顕の兄と整が電話で話すシーン、およびその後一顕を含めて3人で食事するシーン

・社員旅行に行く電車内の、一顕、整、足立の会話のシーン

・夏祭りで寄進者の名前が張り出されているのを見るシーン

・整が一顕の仲介によって、平岩と会うシーン


――全部、会話が印象的だったシーンだし、5つ中2つは、一顕と整以外の人物が混ざっている。我ながら納得。


■話される“性欲”について良し悪しを語らない


好きな人とできないという状況で、一顕と整は性欲やセックスについて語りまくるが、それについて語っているのは二人だけじゃない。


かおりも、かおりの先輩の彩子さんも、和章も、直球で、あるいは間接的に、それについて、それぞれの屈託を語っている。


ただ、そこでたとえ生々しいことが語られていても、良し悪しが論じられているわけではない。だから、下品にも、胡散臭くも感じないのかも――と思う。


そして性についてうんと語られているけれども、読んでいくうちに、それが“信頼”について語られているのであり、それぞれの人物同士の“関係性”について語られていると気付かされるのだ。


いや、まさにセックスとはそういうものだと思うから、当然の帰結なのかしら――って、ん? “関係性”ってまさにBLのキーポイントじゃん!? BLに欠かせない(とされる)セックスで、BLで重要な“関係性”を改めて見出せられる――うまく言えないけど、なんかいろいろ凄い!


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タイトルにある“雨”も、ストーリーに印象的に使われています


フルールで発売された頃にアップされた、一穂さんと三浦しをんさんの対談は、わたしの“うまく言えない何か”が書かれている、気がする。


■話題作『ふったらどしゃぶりWhen it rains, it pours』 BLだから描ける愛と心の真実 対談 一穂ミチ×三浦しをん(ダ・ヴィンチニュース)

性欲の問題が語られているんだけど、その根本にあるのは、誰かとわかり合いたいっていう、人の中にある普遍的な気持ちです。(抜粋)



――うんうん。そうそう!


こんなに好きだから、個人的にはいつまでも二人のお話を読ませていただきたい。この先の二人やその周りの様子を知りたい。でも同人誌やペーパーなどをまとめた『メロウレイン』が出たから、難しいかなぁ……。


最近出た『ナイトガーデン 完全版 ふったらどしゃぶり~When it rains, it pours~ 完全版』を読むとするかな。
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Tags: 一穂ミチ 竹美家らら 対等 日常

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