『リリーのすべて』 ―レビューその2/友人たちと話したこと編

 20,2016 23:47
鑑賞後、いや鑑賞中から、われわれ3人(わたし、あやめさん、vivian先輩)の涙腺を緩ませまくった『リリーのすべて』。


リリーのすべて ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]リリーのすべて ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]

NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 2016-09-07
売り上げランキング : 887

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

夫が女性として生きたいと願った時、妻はすべてを受け入れた。
風景画家のアイナー・ヴェイナーは肖像画家の妻ゲルダと結婚し、デンマークで充実の日々を送っていたが、ある日、妻に頼まれて女性モデルの代役をしたことを機に、自分の内側に潜む女性の存在に気づく。それがどういうことなのかもわからないまま、“リリー"という女性として過ごす時期が増え、心と身体が一致しない状態に苦悩するアイナー。一方のゲルダは夫の変化に戸惑いながらも、いつしか“リリー"こそアイナーの本質であると理解していく。



特にあやめさんとvivian先輩は、中盤からずっと鼻水をすすっていたほどで、エンドロールが終わって館内が明るくなると、


「もう~、涙が止まらなくて~!」


と、照れ笑いしながら涙を拭っていた。ええ、リリーが登場してからというもの、涙が引っ込むようなところは、1シーンたりともありませんでしたからね。


当然、映画の感想を話さずにいられないはずもなく――というわけで、まとめてみました。


■印象に残ったセリフやシーン、おのおのそれぞれ

「泣き出したところは、多分あやめさんと一緒」というvivian先輩に、どの辺りで泣き出したのか聞いてみたら、


「リリーがゲルダに『何を着ていようと、眠りの中で見る夢はリリーの夢よ』っていうとこ。そこでウッときちゃった」


――寝間着を貸してほしいというリリーの願いを、妻のゲルダが断った時の、リリーのセリフですね。悲し気に発せられたリリーのセリフだけど、もしかしたらゲルダでさえ、その時点では思っていたかもしれない「リリーは夫のアイナーに戻るかも」という希望を、静かに、でもきっぱりと拒絶するようなセリフでもあったなぁ……と、今振り返って思ったり。


夫(アイナー)を恋しがるゲルダを思い、「毎朝、“今日こそ一日中アイナーでいよう”と誓う。でもできない」(※細部はウロ覚え)というリリーのセリフは、リリーの苦悩と葛藤がすごく表れていると、個人的に印象深かった。


でも3人ともが、「あそこはちょっと、いろいろクるよね!」とうなずき合ったのは、やはりラスト。リリーの死後、彼女の故郷を、ゲルダとハンスが訪れるシーン。


「風景がさー、アイナーが描いていた絵と同じだったじゃない!?
「そうそう! で、ストールがふわふわと飛んで行ってさ。リリーが本当の自分になって、故郷に帰ってきたんだなって思うと、もう……!」
「あれ見て、息を引き取る時にリリーが、夢の中で母親に優しく『リリー』と呼ばれた、って言うセリフを思い出して、また泣く、っていうね」


――感想、止まりません。映画の後、サッカー観戦を控えていたvivian先輩と別れるまでの、約20分あまり、歩きながらしゃべりまくったわたしたち。でも先輩を見送った後も、あやめさんとは話し続けました、もちろん。


■興奮か、絶望か――鏡の前のシーン

初めて女装し、“リリー”としてパーティーに行った後、アイナーがバレエ団の衣裳部屋の鏡の前で全裸になり、性器を股に挟んで“女性の体”な自分を見つめるシーンがある。


わたしはこのシーン、アイナー(リリー)が自分の体に絶望しているのかなぁと思っていた。つまり、「本当は女性なのに、なぜか男として生まれてしまい、どう見ても自分の男性の体を見て、“こんなはずじゃない”と思っている」――という風に。


ところが、あやめさんはこう言ったのだ。「あれは、楽しかったんじゃないかなー」と。


え!? そうなの!? 楽しんでたの!?


「うん。一度リリーになってから、あそこに行ったじゃない? で、服を脱いで、ああしてみることで、女性の自分を想像して楽しんでたんじゃないかな」


――ははぁ……そういう見方もあるのかー……! 鏡のシーンの後、リリーが覗き部屋みたいなところに行き、そこにいるお姉さんの官能的な仕草を夢中で真似るシーンがあるのだけど、それも、あやめさんの見立てで見直すと、違って見えそうだ。すなわち、お姉さんを真似ていたリリーは、「どうしたら女性になれるか」と、悲壮感が滲んでいたように見えたけど、もしかしたら、ワクワクしていたのかもしれない、と。


見る方の解釈がこんなに違うのも、興味深いことですね。


■“本当の自分になりたい”思いは、大なり小なり誰もが持っているかもしれないが……

「リリーが、『本当の自分になりたい』って言うでしょ? あれ、すごく共感した。自分も、同じように思ったことがあるし、今でも、思うこともあるし……」


あやめさんの言葉に、うんうん、とわたしもうなずく。


「例えば仕事してる時はさ、話し方とか立ち居振る舞いも気を付けるじゃない? もしかしたら知らない間に素が出てて、バレバレかもしれないけど、自分としては出ないように気を付けてる。でも、それは自然な振る舞いじゃないから、息苦しさを感じることもあるんだよねぇ……」


――わかる。わたしも仕事で、あるいは家族の前で、求められる人物像を演じているなぁ……と思うことがある。“本当の自分”とは、多少ズレていると、感じたりする。


そう考えると、誰もがいつでも、“本当の自分”でいるわけではないのかも――とも思えるけれど。


いやいや、女性と自認しているのに理解してもらえないリリーや、早くから自分のセクシャリティに向き合ってきたあやめさんの“本当の自分になりたい”思いは、自分自身の存在に関わる根源的な、深いものだよ! と話しながら思い直したのだった。ごめん、リリー、あやめさん。


160813_リリー8
ゲルダの絵のモデルのため鑑の前でポーズをとるリリー。キュート!


■ヘンリクで表現される、繊細で重要な違い

「リリーがヘンリクに会いに行った時、ヘンリクがキスしようとして、『アイナー』って呼ぶじゃない? あれは、ヘンリクはリリーがアイナーだって気付いてたってことだよね


「うん。あの時のさぁ、リリーの表情、すごいと思った。自分は女性として見られてなかったんだって、愕然とする表情。巧いなーって思ったわー!」


――おっしゃるとおり! 心から同意!


そう、パーティーで出会ったヘンリクは、リリーを熱心に口説くのだけど(そしてリリーは鼻血を出して、ゲルダに救出される)、個人的に、「そんなに接近したら、どこかで男性だとわかるんじゃないかなぁ……」と思っていた。


だけど、二度目に会った時に、ヘンリクがリリーを「アイナー」と呼ぶことで、彼は最初から、リリーが女装した男性だということを見抜いていたことがわかる。同時に、ヘンリクはどうやらゲイであり、トランスジェンダーのリリーとは違うんだな、と、見ていてなんとなく理解できるのだ。すごい。


でもさー、やっぱりがんばってもさ、“手”で男だってわかるよね。違うもん、全然」


と、あやめさんは言っていたけど、確かに。喉仏や顎の辺りも、男性だと見抜くポイントだとはいうけれど、服やウィッグで隠せるものね。――って、いや、女装がどうこうとかいう話じゃないから!


■実在したリリーの、実際の人生と映画との違いにモニョる?

『リリーのすべて』は、実在した人物、リリー・エルベことアイナー・ウェゲナー(1882-1931)とゲルダ・ゴッドリーブ(1886-1940)夫妻をモデルにして作られた物語。


映画を見る前、すでに見ていたアヤさんから、「事実を知ると、ちょっとあの終わり方にモニョる」と聞いたわたしは、早速、リリー・エルベのことを調べてみた。ええ、ネタバレ、全然気にならないタイプです。


映画では、手術後の経過が悪いリリーは、ゲルダに看取られながら息を引き取る。しかし実際は、リリーは確かに手術後の経過不良で亡くなるものの、当時すでにゲルダとは離婚し、互いに別の相手と結婚していた。そして当然、ゲルダはリリーの死に立ち会っていなかった。


映画の中で、一度目の手術に成功して女性として暮らすリリーが、ゲルダに「私は自分の人生を生きる。あなたはあなたの人生を生きて」と言い放つシーンがあるけど、まさに現実は、そんな風に二人は生きていたのだ。


――うーん、そうねぇ……。実際の顛末を知ってから見たせいで、もしかしたらあやめさんやvivian先輩のように泣けなかったのかもしれない。でも、モニョるというより、なんというか、「あ、こんな風にまとめたのか! わかりやすくしたなぁ」と、感心はしたかな。


160813_リリー6
実在のゲルダは、リリーの訃報を聞いてすぐに離婚したらしいというけれども……。映画の中で献身的なゲルダを演じるアリシア・ヴィキャンデル、とても美しく、クラシックなファッションがまた似合っていた


また映画では、リリーとゲルダは20代くらいに描かれていたけど、実在のリリーが“リリーとして”暮らし始めたのは40歳手前ぐらいだったらしい。もしアラフォーの俳優がリリーとゲルダを演じていたら、と想像すると――また違った印象になりそう。


ただ、40歳目前で女性として暮らし始めた、というのは、何かとても切実なものがあるように思える。20代なら何となく勢いでやり過ごせても、40歳近くになると、その先の残りの人生を思って真剣に考えざるをえないよなぁ……といいましょうか。


実際のリリー・エルベとゲルダについては、この記事がとても詳しくわかりやすかった。


早耳調査隊がゆく! ジェンダーはフルイディティが時代のキーワード (ELLE ON LINE)
 ※リリー・エルベについては“6”から


超長いレビューになったけど、ま、それぐらい、見どころや考えさせられることの多い作品だったということ。そしてストーリーの流れも淀みなく、スッと作品の世界に入り込めた。


最後に、『リリーのすべて』の予告編を貼っておきます。役者さんたちの熱演を見て!


関連記事

Tags: ジェンダー トランスジェンダー ゲイ 映画

Comment 0

Latest Posts