『玻璃の花<雪花の章/紅蓮の章>』(稲荷家房之介)―疑問はあるけど美しい絵と主従萌えで新年を寿ぐ

 11,2017 23:35
すでに松の内も過ぎてしまいましたが、明けましておめでとうございます。


今年のお正月はカレンダーのせいか、あっという間に過ぎ、バタバタとしているうちに風邪を引いたりしたけれど――気を取り直して今年最初のレビューは、僧衣を纏ったキャラの表紙絵が美しく晴れやかで、新年に合っているような気がしたので、この作品に決まり。


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稲荷家房之介

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ある日、ひとりの僧が子供を助けた。それは雪の夜に生された呪縛──
獣の刻印を持つ下法師・蘆屋道満は右大臣・小野宮の依頼を受け三条天皇を呪う術者を始末したが、帝の容態は悪くなる一方だった。
人のような獣のような怨霊の仕業という祈祷師の言葉に道満は安倍晴明の影に気づく。
そんな折、高野の奥に隠された「玻璃の堂」に封じ込められている瑞慧阿闍梨は、残禍に苦しんでいた。
獣の血を引く子・燚[イツ]の命と引きかえに双子の兄、春宮・敦明にかかる一切の厄災をその身に受ける生きた人形[ヒトガタ]となっていたからだ。
そのうえ、瑞慧は燚と暮らした幸せな日々も、燚の記憶すら失っていて──!?



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稲荷家 房之介

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鬼の血を引く燚[イツ]に欲望のままに襲われ、交わってしまった瑞慧は、その代償として双子の兄、春宮・敦明の身代わりに人形[ヒトガタ]となった。
防ぎきれないほどの呪詛に晒され限界に達していた瑞慧を守ると決意した燚は隠し名をつけ、高野山にむかった。
化生の外法師・蘆屋道満の誕生である。瑞慧と交わった道満には彼を狙う術者の気配がわかる。
道満が汚れ仕事を請け負い、術者を狩り出したおかげで瑞慧の苦しみが永く続くことはなくなった。
だが、呪詛がきかないことに業を煮やした左大臣・藤原道長はついに安倍晴明を召し寄せた。
道満と瑞慧、ふたりの再会後の描き下ろしを加え「玻璃の花」堂々の完結!!



もともと稲荷家作品のファンではあるけれども、この表紙絵を書店で見た瞬間、しばしうっとりと眺めてしまった。色使いといい、構図といい、なんて麗しいんでしょう! 『紅蓮の章』が出た今、これはぜひとも並べて愛でたい!


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美麗……!


絵はもちろん、タイトルの文字も対になっていて素晴らしい!


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裏表紙は二人が同じ方向を向いて歩いているようにも見えて、素敵!


――と、表紙絵だけでご飯三杯はいけそうなわたしだったのだけど、内容はというと、これがいささか一筋縄ではいかないのだった。


■『紅蓮の章』を読んでようやくディテールを理解

正直なところ、先月『雪花の章』を一読した後は、うーむ……………と首をひねりまくっていた。


芦屋道満、安倍晴明、賀茂保憲、藤原道長、三条帝――と知っている名前はいくつも登場している。道満が瑞慧を救うため、晴明や道長らと対立していることはわかる。でも、なかなか物語の流れがつかみにくい。“真田十勇士”みたいに流れ者が集まった道満の仲間をはじめ、意味ありげな登場人物が多いし、過去と現在を時間軸も行ったり来たりしているようだし。


でも、今月『紅蓮の章』を読んで、


――ああ、アレはこういうことだったのか!――


と納得すること、幾数度。


例えば道満の、『雪花の章』冒頭の超戦闘モードなシーンは、瑞慧が身に受けている“呪い”を仕掛けた人物を襲っていたのか! とかね。


だから、道満が最終的に瑞慧を救い出した結末にはジーンときた。もう瑞慧が“身代わり”や“殻”としてあれほど苦しまなくてもすむのだと思って。そして道満の長年の望みが叶えられたのだと思って。


とはいえ、『紅蓮の章』を読んでも正直なところ、細々とした疑問が全て解消されたとはいえない。


それもそのはず、この作品には、ディテールを補完してくれるらしい関連作品があるからだ。


■絶版になった関連作品&同人誌が疑問を解くカギ?

『紅蓮の章』を読み終わってなお、頭の中では、「どうして道満と晴明はあんなに対立しているのか」とか、「どうして晴明は保憲をひとかたならぬ様子で慕っているのか」とか、「道満の真田十勇士風な仲間たちはどういういきさつで集まって、その後どうなったのか」とかいった疑問が、モヤモヤとくすぶっていた。


そのモヤモヤは、『雪花の章』の「あとがき」で触れられていた、現在絶版になっている“晴明視点”の関連作品(『未明の獣』『黎明の花』)を読めば、ある程度解消される――のかもしれない。


「かもしれない」と自信がないのは、どちらの作品も絶版で簡単に手に入れられず、確認できないから。


7年ほど前に出された関連同人誌も手に入りにくい状況で、中古ショップでのフラグは軒並み“品切れ”だしなぁ……。


ネットで拾った『未明の獣』『黎明の花』についての情報を見ると、なんとなーく、晴明と保憲の関係は想像できるものの、晴明と道満の因縁は、想像の手がかりをつかめない。やはり対立はしているようだけど――。


『玻璃の花』が刊行されたことだし、『未明の獣』『黎明の花』が電子書籍にならないかなぁ……同人誌が再販されないかなぁ……などと、淡い期待を抱きながら、何度も『玻璃の花』を読み返すわたしだった。


そういえば、剛しいらさんも道満を主人公にした作品を出されていて、そこでも、晴明は一癖のある“ヒール”だった(レビューはこちら)。同じBLで道満が主役&晴明がヒールの作品があるなんて、ちょっと興味深い。


■稲荷家作品らしさがそこはかとなく随所に

疑問が解消されず、ちょっと消化不良なところがある作品だけれども、何度も読むと新たなことに気付くような、“読むほどに味わいを感じられる作品”でもある。


双子で生まれ、たまたま選ばれただけなのに、あまりにも過酷な人生をじっと耐える瑞慧。そんな瑞慧を救い出そうと汚れ仕事を引き受け奮闘する道満。それもこれも、互いに互いを想っているからこそ――という純粋さが胸にキュッと響く。


そして作品の端々に、稲荷家さんらしさを満喫できた。


『百日の薔薇』のタキが時々、束帯などの装束を纏っていたけど、稲荷家さんが描く装束姿は、色っぽくてカッコいい。男性キャラの体が厚めに、しっかりと描かれているからかなぁ……。


アクションシーンの多さや武張った雰囲気もBLとしては独特だし、少年マンガのような趣のアクションシーンやファンタジー要素がふんだんに盛り込まれているのも、“らしさ”と感じられるところ。陰陽師たちが仕掛ける呪術での対決シーンの迫力ときたら! 


血とバイオレンスが散りばめられているというのに、描かれている絵の美しさのおかげで、ちょっと優雅な雰囲気が漂っているような気がするのも、稲荷家作品ならではだと思う。


年明けから、骨のある作品を読めて幸せ。


ところで、この『玻璃の花』2冊と、10月に発売された『青の双翼Phantom of Doragon』の帯と購入時のレシートがあると、3月のJ庭で小冊子がもらえるらしいと知り、いそいそと帯を確かめたのだけど。


『雪花の章』の帯がない……! いつも帯は本に挟んでいるのに……!


――ここぞという時にワキもツメも甘くなりがちなわたくしですが、本年もどうぞよろしくお願いいたします!<泣笑
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Tags: レビュー 稲荷家房之介 時代モノ ファンタジー

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