『百と卍』(紗久楽さわ)―もう、この二人にメロメロなのよ

 26,2017 23:46
ここしばらく、何度も読んでじーんとひたっている、“いっち”お気に入りのこの作品。


百と卍 (onBLUEコミックス)百と卍 (onBLUEコミックス)
紗久楽 さわ

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極上、あまエロス。「もう、二人を見守る障子になりたい…」(担当編集)
伊達男×陰間あがり 溺れるほど幸福で、愛おしい日々
時は江戸時代・後期。真夏の蒸し暑くせまい長屋で、熱い吐息交じりにまぐわう男がふたり――。元・陰間の百樹(ももき)は、ある雨の日に卍(まんじ)に出逢い拾われた。陰間の仕事としてではなく、やさしく愛おしく恋人として抱かれる瞬間はまるで夢のようで、そんな日々に百樹は幸せでいっぱいなのだった。たとえ過去に、どんなことがあったとしても。
江戸漫画の革命児が描く、初のBL作品、満を持して発売!



ああ、百ちゃんが素直でいじらしくって可愛いったらありゃしない! 卍さんは粋でカッコイイのに、どうしてこんなに可愛げがあるんだろう!


――読み終わってからいつまでも、百樹と卍の二人を、そして二人が生きた時代を想ってしまう。いや、想わずにはいられない。


卍が、全身全霊で百樹を愛おしく思っているのも、百樹が、心から卍を慕っているのも、セリフはもちろん、表情やら仕草やらから伝わってくるのがすごい。


そして二人が暮らしている、のんびりとしているけれども、ちょっと過酷な江戸の社会の緻密な描写。


今は江戸の世じゃないけれど、地続きで百樹たちが生きている世界があるような気がするほど。


「もう、二人を見守る障子になりたい…」という担当編集氏の帯コメント、わかりますわかりますわかります!!!


■間接的ながらありありと想像させられる、百樹の陰間時代の“痛み”

実の兄との辛く切ない繋がりを抱えた、売れない陰間だった百樹。その頃に百樹が感じていたであろう痛みや諦念が、卍と知り合って幸せそうな百樹のセリフで、ふと浮かび上がる。


例えば、切見世(女郎屋)の女郎が着ていた着物に惹きつけられた百樹が、それを頼み込んで借りてはおり、「自分が見世にいた時にはこんなきれいな着物は着せてもらえなかった」と呟くシーン。


また例えば、百樹が美味しそうに天ぷらを食べながら「客の残した冷めた天ぷらを食わなくていいんだな」と笑うシーン。


さらに例えば、功徳のために亀を川に逃す放生会で、百樹が「捨てられて幸せな者はいねンじゃねェかな」と、亀を川に逃さないよう、卍に泣いて頼むシーン。


百樹が陰間になった経緯は、まとまった章で描かれているので、そこを読むだけでも十分すぎるほど苦しく哀しい。


しかし、幸せそうな卍とのやりとり中で陰間時代を窺わせる言葉だからこそ、当時の百樹の気持ちを想像させられて、キュッと胸が締めつけられるのだ。


卍が百樹を見つけてくれて、本当によかったよ……!(号泣


■シュッとした卍が、時折り垣間見せる“弱さ”にドキリ

いなせで、流し目も色っぽい卍は、女たちが色めき立つようなイイ男。まさに“カッコイイ”を具現化したようなキャラだけど、決して完璧な存在として描かれているわけではないのが、また良い。


百樹の過去を想像し、百樹の兄に激しく嫉妬するシーンは、たまらなかったなぁ……! 百樹を孫のように可愛がる隣の婆さんと、百樹のことで張り合うのも微笑ましい。


大店の息子らしいとか、火消しをしていたとか、叔父に恋をしていたようだとか、ちらちらと仄めかされる卍の過去から察するに、どうやら卍も、ひとかたならぬ痛みや苦しみを抱えている様子。気になるよぅ……!


あ、個人的には、卍が百樹より小柄で、百樹の方が力が強い、というのがツボだ。この体格の設定も、BL的な“攻めとしての完璧さ”からはズレているといえるかもね。


■江戸時代感を盛り上げる、浮世絵を思わせるような絵と文字の綴り

“時代モノ”のBLはいろいろとあるけれど、江戸時代の時代考証、特に陰間のことをここまでしっかりと調べて描かれた作品は、これまでのBL作品にはなかったと思う。いや一般作品でも、ほとんどないんじゃなかろうか。


色気が滲み出ているような、浮世絵を思わせる絵は、文句なく素晴らしい。それに加えて、当時の小説などを思わせる文の綴りが、もう!


「なンだ」「つまらねェ」「ドウモ」などのカナ遣いや踊り字(「くの字点」や「二の字点」)、「やらう」のような古典っぽい表記、といった独特な綴りで読むと、作品の江戸の世界にあっという間に転送されるような気がする。キャラたちが江戸っ子らしく、“ひ”を“し”と発音するのにも心を掴まれるんだよなぁ……!


実はこの作品、昨年秋に行った『on Blue原画展』で原画を見て以来、ずっと気になっていて、早く単行本になってくれればいいのに……と思っていた。


それが思ったよりも早く読めて、本当に幸せ。ああ、早く続きを読みたいなぁ! ――と思っていたら。


『on Blue vol.27』で、紗久楽さわさんと雲田はるこさんの対談が載っているっていうじゃありませんか!


――当然買ったとも。その感想などはまた次で。
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Tags: 紗久楽さわ 時代モノ 江戸時代 陰間 男色

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