キャラもストーリーも愛おしい―『それに名前をつけるなら』『あいもかわらず』(鮎川ハル)

 04,2016 23:55
モテたくて仕方ない童貞DKがじわじわとカッコよく見えてきて、モテモテだけど実は一途な大学生の不器用さが、だんだんカワイイと思えてしまう。


読み終わると同時に思った。


この作品、好き。


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俺で童貞切ってみない?

女子にモテたい純情童貞男子校生・佐野は、ひょんなことからサブカル系イケメン大学生・藤田と知り合い、『師匠』と崇める。しかし偶然街で再会した藤田は恋人に振られ、涙で目を腫らしていた!  流れで藤田の話を聞くうち、なんと彼がゲイであることが判明。さらに佐野が童貞であると知った藤田がシゲキ強! な提案をしてきて——?!
恋愛偏差値低めの二人の、不器用年の差ラブストーリー。



あっさりした絵柄と淡々とした雰囲気なので、“概ね平凡に日常を過ごす系”な作品かと油断していたら、読み終えてみれば、主人公の、特に攻めの高校生・佐野の感情の描写がきめ細かくて、ストーリーの密度の高いことといったら!


だから、冒頭では純情だけど単純で、モテること以外はなーんにも考えてなさそうな佐野が、少しずつ可愛く、カッコよく見えてくるんだろうなぁ……と納得。佐野が変わっていく、いや成長していく様子を、脇キャラとの会話で感じさせるのも巧い。


モテモテの大学生・藤田はゲイなのだけど、作中では、モテているのはどうやら女子からのみの模様。高校時代からつきあっていた恋人に裏切られてフラれ、町中で大泣きしてしまうほど、恋人に一途。なのに、王子様っぽいイケメンな外見のせいで、恋愛に重そうに見えないという設定が、これまたグッド。


町中で泣いていた藤田を助けたことで、佐野は藤田がゲイだと知り、藤田は佐野が、モテるという理由で自分に憧れている童貞だと知り、やがて帯のコピーそのまんま、「俺で童貞切ってみない?」と、藤田は佐野に持ちかけるのだが――。


いやいや正直なところ、別に佐野は藤田の好みじゃなさそうだし、ヤケクソにしても唐突じゃない!? と内心ツッコんでいたんですよ? わたし。でも後で、藤田がそんな風に持ちかけた理由がさり気なく明かされていて、「おおお!!」と心が湧き立って足をバタバタさせたくなるのだ。――正確には、藤田の不器用さがどんどん明らかになっている、物語の終盤の頃に(ようやく)気付いて、心が湧き立ったんですけどね。


佐野が藤田の誕生日プレゼントにコーヒーセットをプレゼントしようとしたり、藤田が佐野からもらった使い捨てカイロをいつまでも大切に取っておいたり(確かに重い……)、お互いに、相手には恋人ができたかもとヤキモキしたり――。


そういった、こまごまとしたシーンや描写のディテールのおかげで、読み終わった後にジワジワとわたしの萌え喫水線がどんどん上がり、フワーッと萌えに浸って、落ち着いたらまた読み返したくなっている、今日このごろ。もちろん、今もぐるぐると腐女子脳内を循環しています。


循環の過程で気になるのが、佐野の友人・“岡ピ”と、彼の幼なじみで、藤田の大学の友人でもある中津。なんだか二人はワケありそうなんだよなぁ……と思っていたら、どうやら二人は鮎川さんのデビュー作の主役らしい!


ということで、当然、読んだとも。


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むかつく むかつく むかつく
俺の気持ちが嘘だって
どうしてお前が決めるんだ

高校1年の健と大学1年の誠一郎は幼馴染。成長につれ疎遠になっていたが、ふとしたきっかけでまた会うようになる。幼少の頃のように一緒にいられることが純粋に嬉しい健だが、誠一郎は女子大生に"ヤリチン"と噂されるほど遊んでいる模様…。そんな幼馴染の変化に戸惑う矢先、酔った誠一郎にキス&告白をされ―!?
期待の新星・鮎川ハルの心ときめく初コミックス!




幼なじみで、仲が良かったのにちょっと疎遠になっていた、岡ピこと健と、中津こと誠一郎。


意外にも、健が誠一郎に迫りまくったんだなぁ! 「ただの幼なじみじゃいられないかも……!?」と思うきっかけを作ったのは、誠一郎の健へのキスだったけれども。


こっちでは、カッコいい、というか凛々しく決断して行動するのは受けの健で、攻めの誠一郎は臆病でグルグル悩みがちな、面倒くさそうな性格に設定されているのが、『それに名前をつけるなら』と逆のようで、興味深い。このカップルも、好きですけどね。


やはりデビュー作のせいか、『それに名前をつけるなら』に比べると、ちょっとストーリー展開のテンポが乱れたり、若干、説明不足で突拍子なく感じられたりと、ぎこちない部分もある。だけど、『それに名前をつけるなら』で、何かっちゃ一緒にいる二人を見た後だと、「なるほど、こんなことがあってあの二人は……!」と、内心深く納得しちゃうなぁ……。


ところで、二作ともカバー下に“あとがき”が描かれているのだけど、『それに名前をつけるなら』の主人公二人は、『あいもかわらず』が出た頃は、完全にモブキャラだった模様。でも、担当編集氏は早くから、「あのメガネ君(藤田)はホモじゃないんですか」とホモ推ししていたんだそうな。腐的な閃きが走ったのかしらねぇ……。


そして、藤田の相手として佐野を選んだのは鮎川さんの趣味だとか。編集氏は微妙な反応だったらしいけど、個人的にはベリーワンダホーです、鮎川先生!!!


また好きな作家さんができちゃったなぁ! もう一作の『赤松とクロ』も読んだけど、そのレビューは、またの機会にでも。


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次作も待ち遠しいわ……!
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Tags: 鮎川ハル 複数レビュー ゲイ

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